ありふれない結界師は比較的優秀   作:灰色パーカー

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ベヒモス編後編です。



8.解禁(後編)

園部さんを助けた後、直ぐに天之河くん達の方へと走った。

 

見ればメルドさん達が張っていた障壁が壊されており、天之河くんが強力な魔法を放っていた。

 

二十階層の時とは比較にならない閃光と威力。だがベヒモスは無傷だった。

 

その事実に天之河くん達は信じられないといった様子で、動けないでいる。

 

(呆けてる場合じゃない!何してるんだ、まったく)

 

無傷のベヒモスを見て唖然としている天之河くん達を見てついそう思ってしまう。無傷のベヒモスは、なおも突進してこようとしている。

 

メルドさん達が自分たちを盾にして防ごうとしている。

 

(まずはアイツを遠くに追いやらないと話もできないな)

 

そう考え、結界術を発動する。

 

「方囲!………定礎!………結!」

 

メルドさん達の正面に位置指定し、奥行きのある長い結界を形成して突進してくるベヒモスを反対側まで押し返す。

 

僕に無警戒だったベヒモスは、雄叫びを上げながら吹っ飛んで行った。

 

直後、天之河くん達が一斉に振り向いた。皆一様に驚いた顔をしている。

 

「な!南雲⁉……今のは、君なのか?一体何を……」

 

「は?南雲⁉」

 

「……すごい、あの巨体を……吹き飛ばした」

 

「……南雲…君?」

 

四人とも何をしたのか尋ねてきそうな勢いだが、そんな時間は無い。

 

「天之河くん!早く撤退して皆の所へ行ってくれ!このままじゃ皆やられる!」

 

「い、いきなりなんだ⁉それより今のは君がやったのか?一体何を………」

 

「“それより”じゃないんだよ、天之河!」

 

「⁉」

 

一刻の猶予も無い中、天之河くんが僕の話を無視して別の事を話そうとするので、胸倉を掴み、乱暴な口調で強引に遮る。

 

普段と全く違う口調だったからか、天之河くんだけでなく他の三人、更には起き上がってきたメルドさん達も驚いた顔をしている。

 

「あれが見えるか、天之河!階段前で戦っているみんなが!あそこにいる魔物は時間を追うごとにどんどん増えてる!みんなパニックになっててまともに戦えてない!今あそこに必要なのは、一撃で魔物を一掃できる力と、皆をまとめるリーダーだ!わかるか!皆には君が必要なんだ、天之河‼吹き飛んでいったあの魔物を倒すことと、皆の命を守ること!どちらを優先するべきかよく考えろ!」

 

 

怒鳴った僕が指さした方を見て、混乱に陥り悲鳴を上げている皆を見て、天之河くんは逡巡する。

 

 

だがすぐに決断し僕の方を見て言った。

 

 

「…ああ、わかった。直ぐに行く!龍之介、雫、香織!急ごう!」

 

「お、おう!任せとけ!」

 

そう言って皆の方へと走り出す天之河くんと、後に続く坂上くん。

 

「……ええ、行くわよ!香織!」

「う、うん……」

 

さらに八重樫さんも続くが、白崎さんだけはまだ動けていなかった。

 

呆然として、しかしどこか心配そうな目で僕を見ていた。

 

「………()()()()

「へ⁉は、はい!」

 

だから、僕は呼んだ、彼女の名前を。微笑みながら、はっきりと。彼女にちゃんと声が届くように。

 

「向こうには傷ついている人もたくさんいる。早く行って、治してあげてください。それがきっと、()()()()()()ことに繋がる」

 

「う、うん///」

 

そう言って白崎さんは皆の方へ走って行った。

 

これで戦ってる皆に余裕が生まれるだろう。天之河くん達が行けばあの状況でも巻き返せるはずだ。

 

だが、まだだ……まだ足りない。もう一手、皆の士気を底上げするダメ出しの一手がいる。

 

「南雲………お前……」

「メルドさん達も行ってください!正直、天之河くんだけじゃ皆を纏め上げるには足りない!」

 

そう、メルドさんだ。僕らの教官たる彼の力がいる。

 

「しかし!」

 

「確かに天之河くんが行けばあの数の魔物をどうにかすることはできる!でもそれだけだ!皆、天之河くんに任せっきりになるだけだ!必要なんですよ、メルドさんの言葉が!メルドさん達教官の指示が!」

 

「く!だが、ベヒモスはどうする?我々が引いたら………」

 

そう、その問題が残る。橋の反対で既に起き上がってきているベヒモスをどうするのかという問題が。

 

「それは大丈夫です。アイツは、僕が相手をします」

 

「なっ、無茶だ!お前一人では!」

 

「さっきアイツを吹き飛ばしたのは僕ですよ?」

 

「だとしてもだ!さっきはベヒモスの隙を付けたが同じ手はもう………」

 

ベヒモスの相手を僕だけですると伝えると、メルドさんはそれを拒んだ。

 

たとえさっきはベヒモスに一杯食わせたとしても、次は無いと。

 

だから、僕は、ムキにならず冷静に、メルドさんと向き合って言った。

 

「メルドさん。前に言ってくれたじゃないですか。僕を『信じている』と」

 

「⁉」

 

「だから今回も、僕を『信じて』下さい」

 

メルドさんの目を見てはっきりと言った。本来こんな状況で言うようなことでは無い。

 

だが正直これ以外に言えることが無い。今まで本来の実力を隠してきたのだ。それで僕の力を信じろなんて普通に考えたら無理だ。

 

けれど……

 

 

「…………任せていいのか?」

 

どうやら、僕の意思はメルドさんに届いたらしい。

 

「はい、大丈夫です」

 

「…………わかった」

 

「な、団長⁉」

 

「お前ら!クラスの連中の元へ急ぐぞ!」

 

「待ってください団長!いくら何でも、彼一人では!」

 

「ならば!少しでも早く、コイツが撤退できるように全力を尽くせ‼」

 

「は、はい!」

 

メルドさんの指示に一瞬従えない素振りを見せた団員だが、メルドさんの言葉で前を向く。

 

「まさか、お前さんに命を預けることになるとはな…………必ず助けてやる!だから…………頼んだぞ!」

 

「…はい」

 

そう言ってメルドさん達も走って行った。

 

その頃にはもうベヒモスは起き上がり、こちらに殺意を向けていた。

 

 

「助けるなんて………そんな意気込まなくても大丈夫だよ、メルドさん。この程度の敵、大したことないから」

 

メルドさん達が離れると僕はボソッとそう言った。

 

それが聞こえたのかベヒモスは一層強い殺意を向けこちらに向かって来た。

 

「さあ…すこし付き合ってもらおうかな、ベヒモス」

 

 

臨戦態勢をとり、ベヒモスと向きあった。

 

 

 

~階段前side~

 

トラウムソルジャーの個体数は依然増加し続けていた。

 

その数は優に二百を超えているだろう。階段側の橋の末端を埋め尽くす勢いだ。

 

だが、生徒が包囲されていないだけ幸運だった。もし包囲されてしまっていたら、既に多くの生徒が命を落としていただろう。

 

いまだ誰一人命を落としていないのは騎士団員達が必死に生徒をカバーしていたからに他ならない。

 

だが、騎士団の者たちも満身創痍となり徐々に支援が行き届かなくなる。

 

大半の生徒はまだパニックから抜け出せておらず、今までやってきた訓練も何のその、魔法を使うでもなく無茶苦茶に武器を振り回していた。

 

ハジメが助けた園部が微力ながら声掛けをしたおかげで、冷静さを取り戻し連携を取り始める者も少なからずいた。

 

だが、敵の数が多すぎる。いよいよ全員の限界が近づき、皆がもうダメかもしれないと、そう思ったとき………

 

 

「―【天翔閃】!」

 

 

純白に輝く斬撃がトラウムソルジャーを飲み込んだ。

 

ある個体は消し飛び、またある個体は橋から落ちて奈落へと消える。

 

 

「皆!諦めるな!道は、俺が切り開く!」

 

そんな言葉と共に、再び【天翔閃】が炸裂する。

 

駆けつけた光輝のカリスマにクラス全員の顔に希望が宿る。

 

「お前達!訓練を思い出せ!さっさと連携をとらんか!馬鹿者が!」

 

遅れてきたメルドもまた強烈な斬撃を撃ち敵を一掃する。

 

いつも通りの頼もしい声にクラス全員の士気がより一層高まっていく。

 

龍太郎に雫、香織も駆けつけ、階段前の攻防が一気に優勢に傾き始める。

 

治療魔法に適性がある者がこぞって負傷者を癒し、全体が本来の連携を取り戻していく。

 

 

前衛が隊列を組んで迎撃することで後衛を守り、後衛は強力な魔法で前衛が抑えた敵を倒していく。

 

 

徐々に敵の発生速度を敵の殲滅する速度が上回っていく。そして遂に階段への道が開ける。

 

 

「皆!続け!階段前を確保するぞ!」

 

光輝が先導しクラス全員がトラウムソルジャーの包囲網を突破していく。

 

全員が突破した後、背後で再び橋との通路を骸骨が満ちるのをメルドや他の騎士団員が魔法を撃って阻止していく。

 

クラスの者はメルド達の行動に疑問を抱く。階段は目の前にあるのに何故登ろうとしないのかと。

 

 

「全員、待て!まだ階段を上るな!南雲がたった一人であの怪物を抑えている!」

 

 

メルドの言葉をすぐには理解できないクラスメイト達。

 

全員何を言ってるんだといった表情だ。なんせ皆そろってハジメのことを無能だと思っているのだから。

 

それは、実際にハジメに助けられた光輝達も同じだった。

 

 

しかしトラウムソルジャー越しに橋の方を見ると、そこにはたしかにハジメの姿があった。

 

 

あったのだが………

 

 

 

「見えるだろう!坊主があの化け物…を………!」

 

「………嘘」

 

「………何?あれ?」

 

 

“南雲が化け物を抑えてる”と言おうとしたメルドだったが、ハジメとベヒモスの方を見た途端、絶句した。

 

他の者も同様だった。香織と雫だけはかろうじて言葉を紡いだが、それでも目に映る光景を信じられないでいた。

 

 

 

全員の目線の先で、ベヒモスは()()()になっていた。

 

 

===============

 

 

 

メルドさん達を見送った後、僕はベヒモスと対峙していた。

 

吹き飛んで行ったベヒモスは橋の末端の先、奥へと続く通路の前にある開けた場所で、こちらに突進してこようと身を低くして構えている。

 

 

(折角アイツが広い場所にいるんだから、あそこで対処しよう)

 

 

これ以上橋で戦ったら、この橋が落ちるかもしれない。

 

まだ橋で皆が戦っている。今この橋を落とす訳にはいかない。

 

故に、まずはベヒモスを広場で足止めすることを決める。

 

そうこうしているうちにベヒモスはこちらに突貫してきた。

 

その瞬間にベヒモスの右後ろ脚だけを結界で囲む。

 

「結!」

 

 

全力で走ろうとしている相手の片足だけを結界で囲んだ場合どうなるか。

 

簡単だ。前に出るはずの足が出ず、つんのめって転倒する。

 

「グゴォッ⁉」

 

転けたベヒモスは腹から地面にぶつかった。

 

あまりダメージはなさそうだが怒らせるには十分だったようで、ベヒモスが一際大きな咆哮を上げる。

 

 

「グウォォォォォォ‼」

「うるさいな…結!」

 

ベヒモスの咆哮を止めるために、今度は奴の頭の真上に位置指定して結界を形成し、地面へと叩きつける。

 

「グボォォ⁉」

 

地面に顔がめり込み、ベヒモスが苦悶の声を上げる。

 

 

その時後ろから轟音が響く。どうやら天之河くん達が皆のもとへと到着したらしい。その時にロックマウントを屠った魔法をぶっ放したようだ。

 

(まだ…時間が掛かるかな)

 

ベヒモスの方へ視線を戻すと、既にベヒモスは起き上がっていた。さらに頭部が赤熱化しており、マグマのように燃え滾っていた。

 

ベヒモスは後退して助走をつけ、こちらに向かって突進してきた。

 

(また突っ込んで来る気か。芸の無い奴…)

 

また突進してくるのだろうと高を括っていたのだが、次の瞬間ベヒモスは上に跳躍した。

 

そのまま赤熱化した頭を下に向けて、まるで隕石のように落下してきた。

 

一芸だけでは無かったらしい。どれほどの威力にせよ、あんな巨体が落ちてきたら只じゃすまない。

 

「芸が無いなんて言ってごめんよ。…方囲!…定礎!…結!」

 

謝りはするものの、容赦はしない。

 

落ちてくるベヒモスの更に斜め上に位置指定し、結界を斜め下に向けて形成することで、ベヒモスが助走をつけた位置よりも更に奥に叩きつける。

 

「グガァァァ」

 

地面に叩きつけられたベヒモスの顔は苦痛に歪んでいた。

 

顔に着いた砂利を払うためか、それとも痛みを和らげるためか、左右に頭を振っている。

 

「空中で自由に動けないなら、飛んじゃダメだよ。あれじゃ的にしかならない」

 

「グウォォォォォォーーーー!」

 

ダメ出しをすると余計怒らせてしまった。今まで以上に力強く突進してくる。

 

ここはあえて、小細工なしで正面から受け止めることにする。

 

 

「壊せるものなら、壊してみろ!…結!」

 

大きな結界でベヒモスを丸ごと囲い込む。グモォォっと叫びながら結界内の壁に体を叩きつて壊そうとしているが、その程度じゃいつ迄たっても壊れることはない。

 

 

軽く後ろを振り返ると、皆ようやく骸骨の群れを突破し始めた。

 

(あと、少し…………敵を滅さずに戦うのは結構大変だな。いつも直ぐに滅してたからな)

 

 

そう、本来ならば早期にベヒモスを滅することはできた。

 

最初に橋からこの開けた場所に吹き飛ばした時点でどれほどの強さなのかは大体掴んでいたし、片足だけを囲んだときに奴の膂力も把握できていた。

 

だから、すぐにでも滅することはできたのだ。

 

だが、敢えてそうしなかった。

 

 

ここで皆の目からベヒモスが突然いなくなれば、余計な不安を抱かせてしまうかと思った。

 

風景に擬態して近づいてきているのではないか、地面を潜って下から攻撃してくるのではないかといらぬ不安を募らせる可能性があった。

 

 

だから足止めするのがベストだと思ったのだ。

 

「グウォォォーー」

 

ベヒモスはいまだにズドーン、ズドーンと体を叩きつけて結界を壊そうとしていた。

 

奴が勢いをつけて結界の壁に体当たりしようとするその瞬間に…

 

「解!」

 

結界を解いた。ベヒモスは勢いそのまま転倒し、数m転がっていく。

 

再び立ち上がり見せた顔は、もはや悪鬼のそれだ。

 

(すごい表情(かお)してる。怒ってるな、あれは完全に)

 

今までと比にならないほどの怒りの形相になっていた。

 

当然だ、ベヒモスにしてみれば命を奪う対象である人間を蹂躙できず、こんな所で足止めを食らっているのだから。

 

「君の怒りは尤もだけど、こっちも通す訳にはいかないんだ………結!」

 

そう言って、僕はベヒモスの首や前脚、後ろ脚に背中や腹などあちこちに位置指定し、小さな結界をいくつも形成する。そして、そのまま体のあちこちを同時に滅却する。

 

「滅!」

「グギャァァァァーーー!」

 

全身の至る所を滅せられ、ベヒモスは悲痛な声を上げる。

 

負傷した箇所は傍から見ると抉れたようになっている。

 

傷口の全てから血が流れだし、ベヒモスの動きが鈍くなる。

 

その隙を見逃さず、もう一度同じ場所に位置指定し、そのまま奴の傷口に向かって数個の細い結界を形成する。

 

「結!」

「グゴアァァァァ!」

 

ぐちゅり、という音と共に数本の細い結界がベヒモスを貫通し串刺しにする。

 

「グゴォ……ガァァァ…」

 

串刺しにされ、悲鳴すらまともに上げられないベヒモスを他所に、振り返って皆の様子を確認する。

 

皆既に骸骨の群れを完全に突破しており、こちらの様子を窺っている。

 

よくは見えないが、皆驚いた顔をしているようだ。

 

まあ、あれだけ怖い思いをさせられた化け物が串刺しになっていたら、びっくりもするだろう。

 

「足止めはここまでかな………解!」

 

そういって串刺しにした結界を解除する。途端、一気に傷口から血が噴き出した。文字通りの血の雨だ。

 

痛みと出血でへたり込んだベヒモスを一瞥し、結界で囲む。

 

 

「さようなら、ベヒモス…………滅!」

 

別れの言葉を添えて、ベヒモスを完全に滅却する。

 

(皆のところへ急ごう。少しでも早くこの階層から撤退しないと)

 

 

そう思い、ボロボロになった橋を僕は駆けていった。

 




第8話「解禁」前後編いかがでしたでしょうか。
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