ありふれない結界師は比較的優秀   作:灰色パーカー

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南雲ハジメと同様に、結界師として妖を滅する一人の女子大生、北地早紀。


これは、彼女の記憶。彼女の想い。



19.北地早紀という結界師③

 

「…………ハジメ?」

 

目の前にいるハジメを見ても、最初は信じられなかった。なぜここにいるのか、どうやってここまで来たのか。

 

吹き飛んだ異能者達のことは、頭からすっぽり抜け落ちていた。不安や恐怖、悔しさと怒り。それまで私の心に重くのしかかっていたものさえ忘れて、ただ目の前に立っているハジメのことだけが心にあった。

 

「早紀!大丈夫⁉怪我は?変なことされてない!?」

 

そんな私をよそに、ハジメは素早く振り返って私の肩を掴んだ。力強く、それでいて優しく支えるようにして。

 

それまでの私以上に不安そうな顔で。決して泣いてはいなかったけど、今にも泣きそうな顔で。

 

「だ、大丈夫よ、大丈夫だから……周りの人たちに比べたら私なんて」

 

そう伝えても、まだハジメは半信半疑のようだった。思えばこの時が初めてだったかもしれない。普段はハジメの無茶な行動を心配したり、叱責するのは私の方だった。

 

だから、ハジメが本気で心配してくれている顔を見た時、私の中にあったのは。

 

ほんの少しの申し訳なさと、それから―

 

 

 

「くっ!誰だ、貴様ァ!」

 

すると、吹き飛ばされた異能者達が立ち上がってきた。他の異能者もよろめきながら立ち上がっていた。

 

「……早紀。ちょっと待っててよ」

「…え?」

 

ハジメの意図がわからなかった。けど奴らを横目に見て、ハジメはそっと立ち上がった。そして奴らの方に向きを変え、ゆっくりと歩き始めた。

 

「アイツら、やっつけてくるから」

「え……ま、待って!無茶よ、いくらあんたでも!」

 

ハジメが歩きだしてようやく意図が伝わった。同時に強烈な不安が押し寄せた。ハジメは奴らの恐ろしさをわかっていない。

 

「貴様、もう一人の結界師か!」

「……どうする?ここでこいつを殺す(やる)と計画が…」

「かまわん。順序が多少入れ替わるだけだ、やれ!」

 

異能者達がついにハジメに向かって動き出した。目の前にいる異能者達の力は常軌を逸している。

 

何百という強力な妖を使役する異能、発動条件がまるでわからない爆破の異能、こちらの異能を封じる異能、自然支配系能力であろう氷雪系の異能。

 

どれを相手にしても非常に厳しい戦闘を強いられる。それが同時に何人も。たった一人の結界師がどうこうできる筈がない。

 

「ハジメ!ダメ、あんた一人じゃ―」

 

「大丈夫だよ………早紀は、()()()()

 

 

 

そこから繰り広げられた戦闘は―

 

――――――――――――――――――

 

「……ニー、ハニー?」

「…えっ!?ご、ごめん。何、白尾?」

「何じゃないぜハニー。妖が入ってきた、早く退治しにいこうぜ」

「……そうね」

 

 

そうだ。今私は御池鳩にいるんだ。侵入してきた妖を退治しなければならない。白尾の誘導に従い、妖がいる場所へと向かう。

 

「キリリリリリリリリリリリリ!」

「…うわ~」

 

視界に捉えた妖は昆虫の特徴を持った体躯だった。クワガタムシのような二本の角にカマキリのような鎌。見ていて気持ち悪いけど、Gに比べれば耐えられる。

 

「包囲!定礎!結!」

 

私はハジメほど大きな結界を張ることはできない。けれど、あれくらいならば私でも囲める。

 

「滅!」

「キイィィィ!」

 

奇声を上げながら昆虫の妖は絶命した。結界に押しつぶされて飛び散った肉体の破片は放っておくと御池鳩の力で再生してしまう恐れがある。

 

「天穴!」

 

それを防ぐために、すぐさま左手に持つ天穴で妖の亡骸を吸い取り、輪を通して異界へと送る。

 

「お疲れ、ハニー」

「うん……」

「なぁ、どうしたんだよハニー。最近変だぜ?上の空っていうか心ここに在らずみたいな感じだ」

「…………」

 

心ここに在らず、か。付き合いが長いだけあって白尾にはお見通しみたいだった。最近仕事中でもボーっとすることが多かったし、気づかれてもおかしくはないのかな。

 

「ハジメンのことか?」

「…………うん」

 

ハジメが姿を消してから一ヶ月半。今もって手掛かりは見つかっていない。現場の状況や目撃情報からどこかの異界に引きずり込まれたこと。わかっているのはそれだけだ。

 

どこの異界にハジメ達がいるのかについては何もわかっていない。

 

「……白尾。ハジメのやつ、大丈夫かな」

「まぁハジメンのことだし、元気にしてるんじゃない?ほら、ハジメンはマイペースな所あるし」

 

そう。割と普通に過ごしている可能性もある。異界でも難なく過ごしているのかもしれない。

 

状況的に同じクラスの子達も飛ばされているだろうから、ハジメが皆をまとめている可能性も……

 

「それは無いか」

 

ハジメは人の前に立ってまとめるような奴じゃない。むしろ何もかも一人で解決しようと躍起になっている可能性の方が高い。もしかしたら、無茶なことだってやっているかもしれない。

 

でも、本当の問題は別にある。もっと大きくて、深刻な問題。

 

「……アイツ、帰って来るよね?」

 

一番の問題は、ハジメがこちらの世界に戻ってこられるのかということだ。結界通路を使い、こちらとあちらを繋げば帰っては来られる。けれど、結界通路を作るのは極めて困難な作業だ。

 

ハジメがどこの異界にいるにせよ、そこからアクセスできる異界は無数にあるはずだ。その中からこの世界を見つけて、且つ結界通路を繋ぐことがどれほど難しいか。

 

異界への干渉において天才と謳われたお婆ちゃんでさえ、習得には相当な時間が掛かったと聞く。

 

「ハニー……」

 

考えれば考えるだけ、不安は大きくなっていく。つい膝を抱えて座り込んでしまう程に。

 

 

ハジメがいなくなってここまで苦しくなるなんて思わなかった。小さいころから一緒にいるのが当たり前で、後ろをついてくるだけだったハジメが、いつの間にか私の前を歩くようになって。

 

そんなハジメが突然目の前からいなくなって。

 

自分が思っている以上に、ハジメの存在が大きかったことを痛感する。会えないことが寂しくて、声を聞けないことがもどかしくて、触れられないことか狂おしい。

 

 

「……ハジメンが苦境に強いことはハニーが一番よく知ってるじゃないのか」

「…………」

 

そう。ハジメはいつだって逆境を乗り越えてきた。どんなに強い妖が相手でも、どれだけ追い詰められていても。必ずそれを打ち破ってきた。

 

あの時、私を守るために戦ってくれたあの時だって。たった一人で敵の異能者達を倒してしまった。

 

わかっている。ハジメならきっと何とかする、何とかできる。それだけの力を、ハジメは持っている。

 

それでも、不安な気持ちが消えることは無い。二度と会えないんじゃないか、そんな考えがいつも頭をよぎってしまう。

 

「…………!ハニー、また妖が入ってきた。今度のはさっきのよりも大きい」

「うん……………わかってる」

 

白尾に促され、立ち上がる。ハジメがいないからって妖退治を休むわけにはいかない。

 

 

今、御池鳩を守れるのは私だけなのだから。

 

 

 

 

 

 

私はハジメの帰りを待っている。どれだけ心が苦しくても、ハジメを信じて待っている。

 

いつかハジメが帰ってきたら、お帰りと言って抱きしめよう。よく頑張ったと誉めてやろう。よくも心配させたなと泣いて一杯困らせてやろう。

 

 

 

「だから早く帰ってきなさいよ、バカ」

 

 

 




異能者達とハジメの戦い。どれほどの激戦だったのかは、読者の皆さんのご想像にお任せします(一応筆者の中でも考えていたのですが、長くなるうえに本編にはさほど関係がないので省略しました)。

ただ言えるのは、この頃のハジメ君は「雑に強かった」ということです。まだ無想も使えなかった頃ですからね。効率性など度外視して、余りある力を贅沢に使って戦ったんだと思います。

案外、敵の弱点を瞬時に把握し、そこをついて倒したのかも?


~追伸~
(需要があれば、ここの戦闘シーンをいつか書くかも)



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