少しづつオリジナル展開へ
時は少し遡る。ハジメが【オルクス大迷宮】を踏破し、反逆者の建物で眠りについた頃。一人の男が王都の端、人気のない場所で座り込んでいた。膝を抱え、顔をうずめて動かない。
「ヒ、ヒヒヒ。ア、アイツが悪いんだ………ちょ、調子に乗るから」
その男は暗い笑みと濁った瞳でぶつぶつと呟いていた。
「お、俺を騙して…内心見下してやがったからだ……天罰だ。ヒヒ、ヒヒヒ…」
この男は檜山大介。聖教教会にハジメが背信者だと伝え、偽りの罪を被せた張本人。この男はハジメが自分よりも強いこと、優れていることを妬み、自分勝手な妄想でハジメを悪人だと決めつけていた。
「アイツがいなくなれば…し、白崎は俺のモノだ。あんなクズに…やってたまるか……ヒ、ヒヒヒ……あんな
それもこれも香織への歪んだ恋心が端を発していた。自分のことを棚に上げ、異能者であるハジメを化け物と断じ、非難する。自分に言い聞かせるように檜山は暗い笑みを浮かべていた。
「ふ~ん、やっぱり君か。どう?冤罪でクラスメイトを死刑台に送った感想は?」
「⁉」
不意にかけられたその声に、檜山は動揺した。誰もいなかったはずのこの場所に突然現れた謎の人物。慌てて振り向いた先にいた人物に、檜山は驚愕する。
「なっ!お、お前……なんで、ここに!」
「あはは。どうでもいいんだよ、そんなこと。それよりさ……君が南雲を教会に売ったって、皆に言ったらどうなると思う?」
その人物はクスクスと笑いながら楽しそうな表情を浮かべる。普段の様子と明らかに違うその人物が、檜山の目には酷く不気味に映った。
「クラスは今二つに割れている。あえて言うなら天之河派と南雲派の二つ。全員が南雲を信じている訳では無いよ?でも君みたいに、自分のためだけに他人を陥れて、しかもこの世界の連中と手を組んで死刑台にまで送る……皆が知ったらどうなるかな?」
「……へ、へへ!そんなもん皆俺に逆らえなくなるだけだ!……そうだ、俺は教会の連中から信頼されてるんだ!下手な事すれば、誰だって連中を使って俺が!」
「同じことを
「ッ!?」
『あの子』という言葉に檜山が声を詰まらせる。開き直ろうとしていた檜山の表情が凍り付く。
「あの子は間違いなく君を非難する。いや、もしかしたら今度は彼女が君を追放するんじゃない?」
「なっ!そ、そんなことできるわけねえ!」
「わからないだろう?直接あの子が何かしなくても、感化された南雲派の誰かが君に剣を突き立てるかもしれない」
「ッ⁉」
檜山は追い詰められる。もはやクラスのメンバーからの信頼が無いのはわかっている。迷宮での一件が尾を引いているのは彼自身、気が付いている。
「なんなら僕がその場を設けてあげようか?僕としてはとても面白いと思うんだ」
さらに悪いのは、この相手。檜山に絶望を突き付けていくこの人物は嗜虐的な表情を浮かべ、明らかに楽しんでいた。
「ど、どうしろってんだ⁉」
「ん?心外だな~まるで僕が脅しているみたいじゃないか。ふふ、別にすぐにどうこうしろってわけじゃないよ。まあ、とりあえず……僕の手足となって従ってくれればいいよ」
「そ、そんなの……」
事実上の奴隷宣言。到底受け入れられない檜山だったが、断れば確実に檜山がやったことが晒される。どうしたら良いのかと思考を巡らせる檜山に、目の前の人物は魅惑的な言葉を投げかける。
「
「ッ⁉な、何を言って……」
檜山のこの状況を掻い潜るために巡らせていた思考が完全に止まる。相手の甘美な言葉に目を見開く。そんな檜山の様子を見て暗い笑顔でその人物は続けた。
「僕に従うなら……いずれ白崎香織が手に入るよ?それに……
「は?……南雲?」
予想外だにしない名前が出てきたことで、檜山の思考は混沌を極める。
「アイツを気に入らないのは君だけじゃないんだよ。僕には僕なりに、アイツが邪魔な理由がある」
「け、けど!南雲は迷宮に送られて……」
「
いよいよこれは夢なのではないか思ってしまう檜山。まるで南雲が言っていた結界師について知っているような口ぶり。そしてあの【オルクス大迷宮】を‟あんな迷宮“と言ってのけることに絶句し、悪寒が走る。
「君にとっても悪くない話……いや、むしろ良い話だろう?全て終われば僕らは他人同士。なんせ互いに欲しいものが手に入り、互いに不要なものが消え去るんだから………さて、返答は?」
あくまで小バカにした態度を崩さないことを不快に感じながらも、少しづつ冷静になってきた頭で、檜山は決断する。
もとより選択肢など無い。むしろ従った方が自分に利があると、冷静さを取り戻してきた頭が導き出す。
「…………従ってやるよ、お前に」
「アハハハハ!それは良かった!僕も使えそうな駒を手放すのは惜しいと思っていたんだ!まあ、仲良くやろうよ、奴隷くん!アハハハ!」
そう言ってその人物は踵を返し、王都の喧騒に消えていった。もはや平然と駒やら奴隷やらと呼んでくることに苛立ちながらも再び膝に顔を埋める檜山。
(……やってやる。たとえ、泥をすするようなことになっても……あの女は、俺のものだ……ヒヒ、ヒヒヒ)
檜山の頭にこびりついている光景。大迷宮に潜る前夜に目撃した、香織がハジメの部屋から出てくる場面。あまりの衝撃と苛立ちに、はらわたは煮えくり返り、大迷宮では幾度となく香織と目を合わせるハジメを睨んでいた。
そしてハジメが自分を遥かに上回る力の持ち主であるという屈辱。見下ろしているはずが、実は見下ろされていたという妄念。
それら全ての負の感情が、この千載一遇のチャンスを無駄にするなと繰り返す。邪魔者を排し、理想の女を手に入れる。
膝を抱えながら、檜山はその欲望に満ちた未来を夢想し続けた。
結界師要素、絡めていきます
(出来る範囲で)