ありふれない結界師は比較的優秀   作:灰色パーカー

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23.しゃべるカラス

Side白崎

 

ハジメが【オルクス大迷宮】に送られてから二週間。香織達は今まで以上に訓練に勤しんでいた。

 

以前はその力に酔い、面白半分やレジャー気分の者が多かった。異形の魔物さえ容易に倒せる天職とスキル、この世界の人間からの好待遇が異界への拉致という異常事態に対する緊張を弛緩させていた。

 

しかし大迷宮で死の恐怖を体感したことで、緩み切った心は一気に緊張を取り戻した。

 

気を抜いていたら死ぬ。何も考えずにいたら一瞬で足元をすくわれる。

 

全員がそれを理解したことで、訓練の雰囲気はそれまでとは違う、真剣で緊張感のあるものへと変わっていた。

 

 

「宵闇を照らす一条の光、天の刃となりて悪辣を討つ―『光芒白刃(フォトン・エッジ)』!」

 

「優大豪壮、剛力無双!何人も我を妨げること能わず!―『突撃拳(ストライクブロー)』!」

 

特に光輝と龍太郎の意気込みは強かった。二度とベヒモスのような敵に負けないために、今度こそ自分の手で仲間を守るため。

 

その目は決意と闘志で溢れており、既に新たな魔法を習得し我が物としていた。

 

「八重樫流……応用編『垂り雪(しずりゆき)』!」

 

雫もこの世界で生き抜くため剣を振っていた。自身が納めた流派『八重樫流』の剣術と向き合い、両刃剣でも打てる応用技を形にしつつあった。

 

「天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん―『天恵』!」

 

香織もまた自らの治療師としての能力を高めていた。他の三人のように新たな力を身につけるには至っていないが、治療にかかる時間を従来よりも短縮することに成功していた。

 

他のクラスメイト達も各々力をつけ始めている。全て成長促進のスキルがあってこその結果であった。

 

「よし!今日はここまで。各自、自主訓練もほどほどに上がれよ!」

 

メルドの一声でこの日の訓練は終了した。

 

 

***

 

 

翌日、同室の香織と雫は早朝から自主練に励んでいた。彼女達だけではない。光輝や龍太郎、それ以外にもちらほら自主練に取り組む者達がいる。

 

「そろそろ戻りましょう、香織」

「そうだね」

 

一時間ほどするとほとんどの者が早朝練を切り上げていく。香織と雫も同様に早朝練を終え、自室に帰ってきた。

 

「……え?し、雫ちゃん」

「何?」

「窓に、何かいる……」

 

部屋に戻ってすぐに香織は窓にいる何かに気が付いた。雫も香織に言われてその存在に気が付く。

 

「カ、カラス?」

「……だよね?たぶん」

 

警戒しながらじっと窓を見つめ、その正体が黒い鳥であることに気づく二人。するとカラスがコンコンと窓をつつきだした。まるで開けてくれとでも言うかのように。

 

「……開けてみる?雫ちゃん」

「まあ……そこまで変な感じもしないし」

 

不可解さはあるものの、特別危険な様子も無いことから、二人は窓を開けた。するとカラスはトテトテ歩いて部屋に入ってきた。

 

暴れないことに内心胸を撫で下ろした香織と雫だったが、次のカラスの行動に仰天する。

 

『主人カラ伝言ガアリマス。オ聞キニナリマスカァ~?』

「「ひっ⁉」」

 

いきなりしゃべりだしたカラスに香織は驚き雫に抱き着いた。雫も気味悪さに香織を抱き寄せながら後ずさる。

 

本物のカラスのように羽根をつついたり、キョロキョロしながらこっちを凝視してくる“しゃべるカラス”に香織も雫もどうしたら良いかわからない。

 

『主人カラ伝言ガアリマス。オ聞キニナリマスカァ~?………主人カラ伝言ガアリマス。オ聞キニナリマスカァ~?』

 

何度も同じ内容を繰り返されたことで、雫だけは僅かに平静を取り戻した。

 

「もしかしてこれ、()()()の……」

「え⁉」

 

ハジメの名前が出た途端、カラスへの怯えが消え目の色が変わる香織。

 

「たぶんこのカラスは魔物じゃない。魔物特有の嫌な感じがしないし」

「……たしかに」

「さっきから主人って言ってるし、ゲームの使い魔的な……」

「っ!もしかして南雲君の能力?」

「かなって」

 

香織と共にオタク知識について調べていたこともあってか、すぐに使い魔という発想が出てくる雫。

 

怯えていたとは言え、香織も雫と同等のオタク知識・ゲーム知識がある。そんな彼女よりも早く使い魔の発想が頭に浮かぶ雫。単に頭の回転が速いのか、それとも……

 

「聞かせてちょうだい」

「聞かせて下さい」

 

二人同時にカラスに応えると、キョロキョロしていたカラスが二人に正対した。そしてつらつらとしゃべりだした。

 

『拝啓。白崎さん、八重樫さん。南雲です』

 

「南雲君!」

「やっぱり」

 

『連絡が遅くなって申し訳ないです。大迷宮は最下層まで踏破して今地上にいます』

「「!」」

 

その言葉を聞いて香織はへたり込んでしまった。ずっと心配していたハジメが既に地上にいるとわかり、安堵する。思わず涙があふれてしまい目を覆う。

 

雫もそっと香織の肩を抱きながら彼女を支える。良かったわねと背をさすりながら、カラスの話を聞き続ける。

 

『まあ()()()()()は置いておいて、真っ先に伝えなきゃいけないことがあるので、こんな形で連絡しました』

 

地上に生きて戻ってきたことを“そんなこと”で片付けるハジメに雫は少しムッとする。こっちはずっと心配していたのに、ごめんの一言もないのかと。

 

ただ“そんなこと”で片付けたのもハジメとしては、大迷宮の難易度がそう高くなかったという理由もあるのだが、単に誰も心配していないだろう思っていたのだ。変な所で自己評価が低かった。

 

『今から言うことはどうか心に留めておいてください。まず、【オルクス大迷宮】には()()()行かないで』

 

「え?」

 

『行かないでというより、下の階層を目指して攻略しようなんて事はしないで。クラスの皆の実力じゃ、あそこの魔物には()()()()()()()

 

「「⁉」」

 

絶対に勝てないと断言するハジメの言葉に驚く二人。これまで一度も言われなかった“勝てない”という言葉が二人の心に重くのしかかる。

 

『どう頑張っても、今の皆があの魔物たちを倒すことはできない。だからあの迷宮を攻略しようとはしないで』

「…………そんなに、手強い奴らってこと?」

「南雲君でも、手強かったのかな?」

 

念押ししてくるところを見ても、本当に無理だという判断を下しているのだろうと悟る二人。

 

攻略してやろうという気は全くないが、もし攻略しようとする者達がいたら今後は止めなければならないのかもしれないと心に留めるのだった。

 

 

『それから、あと一つ』

 

話の続きに再び聞き入る二人。次は何の話だろうか。王都に帰って来る日時についてか、それとも協会に追われる立場故の連絡の取り方に関する話か。はたまた、図らずも迷宮の最深部で手に入れた特大の情報だろうか。

 

 

『とても言いにくいことなんですが……』

「「?」」

 

そんな予想をしていたというのに、何故か言いよどむカラス。香織と雫が前のめりになって耳を傾けているせいで、言葉に詰まるカラスが本当に言いにくそうな雰囲気になっている。

 

 

『道に迷いました』

 

 

「「…………は?」」

 

 

直後、二人の思考は止まった。

 

 

 




勇者組の新技の名前には深い意味はありません。思いついた名前を付けてます。

なお続編執筆のため、更新遅くなります。
なるだけ早く投稿できるよう頑張ります。


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