今回ちょっと用語の使い方アバウトなところあるかもです。
地下牢。
それは殺人等の重罪を犯した者、他国に情報を売ろうとした者及び王国の内情を探ろうとした者、そして
そこに窓は無く、四方は壁と鉄格子で囲まれている。
訪ねてくるのは看守か壁の隙間からやってくるネズミだけ。
牢の中に明かりは無く、通路の松明の明かりが僅かに射す程度である。
現在僕はこの冷たい牢屋の中に閉じ込められている。
なぜこんな場所にいるのか、それを話すには少し時計の針を戻さなくてはならない………
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白崎さん達が部屋を訪ねた翌日、僕は朝食を食べた後王宮の訓練場へと向かっていた。
王宮務めの文官やメイドさん、兵士の人達とすれ違うたびに奇異の目を向けられる。なんせ今僕が着ているのは昨日完成させたばかりの和服だからだ。
見た感じこの国でこんな服を着ている人はいない。そりゃあ変な目で見られることもあるだろう。
「南雲君、おはよ~」
すたすた歩いていると、後ろから誰かに名前を呼ばれた。振り向くと後方で白崎さんが手を振っていた。その傍らには八重樫さんもいる。
「おはよう。白崎さん、八重樫さん」
「おはよう。早速着てるのね、その和服」
「やっと完成したからね。それに落ち着くから」
「そう。似合ってるわよ」
「うん、カッコいいよ南雲君」
「ありがとう」
二人から誉め言葉を貰いつつ、一緒に訓練場に向かう。今日の訓練の前に生徒それぞれの選択をメルドさんに伝えることになっている。
訓練場の扉を開け中に入るとなんと僕ら以外の皆は全員集まっていた。
「おはようございます」
「おお、来たか……って、南雲その服は…なんだ?」
メルドさんに挨拶をすると、やはり和服について尋ねられた。メルドさんの言ったことを聞いた皆が一斉に僕の方を見る。
「これですか?日本にいた頃に着ていたものです。ホルアドから戻って来てから自分で作ったんです」
「そ、そうか」
「はあ?あれ和服だろ?」
「南雲君が自分で作ったの?」
僕が自分で作ったことに関してか、メルドさんは割とびっくりしていた。他の皆も口々に驚いた様子で何か言っている。
「………まあ、良いだろう」
何やらメルドさんの様子がおかしいがどうかしたのだろうか。
この格好がダメなのだろうか。メルドさんはそれ以上何も言わなかったから、結局よくわからなかったが。
「さて、全員集まったな。皆この五日間今後についてよく考えてくれたと思う。早速だがそれぞれの答えを…………」
メルドさんが皆に答えを聞こうとした瞬間、バターン!と大きな音を立てて訓練場の扉が開け放たれた。
扉の向こうには神山の教会にいたエヒト神の教徒達だった。
彼らはなにやら物々しい雰囲気で訓練場に入ってくる。
僕らの前までやって来ると教徒の中で最も偉そうな人が進み出た。
「メルド騎士団長、しばし時間を頂く……勇者様、そしてその御同胞の皆様、修練の場に押し掛ける御無礼をお許しください。先日の遠征での活躍は我々も聞き及んでおります。我々も精一杯助力させていただきますので、これからもこの世界のためどうか御力添えを」
メルドさんには上からものを言っていたくせに、僕らに対しては恭しく話す教徒代表。下手に出れば僕らが言うことを聞くと思っているのだろうか。
「本日この場に赴いたのには理由が御座います。それは、ここにいる異教の徒の疑いがある者を
異端審問。
たしか中世のヨーロッパにおいて、カトリック教会によって異端の疑いがある者に行われた裁判のことだったはず。
「その者はエヒト様の御意思を否定し己が力で皆様を惑わし、異端の道へ堕とそうとした重罪人でございます」
「待ってください!僕らの中にそんなことをする人間はいない!そんなのは何かの間違いだ!」
教徒代表の言葉に異を唱える勇者、天之河くん。僕の仲間にそんな奴はいないと食って掛かる。
「勇者天之河。御同胞を庇護なさるお気持ちはよくわかります。ですがあなた様も既に気づいているのでしょう?」
「な、何を言って………」
「居た筈です。自らの素性を隠し、力を封じ、弱者を演じることで皆様を騙していた者が。そして強大な敵の前で正体を晒し、皆様の心に異端の言葉を投げかけた者が」
……ん?それって
「まさか!」
「そう。その異教の徒は…………貴様だ!南雲ハジメ!」
おお……やっぱりか。そうじゃないかとは思ったけれど。
「そんな!南雲君が力を隠していたのにはちゃんと理由が!」
「白崎様。この異端者を庇う必要はございません。既に多くの証拠や証言も得ています。彼が異端であることは最早疑いようの無い事実なのです」
「そんなの嘘です!あなた達は南雲君の話を聞いていないから!」
「香織の言うとおりだわ。南雲君は…………」
白崎さんと八重樫さんが必死に弁明してくれるが、教徒代表は聞く耳を持たず、二人の言葉を遮って言葉を続けた。
「何より、今のこの男の恰好が全てを物語っている」
は?僕の恰好……ただの和服だろう。この国では珍しいかもしれないけど。
「その男が着ているものはかつての大戦で滅んだ竜人族、エヒト神を否定し自分達こそが世界の頂点と宣った者達が身につけていたものと同じ。それをこの男が身につけているということは………どういうことかお判りでしょう」
「…………つまり南雲は、竜人族の手先だと?」
「ご名答、その通りでございます」
いやいやいや、勘違いも甚だしい。いきなり何を言い出すのか。
「これは僕が自分で作った物ですよ。竜人族なんて知りません」
「ふん、白々しい。弁明は審問の際に聞いてやる」
無視ですか、そうですか。ここで何を言おうと無駄らしい。
「見え透いた嘘だな、南雲。和服なんて大それたものを君が五日で作れる訳が無い。仮にお前が竜人族と関わりが無いとしても、その恰好はエヒト神の敵が身につけていた物だ。つまりお前はその和服を敵から受け取り自ら身につけることで皆の注意を惹き、じわじわと外側から敵側に引きずり込むつもりだったんだろ。ふん、外堀から埋めようとするとはな」
本当、天之河くんはどういう思考回路をしているのか。あれだけの情報でよくぞここまで都合のいい解釈ができるものだ。
そもそも僕が和服を作れるはずがないって、何も知らないくせにどうして何でもかんでも僕を否定するのか。
とはいえ少しマズい事になった。この格好云々ではなく、このままだと牢屋に入れられそうな気がする。
問題なのは牢屋に入れられた際、異能封じの枷を付けられないかということだ。ただの枷なら絶界で壊せるだろうが、異能封じの枷だとまず無理だ。
ただ、ここで逃亡を図ればそれこそ異端者認定されかねない。ここは大人しく縛につくべきかと悩んでいると、
「光輝君!どうしてそんな風に南雲君を悪く言うの?南雲君の事何も知らないのに!あの和服は南雲君が実際に作ったものなんだよ!」
「ええ、私と香織は実際に彼が作ったのを見ているわ。これこそちゃんとした証言になるんじゃない?」
白崎さんと八重樫さんが猶も僕の弁護を図ってくれていた。まったく、二人の言う通りだ。
二人のその気持ちは嬉しいが…………
「香織、雫。南雲を庇う必要はない。彼は既に一線を越えている」
「一線って何?光輝、あんたホルアドでの南雲君の話忘れたの?」
「ホルアドで南雲が話したことには何の信憑性も無い。南雲の話が確かなら異能者と呼ばれる奴等は大勢いるはずだ。それなのに、異能者がいるなんて話も目撃したという噂は聞いたことが無い。それを信じろというのは無理な話だ」
確かに天之河くんの言い分はある意味正しい。だがそれは、それだけ異能者が掟を遵守しているということでもある。
「南雲の話よりも、彼がこの世界で密かに敵と内通し、僕らを陥れようとしているという話の方が自然だ」
「それはあんたがそう思ってるだけでしょう!陥れようとしてんのはどっちよ!あんたの考えを私達に、南雲に押し付けてんじゃないわよ!」
白熱する八重樫さんと天之河くん。だがこのままだと八重樫さんにまで疑いが掛かりかねない。
「もういいよ、八重樫さん」
「南雲君、でも!」
「疑いが掛かっているのは僕だ。だったらまずは僕が身の潔白を訴えるのが筋だ。」
「でも…………」
「別に証拠だけ並べて即
不安そうな面持ちで白崎さんも寄って来るが、これ以上二人に迷惑をかけるのは良くないだろう。
最悪、僕が処刑ないし追放の沙汰が下っても何とかなる。だがこの二人まで巻き込む訳にはいかない。
「良いよ教会の人。その異端審問、僕は逃げない」
「ふん!その潔さだけは誉めてやろう、この異教徒め!」
そう言って、教会代表の男は僕に手枷を付けて連行していった。後ろでは白崎さんと八重樫さんが心配そうにこちらを見ていた。
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これが、僕が牢に入れられた経緯の全貌である。
それにしても異端審問……か。
あの教会代表は証拠も証言もあると言っていた。証言はまあメルドさん達から得たとして、それが審問に掛けるような証言になるのか?
メルドさんが僕を嵌めたのならわかるが、あの人はそんなことはしないだろう。
だとすれば誰だ? クラスの誰かか?それに証拠とは一体なんだ?まさかこの和服ではないだろう。見せたのは今日が初なのだから。
それよりも疑問なのがこの手枷だ。これには異能封じの効力が無い。それに牢の格子や壁にもそれらしいものは無い。
どういうことだ?これでは抜け出せと言っているようなものだ。
そもそも教会が集められたという証拠は、僕を異端と断じれるほど決定的なものなのか?
そこまで考えて、頭に浮かんだ一つの可能性、一つの仮説。
まさか教会の狙いは…………
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牢に入れられて三日目。とうとう判決の日が来た。
しかしあれからまだ三日しか経ってない。それなのにもう判決とは、なんとも動きが早急すぎる。
この三日間ずっと尋問を受けていたが、やれエヒト神の教えだの、やれエヒト神の偉大さだの、大して関係なさそうな事をまくし立てるだけで尋問らしい尋問はほとんど無かった。
僕は今王宮の城下町にある大きな広場に設けられた処刑台のような場所に立たされている。
処刑台の周りには多くの人が集まっており、そこにはクラスの皆も来ていた。
皆の表情は人それぞれだった。心配そうにしている人、意味も無く緊張している人、当然だと言いたげな顔の人、そして
そうこうしていると教会の長であるイシュタルさんが登場した。
彼の後ろに異端審問官が控えており、この異端審問官が判決文を述べるのだろう。
「これより異教徒の疑いがある南雲ハジメに対する異端審問の判決を言い渡す。この異端審問は敬虔なる信者の一人が告発し、その他多くの信者及び勇者並びにその同胞による証言から執り行ったものである。南雲ハジメ、この男は我らが神エヒトの教えに背き、戒律を破り、神の意志を否定した。更には自らの素性を隠し勇者及びその同胞を騙し異教の道へと堕とそうとした大罪人である。」
後半はともかく、前半の話は事実無根だ。そもそも教えも戒律も知らないのだから。そんな僕の心情など知ったことでは無いとばかりに判決文は読み進められていく。
「…………などが挙げられる。もはやこの男を異教徒と断ずるに不足はない。神エヒトの教えに従い、異教徒は拷問の末火刑に処すものである」
そう述べられると、周りの人たちは歓声を上げた。
「異教徒を生かしておくな!」だの「エヒト様万歳」だのと口々に叫んでいる。
火刑か。まさしくそれは異端審問の結末と言えるだろう。だが、僕の予想ではこの異端審問はこれでは終わらないはずだ。
「皆の者、静まれぇ!我は聖教教会教皇イシュタル・ランゴバルドである!」
やはり。動いたのはイシュタルさんだった。彼は歓声に沸く民衆をその名を以て静まらせる。
「この異教徒の男を断罪することは私とて相違ない結論である。エヒト様の教えは絶対であるからだ!しかしこの男は、元を正せばエヒト様が御遣わしになった救世主の一人!たとえ異教の道に堕ちていようとその事実は変わらぬ!故にこの男には、まだ僅かに救済される余地がある!」
そう、教会側は僕を殺すことは、少なくとも自分たちが手を下すことは無い。自らの手を汚すのが嫌なのだろう。
だから僕が
僕が逃亡すれば完全に異教徒認定されるため、討伐指令や指名手配、更には民衆による魔女狩りも容認される。
だが僕は逃亡しなかった。この場合、次に教会が取るであろう一手。それは…………
「この男の救済は、数多の信者の命を奪ってきた
僕を迷宮に放り込むこと。これが教会の次なる一手だ。僕が迷宮で死ねばそれで良し。逃げ出したなら今度こそ異教徒認定。
よしんば攻略しても情報を搾取するだけ搾取して何かしら理由をつけて異教徒認定。教会側は手を汚すことも無くデメリットも無い。
とにかく教会は僕を排除したいらしい。
そりゃあエヒトを全否定し、勇者よりも大きな力を持った人間である。正に僕は目の上のたんこぶだろう。
イシュタルさんの言葉を聞いた後の広場はイシュタル万歳、エヒト様万歳の嵐だった。
結局ハジメは奈落行きです。彼女との邂逅イベントまで秒読みです。