他作品の技、出ます。
「はぁ………はぁ………」
階段を下り終わった次の階層は、それまでとは様相の違う景色が広がっていた。
あまりに広い空間とその八、九割を覆う灼熱の真っ赤な海。ぐつぐつと煮えたぎっているマグマと所々で吹き出す紅蓮の火柱が作り出すその光景は、まさに地獄と呼ぶに相応しい。
今僕らが立っている階段前の広めの足場以外はほとんど生身で立てる場所が無く、所々に飛び出している岩が辛うじて足場にできるかどうかだ。
「ん………ハジメ、あれ」
ユエが指さしたもの。それはマグマの海の中心部にせり出ている岩石の島。マグマのドームで覆われたその島の異様さに自然と目線を奪われる。
「………あれが、ゴールか」
探査用結界でも階段らしきものが無いことから、あれが目的地。神に挑んだ反逆者の住居にして、神代魔法が隠された場所なのだろう。
「………よし、結界で足場を…作って、一気に」
「危ない!」
あの島に向かって一息に行ってしまおうとした直後、ユエに体を突き飛ばされる。突然のことで反応できずユエと一緒に地面に倒れ込む。体を起こすと、一瞬前までいた場所がドロドロに溶けていた。
「えっ……何が」
「ハジメ、上!」
「ッ!結!」
促されるまま上を見れば、空中を流れるマグマから、マグマそのものが弾幕のように降り注いできていた。反射的に結界でマグマの弾幕から身を守るも、自分の反応の遅さに愕然とする。
(気を抜いていたわけじゃない、警戒はずっとしていた………なのに何で?)
合点がいかないが、今はこの弾幕を何とかしなければならない。結界で自分達の身は守れても、足場までは守り切れない。
結界で跳弾した炎弾や、そもそも軌道が外れた炎弾が足場に着弾し、刻一刻と地面を削り続けている。もたもたしていたら先に足場が崩れかねない。
「ユエ!一瞬でも、この弾幕を止められるか!?」
「できる!」
「任せた!」
そう言って結界を解く。遮るものが無くなりマグマの凶弾がふり注ぐが、それをユエの魔法が迎え撃つ。
「“五雷指”!」
ユエの右手の爪が雷光を帯びる。薙ぎ払うように振るわれたその爪は強力無比な雷撃を放ち迫りくるマグマの弾幕を吹き飛ばした。その隙にユエを担いでマグマの海に向かって走り抜ける。
「結!結!結!」
小さな結界をいくつも作り、足場にして中心部の島へと跳んで行く。また、いつ、何処から炎弾が放たれるかわからない。脇目も降らずに島を目指す。
「…はぁ……はぁ………アレ?」
結界から結界へと跳躍しながら島へと向かう中、今なお激しい痛みが襲ってきている頭に疑問が湧く。
“なんで、ジャンプしながら移動してるんだ?”
島まで結界を伸ばして、その中を通った方がはるかに安全のはずだ。それを何故、わざわざ小さな足場をいくつも作って移動しているんだ?
時間が無かったと言えばそれまで。ユエが弾幕を吹き飛ばしたものの、またすぐに炎弾が飛んでこないとも限らない。だから急ぐ必要があった。満点ではなくとも、及第点の選択であるはずだ。
それなのに、“なぜ”という疑問が頭を離れない。
そんな時だった。結界から結界へ跳躍したその時、マグマから大きな口を開けた大蛇が飛び出してきたのは。
「ッ!け、結!」
咄嗟に体の右側に位置指定して結界で体を左方向へと弾き飛ばす。加減し損ねたせいでかなりの威力で吹き飛んでいく。
「クソッ、結!」
それでも何とか体勢を整えてマグマに落ちる前に結界で足場を作り着地する。着地と同時に担がれていたユエがするっと腕から抜け出し大蛇に向かって攻撃する。
「“破断”!」
ユエの右手から放たれた水のレーザーが大蛇の頭部を穿ち、吹き飛ばす。しかし残った大蛇の体を見て驚愕する。
「え……マグマ、だけ」
「今までとは……違うのか?」
それまでのコウモリやハリネズミと違い、あの蛇はマグマだけでできていた。体の内部に骨や内臓、血液といったものが何一つなかった。僕らが驚いていると、絶命したと思った蛇の体がうねり、こちらに向かって突撃して来た。
「ちっ、結!」
正面に結界を張ることで防御したが、間髪入れずにまた問題が起こる。僕らの左側から四体の大蛇、もといマグマ蛇が灼熱の海から出現し襲いかかって来る。
「クソッ!結!」
咄嗟にユエを掴み再び結界で僕ら自身を吹き飛ばす。距離を測る余裕が無かったためにありったけ結界を伸ばしたのだが、それが裏目に出てしまう。
「ぐあ!」
「うぅ!」
広間の壁に激突してしまい、壁の熱さとぶつかった衝撃が背中を襲う。幸い、下はマグマの海ではなく、最初マグマの弾幕を受けた階段前の足場だった。
「………結局、ここまで押し戻されたか」
膝をつきながら灼熱の海から顔を出すマグマ蛇に視線を向ける。先ほど現れた四体の他にさらに十数体出現しており、いくつもの眼がこちらを向いている。
「これを……倒せば、良いのか?」
「ん…【大迷宮】の時もそうだった。反逆者の住居の前には厄介な奴がいる」
「はぁ……はぁ………じゃあ、早く倒そう」
そう言った途端、無数のマグマ蛇が鋭利な牙を見せながら襲って来た。ユエの魔法で頭部を破壊しても動き続けた以上、うねる胴体ごと消し飛ばすしかない。
「包囲………定礎………結!…滅!」
襲い来る全てのマグマ蛇を囲い込み、一息に滅却する。さすがに根元から丸ごと消し去ってしまえば終わると思った。だが、
「うそ………だろ………」
消し飛ばし、倒しきったはずのマグマ蛇が再びマグマの中から現れた。二十体ほどの灼熱の大蛇は、ゆらゆらと動きながらこちらに狙いを定めている。
「はぁ………はぁ………くそ」
倒しても再生して攻撃してくるというならどうすれば良いのか。一般的に魔物は体内の核を破壊されると絶命する。だが、このマグマ蛇には核が無い。
迷宮が反逆者の用意した試練である以上、何か他に倒し方があるはずであり、今はそれを手探りで探すしかない。
「はぁ………はぁ………やってやる…よ」
膝をついた状態から立ち上がりマグマ蛇に向き合おうとした。が、出来なかった。
「え………?」
立ち上がれず、ドサッと地面に倒れ込んだ。
「ッ!ハジメ⁉」
ユエが慌てて駆け寄ってくるが、僕自身何が起きているのかわからない。
(あれ………立てない………体が、
思うように体が動いてくれない。力も入らず、目がかすむ。激しい頭痛も地面の熱さもどんどん酷くなっていくのに、それすらわからなくなるほど、徐々に意識が遠のいていく。
(あ………そうか………………しまった)
薄れ行く意識の中でようやく気づいた体の異常。もっと早く気付かなければならなかった。
暑さによる発汗。尋常じゃない速さで失う体の水分にばかり気が向いていたが、もっと別のことに意識を向けるべきだった。
迷宮の暑さで失っているのは水分だけじゃなかった。
違ったんだ。
(初撃で、反応できなかったときに………気づくべきだった………)
いや、あの時点ですでに取り返しのつかないところまで行っていたのだろう。気づかぬうちに解けていた無想。消えた福郎。
すべてが遅すぎた。
目の前が暗転する。
ハジメ、ピンチ!
※五雷指は『犬夜叉』の鋼牙の技です。