ありふれない結界師は比較的優秀   作:灰色パーカー

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もう少し早い時間に投稿したかった。




3.異なる世界

目を開けると、そこは教室では無かった。

 

周りには教室にいた皆もおり、何が起こったのかわからないといった顔だ。

 

状況を確認しようとして辺りを見回すと巨大な壁画が目に入った。そこには草原や湖、山々を背景に長い金髪の中性的な顔立ちの人物が描かれていた。

 

(……()()()()()

 

なぜかそう思ってしまった。

 

人物だけでなく、背景の細かい部分も丁寧に描かれており、非常に美しいはずなのに、どうにも称賛する気になれなかった。

 

 

さらに辺りを見回すと、どうやら僕が今いるのは巨大な広間のようだ。大理石のような白い石造りの建物で、柱に彫られた綺麗な彫刻、ドーム状の天井はまるでヨーロッパにある大聖堂のようだ。

 

 

この広間の最奥に置かれた台座の上に自分たちがいること、そしてその台座の前に三十人以上の人間が、まるで祈りを捧げるかのように両手を組み跪いているのが見て取れた。

 

彼らは全員が法衣のようなものを着込んでおり、傍らには錫杖を携えていた。

 

すると彼らの内の一人が立ち上がり、こちらに近づいてきた。他の者に比べ、やけに豪奢な法衣を纏った七十近くに見える老人だった。

 

老人は手に持った錫杖をシャランシャランと鳴らし、外見に見合った深みのある声で言った。

 

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。我々はあなた方を歓迎いたします。私は聖教教会教皇イシュタル・ランゴバルドでございます。以後お見知りおきを」

 

そう言って、老人、もといイシュタルさんは微笑んだ。

 

(この人よく噛まなかったな)

 

周りのみんなが呆然としている中、僕は一人そんなことを考えていた。

 

 

==================

 

今僕たちは先ほどの広間から場所を移し、10m近い長さの机がいくつも置かれた別の広間へと通されていた。

 

おそらく晩餐会などを行う場所なのだろう。例によってこの広間も重厚な造りで非常に赴きがある。

 

上座に近い方に愛子先生と天之河くん達四人組が座り、後は入った人から順に席に着く。僕は一番後ろである。

 

ここまで誰も騒いでいないのは、まだこの状況に頭が追い付いていないからだろう。

 

イシュタルさんが事情を説明すると言ったことや、天之河くんが持ち前のカリスマで皆を落ち着かせたことも影響しているだろう。

 

 

余談だが、天之河くんの生徒をまとめる姿に、愛子先生は「教師よりも教師している」と涙目になっていた。

 

 

全員が席に着くと、見計らったかのようにカートを押しながらメイドさん達が入室してきた。

 

マンガとかゲームでよく出てくるような、顔が整いプロポーションが完璧な、数多の男子が想像するそれである。

 

ほとんどの男子生徒がメイドさんたちを凝視し、ある者は顔を赤くし、ある者は鼻の下を伸ばしていた。

 

それを見た女子は男子たちに酷く冷たい、嫌悪するかのような眼差しを向けていた。

 

少しして僕のもとに肩のあたりまで髪を伸ばした、僕と同じくらいの背丈のメイドさんが飲み物を注ぎに来てくれた。

 

こちらと目線が合うと、ニコッと微笑んでくれたので軽く会釈する。

 

鏡が無いので今自分がどんな顔をしているかわからないが、周りの男子に比べればそれほど情けない顔はしていないだろう。

 

 

なぜかって?メイドさんの破壊力にはすでに慣れているからだ。

 

だが勘違いしないでほしい、別にメイド喫茶に入り浸っているわけではない。

 

 

以前一度見たことがあるのだ、早紀がメイド服を着ているのを。

 

 

 

僕が中三の時志望校をどこにするか悩んでいると、早紀が自分の通っている高校の、つまり今通っている高校の文化祭に招待してくれたのだ。

 

招待されたときは腰が抜けるくらい驚いたが、せっかくなので行ってみることにした。

 

 

文化祭はとても賑やかで雰囲気がとても良かった。そして模擬店を回っていると遭遇したのだ。メイド服を着た早紀を。

 

目にした途端、時が止まった。

 

今まで、制服姿や結界師としての早紀しか見たことが無かった。あとは小さい頃に親に内緒で遊んでいた時くらいか。

 

だから、初めて見た早紀の姿はとても可憐で、とても優美で、とても綺麗だった。

 

あの時、早紀は自分で誘ったくせにかなり顔を赤くしていた。本当に来るとは思っていなかったのだろう。

 

 

その晩の妖退治では早紀は口を利いてくれなかった。

 

 

そんなことがあったので、メイドの破壊力には慣れている。

 

というか早紀に比べれば大したことは無い。

 

(それにしてもあの時の早紀は本当に可愛かったなぁ~また見れないかな)

 

 

なんて、早紀のことを考えていたら、

 

 

ゾワッと背筋(せすじ)に悪寒が走った。

 

 

普段からクラスの男子に射殺されんばかりの視線を向けられているが、こんなにも冷たくおぞましいものは初めてだ。

 

何処から向けられたものなのか視線を巡らせるが、誰から向けられた視線なのかはわからなかった。

 

 

 

全員に飲み物が行き渡ると、イシュタルさんが話し始めた。

 

「さて、皆さんにおかれましてはさぞ混乱なさっていることでしょう。まずは一からご説明させていただきます」

 

と言って、イシュタルさんは長々と説明を始めた。

 

彼の話を要約するとこうだ。

・この世界には人間族と魔人族、亜人族の三種族が存在する

・人間族と魔人族は何世紀も前から戦争を続けており、ここ数十年は停戦が続いていたが、最近になって異常事態が多発している。

・魔人族が魔物、野生の動物が魔力を取り込むことで変異した怪物を使役し始めた。

・魔物の使役によって人間族は“数”というアドバンテージを失いつつあり、滅亡の危機に瀕している。

・そして、人間族救済のために『エヒト神』が僕らを“救世主”として召喚した

 

 

「皆様を召喚したのは“エヒト様”です。我々人間族が崇める唯一神にして、世界を形創った創造神。エヒト様はその慈愛の心でもって人間族の救済をお決めになられたのでしょう。皆様が召喚される少し前に神託が下ったのです、我々に“救い”を送ると。皆様、どうかエヒト神の御意志のもとに魔人族を討ち倒し、我ら人間族をお救い下さい」

 

イシュタルさんはどこか法悦した表情でそう言った。神託が下った時のことを思い出して感動にでも打ちひしがれているのだろうか。

 

すると

 

「ふざけないで下さい‼」

 

突然抗議の声が上がった。

 

まあ遅すぎるくらいだ。これまで出なかったのが不思議なくらいだった。

 

声の主は愛子先生だった。

 

「あなたが言ったことはつまり、この子達に戦争をさせようってことでしょう⁉冗談じゃない!彼らはまだ子供で、戦争どころか殺しの道具すら見たことが無いんですよ!それなのに無理やり戦わせるなんて、そんなこと許せる訳ないでしょう⁉早く私たちを元の世界に返してください‼あなた達がやっていることは誘拐と何も変わらない‼」

 

普段の愛子先生では考えられない語気の強さ。いつもの愛子先生は生徒のために奔走し、そして大抵の場合空回りする所謂“ポンコツ可愛い”先生だ。

 

その微笑ましい姿から一部の生徒達からは、“愛ちゃん”の愛称で親しまれている。

 

周りの生徒は「また、愛ちゃんが頑張ってる………」とぽわぽわした気持ちで眺めていたが、

 

「お気持ちはわかります。ですが、皆さんの帰還は現状では()()()です」

 

イシュタルさんの一言で皆の空気が一瞬で凍り付く。

 

「ふ、不可能って………ど、どういうことですか⁉召喚できたのなら帰すこともできるでしょう⁉」

「先ほど申し上げた通り、皆様を召喚したのは我々ではなく、エヒト様です。我々は異世界に干渉できるような力は持ってはおりませんのでな。全てはエヒト様の御意思なのです。故に皆様が帰還できるかどうかもエヒト様の御心次第ということになりますな。」

「そんな………」

 

続くイシュタルさんの言葉に愛子先生も力が抜けて椅子にへたり込む。

 

まあ、そうだろうなとは思った。異界の神は基本的に人間を顧みない。

 

自分の都合しか考えてはおらず、面白そうだからという理由で人間に干渉してきたりするのだ。

 

 

その点「ウロ様」なんかは本当に良い神様である。ウロ様は普段は隣町の無色沼に住んでいるが、自分がいる異界の調子が悪くなると自分の足で修復を頼みに来るのだ。あれこそ本当の神様だ。

 

 

なんて考えていると、他の生徒達も理解が追い付いてきたらしく、口々に騒ぎ出していた。

 

「嘘だろう⁉帰れないって何だよ!」

「嫌よ、何でもいいから帰してぇ‼」

「戦争なんて冗談じゃねえよ‼」

「ひっぐ、帰してよぉ………」

 

まさに阿鼻叫喚、地獄絵図である。

 

誰もが狼狽えている中、イシュタルさんは何か口を挟むわけでもなく静観していた。

 

なんなら頭の上に?を浮かべているように見えなくもなかった。神に選ばれたというのに何が不満なのかと。

 

悲痛な叫びが鳴り止まぬなか、バンッと思いっきり机を叩く音が響いた。

 

その音の鳴った方を見ると天之河くんが立ち上がっていた。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても仕方がない。この人にだってどうしようもないんだ。…………俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人たちが滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない!」

 

さすが天之河くん、一瞬で皆を落ち着かせた。さすがのカリスマ。

 

………だがちょっと待て、話がおかしな方に向かっている気がする。

 

「それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済が完了すれば帰してくれるかもしれない。…………イシュタルさん、どうですか?」

 

確かに天之河くんの言っていることは、望みを持つのに十分な理屈ではある。

 

だが、異界の神はそんなに甘くは無い。用が済んだら、はいおしまい、放ったらかしでそのままだ。

 

僕らを帰すなんてことは絶対にしない。帰りたければ勝手にどうぞというスタンスだ。

 

「そうですな。エヒト様の救世主の望みを無下に扱ったりはなさらぬでしょう」

 

まあ、これだけ異界の神に心酔していたら、神が人間に無関心だなんて思わないのだろう。

 

イシュタルさんはあっさりと、天之河くんの言葉を肯定した。

 

「俺達には大きな力があるんですよね?ここに来てからずっと妙に力が漲っている感じがします」

 

さっきまで只の高校生だったのにもう自分の中の力を感じられるとは、やるな天之河くん。

 

「ええ、そうです。この世界の人間と比べて、ざっと数倍から数十倍の力を持っていると考えてもらえればよろしいかと」

「うん、なら大丈夫!俺は戦う!人々を救い、皆がもとの世界へ帰れるように!俺が世界も皆も救ってみせる‼」

 

大丈夫じゃない。そんな大きな力を与えられたらとんでもないことになる。

 

なんてことしてるんだ、ここの神は。

 

 

とはいえ、天之河くんの一声は皆に希望を抱かせるには十分だったようだ。さっきまで沈んでいた表情は消え、活気と冷静さを取り戻しつつあった。

 

皆の天之河くんを見る目はキラキラと輝いており、女子の大半は熱っぽい視線さえ送っている。

 

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな……俺もやるぜ?」

「龍太郎……」

 

坂上くん、少年漫画みたいに熱いこと言ってるけど何言ってんの?意味わかって言ってる?

 

「今のところ、それしかないわよね………気に食わないけど……私もやるわ」

「雫……」

 

八重樫さん、気に食わないなら「私は戦わない」みたいなことを言おう。

 

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ」

「香織………」

 

白崎さん、他の2人に流されないで。戦わない道はないんですかとかもっと聞こう。

 

いつものメンバーが天之河くんに賛同すると、他の皆も賛同の声を上げ始めた。いや、上げ始めてしまった。

 

「俺もやるぞ!」

「俺も!」

「異世界の救済、やってやるって!」

「私もやる!」

「私も!」

 

こうなるともう止められない。「ダメですよ~」と愛子先生が涙目で皆を止めようとするが、効果は無かった。

 

結局、僕以外の皆が戦争への参戦を宣言してしまいどうしようかと思っていると、

 

「末席のあなた・・・そう先ほどから何やら考え込んでいるあなたです」

 

イシュタルさんが声をかけてきた。末席ということは一番後ろの席だから、たぶん僕だな。

 

「え、僕ですか?」

「そう、あなたです。戦う意志を示していないのはあなただけですが、いかがでしょう?戦っていただけますか?」

「え、え~と」

 

まさか直接意思確認をしてくるとは思わなかった。というか僕が何も言ってないのがよくわかったな。

 

見ていたのか?僕の、というか皆の反応を。ちゃんと戦争への参加の意思表示をするのかどうかを………

 

 

なんにせよ、聞かれたからには答えねばならないが、さて何と言おう?

 

たとえ「嫌だ」と言ってもクラスの全員が参加すると言ってしまっているので、結局言いくるめられる気がする。

 

かと言って「はい」と答える訳にもいかない。一度戦う意志を示してしまえば、後で何をさせられるかわかったものでは無い。

 

どうするか。時間もあまり無いし………

 

「僕は……今の段階では答えられません」

 

悩んだ末、僕はそう答えた。判断を先延ばしにすると……

 

「はぁ?なんだよあいつ」

「マジでクソ。空気読めよ」

「南雲くんって、そういう所あるよね」

 

散々な言われようだが、意見を変えるつもりはない。

 

「………理由を、お尋ねしてもよろしいか?」

「え~と、理由といっても一つしかないんですけど……僕らが本当に力を持っているのかわからないし、本当に戦えるかもわからないので。なんせ、ついさっきまで只の高校生だった訳ですから。ちゃんと戦えるのか確認できてから、改めて判断させてはもらえませんか?」

 

僕が言い終わると、イシュタルさんは少し押し黙る。僕が言っていることはつまり、戦えるか確認して無理そうだったら止めると言っているようなものだからだ。

 

イシュタルさんとしても慎重に返答せねばならないだろう。

 

ここで僕の要求を拒めば、暗に戦いから身を引くことは許さないという意を皆に示してしまう。それで、皆の意思が再び揺れることは避けたいはずだ。

 

 

かと言って、認めてしまえば戦線離脱の自由を許可することになってしまい、戦争の勝利を望んでいる彼らとしては都合が悪いだろう。

 

何より、皆の前で答えなければならないことが最も頭を悩ませていることだろう。

 

一対一での問答であるなら何とでも言える。後で反故にしても証人がいなければ踏み倒せるのだから。

 

だがここにはクラスの皆がおり、下手な事は言えない。

 

(さあ、どう来る?)

 

正直これは僕自身のためというより、この先の皆の事を想ってのことだ。

 

この先、戦いから逃げたくなっても逃げられないとなっては、皆の心は保たないだろう。

 

今でさえ、ギリギリの心を天之河くんの一声で、彼が見せた僅かな希望で繋いでいるようなものなのだから。

 

「まぁ、確かに……」

「何を言っているんだ、南雲!イシュタルさんの話を聞いていなかったのか?」

 

イシュタルさん何かを言いかけたその時、天之河くんが口を挟んできた。

 

「イシュタルさんは、僕らには大きな力が宿っていると言っていたじゃないか。その力はエヒト神が魔人族を倒すために与えてくれた力だと。だったら何も心配することは無いじゃないか。人の話も碌に聞かないで、皆の士気を下げるようなことは言わないでほしいな」

 

 

最悪だ、これ以上ないほどにぶち壊してくれた。

 

 

おそらく今イシュタルさんは僕の要求を呑もうとしていた。天之河くんが口を挟まなければ、この駆け引きには勝っていたのだ。

 

彼が口を挟んで、しかもイシュタルさんを全面肯定してしまったために、僕の目論見は破綻してしまった。

 

「確かに君の言うことも尤もです。ですがそこの彼も言ってくれたように君たちに宿っているのはエヒト様がお与えになられたものです。その力があれば何も恐れることはありません。どうか自信をお持ちください」

 

この先イシュタルさんは、というかトータス側は何が起ころうと、たとえ僕らが戦いたくないと言っても「エヒト様より賜った力を信じなさい」としか言わなくなるだろう。

 

 

まったく余計なことをしてくれた。こうなってしまってはもう首肯するしかない。

 

「…………わかりました」

 

僕が答えたことで、全員の戦争への参加が決定した、してしまった。

 

 

 

 

この先どうなっていくのだろう?もはや退路も断たれ僕らはただ前に進むしかなくなった。

 

 

 

誰かが脱落しそうになった時、果たして僕はその誰かに手を伸ばしてやれるだろうか

 




結界師のウロ様、好きです。
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