ありふれない結界師は比較的優秀   作:灰色パーカー

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ラスボス戦、クライマックス


16.迷宮踏破

迷宮に踏み入った者を待ち受ける最後の敵、八岐大蛇(ヒュドラ)。地下深くで探索者の到来を待っていた多頭の大蛇の攻撃はまさに苛烈の一言に尽きる。

 

だが既に当初の半分まで頭を減らされたヒュドラには余裕が感じられない。

 

まあ無理も無い。探索者にとって絶望的な脅威を、ヒュドラにとっては自らの生命線ともいえる黄色と白の二頭が倒されたのだから。再生を封じられた今、僕の殺害に躍起になっている。

 

 

「命懸け……だな」

 

連携なんてなんのその。各々が必死に魔法を放ってくる。赤頭は火炎放射、青頭は無数の氷槍、緑頭は烈風の刃。だが、そのどれもが僕に届くことは無い。

 

「「「クルゥァァァ!」」」

 

地面を駆け、柱に隠れ、時には空中に張った結界を足場にして避けていく僕に三頭は徐々に苛立ちを募らせていく。

 

赤頭と緑頭が魔法を撃ち続ける中、青頭は打ち終わった氷槍を再装填するかの如く、魔力を溜めているようだった。

 

「方囲……定礎……」

 

青頭の口内に青白い光が満ちていく中、火球や風刃を躱しながら奴の口内に位置指定をする。そして、青頭が氷槍を撃ち放とうとするその瞬間に……

 

「結!」

「クル、ゴオォ!」

 

口内に厚さ8㎝ほどの非常に硬い結界を形成する。そうすると、どうなるか?

 

口外に放たれるはずの氷槍が口の中で暴れまわる。一発一発が甚大な速度で撃ちだされる氷槍が詰まり、青頭の頭蓋を内側から刺し貫く。

 

「オオォ……ゴオォ」

「結!……滅!」

 

ボッシュ!

 

まさに見えない位置からの攻撃に、頭蓋を穿たれた衝撃と痛みに、硬直した青頭を即座に囲んで滅却する。

 

「「ク、クルアァァ!」」

 

四頭目がやられたことに赤頭と緑頭は、より一層激しく攻めてくる。魔法だけに頼らず、遠心力を使った首による体当たり、鋭い牙による噛み付きなど、執念すら感じる。

 

「結!…結!…結!」

 

赤頭による強烈な頭突きを跳躍することで避け、そのまま結界で空中を移動しながら緑頭の顔の高さまで登っていく。

 

「クウゥゥアアァ!」

 

緑頭は自分の目線にまで登ってきた僕に対し、特大の風刃を繰り出してくる。僕の体を両断しようと水平に放たれた風刃を、もう一度跳躍することで回避する。

 

風の凶刃は強固な柱をも切り裂き、壁面に深い傷をつけた。

 

「すぅ~、結!結!結!結!結!結!結!……結!」

 

一度深く息を吸いながら、跳躍したまま緑頭を囲っていく。最初に口、次に右側頭部、更に長い首の至る所に結界を形成し、緑頭の自由を奪う。

 

「おっと」

 

空中の結界に着地し、動けない緑頭と相対する。動けないながらも怒気と殺意を孕んだ鋭い眼光を放つ緑頭だったが、突然目の色が変わる。

 

「クルアァァ!」

 

振り返ると赤頭が炎弾を今まさに放とうとしていた。こちらも今まで以上の火力で攻撃しようとしている。

 

だが、赤頭は僕を殺すことで頭が一杯になっている。僕が今いる位置、もし僕が炎弾を回避したらどうなるかをわかっていないのだ。

 

「クルアァァ!」

 

特大の炎弾が放たれた直後、僕は後ろ向きのまま結界から飛び降りる。高さ十数mからの自由落下。天井に向いた僕の視線を紅蓮の炎球が通り抜ける。

 

「グギャアァァァァ!」

 

放たれた炎は赤頭と僕の延長線上にいる緑頭に直撃する。首以外の結界を解くことで炎を遮るものが無くなり、炎熱は緑頭の顔面を容赦なく焼き尽くす。

 

「結!」

 

真っ逆さまに落ちていく中、赤頭の顎の下に位置指定し、そのまま結界で頭部を貫いた。

 

「グガァァ!」

 

真下からの急襲に反応できず、頭部を貫かれた激痛で呻く赤頭。閉じかけた視界に緑頭が黒煙を上げている姿が映り、ようやく赤頭は己の過ちに思い至る。

 

 

「結!」

 

結界をクッションにし、受け身を取りながら地面へと着地する。体勢を整えすぐさま二頭への最後の攻撃を敢行する。

 

「方囲!…定礎!…結!……滅!」

 

既に死にかけとなっている二頭を囲い込み、完全に滅却する。頭部を失った首が力無く地面へとうなだれる。

 

残ったヒュドラの胴体を一瞥し、ユエのいる柱へと歩いていく。ある程度回復したのか、ユエも柱に寄りかかりながら立ち上がっている。

 

「ユエ、大丈―」

「!ハジメ、逃げて!」

 

大丈夫かと、聞こうとした途端にユエの顔色が青に染まる。切羽詰まった声と見開かれた彼女の瞳に、何事かと後ろを振り返れば七つ目の頭が胴体から音も無くそそり立っていた。

 

七つ目の銀色に輝く頭は、僕に対し鋭い眼光を向け、何の予備動作も無く極光を放った。

 

「ハジメ!」

 

これまでの六頭とは一線を画すその攻撃に、ユエが悲鳴さながらに僕の名を叫ぶ。

 

けれど、

 

「ヒュー!」

「…………結」

 

激烈を極める死の閃光を、結界の壁で受け止める。極光の威力は確かに他の六頭の魔法を大きく超えているが、それだけだ。

 

いまだ極光は結界を破壊し、僕を蒸発させようと放出され続けているが、結界はびくともせず亀裂どころか傷一つ付かない。むしろ極光の方がその勢いを失いつつある。

 

 

当然だ。ただ威力が高いだけの呪力の砲撃など、脅威ではない。まして、極限無想による僕自身最高の結界で迎え撃っているのだ。満に一つも極光が僕に届くことは無い。

 

やがて結界に遮られた極光はその勢いを失い完全に消失した。新たに出てきた銀頭は僕が被弾していないことに激昂している。

 

「これで本当に最後だ。…結!」

 

今度は頭だけと言わず、胴体を含めたヒュドラ全体を巨大な結界で囲い込む。

 

 

もう今日だけで千対以上の魔物と戦っている。挙句の果てにはこんな大型の怪物まで出てくる始末。

 

やっとこさ六つの頭を滅したと思ったら、身を隠していた七頭目の出現。

 

もういい加減、うんざりだ。

 

「滅」

「クギャァァ!」

 

極光を防いだのが僕の最高硬度の防御なら、これは最高強度の攻撃だ。妖だろうが魔物だろうが例外なく滅却する。

 

正真正銘、最後の断末魔を上げヒュドラは完全に消滅した。今度こそ階層内を静寂が包み込む。

 

「ユエ、大丈夫?」

「え…あ、うん」

 

不死身の所以たる自動回復で体の外傷は治癒しているが、黒頭による精神ダメージまでは治っていないらしい。まだ少しふらついている。

 

だが、それよりも気になるのはユエの様子だ。目を丸くし、まるで信じられないものでも見ているかのように唖然としている。

 

「どうかした?」

「……あの極光、防いだ」

「それが?」

「あんな魔力の攻撃…止められるのは…おかしい」

 

吸血鬼として絶大な力を持つ彼女が言うのだから相当なものだったのだろう。でも、僕にとってはそれほどでもない。

 

むしろあの規模の力を()()()()()()()()攻撃された方がよっぽど厄介だった。かつて戦った()()()のように……

 

そんなことを考えていると、八岐大蛇(ヒュドラ)が守っていた巨大な扉が重たい音を上げながら開きつつあった。

 

「扉が開いたみたいだし先に進もう。ほら」

「…………ん」

 

ふらついているユエを背負い、完全に開いた扉の奥へと進んでいく。

 

 

扉をくぐり踏み入った先には……

 

「凄いな」

「……反逆者の住居」

 

住み心地の良さそうな広大な空間だった。天井には太陽と見紛う光り輝く球体、壁面には天井付近から流れ落ちる滝、部屋の奥へと続く川、家畜小屋のようなものに住居まである。ここが地上だと言われても驚かないような光景だった。

 

「この川、魚までいるのか」

 

川をのぞき込むと数匹の魚がいた。もしかしたらここも水は地上から流れているのかもしれない。

 

「ヒュー!ヒュー!」

 

念のため探査用結界で部屋中を調べるが、この魚達以外何もいない。それにヒュドラが出てきた時のような嫌な感じもしない。ここが迷宮の果て、反逆者の住居で間違いないだろう。

 

 

住居のうち、最初に入った部屋はベッドルームだったのでユエを寝かせ休ませる。

 

「少し休むといい」

「ん…そうする………………スゥー、スゥー」

 

ベットに横になったユエはすぐに寝息を立て始めた。相当疲れが溜まっていたのだろう。数百年の封印から解放されてすぐに迷宮の中を走り回ったのだ。その上八岐大蛇(ヒュドラ)との決戦でのダメージも残っているようだし無理も無いだろう。

 

「ふぅ……僕も、休もう」

 

一人でこの建物を調べようと思ったが、存外僕も消耗しているらしい。もう動く気が起きなかった。

 

幸いこの空間には敵性反応は無かったことだし、備え付けのソファーに横になった。

 

「……結局、この迷宮に入って……どの…くらい……」

 

考えに耽る間も無く、僕の意識は落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side白崎

 

ハジメがオルクス大迷宮に連行されてから一日と十数時間。香織は雫や他のクラスメイトと共に鍛錬に勤しんでいた。去り際にハジメが残した『死なないこと』という言葉を信じ、己の身を守るための修練を積んでいた。

 

「南雲君……」

 

けれど、香織にはハジメのことが気がかりだった。いくら強大な力と蓄積された戦闘経験があるとしても、危険が蔓延る迷宮にたった一人で挑むことが不安で仕方がなかった。

 

「香織……大丈夫?」

「…雫ちゃん」

「南雲なら大丈夫よ。きっとすぐに戻ってくるわ」

 

そんな香織に雫が優しく声を掛ける。雫とて香織と同様にハジメを信じている人間の一人だ。香織と同様にハジメを心配する気持ちは当然ある。

 

それでも今は信じるしかないと、ハジメの帰還を待つことしかできないとわかっている。歯がゆさを感じながらも、ハジメが戻ってくるまで自分達もできる限りのことをやろうと香織を励ます。

 

「……うん。そうだよね」

 

香織もまた雫の励ましを受け取り、気を入れなおす。ハジメが示してくれた活路を信じ、本人が戻ってくるまで全力を尽くそうと。

 

「……早く帰ってきて、南雲君」

 

ハジメの一刻も早い帰還を祈りながら、死なないための、『生きようとする努力』を再開する。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side???

 

夜も更けた午前0時。一人の異能者が木々の間を駆けていた。己が滅すべき相手、御池鳩を荒らす妖を屠るために。

 

「包囲!定礎!結!……滅!」

 

結界に囲まれた妖は抵抗むなしく塵となって消えていった。数日前までハジメが担っていた使命。結界師が果たすべき責務。

 

その血筋の宿命とも言える生業をハジメが失踪した後も、ただ一人その役割を全うする者がいた。

 

「……ハジメ」

 

その者の名は北地早紀。結界師の血統にして南雲家と鎬を削る間柄。

 

 

 

 

そして。

 

南雲ハジメを恋い慕い、愛する者。

 




ヒュドラに関してですが、最初にハジメが八岐大蛇みたいだという印象を持ったので、文中でも八岐大蛇にヒュドラのルビを振っています。

実際、精神干渉系の黒頭の力のイメージが蛇で、極光を放つ最後の頭を入れれば全部で頭が八つになるので、ご容赦ください。
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