駆け足な感が否めませんが、思ってたよりも早く書けたので。
Sideハジメ
【オルクス大迷宮】を脱出し、地上に出てから早数日。僕とユエは王都に向かっていた。向かってはいるのだが。
「…………あー、疲れた」
地上に出てからしばらくは峡谷を馬鹿正直に歩き続けていた。
後からわかったことだが、僕らがいたのはライセン大峡谷という場所だった。地上でも特殊な環境で異能が普段通りに使えない場所だった。仮に僕が結界術を使おうとすれば普段の何倍もの量の呪力が必要になるようだった。
「ん……これなら迷宮にいた時の方が、進んでる実感を持てた」
仕方なく歩いて峡谷を進んでいたのだが、【大迷宮】程の強さではないにしても魔物は当然のように襲い掛かって来るし、どれだけ歩いても峡谷の終わりが見えてこない。
【大迷宮】の時は階段を下りて次の階層に行くということを繰り返していたから、着実に前に進んでいる実感があった。ゴールが見えなくてもまだマシだったが、今回はその実感すらないため酷くもどかしい。
「………決めた。とりあえずこの峡谷から出よう。断崖の上まで出ればいくらかマシになるよ、たぶん」
「ん……賛成」
「行くよ………結!」
流石にこのまま歩き続けても無駄と思い、足元に形成した結界を無理やり断崖の上まで伸ばして峡谷の脱出を試みる。
「オオォ―!」
術を発動したそばから結界が崩れそうになる。ありったけの呪力を費やしながら無理やり結界を維持し断崖の上を目指す。断崖の高さは場所によって差があったが、運悪くかなり高い場所で術を使ってしまった。
「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ………」
「出られた……」
何とか断崖の上まで出られたものの、峡谷の特殊な環境のせいでかなりの呪力を失ってしまい、歩き続けたこともあいまってヘトヘトになってしまった。
「……今日はもう休む?」
「そ、そうしたい…………」
「ん……わかった」
ユエはあまり疲れていなさそうだが、僕はもう動きたくなかった。仕方なくその日はそのまま野宿をし、翌日また王都へ向かうことにした。
***
翌日、呪力を回復し再び王都に向かって歩き出した。しかしそこで問題が起きた。
「…………王都は、どっちだ?」
断崖に沿って進むべきか、別の方向に進むべきか。僕もユエも現在地を把握している訳ではないため迷ってしまう。
「福郎、どうだ?」
「………………ホォー」
「何も無いよな、やっぱり」
探査用結界を使ってはみたものの、結界の範囲内には森しかなく町のようなものもありそうにない。元の世界のGPSがどれだけ有用であったのかをここに来て痛感した。
「ん……どうしよ」
しばしの間、ユエと共に頭をひねっていたその時だった。
「……むむ!唐突に閃いた!」
森の向こうに進めば良いことありそう。直感的にそう思った僕はユエと共に森の中を進むことにした。
しかし、これが間違いだった。
幻惑の異能にかかったという訳でも魔物に襲われ過ぎて進む方向がわからなくなったという訳でもなく、
森の中であっちこっち進んでいるうちに元々進んでいた道すらわからなくなってしまった。三、四日迷い続けた挙句ようやく街道と思しき開けた道に出られた。
「はぁ……はぁ……はぁ、やっとまともな道………」
「けど……結局方角がわからないままなんだよね」
「うんざり……」
しかしすでに食料は尽きており、空腹で体力も限界。情けなく街道に倒れ込んでいると偶然商人の馬車が通りかかった。地獄に仏とはこのことだと、必死に頼み込んでどうにか馬車に乗せてもらった。
「何日も飯食ってねえ?仕方ねえなあ、これでも食うとけ」
なけなしの食糧まで分けてもらい一食一飯の恩に預かり感謝しかない。久しぶりの食事に腹を満たし、しばしの間馬車に揺られる。暖かな陽光と心地よい風、馬車のゆっくりとしたスピードに思わず眠気が襲ってくる。
「ふぁ~、やばい。寝そう」
「ん……ハジメ、1時間したら起こして」
「言ったもん勝ちはずるいよユエ。ここはまずジャンケンをして―」
「「「キャー!」」」
「「⁉」」
寝る順番を厳正な手段で決めようとした矢先、馬車の外から悲鳴が響き渡る。慌てて外を見れば、群体の魔物に前方の馬車が襲われていた。
相当強いのか相当厄介なのか、商隊が依頼していた用心棒は割に合わないと一人離脱してしまったようで姿が見えない。
「ちょっと行ってくる!」
助けてもらった恩を返そうと、僕は一人馬車の外に出る。ユエも手伝おうかと言ってくれたが、そこまでの相手ではないだろうと思い馬車に残ってもらう。
「皆さん!後ろの馬車まで下がって!こいつらは僕が!」
魔物に襲われそうになっている商隊の人たちを後方に退避させ、正面の魔物達と相対する。
群体というだけあってかなりの数の魔物がおり、一体一体の強さも地上の魔物の中では高い方だろう。たしかに用心棒がトンズラするのもわかる。
「結!結!結!…………滅!」
それでも、【大迷宮】で嫌になるほど倒してきた魔物には遠く及ばない。ほぼ全ての魔物を滅してしまうと、残った数匹の魔物は一目散に逃げて行った。群れでいないと臆病になるのかもしれない。
ともあれ危機は去ったと、馬車と商人達の方に戻る。
「なんとお強い!あなた様は冒険者なのですか?」
すると馬車に隠れながらこちらを伺っていた商隊のリーダーがこちらに飛んできた。にじり寄りながら尋ねてくるリーダーに対し僕は言葉を詰まらせる。
(な、なんて答えよう………)
エヒト神に
正体が露見すれば、最悪この人たちから教会に情報が伝わってしまう。そのため旅をしているが冒険者ではなく、単に森で道に迷っただけだと説明する。
「なんと!そうでしたか。それはなんとも奇縁ですな。あなたが道に迷わなければ我々は全滅していた」
納得してもらうには苦しいかと思ったが、リーダーさんは割とすぐに納得してくれた。その上、
「あなたの強さを見込んでお願いしたい。どうか我々の護衛を頼まれてはくれませぬか?無論、タダでとは言いませぬ!逃げて行った用心棒に渡そうとしていた残りの依頼金に色を付けてお支払い致します。お連れ様共々食事もご用意させていただきます。どうか、何卒!」
こんな申し出まで。倒れている所を助けてくれたり、深く聞かずにご飯を食べさせてくれたりとなんと優しい人達だろうか。
(………どうしよう。早く王都に行きたいのもあるけど、助けてもらった恩もあるし……謝礼金がもらえるなら何かと便利ではあるけど)
「いかがでしょうか?」
(まあ、この人たちが目指す町を経由して王都に行った方が迷うことも無いのかな。多少の軍資金もあれば上出来だろうし)
そう考えリーダーさんの申し出を承諾する。王都のみんなに申し訳なく思いながらもうしばらく馬車での移動に身を任せることにする。
「ところで今からどこへ向かうんですか?」
「んあ?フューレンだべ。わてらはブルックの町からフューレンに向かう途中なもんでな」
「フューレン………」
都合よく向かっている町が王都だったらいいのにと思ったが、そう上手くはいかなかった。この世界の地理は一つもわからないうえに、メルドさん達の座学でもたぶん出てこなかった町だ。
…………出てきてないよね?とにかく一度別の町に立ち寄ってから王都を目指すことにする。
その後、商隊の皆さんが襲われた馬車の簡易的な修繕や積み荷の整理をしてから出発の準備を進めていく。一通り手伝えることが終わったので先に馬車に乗りこんでおく。
(………そうだ。この事、ユエに伝えておかないと)
馬車で待っているユエにこの商隊の護衛に付くこと、フューレンという町に向かうことをまだ言っていなかった。
「ユエ、これからの事なんだけど―」
馬車に戻って話しかけようとした。
そこには、
「スゥー、スゥー」
爆睡をかましている幼女がいた。
フューレンに向かうということは、そう。
次に向かう先はあの場所です。