ありふれない結界師は比較的優秀   作:灰色パーカー

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1年と1ヶ月、長らくお待たせしました。
(待ってくれてる人どのくらいいるんだろう)

サブタイトルは変わるかもです。



29.ユエの奮戦

 

 

Sideユエ

 

予兆はあった。少し前の階層から、ハジメの様子はおかしくなっていた。

 

異常な発汗、おぼつかない足取り、頭を手で押さえ必死に痛みに耐えている苦痛な表情。

 

「はぁ……はぁ……」

「………ハジメ、大丈夫?」

「………あ、うん………大丈夫」

 

虚ろな目をしてそれでも進み続けるハジメを見て、休もうと言うべきだったのかもしれない。一面マグマの海で囲まれた階層に降りると、中心に特徴的な島を見つけた。

 

「………よし、結界で足場を…作って、一気に」

「危ない!」

 

突如、空中を流れるマグマから炎弾が発射され、私達に向かって来た。いつものハジメならこんな攻撃、簡単にいなしてしまっただろう。

 

けれどこの時、ハジメは全く反応していなかった。そもそも空中を流れるマグマにすら意識が向いていない。

 

咄嗟にハジメの体を突き飛ばして回避したけど、それでもハジメは何が起きたのかわかっていない。

 

その後、弾幕のように降り注ぐ炎弾をやり過ごし、ハジメに抱えられた状態で中心の島へと向かうもマグマの海から飛び出してきたマグマ蛇によってそれを阻まれる。

 

ハジメが空中の私達を結界で無理やり横に弾き飛ばしてくれたおかげで喰われることは避けられた。

 

けどハジメのこの対応が既におかしい。

 

いつもならどれだけ不意を突かれても瞬時に私達ごと結界で覆って防御する。自分もダメージを負うような方法で離脱しようとはしないはずだ。

 

結界の足場に着地した瞬間、私はハジメの腕を抜け出してマグマ蛇に攻撃した。

 

「“破断”!」

 

私の魔法は確かにマグマ蛇の頭を撃ち抜いた。けどマグマ蛇は倒れなかった。骨も内蔵も無いマグマだけの体で再び攻撃を繰り出してくる。

 

これはハジメが防御するも、今度は私達の左からマグマ蛇が四体も出現し、咬み殺そうと向かってくる。

 

「クソッ!結!」

 

再びハジメが結界で私達を後方に弾き飛ばすも、勢いがつきすぎて壁に激突してしまう。

 

まただ。こんなミス、ハジメなら絶対にしない。

 

ぶつかった衝撃と壁の熱さに悶えながら立ち上がると、マグマ蛇は数を増やし二十体ほどに増えていた。

 

それを見たハジメが巨大な結界で全てのマグマ蛇を胴体ごと消し飛ばした。けれどマグマ蛇は絶命せず、再びマグマの海から現れた。

 

さっき私がやった時と同じ。倒しても死なず、殺しても蘇り襲い来る。たぶんこの謎を解かないと、この灼熱の迷宮を制覇したことにはならない。

 

「はぁ………はぁ………や、やってやる…」

 

息を切らしながら立ち上がろうとしたハジメ。しかし、ハジメは立てなかった。立つどころか、逆に地面に倒れ伏した。

 

「ッ!ハジメ⁉」

 

慌ててハジメに駆け寄った。虚ろで焦点の合わない目で、呼吸も荒く、体を思うように動かせていない。

 

ここでようやく理解した。

 

ハジメの異常に。

 

ハジメは驚異的な速さで迷宮を突き進み、襲い来る魔物も難なく倒してきたが、それ故に忘れていた。

 

どれだけ強かろうと、どれだけ魔法の熟練度か高かろうと、ハジメはただの「人間」だ。私のような「亜人」ではない。肉体の耐久力は「亜人」のそれに遠く及ばない。

 

私でさえこの暑さのせいで万全ではないのに、「人間」のハジメが普段通りでいられるわけがない。

 

「マズい!」

 

倒れ込んでしまったハジメをこのままにはしておけない。しかしマグマ蛇にはそんなことはお構いなし。牙を見せながらにじり寄ってくる。

 

(一度撤退する選択もある……けど、それじゃ解決にならない)

 

上の階層に戻って、氷属性の魔法でハジメの体温を下げて休ませる方法もある。けれどハジメの結界なしにマグマによる攻撃を予測することも防御することも不可能だ。

 

なにより、この環境であとどれだけハジメの体力が続くかわからない。やはりここを突破して反逆者の住居に希望をつなぐ方が賢明だ。

 

「ッ!」

 

直後、それぞれのマグマ蛇が不規則な動きで襲い掛かってきた。止んでいた空中からの炎弾も再開し、あらゆるマグマの波状攻撃にさらされる。

 

「“凍雨”!」

 

速度で勝る炎弾に対し、こちらも速度と数に秀でる技で対抗する。凍雨は氷の針を無数に打ち放つ技。針というにはあまりに大きく太いそれは、炎弾を相殺するには十分すぎる威力を持つ。

 

「“天灼”!」

 

迫りくる炎弾を払いのけ、立て続けにマグマ蛇を攻撃する。

 

雷属性の最上級魔法“天灼”は、上空に出現させた雷球から範囲内の敵に雷撃を食らわせる。これにより、一気に八体のマグマ蛇を葬り去る。

 

「くっ!ダメ、これじゃ!」

 

しかし、これでは時間がかかりすぎる。宙から降り注ぐ無数の炎弾、にじり寄る幾体ものマグマ蛇。それにただ倒すだけではコイツらはすぐに復活する。

 

(このままじゃジリ貧………でも、どうしたら)

 

攻略の糸口が見つからないままマグマ蛇たちとの攻防が続く。それでもあきらめるわけには行かない。ここでハジメを死なせるわけには行かないのだから。

 

 

【オルクス大迷宮】では何度もハジメに救われた。何より久遠に続くと思われた地の牢獄での封印。そこから解き放ってくれた恩を仇で返すわけには行かない。

 

(あの日見た空は忘れない!あの時の心の昂ぶりも!全部ハジメがいてくれたから!だから今度は、私がハジメを外まで連れて行く!)

 

助け出してもらった大恩も、自由という名の救済も。もたらされた全てに報いるために、今ここで全力を出す。

 

 

 

--------------

 

Sideハジメ

 

 

真っ暗な視界で、音だけが響き渡る。

 

何かがぶつかり合う音。その後に鳴り響く蒸発音。そして轟く雷鳴。

 

交互に、時にどちらかが連続で鳴り響く。

 

「“―灼”………“凍―”………“―雷指”!」

 

辛うじて聞こえる誰かの声。必死さが滲み出るその声が、辛うじて僕の意識を繋いでいる。

 

(ユエ………か?)

 

もはや指一本動かせなくなっている僕を庇いながら、敵と戦っているのだろうか。音が止まないということは、それだけ多くの敵と戦っているということかなのか。

 

(クソッ………体が、動かない)

 

ユエの魔力も無限じゃない。温存してきたとはいえ、いつ枯渇するかわからない。しかし一緒に戦おうとしても、もう体の自由が利かない。

 

下手をすればここで共倒れだ。ここまで来て、あと一歩という所で。

 

暑さという抗いようの無い、“自然”という驚異に打ちのめされて終わる。

 

終わってしまう。

 

「……………“―――”……………“――”」

(ああ………ダメだ)

 

辛うじて聞こえていた轟音さえ、もう届かない。

 

何も見えない。

 

何も聞こえない。

 

何も、感じない。

 

(こんな………所で………みんな………………………早紀………)

 

 

--------------

 

 

Sideユエ

 

いくらマグマ蛇を倒しても、いくら炎弾を弾いても状況はまるで好転しない。この試練を突破するためのヒントも、マグマ蛇が復活する理由も一向に見えてこない。

 

「はぁ………はぁ………マズい」

 

まだ余力はあるけれど、決め手がないのではそのうちやられる。

 

(………いっそ無理やり突破して、あの島まで行くべき?)

 

このマグマ蛇たちがあの島に行かせないためにいるとしたら、無理にでもあの島まで行ってしまえばそれで解決するのではと思ってしまう。

 

けれど無理矢理突破しようにも、足場が少なすぎる。所々にせり出ている岩を使うとしても、先にその岩々を壊されてはどうしようもない。最悪マグマの海に落ちて私もハジメもお陀仏だ。

 

 

そうやって思考を巡らせている時だった。今いる足場のすぐそばから二体のマグマ蛇が突然現れた。

 

「ッ!この!」

 

それまでの炎弾への対処から瞬時に切り替え“天灼”で二体を吹き飛ばす。しかしその二体に気を取られたせいで背後に現れた存在に気付けなかった。

 

「ギュウオオオオ!」

「なっ、雄牛⁉」

 

序盤の階層で会敵した炎牛が背後の階段から現れ、今にもあの巨大な火炎を放とうとしている。さらに別方向からも予想外の存在が迫っていた。

 

「ハリネズミ………コウモリ………ウツボまで」

 

何処から現れたのか、宙を漂うマグマの上を複数のハリネズミが漂っていた。さらには炎コウモリが宙を飛び交い、壁からは多くのマグマウツボが突っ込んで来ようとしている。

 

「そんな………」

 

完全に周りを囲まれた。これじゃあハジメを守り切れない。何処を攻撃してもどれかの攻撃が必ずハジメに直撃する。再生する私と違って、ハジメは一発でも受けてしまったら終わりだ。

 

けれど、マグマを纏うこいつ等は待ってくれない。機を同じくしてあらゆる存在が私達に牙をむいた。

 

 

 

灼熱の絶望が降り注ぐ。

 

 

 

「………結」

 

 

 

しかし、それらは全て届かなかった。私達の周りを大きな結界が覆っていた。それが全方位からの攻撃を完全に防ぎきっていた。

 

「………え?」

 

雄牛の火炎は遮られ、ハリネズミの燃える無数の針とコウモリのマグマ攻撃は弾かれ、マグマウツボは堅牢な結界の壁に激突して頭から潰れてしまっている。

 

宙を流れるマグマからの炎弾も、マグマ蛇の毒牙も、私達には届かなかった。

 

「………………ハジメ?」

 

こんなことをできるのは一人しかいない。ゆっくりと振り向いたそこには、指を構えたハジメがいた。

 

地面に手をつき、膝をつきながらも起き上がっているハジメが。

 





読者の皆さん、お久しぶりです。
灰色パーカーです。

長らく投稿できず申し訳ありません。私が就活や卒論で忙しかったため、なかなか次の話が書けずにいました。無事就活も終わり、卒論も一旦めどが立ったので、今回続きを投稿しました。

年末年始にかけて2、3話投稿できたらなと考えています。また、話の感想などもお待ちしております。励みになり執筆もはかどるので、どしどし感想をお寄せください!
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