不確定要素のイレギュラー   作:篤志

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破天荒解のファントム

2010年7月29日

秋葉原 未来ガジェット研究所

 

「つまり、昨日たまたま知り合ったオカリンにラボへ誘われたってことでFA?」

 

私を迎え入れたのは大きな樽ではなく、橋田至。彼はダルと呼んでくれと言っていた。決してタルでは無い。彼は未来ガジェット研究所のラボメンNo.003で、鳳凰院とは高校生からの付き合いらしい。

ラボメンとは何か気になったが後で聞くことにして、それよりも目の前の光景の方が気になった。

 

「ダル君と言ったね。それは何?」

「ん?エロゲ。今絶賛おにゃのこ攻略中です!キリッ!だから今手が離せないんだお。」

 

ふむ、見ず知らずの客人の前で堂々とR18指定のゲームをするとは。やはり鳳凰院の友人なだけある。

 

「つか肝心のオカリンがいない件について。どこほっつき歩いてるんだか。」

「発明品を見せてもらえないか。あるんだろう?未来ガジェット。」

「おk。とは言っても大した発明はしてないお。ガラクタばっかだし。」

 

まあ、たしかに一瞬見えた発明品と思われる物はオモチャの銃型リモコンであったり、タケコプターの先に小型カメラらしきモノが付いている物だったりと・・・まあガラクタと言っても差し支えは無さそうだ。

 

しかし、そんな中にも一つ私の目にとまる発明品があった。

一見普通の電子レンジだが、

 

「ああ、それは電話レンジ(仮)ね。携帯から温めたい時間を入力して送信すれば遠隔操作で温めが出来る。ま、結局自分で食材は電子レンジに入れないといけないんだけど。」

「やってみても?」

 

ダルはパソコンから目を離し、重い腰を上げた。そして部屋の隅にある冷蔵庫を開けるとガサゴソ何か物色し始めた。

その姿はまるで腹が減って台所に降りて来た引きこもりニートのようだ。

 

「ん〜あっ、これがあった。」

 

そう言って冷蔵庫から取り出した物は一房のバナナ。まさか・・・?

 

「ここではバナナを温めて食べる習慣があるのかい?」

「んにゃ、僕も熱いバナナはお断り。どういう原理かその電子レンジってただ温め機能がついてる訳じゃないんよね。」

 

どういうことだろうか。温め機能以外の電子レンジ?どんな機能だろう。

私がそんな疑問を浮かべている間にダルは慣れた手つきで携帯を手に取った。

 

「これで準備完了っと。そこで見ててくれる?」

「ただ今帰ったぞ!お!Kではないか!早速我がラボに来たんだな!」

「ただいまっとぅる〜!あー橘さんだー!」

 

鳳凰院達が帰ってきた。

 

「お前達そこで何をやっている?」

「あ、オカリン。橘氏がこれ使いたいって言うからさ、今ちょうど冷蔵庫にあったバナナを拝借したお。」

 

ダルが携帯をヒラヒラと振った瞬間、鳳凰院はダルのその太い首に腕を回し、私から距離を置いた。そして何か二人でコソコソと話し始めた。そんな大層な発明品なのだろうか。何か見せてはいけない機能だとか?

ふと、横を見ると椎名さんがこちらを見てニコニコしている。

 

可愛い。

 

私も思わず頰を緩めた。

 

「ねえ、橘さん。橘さんはオカリンと人工衛星を見に言ったときに知り合ったんだよね?まゆしぃもあそこにいたんだけど、すれ違いだったのかな。」

 

ふむ、鳳凰院は一人ではなかったのか。では昨日起きた出来事も覚えているだろうか。

 

「そうだったのか。ところで、君は昨日ドクター中鉢の研究発表会にも行ったのか?」

 

二人で来ていたと言うことは彼女もあの場に居たはず。私と彼が体験したあの不可解な現象をこの子も・・・

 

「ドクターなかばちさん?ん〜まゆしぃは覚えてません。昨日はオカリンが『機関が動き出したー!』って言ってラボを飛び出して行ったから、まゆしぃも人工衛星さんを見に行ったのです。」

 

鳳凰院は昨日、最初から人工衛星目的であの場に居た?それにしては人工衛星が突っ込んでいるのをあの時初めて見たという反応だった。

私の記憶がおかしいのか?いや、昨日彼は確実にラジオ会館の8階でドクター中鉢と議論を交わしていた。

 

「君は昨日、何かおかしな出来事にあったりしていないか?例えば、周りの歩いていた人が一瞬で消えたとか。」

「ん〜特に無いのです。いつも通りだったかな〜」

 

やはり何かがおかしい。

 

「K、ちょっといいか?内密な話だ。屋上に上がれるからそこで。」

 

ダルとの話し合いが終わったのか鳳凰院は今度は私に話しかけて来た。

頷き、彼に着いて行く。

 

「橘氏とオカリン・・・知り合いになったってまさか、ヤラナイカ的な展開?まさに誰得!」

「黙れ!ダル!いらん妄想をするな!」

 

鳳凰院はブツブツと文句を言いながら玄関を出る。そんな彼に階段を上りながら私は話しかけた。

 

「気になっていたんだが、ラボメンとは何だ?」

「ん?ああ、ラボラトリーメンバーの略だ。今は俺とまゆりとダルの3人だな。001がこの俺、まゆりは002、ダルは003だ。お前さえ良ければ順番的に004の称号を与えてやってもいいぞ。」

 

私もラボメンになるのか。

 

「考えておくよ。で、内密な話って何だ?」

 

鳳凰院は屋上の柵に肘をかけて呟く様に私に聞いた。

 

「貴様は言っていたな。昨日、ラジ館前で・・・人が消えたのではなく、俺達が世界から消えたのだと。」

 

ああ、言った。鳳凰院もあの時は動揺していたが内心私も気が気では無かった。

 

「さっき椎名さんに聞いたけれど、彼女は知らなかったよ。ドクター中鉢の発表会。」

「まゆりもあの場に居たんだが、昨日人が消えた後、まゆりに確認したんだ。『人が消えなかったか』と。」

「答えはさっき私が聞いたのと同じ・・・か。」

 

やはり鳳凰院は昨日ラジ館に居た。私の記憶違いでは無い。しかし、椎名さんと記憶の齟齬がある。どういう事だろうか。

 

「まゆりもダルもドクター中鉢の発表会は中止になったと言っていたんだ。発表会自体が無かったことになっている。なぜだと思う?」

「やっぱり私達の身に何か起きたということかもしれないね。人の営みは何も変わらない。彼女達の記憶の辻褄は合っている。私達だけが本来体験していないはずの記憶を持っている。」

 

鳳凰院は拳を握りしめていた。何かわかったのか?

 

「昨日、牧瀬紅莉栖が刺された現場を見たと言っただろう?」

「ああ、血まみれで死んでいたとかいう。」

 

彼の握った拳は震えていた。

 

「昨日あの後、大学の講義にダルと一緒に受けたんだが。」

 

大学の講義?それがどうしたのだろうか。

 

「講義の講師が、牧瀬紅莉栖だった。」

 

その瞬間自分の体温が急激に低下した様に感じた。まさか、そうだと言うのか?

 

「貴様の言った通りだ。」

 

そこには携帯を持って高笑いをする狂気のマッドサイエンティストは居ない。まっすぐ私を見て意を決した様にこう言った。

 

「俺達だけが違う世界に移動したようだ。」

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