ありふれない結界師は比較的優秀   作:灰色パーカー

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連日投稿です
(今回の話までは書き溜めてました)



29.『結界師』として積み上げたもの

 

 

「ハジメ!大丈夫?………………ハジメ?」

 

再起したハジメに安堵し駆け寄った。けれどいつまで経っても返事が返ってこない。傍に駆け寄りハジメの体を支えても、反応すらしない。

 

「………ハジメ?」

 

何かがおかしい。言葉も無く、反応もない。それなのに堅牢な結界は今なお健在。不可解な状況に一抹の不安を覚えた時、マグマを纏う魔物達が動き出した。

 

マグマ蛇は一度距離を取って再び突撃する態勢を整え、ハリネズミとコウモリもまた飛び道具を充填しつつある。

 

階段前にいる雄牛も大熱量の火炎をその口に溜め込んでいる。全員がこの結界を破壊し、私達の命を奪おうと躍起になっている。

 

(……………ハジメ)

 

この結界はあとどれだけ持ち堪えられるだろう。

 

ハジメの様子が普通でない以上、過信するのは危険だ。先ほどの一斉攻撃には耐えられたが、次はどうなるか……。

 

そんな時、

 

「包囲………定礎………」

「ッ!ハジ……!」

 

再びハジメが指を構えた。しかし顔を上げた彼の目を見て愕然とした。

 

ハジメの目には、光が無かった。精気も意思もそこにはなく、虚ろな瞳は焦点すら合っていない。

 

 

今のハジメには、()()()()()

 

 

「結」

 

瞬間、辺りにいた全ての魔物が結界に封じられる。灼熱の海から顔を出すマグマ蛇も、真後ろにいる雄牛も、結界に激突して絶命したウツボさえも。ハリネズミもコウモリも例外なく、全てをハジメは結界に閉じ込めた。

 

「滅」

 

そして、その全てであらゆる魔物を滅却した。一体も消し損ねることなく、完璧に。

 

跡形もなく、完全に。

 

「………………え?」

 

あり得ない。

 

目の前で起きたことが信じられなかった。ハジメは確かに意識を失っている。にもかかわらず、正面の敵だけでなく視覚外にいる魔物すら消し飛ばした。

 

福郎の姿は無い。いつの間にかいなくなったままだ。つまり今のハジメは無想すら使っていない。使えていない。

 

そんな状態で、これだけのことをやってのけている。

 

(なんで……………一体、何が?)

 

疑問は尽きない。理解が追い付かない。だがそんな事、迷宮は意に介さない。マグマ蛇は再び、何事も無かったかのように復活した。

 

「あ、また!」

 

再三現れるマグマ蛇に苛立ちを隠せない。いい加減本気で対処法を見つけなければこの状況がループし続けることになる。

 

今度は急速に迫って来るマグマ蛇達だったが、それを阻んだのはやはりハジメだった。

 

「包囲………定礎………結」

 

今度はマグマ蛇の体に無数の小さな結界が展開される。十体ほどのマグマ蛇に対し、一体につきおよそ十個。総数およそ百個の結界が一瞬で形成された。

 

「なっ!」

「滅」

 

私が驚いている間にマグマ蛇は体の至る所を滅せられた。バランスが取れなくなったマグマ蛇達は相次いで灼熱の海へと還っていく。

 

しかし安心するのも束の間、今度は新たに現れたハリネズミやコウモリによる攻撃、そして空中からの炎弾が襲い来る。

 

「結」

 

そんな波状攻撃さえも、ハジメは無数の結界で受けきった。宙のマグマに浮かぶハリネズミも、宙を飛び交うコウモリも、降りしきる炎弾さえも、すべての攻撃を結界で囲い込み無力化した。

 

「………………うそ」

 

宙にいる魔物そのものはともかく、それらが撃ちだした攻撃も、弾幕のような炎弾さえも囲い込んだハジメの(わざ)に驚嘆する。なぜ気を失っている状態でこんなことができるのか。

 

「滅」

 

囲い込んだすべてを消し去ったハジメ。それでも、やはり魔物は再起する。無数のマグマ蛇は体を完全に再生して蘇った。

 

「もう、しつこい!」

「………………」

 

何度でも蘇って来るマグマ蛇に悪態をついた時、それは私の視界に入ってきた。気を失い、それでも結界術を発動するハジメのほんの僅かな挙動。

 

ゆっくりと、しかし確実に、ハジメはマグマ蛇の方に()()()()()。虚ろな闇に染まったその目で、ハジメは確かにマグマ蛇に視線を向けていた。

 

「………………まさか」

 

ふと脳裏を横切った可能性。今ハジメに起きていることを説明できる、ある推測。しかしそれ以外考えられず、きっとそうだという根拠のない自信があった。

 

 

「……………()()?」

 

 

ハジメはこの世界とは別の世界から来たと言っていた。その世界で、迷宮に出現する魔物さえ寄せ付けない、強大な敵と戦い続けてきたのだと。

 

 

激しい戦歴で磨き上げた『結界術』

 

 

多くの敵と戦うことで得た『経験値』

 

 

背負った使命を果たそうとする『決意』

 

 

友と交わした大事な『約束』

 

 

そして、大切な誰かを守るという『覚悟』

 

 

 

それら全てが、結界師として積み上げてきた全てが、本能となってハジメの体を動かしている。

 

そう思わずにはいられなかった。

 

「結」

 

再度迫りくるマグマ蛇に対し、ハジメは無数の細い結界で串刺しにした。形を保っていられなくなったマグマ蛇が灼熱の海に還っていく。

 

「…………ん?アレは?」

 

マグマ蛇で遮られていた中央の島。その側面部で何かが光っていた。それも一つや二つではない。

 

横一線に、まるで島を一周しているかのように光が並んでいる。

 

その光も一つ、また一つと消えていく。まるで目の前のマグマ蛇が消えるのに呼応するかのように。

 

「……まさか」

 

もしもマグマ蛇とあの光がリンクしているのだとしたら。反逆者の住家の可能性が高いあの島に辿り着くための方法が、島を一周しているように見えるあの光を全て消すことだとしたら。

 

もしそうならマグマ蛇が復活することも辻褄が合う。

 

そもそも前提が違うのかもしれない。復活しているのではなく、倒されたそばから新たな個体が出現しているのだとしたら。

 

現にこうしている間にもマグマ蛇は出現し続け、ハジメによって倒されている。そして島の光も数が減り続けている。

 

「間違いない………このまま押し切る!」

 

予想が確信に変わる。ここまでで既に数十体のマグマ蛇を倒している。島の円周から見ても、光の数はもう半分以上消えているはずだ。

 

「“天灼”!」

 

ハジメの攻撃の合間を縫いながら、間髪入れずに攻撃する。謎が解けた以上、出し惜しむ必要はない。

 

最後にハジメを抱えて、あの島まで移動する余力があればそれでいい。

 

「“破断”!」

 

もはやマグマ蛇が完全に姿を現すまで待つ必要もない。マグマから頭を出した瞬間に絶命させていく。

 

「結……滅」

「“凍雨”!……“五雷指”!」

 

 

もう時間はかけない。最短最速でこの炎海を突破する。

 

 

 

 





今回話の中ハジメが無想を使わずに背後の敵も倒していたシーンを補足しておきます。

『無想』は術者の雑念や雑味などを完全に無くすことで、力のロスなく術を発動する能力だと筆者は捉えています。

今回ハジメは気絶している状態の中、本能のみで戦っていたため雑念といった無駄な要素が全くない状態でした。そのため無想を発動せずとも結界術、探査用結界ともに100%の精度で発動できたというわけです。


年末年始の期間でもう1話ほど投稿できたらなと思います。次の話で火山編は終わりの予定です。
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