ありふれない結界師は比較的優秀   作:灰色パーカー

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第9話始まります。



9.不信と告白

ベヒモスを滅却し、皆の方へと急ぐ。

 

激しい戦闘でボロボロになった石畳、生々しい血痕、武装の破片。

 

来た時とはまるで違う様相の橋を駆けていく。

 

そろそろ橋を渡り終えるかというところで、階段前で皆が抑え込んでいた骸骨が一斉にこちらに向かってきた。

 

橋を渡る者を優先して狙えと命令(プログラム)されているのか、単にベヒモスの敵討ちか。

 

いずれにせよ敵となるなら倒すまで。

 

「結!…滅!」

 

もう時間稼ぎは必要ないので一息に滅する。

 

集団から離れていた数体は滅しきれなかったが、両手で数えられる数なので問題ないだろう。

 

そのまま橋を渡り終え、皆のもとへと合流する。

 

「はぁ、はぁ………メルドさん!戻りました!」

 

「………あ、ああ!全員、気を緩めるな!全力で迷宮を離脱する!………南雲、お前は最後尾で後方からの襲撃に対処してくれ!」

 

「了解です」

 

「よし、行くぞーー‼」

 

この場にいる全員、心身ともに疲労困憊ではあるが、迷宮からの生還を目指して最後の力を振り絞る。

 

 

全員が広場から階段に移動したのを確認し、僕も移動を開始する。

 

振り返ると既にトラウムソルジャーの数が十数体にまで増えておりこちらに向かって来ていた。

 

ただ今回は全ての骸骨がかたまって移動して来ていたので、一体も逃さずに囲い込む。

 

「包囲!…定礎!…結!……滅!」

 

ダメ押しにもう一度トラウムソルジャーを滅却して皆の後を追う。

 

==============

 

 

上へと続く階段は想像以上に長かった。感覚的には三十階以上は上っているだろう。いい加減足が重くなってきた。

 

(まだつかないのか?)

 

そう思っていると、ついに上方に魔法陣が描かれた大きな壁が現れた。

 

騎士団員の人がフェアスコープでトラップか確認しているが、どうやらそうでもないらしい。

 

メルドさんが壁の魔法陣を起動させ、壁の向こう側へと進めるようになった。

 

メルドさんを先頭に皆壁の向こう側へと進んでいく。

 

そして壁を抜けた先は………僕らが元々いた二十階層だった。

 

「ここは!」

「戻ってきたのか⁉」

「帰れた……帰れたよぉ……」

 

クラスの皆が安堵の吐息を漏らす。中にはへたり込んで涙を流している人もいる。

 

だが、ここで立ち止まる訳にはいかない。

 

最大の危機を乗り越えたとしてもここはまだ迷宮の中だ。気を休めて良い場所ではない。

 

「お前達!座り込むな!ここで気を抜いたら帰れなくなるぞ!魔物との戦闘を極力避け一気に地上へ帰還する!もう一踏ん張りだ、行くぞ!」

 

 

休ませろという皆の無言の訴えをメルドさんは睨むことで封殺する。

 

皆もふらふらと立ち上がり、ぞろぞろとメルドさんについて行く。地上まであと少しだ。

 

 

==============

 

二十階層からここまで戦闘を最小限に控え、もし戦闘になっても騎士団員が瞬殺してきた。

 

そしてついに地上へと辿り着いた。

 

皆安堵の表情を見せ、ある者は座り込み、またある者は大の字になって横になる。

 

全員が生き残ったことを喜んでいた。しばらくは皆動けないだろうが、特に問題は無いだろう。

 

メルドさんだけは迷宮の入り口にある受付に何か報告を行っている。

 

(ふぅ~やっと着いた……何はともあれ全員無事で良かった)

 

かく言う僕も足を伸ばして座り込んでいた。なんだかんだ言って、この世界に来て初めてのまともな戦闘だったので少々疲れた。

 

環境が変われば多少なりとも調子に影響するとは言うけれど、全くその通りだ。

 

 

すると、橋で助けた園部さんが歩み寄ってきた。

 

「南雲……」

「やあ、園部さん。お疲れ、大丈夫?」

「うん…そんなに酷い怪我はしてないから」

「そっか。それはよかった」

 

そんな何でもない話をする。疲弊してはいるが、本当に怪我はしていないのだろう。

 

「あ…あのさ……」

「ん?」

「え~と…その…」

 

なんとも歯切れ悪い園部さん。何か言おうとしているのはわかるが、何だろうか。

 

「…………あ、ありがとね。助けてくれて……」

「ん?……ああ。いや、別に良いよ。…誰だって同じようにするさ」

 

恐らく橋でのことを言っているのだろうが、別に特別なことじゃない。あの状況なら誰でも同じことをする。それが偶々僕だったというだけ。

 

「…だとしても、だよ。……お礼を言わなくて良い理由にはならないから」

「そ、そっか」

「うん…………じゃ、じゃあ//」

 

思わぬ返しに一瞬言葉に詰まる。園部さんはそう言って友達の方へと小走りで戻っていく。

 

去り際、園部さんの顔がやや赤くなっているように見えたが、どうかしたのだろうか?

 

まあ普通に走っているし、問題ないだろう。

 

すると今度は白崎さんが近づいてきた。傍らには八重樫さんもいる。

 

「南雲君……」

「お疲れ様、二人とも。……どうかした?」

「どうかしたって……あんたねぇ」

「……」

 

八重樫さんはどこか呆れた様子で、白崎さんは無言でこちらを見ていた。顔に何かついてるのかな?

 

「君、あんなに強かったのね。私達が手も足も出なかったあの化け物を簡単に倒せてしまう程に」

「……まあね」

 

八重樫さんが尋ねてきたので、肯定する。どうやら二人ともそれが聞きたかったらしい。白崎さんも続いて聞いてくる。

 

「………串刺しに、してたもんね」

「うん、なかなか大人しくならなかったから」

「……………………」

 

聞かれたことに答えただけなのだが、白崎さんは押し黙ってしまった。

 

「……………な、南雲君は…」

「南雲!」

 

白崎さんが何かを言おうとしたところで、誰かが僕の名前を呼んで割り込んできた。

 

「南雲!さあ、洗いざらい吐いてもらうぞ!何故君のような奴がそれほどの力を持っているのか、何故あの化け物を倒せたのか!」

 

大声で僕を呼んだのは、天之河くんだった。

 

洗いざらい吐けって、そんな悪者みたいに言わなくても……

 

「……そうだよ、たしか南雲のやつ…」

「あの恐竜みたいな魔物、倒してた…よね?」

「見間違いだろ?あの南雲だぜ?」

「南雲君があんな化け物倒せる訳無いよ」

「じゃあなんであの化け物は急に消えたんだよ?」

「それにあの骸骨だって一度にたくさん倒してたよ?」

 

天之河くんの発言で皆、頭の隅に追いやっていた疑問が蘇ったらしい。口々に橋での僕の戦闘について言い合っている。

 

「ここまでは撤退を優先して聞き出せなかったが、ここはもう地上!危険も無ければ、邪魔も入らない!クラスの皆がいる此処で、言い逃れできると思うなよ!」

 

だから人を(やま)しい事をした奴みたいに言わないでほしい。というか言葉選び下手くそか。言い逃れって………

 

「………別に、話すのは良いけど……その事は明日、ゆっくり話すよ」

「な、何?」

「みんな疲れきってるし、今日はもう休もう。しっかりご飯を食べて、ぐっすり寝て、話はまた明日にしよう」

「ふ、ふざけるな!この期に及んで、まだしらを切るつもりか!」

 

納得がいかないとさらに語気を強める天之河くん。

 

「周りを見なよ、天之河くん。皆もう休みたいって顔してるよ?こんな状態で話をしても頭に入らないよ。それとも、皆の休息より君の知的関心を満たす方が大事?」

「くっ!良いだろう。精々今日の内にマシな言い訳を考えておくんだな!だが、僕を騙せるとは思わないことだ!必ず君の化けの皮を剥いでやる!」

 

そういって天之河くんは引き下がった。もしかして初めてじゃないか?天之河くんに口論で勝ったの。

 

しかし、どうしてそう僕を悪者にしたいのだろうか。言い訳だの、化けの皮だの。

 

「さあ、お前達!宿に戻るぞ、南雲が言った通り今日はしっかり休んでおけよ!」

 

いつの間にかメルドさんが戻って来ており、僕らは宿へと向かうことになった。

 

 

===============

 

 

翌朝、朝食を食べ終わった後、僕らは宿にある大広間に集まっていた。

 

そこでメルドさんによる昨日の迷宮での戦闘の反省会が行われた。

 

「二十階層までは皆訓練通りの動きが出来ており、初めての迷宮探索では及第点といったところだろう。だが問題はその後だ。まず檜山、あれほど迷宮では勝手な行動をするなと言っておいたはずだ。それをお前は無視し、グランツ鉱石の採取に向かった。それが原因で皆を危険に晒した。いいか、今後二度と軽率な行動をするなよ!」

「はい…………すいません」

 

檜山くんが名指しで注意を受ける。だが、これは檜山くんだけの問題ではない。この場にいる全員が肝に銘じておかなければならない。

 

迷宮の罠は命をも失いかねない危険なものであるということを……

 

「次に天之河、坂上。お前達は俺の指示を聞かずベヒモスと戦おうとしたな。俺たちを思ってのことかもしれんが、非常時においては上官の指示に従え」

 

次に名前を呼ばれたのは天之河くんと坂上くんだった。

 

「待ってください!確かに俺はメルド団長の指示に背きました!でもあの状況で誰かを置き去りにして逃げるなんて俺には………」

 

「それであの場にいた全員がやられたら意味がないだろう!それにあの時俺は言ったはずだ、犠牲になるわけでは無いと、ベヒモスの攻撃をしのぎつつ撤退を図ると。その為には橋を塞いでいるトラウムソルジャーを倒さねばならなかった。だからお前たちを先に撤退させトラウムソルジャーの掃討とクラスの者達の補助を指示したんだ」

 

「…………」

 

「いずれお前は勇者としてここにいる者達を導いていく立場となる。その時正確な判断を下せるように、今は俺たちの指示に従え。未来のためにな」

 

「…………はい」

 

天之河くんは最初メルドさんの言葉に難色を示したが、メルドさんに諭され納得したらしく、それ以上食い下がることは無かった。

 

 

「そして最後に………全員気になっているだろうが…………南雲、お前のあれは…何だ?」

 

そう言ってメルドさんが僕に尋ねてきた皆の視線が僕に集まる。

 

するとさっきまでメルドさんに諭され意気消沈していた天之河くんが元気を取り戻す。

 

「そうだ、南雲!今日こそお前の隠している秘密をしゃべってもらうぞ!何故あんな力を君が持っているのか、何故君がベヒモスを単独で倒せたのか、どうして俺たちに黙っていたのか、全てな!」

 

さっきまで自分が色々と言われていたくせに。話題が僕のことになった途端ペラペラと。

 

「…………何故って、僕はこの世界に来る前から結界術が使えたからだよ。ベヒモスを倒せたのも元の世界でずっと妖と戦ってきたからさ。あれくらいの敵とは頻繁に戦っていたから、大して手強くもなかったよ。黙っていたのは、それが掟だからだよ。一般人に異能について話してはならないという掟。だから黙ってた」

 

「…………な、何?」

 

天之河くんだけでなく、話を聞いていた人たち全員がポカーンとしていた。

 

理解が追い付いていないらしい。まあ、いきなりこんな事を言っても伝わらないか。

 

「ふ、ふざけるな‼そ、そんな話信じると思うのか‼」

 

「信じてくれとは言ってないよ。僕はただ話せと言われたから話しただけだよ。信じるかどうかは皆次第だよ」

 

「くっ………」

 

僕の言葉に天之河くんは押し黙り、キッと睨んでくる。

 

「……南雲、もう少し詳しく話してくれ」

「…何をですか?」

「まず、この世界に来る前から結界術が使えるという点についてだ」

 

天之河くんが何も言わなくなると、今度はメルドさんが詳細について尋ねてきた。

 

「その点に関しては特に掘り下げることは無いです。僕の家系が先祖代々、結界術の異能を継承してきたというだけです」

 

「…それは何故だ?」

 

「僕の家系は先祖代々『ある土地』を妖から守ってきました。妖というのは妖怪のことで、この世界のゴーストみたいなものです。その妖から土地を守るために、結界術を継承してきました」

 

念のため妖についても説明を入れておく。わかってないまま話を進めても混乱するだろう。

 

「…お前たちが居た世界にも魔物がいるのか?」

「この世界の魔物の数に比べれば少ないのかもしれません。けど、そのぶん強いものが多いです」

 

淡々と質問に答えて言っているが、まだ皆“何言ってるんだコイツ”みたいな顔だ。

 

「…………掟で話せなかったというのは?」

 

「元の世界には異能者を統括して取り仕切る組織があります。その組織が定めた掟、“異能者は非常時を除いて一般人に自らの異能を開示してはならない”。古くからある絶対遵守の掟です」

 

「…………それは、矛盾してないか?」

 

「どこがですか?」

 

「それはつまり、非常時であればお前の能力を見せていいのだろう?お前たちにとってこの世界で戦うことは非常時ではないのか?」

 

まあ、そこに引っ掛かるよな普通…………

 

「…非常時ではないですよ。皆この状況を受け入れている。これが当たり前であると認めている。当たり前であるなら、つまり非常時ではない」

 

「ふ、ふざけるな!」

 

メルドさんの質問に答え終わると誰かが異議を唱えてきた。

 

「俺たちはこの状況を受け入れたわけじゃない!そうしないと帰れないから、仕方なく戦っているだけだ!」

 

言っているのが誰なのかはわからないが、彼の言う事もわからなくもない。だが、

 

「それは違うよ。皆あのイシュタルという人の前で言ってたじゃないか、“戦う”って。自分の意思で戦う道を選んだ……この世界において魔人族との戦いは“当たり前”の事だとイシュタルさんは言っていた。僕らの世界では戦うことは普通じゃないけど、この世界では普通なんだ…………戦うことを受け入れた時点で、僕らにとっての非常時は非常時ではなくなるんだよ。だから皆には僕の異能について話さなかったんだ」

 

「…そ、そんなのただの屁理屈じゃねえか!」

 

「確かに屁理屈かもしれない。でも、屁理屈を並べてでも掟を破る訳にはいかなかったんだ。掟を破れば罪に問われ、罰を受ける。それだけは避けたかった。だから誰が見ても非常時といえる時が来るまでは本当の結界術は使えなかった」

 

そう。異能を使わず、話すこともしなかったのは掟を破った際の罰があまりにも大きいからだ。

 

ともすれば結界師を続けられなくなる恐れすらある。そんな危険は冒せない。

 

「…クラスの者に話せなかった理由はわかった。では何故俺たちにも話せなかったんだ?」

 

異議を唱えた誰かに答え終わった後、さらにメルドさんが尋ねてきた。

 

「メルドさん達は僕らの世界の異能について何も知らないでしょう?逆説的に知らないということは非常時に陥った人ではないということ、だから伝えませんでした」

 

「…………そうか」

 

「…僕からは以上です」

 

メルドさんの質問に答えた後、周りを見渡した。皆僕の話は全く理解できないといった顔だ。

 

だが、これは揺らぐことのない真実だ。皆がどう思おうとそれは変わらない。

 

 

他に質問も無さそうだったので僕は話を終わらせたのだが、

 

「待て南雲!まだ話は終わってない!」

 

終わらせてくれない人間が一人。誰あろう天之河くんである。

 

「まだ何か?」

 

「ああ、あるぞ!君は掟があったから力を使えなかったと言ったが、結局の所それを理由に皆を守ることを怠っていただけだ!君が最初からその力を使っていれば皆が危険な目に合うことは無かった!掟がなんだ!目の前で危険な目に合っている仲間がいるなら、それを助けることこそ何より優先するべき事のはずだ!君はただ己の怠慢さを、掟という言葉を使って理論武装しているだけに過ぎない!」

 

 

 

 

「……守ってもらえなきゃ戦えないなら、最初から戦うなよ」

「な、何だと?」

 

本当、天之河くんの言い分にはいつもイライラする。

 

綺麗ごとを並べているだけの上っ面な言葉。そんな言葉には何の意味もないことに何故気が付かないのか。

 

「君が言ってるのは、守ってもらえないと戦えないって言ってるのと同じなんだよ。戦うことを選んだのは自分自身だろ?自分で危ない道を進むことを選んだなら、誰かに守ってもらうことを期待するなよ」

 

「ふ、ふざけるな!力を持たない者を守るのが力ある者の義務だ!」

 

「そんな義務は君の中にしかない。押し付けるのは止めて欲しい。そもそも戦うことが危険な事かもしれないってことは誰もが予想できた事だろ?それでも遠征に参加したんだ、それはもう自己責任でしかないよ」

 

「くっ、君という奴は…………」

 

天之河がなにか怒っているがどうでもいい。彼の癇癪に付き合う気は無い。

 

「…………せっかくだから言うけど、魔物との戦いは本当に危険な事なんだ。なまじ強い力を最初から持っているから、皆まだ気が付いてないのかもしれなけど。戦闘中ふとした事で腕を()がれたり、足を千切られたり、内臓を抉られたり、生きたまま喰われたりするんだ。今回のようにあっさりと死の危険に陥ることだってある。漫画や小説のように最初から最後まで無双できることなんてないんだ」

 

 

せっかく皆が僕の話を聞いてくれているから、伝えたいことを伝えておこう。どこまで伝わるかはわからないけど。

 

「さっきはああ言ったけど、僕は別に皆に死んでほしいわけじゃない。むしろその逆、死んでほしくないさ。けど皆は自分で戦う道を選んだ。たとえそれしか道が無かったとしても選んだんだ。ならそれは尊重されるべきものだ…………でも、この機会にもう一度考えてほしい。このまま戦っていくのか、それとも戦わない道を選ぶのか。今回の遠征を踏まえながら、もう一度」

 

「な、何を言い出すんだ南雲!僕たちは戦って魔人族を打倒さない限り元の世界には帰れないんだぞ!」

 

「それを確約した人はいないだろ?」

「そ、それはイシュタルさんが……」

「イシュタルさんはエヒト神が叶えてくれる()()()()()()と言っただけだ。本当にそうなるかは誰にもわからない」

「だから戦っても意味がないなんて言うのか!」

「戦うだけが全てじゃない。戦うこと以外にもできることは沢山ある。わざわざ望んでもいない危険な道を進むことは無い」

 

本当の事だ。この異界の神が僕らを送還してくれる保障は何処にもない。

 

それに戦わずともサポートに回ったり、情報を集めたり、出来ることはたくさんある。適材適所というやつだ。

 

「だ、だがそれではこの世界で苦しんでいる人々を救う人間が減ってしまう!戦える者が多ければ、それだけ救える人の数は増えるんだ!」

「じゃあその“苦しんでいる人”の中にクラスの皆は入っていないのか?」

「そ、それは…………」

「無理やり戦わされることは苦痛でしかない。それでも皆に戦えと、君は言うの?」

「……………………」

 

天之河くんは今度こそ完全に沈黙する。

 

苦しんでいる誰かを助けることが正義だと思っている天之河くんにとって、皆を無理やり戦わせて苦しませることは悪でしかない。

 

もちろん戦いが苦しくなく、自分にとって生きがいだと言う人もいるかもしれない。

 

だが、そう思わない人も一定数いるのは事実だ。だから、天之河くんがこれ以上この話に口を挟むことは無い。

 

「皆もう一度考えて、選んでください。誰かに言われたからではなく、誰かがそうしているからでもなく、自分で自分が後悔しないと思える道を」

 

 

そう言って、僕は頭を下げた。本来こんな事、頭を下げてまで頼むようなことではない。

 

それでもこのまま皆に戦い続けて欲しくはなかった。このまま戦い続けて、万一の事が起きてしまったら。

 

きっとどうしようもないほど無念だろうから…………

 

 

僕が話し終えた時にはもう、日は傾き始めていた。

 

 

 




何日もかけて書くと、何が書きたいのかわからなくなってきますね。

次回、ハジメの意外な特技が披露されます。乞うご期待!
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