ありふれない結界師は比較的優秀   作:灰色パーカー

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ワクチンの副反応きっつ




26.手紙は詳らかに知るすべし

Side白崎

 

『…………という訳で、今は【グリューエン大火山】に向かう準備を進めてます』

「「…………」」

 

ハジメの道に迷った発言に唖然とした香織と雫ではあったが、事の顛末を聞いて納得した。二人とも『そりゃそうだろう』という感想だった。

 

「………彼は凄いのか凄くないのか、わからないわね」

 

地図も持たずに森をあっちこっち行っていたら迷うに決まっていると思わざるを得なかった。

 

「道に迷ってあたふたする南雲君………………()()()()

「…………え?」

 

 

ぼそっと言った香織に思わず雫は振り向いてしまう。法悦とした顔で彼方を見つめる香織とは対照的に、雫は引き攣った顔になっていた。

 

(最近……多くなってきたわね、こういうの)

 

もともと香織がハジメに好意を向けていることは知っていた。元の世界にいた頃は毎日ハジメと会えていたが、ここ最近はハジメと会えない日が続いている。

 

だからだろうか。雫は香織の言動に違和感を持ち始めていた。違和感というよりは、むしろ危機感と言った方が良いのかもしれない。

 

それまで、少なくとも口には出してこなかったハジメへの好意。それがストレートなもので、一般的な思いであれば何とも思わなかった。しかし、

 

(あたふたする南雲を想像して、なんでそんな顔になるのよ……)

 

口にするのがほぼ全てアブノーマルに寄ったものなのだ。まだ想像したハジメがカッコイイだとか良いかもなどと言うレベルであるが、言い知れぬ不安を雫は抱きつつあった。

 

(……嫌よ、香織?そんな、ダメな方向に走らないで?)

 

香織の変化が、平穏だった日常からこの危険な世界に放り出されたせいであることを切に祈る雫。間違ってもこれが香織の本来の顔であるなんて微塵も思いたくなかった。

 

 

『この手紙が届いた時点でフューレンから【グリューエン大火山】に向けて出発する予定でいます。たぶんまだ一ヶ月くらいは王都に帰れないから、それまでは白崎さんも八重樫さんも気をつけて』

「一ヶ月……」

 

ハジメが帰ってくるまでまだまだ時間がかかることに一抹の不安を覚える香織。いくら皆の意識が変わってきていると言っても、万が一の時に一番頼れる存在がいないということにプレッシャーを感じてしまう。

 

これからもより慎重に進んでいく必要があると、改めて心に留めるのだった。

 

『追伸。この手紙と内容についてはメルドさん以外には口外しないようお願いします。教会の奴らに知られたら大変だから』

 

それを最後にカラスは喋るのを止め、ボシュっという音と共にただの手紙になってしまった。

 

追伸の内容も尤もであるなと思いながら香織も雫も各々ベッドや椅子に腰かける。何はともあれハジメが無事とわかっただけでも十分すぎる情報だった。

 

「……………………ん?」

 

何かに気が付いた雫がおもむろに立ち上がり、ハジメからの手紙を手に取る。熱心に読みふけるその様子を見て、香織も立ち上がって手紙を覗き見る。

 

「雫ちゃん、どうかしたの?」

「…………ねえ、南雲君はあの【大迷宮】を脱出したのよね?」

「そう言ってたよ?」

「で、道に迷った末にフューレンとかいう街にいる」

「うん」

 

カラスが言っていた内容と相違ない雫の言葉にそのまま肯定する香織。何か問題でもあるのかと首を傾げる香織をよそに、雫の顔は疑問の色に染まっている。

 

「…………なんで、【大火山】に行くわけ?」

「…………え?」

「フューレンからの方が近いから先にそっちに行くって書いてるけど。何しに行くわけ?」

「さ、さあ?」

 

そう。ハジメが綴った手紙には現状報告こそしっかり書いているものの、何のために【グリューエン大火山】に向かうのかについては一切書かれていなかった。

 

七大迷宮のそれぞれに神代魔法が眠っており、その中に結界術に類するものがあるかもしれないなんてことは一つも書かれていないのだ。そこがすっぽり抜け落ちてしまっているせいで、香織と雫にはハジメの意図がまったく伝わっていなかった。

 

「え、ちょっと……もしかして一番大事な所が抜けてるんじゃないの、この手紙⁉」

「うっかり屋さんな南雲君…………えへへ」

 

手紙の内容不足につい感情的になっていた雫だったが、またおかしなことを言ってうっとりとした表情になる香織を見て思わず目を覆ってしまう。

 

(お願い南雲君、何でも良いから早く帰ってきて!香織が、香織がおかしくなってきてる!)

 

ますますおかしなことを考えだしている香織を見て、一層早く帰ってきてくれと願う雫であった。

 

 

***

 

 

Sideハジメ

 

「………よし。無事に手紙は届いたらしい」

 

フューレンの宿で休んでいると、式神が呪力を解いて手紙に戻ったことを感知した。魔物に攻撃されて破壊された様子が無いことから、恐らく白崎さん達のもとに届いたのだろう。

 

遠く離れた王都まで式神を飛ばさなくてはならない都合上、多くの呪力を使わなければならない。まして狙った相手のもとまで行かせ、手紙を読み上げさせるとなると七、八割の呪力を込めなければならない。

 

そのせいで今日まで碌に動けず、【大火山】へも出発できていなかった。ひとえに僕の未熟さ故である。たぶん早紀や父ならもっと効率よく式神を操れるだろう。

 

「何はともあれ、呪力も戻ったしそろそろ出発しよう」

 

まだ早朝。【アンカジ公国】に向かう馬車にも十分間に合うだろう。今度は方角もわかっているし地図もあるが、公国行きの馬車があるならそれに乗っていこうとユエと話していた。

 

ソファーで丸くなっているユエを起こし、宿を出る準備を進める。

 

「ん……あと5分」

「眠いのはわかるけど起きて。また馬車で眠れば良いさ」

 

もぞもぞと起き上がるユエをよそに完全に出発の準備を終わらせる。何だかんだユエもすぐに身支度を終わらせてくれたので、宿をチェックアウトする。

 

朝のさわやかな空気と、温かな日の光を全身で感じながら馬車が出る正面ゲートへと向かう。

 

おそらく【大火山】でも強力な魔物が襲ってくるだろう。面倒な環境であることもわかっている。それらすべてを乗り越えて最深部に着いたとしても()()()()が目当ての異能であるかもわからない。仮に違ったとしても、結界師としての修行になれば―

 

「…………あっ」

「ん?………どうしたの、ハジメ?」

 

いきなり立ち止まった僕を見て首を傾げるユエ。特徴的な金髪が陽光に照らされキラキラと輝いているが、それどころではない。大変なことに気が付いた。

 

「神代魔法のこと、手紙に書くの忘れた(汗)」

「え…………ウソ」

 

 

やってしまった。

 




≪補足≫
ハジメは結界師としてはパワータイプなので、式神に簡単な命令を下すことはできても複雑な命令や操作をすることは苦手としています。

一方で早紀は結界師としてはテクニック派なので、呪力の繊細なコントロールに秀でています。なのでハジメに比べ式神の扱いに優れています。

またハジメの父親に関してはパワータイプとかテクニック派とかではなく、「熟練」という一言に尽きます。

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