ありふれない結界師は比較的優秀   作:灰色パーカー

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やっと書き上がりました。戦闘描写むずかしいですね。時間が掛かった割にあまり出来が良くないかもしれません。
ただ、これが今の私の実力なのでご容赦ください。読者の皆さんの想像力と語彙力で補完していただければと思います。

いよいよ小悪党たちとのバトルです!


5.案ずるよりも産むが易し

現実世界において、多くの人が信じて疑わないものと言えば何だろう。

 

時計が指し示す時間?親しい相手との友情?これまでの自分の経験?

 

 

 

そのどれでもない。

 

 

 

時計も友情も経験も、場合によって裏切られる。そんなことは起こってほしくは無いが、時として起こり得るのは事実だ。

 

 

では人が信じ疑わないもとは何か…………

 

 

答えは「伝統」だ。

 

 

さらに言えば「遥か昔から今日まで続くとされる何か」だ。

 

例えば創業150年の団子屋の秘伝のたれであるとか、江戸時代から続く西陣織の専門店だとか。

 

人々がそれを疑うことは無い。秘伝のたれが、実際はスーパーで売っているたれを少しいじっただけのものだとしても。

 

江戸時代からなどと言っているが実際は昭和からで建物が古いからそのように見えるだけだとしても。

 

そういった事は露ほどにも考えない。なぜならそれを教えてくれるのは、その伝統を実際に行っている人だからだ。雰囲気がそれっぽい人だからだ。

 

疑問を持つのは研究者か、よほど興味のある人くらいだろう。

 

 

 

何が言いたいのかというと、人は案外あっさりと騙されるということだ。

 

それも自分より多くの知識を持つ相手の言葉なら、尚更。

 

騙されて、思い込んで、冷静で客観的な思考を放棄してしまう。

 

 

 

そう、今回の僕のように…………

 

 

僕は信じた。メルドさんの言葉を信じたのだ。

 

いや、鵜吞みにしたといった方が正しい。

 

アーティファクトの話や、ステータスの話、僕らに宿っている力の話。

 

ステータスプレートの話もそうだ。メルドさんは言った。プレートに示された数値が現状の自分の能力値であると。

 

だから僕は、僕の身体能力がこの世界では当たり前のもので、クラスの皆はそれの何倍もの力を持っているのだと断定した、決めつけた、そうであると思い込んだ。

 

 

 

 

 

僕が信じたものが本当であるのなら。覆りようのない事実だというのなら。

 

 

 

どうしてこんなことが起きている?

 

 

 

なぜ皆の動きについていけている?何なら僕の方が早いのは何故だ?

 

 

なぜ武器の打ち合いで押し負けない?それどころか押し勝つというのはどういうことだ?

 

 

訓練で相手の拳や蹴りが当たっても、痛みはあるがそれだけだ。

 

粉砕骨折だとか内臓破裂だとか、そんなことは一切ない。

 

 

 

皆僕よりもステータスが高いのだから、むしろ僕は置いて行かれるのではないのか?

 

 

 

つまり、この事実が示すのは、誰かに言われたことではなく自分が身をもって体験したことが示すことは、

 

 

(ステータスプレート、まったく当てにならなーい!!!!!!)

 

 

この一言に尽きる。

 

ちなみにこの事実は訓練が始まって五日目で気づいた。

 

いや、正確には四日目の夜だ。初日と合わせて丸四日訓練に参加していたのに、何も感じなかったのだ。

 

皆強いなとか、なんであんなに速く動けるんだとか、そういった驚きや疑問を抱かなかった。

 

そして五日目の訓練で確信したのだ、僕は置いて行かれてなどいないことを、ステータスプレートが当てにならない事を。

 

 

最初から当てにしてはならなかったのだ。僕の能力を結界術として一緒くたにされているし、ステータスの数値と実際の体の動きはズレまくっているし。

 

 

今回、僕が学んだ教訓は「ステータスプレートの情報は信用できない」だ。

 

 

この教訓は決して忘れない。もう信じるものか、あんな間違いだらけのもの。たとえ、数値が億とか兆とか出ていても絶対に信じない。技能なんかも信じてやらない。

 

 

一通りイライラを吐き出し、教訓だなんだと阿保らしいことを考えることを止めると、新たな疑問が浮かぶ。

 

 

 

なぜ僕のプレートの表示だけがこんなにも当てにならないのか。

 

メルドさんや他の教官達の反応を見るに、僕以外の皆は表示されたステータスに見合った能力を持っているように見える。

 

「さすがは勇者だな!」、「まさに人類の希望だ!」などとそればかり言っているからだ。

 

一方、僕の動きを見た教官は「なんでそのステータスでそんなに動けるの?」みたいな顔をしていた。

 

このことから、僕のプレートの表示だけが狂っているということがわかる。

 

 

問題はなぜ狂っているのかだ。正確に表示されないのはなぜなのかということだ。

 

エヒト神が僕の能力を弄ろうとして失敗し、結果プレートの表示だけが変わったのか?

 

神が失敗するだろうか?どんな神であろうと、神は神だ。人の能力を弄るくらい簡単にやってのけると思うのだが…………

 

 

それとも僕の、というか結界師としての『抵抗力』のせいなのか?

 

結界師はその気になればあらゆる空間に干渉することができる。

 

歪んだ空間を直したり、完全に閉じてしまったりだ。

 

その力が悪用されることを避けるために、結界師となる者は幼少期から精神干渉系の異能に対する抵抗力を鍛えている。

 

その抵抗力が無意識に働いて、プレートの表示を狂わせたのか?

 

 

(・・・いや、違う。抵抗力はあくまで第三者による干渉を防ぐためのものだ。プレートは人じゃない。そもそも僕が自分でやったことだ、抵抗力が働くはずが無い)

 

だが、抵抗力以外に考え付かないのも事実だ。おおかたプレートに垂らした血は僕の一部で、そこには結界術に関する情報も遺伝子レベルで刻まれている。

 

それが外部に漏れないように抵抗力が働いたのだろう。

 

(腑に落ちないけど、まあ………)

 

そういう事にしておこう。

何はともあれ、日本にいた頃と同じように戦えるのだ。それに越したことは無い。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

訓練が始まってから二週間がたった。

 

訓練の内容は割とシンプルだった。武器の扱い方や、陣形の取り方、そして魔法の使い方などである。

 

陣形や魔法に関してはメルドさんや他の教官から事細かに教えてもらったが、武器の扱い方に関しては基本的な事だけで後は個人で素振りなり模擬戦なりをして、時折教官から助言を貰うという形式だった。

 

メルドさん曰く、僕らが使う武器はそのほとんどが自分の天職にあった武器であるため、基本を覚えてしまえばそう時間も掛からずに上達するだろうとのことだ。

 

事実、みんな初日にくらべ武器の扱いがうまくなっている。まあ、成長促進なんて技能を持っていたら当然か。

 

今はそれぞれが思い思いの訓練に取り組んでいた。

 

武器の扱いをマスターしようとする者もいれば、数人で模擬戦をしたり陣形のおさらいをしている者もいる。

 

ようは自主練の時間だ。

 

 

 

僕は皆と少し離れた位置で武器の素振りをしていた。僕が選んだ武器は『槍』だった。

 

御池鳩での妖退治の際には「天穴(てんけつ)」という(ほこ)錫杖(しゃくじょう)を組み合わせたような武器を使っていた。

 

「天穴」と唱えることで異界を開き、輪から妖の亡骸を吸い取るためのものだ。

 

そのため直接戦うために使うものでは無い。ただ、妖退治の合間によく振り回したり、手首で回したりして遊んでいたので、扱いには割と慣れている。

 

周りに人も居らず迷惑もかけないので、教官から教わった槍術の型を繰り返し反復していた。

 

 

 

暫くの間槍の練習をしていると、突然後ろから衝撃を受けた。

 

思いのほか集中していたので、突然のことに反応が遅れ前につんのめる。

 

何事かと振り返ると、そこには心底面倒くさい四人組が立っていた。

 

言うまでもなく、檜山くん達だ。彼らは訓練中事あるごとに絡んできては、やれ「役立たずが何してんの」だの、やれ「無能が何か頑張ってる(笑)」だのと、大声で言ってはゲラゲラと嗤ってくるのだ。

 

「よぉ、南雲。何してんの?お前が槍なんか持っても意味無いだろう~?救いようの無い役立たずなんだからさぁ」

 

「ちょ、檜山言い過ぎ~、いくら本当の事だからってさぁ!ぎゃははは」

 

「つうかさぁ、なんで毎回訓練に参加してるわけ?俺なら恥ずかしくて無理だわ!ヒヒヒ」

 

まったく飽きもせずよくやるなと思う。僕だったらアホらしくてこんな一々人を笑いに行ったりしない。

 

「なぁ大介。こいつボッチで可哀そうだからさぁ、俺らで稽古つけてやんね?」

 

「あぁ?おいおい信治、お前マジで優しすぎじゃね?まぁ、俺も優しいし?稽古つけてやってもいいけどさぁ」

 

「おお、いいじゃん!俺ら超優しいじゃん。無能のために時間使ってやるとかさ~南雲マジ感謝しろよ~?」

 

(頼んでないよ。というか「マジ」が多いな)

 

檜山くん達はそう言って勝手に武器を構え、彼らの言う所の「稽古」を始めようとする。

無駄だろうか断っておこう。この場合、口に出すことはたぶん大事だ。

 

「いや、稽古はいいよ。自分でやるから」

 

「はぁ?俺らがわざわざ役立たずのお前を鍛えてやろうってのに何言ってんの?マジ有り得ないんだけど。お前はただ、ありがとうございますって言ってれば良いんだよ!」

 

そう言って、檜山くんは僕の腹部を殴ってきた。だが痛みは無かった。彼の拳を僕は左手で受け止めたからだ。

 

「なっ!」

 

檜山君は、いや彼以外の三人も動揺していた。まさか僕が檜山くんのパンチを受け止められるとは思っていなかったのだろう。

 

地に這いつくばって悶えるとでも思っていたのだろう。

 

なんせステータスがオール10なのだから。

 

「聞こえなかったのかな?稽古はいらないって言ったつもりだったんだけど?」

「…はぁ?お前マジで調子乗んなよ!まぐれで一回受け止めたからって良い気になってんじゃねえよ」

 

そう言って檜山くんは拳を引っ込め、手にしていた短剣で薙いできた。

 

それをバックステップで躱し距離を取る。檜山くんだけでなく他の3人も各々武器を構えて突撃して来る。

 

(4対1の稽古なんてあり得ないんだよな~)

 

内心そう思いつつも、彼らの攻撃を躱していく。

 

特に陣形を組んで攻めて来るわけでも無く、一人が攻撃したら次の誰かがというふうにしか攻めてこないので簡単に避けられる。

 

これでは4対1じゃなくて1対1を何度も繰り返しているようなものだ。

 

避ければ避けるほど檜山くんたちの顔は焦りの色に染まっていく。

 

「くそ!てめえ避けてんじゃねえよ!」

(無茶を言わないでほしい。避けるでしょ、刃物で襲って来られたら)

 

もはや彼らの中には「稽古」という建前もないのだろう。とにかく僕を痛めつけることに躍起になっている。

 

 

 

檜山くんが短剣を振り上げ、勢い良く振り下ろしてくる。

 

それを彼の左側に回り込みながら躱し、背中を押して勢いそのまま彼を遠くにつんのめさせる。

 

「おわっ!く、くそ!」

「おらぁ!」

 

近藤くんが槍で薙ぎ払ってきたので、自分の槍で受け止める。

 

「なっ!」

 

間髪入れずに槍を押し返し、柄の先端で近藤くんの鳩尾にお見舞いする。

 

「がはぁ!」

「礼一!南雲てめえ!」

 

近藤くんがやられたのを見て、斎藤くんが剣を振りかぶり、斬り下ろしてくる。

 

それを槍を薙いで右にいなし、左足で脇腹に一撃入れる。

 

「ごはぁ!」

「良樹!く、くらえ“ここに焼撃を望むー【火球】”」

 

少し離れた位置にいた中野くんが火属性魔法【火球】を撃ってきた。

 

だがこの魔法はただ一直線に飛んでくる。だから射線から外れれば容易に避けられる。

 

「な、なんで⁉」

 

避けた火球は僕の後方でそこそこ大きな音を立てながら爆裂した。

 

ふと足元を見るといい感じの石が転がって来たので、槍を使いゴルフの要領で中野くん目掛けてショットを打ち込む。

 

「あがっ!」

 

シュパーンと飛んで行った石は綺麗に中野くんの額に命中したので、内心ガッツポーズをしてみたり。

 

「クソがぁ!」

 

檜山くんが再び短剣で攻めてきた。かがんだり、後ろに引いたり、槍で受け止めたりして対処していると突然檜山くんが攻撃を止めて後退した。

 

(あれ?どうしたんだ突然)

 

頭に?を浮かべていると、いきなり後ろから羽交い絞めにされた。

 

「え!うわっ」

 

かなり強い力で拘束されてしまう。誰なんだと振り返ってみると、羽交い締めしてきたのは近藤くんだった。

 

「け!捕まえちまえば槍も使えねえだろ!大介、良樹、信治!俺が押さえといてやるから魔法をじゃんじゃか食らわせてやれよ。」

 

「はぁはぁ……ナイス、礼一!そのまま押さえとけよ」

 

「南雲!よくもやってくれたよなぁ~。覚悟しとけよぉ」

 

「あぁ、そうだ。大介、俺と信治が魔法打つからさあ、お前その後南雲に短剣プレゼントしてやれよ!喜ぶんじゃね?」

 

「良樹マジ天才!南雲~俺の短剣ほしいだろう?全然受け取ってくれなかったからなぁ。俺優しいからさあ、特別に出血大サービスでありったけくれてやるよ!」

 

・・・つまり、斎藤くんと中野くんが羽交い絞めされている僕に魔法をぶち当てて、そのうえで檜山くんが短剣で僕を滅多切りにすると……

 

いよいよやることが稽古じゃなくなってきた。

 

とはいえ何とかしなければ。どうにか羽交い絞めから抜けだそうと抗ってみるが上手くいかない。

 

「抜け出そうとしたって無駄だ。絶対に離さねえ!」

「離してよ!気持ち悪いな!」

 

僕は男に後ろから抱き着かれたいなんて願望は持ち合わせてはいない。

 

そんなことを考えつつもなんとか拘束を解こうとしていると、

 

「“ここに風撃を望むー【風球】”」

「“ここに焼撃を望むー【火球】”」

 

斎藤くんと中野くんの詠唱が終わり、それぞれの魔法が発動した。

 

かなり魔力を込めたらしく、先ほどよりも大きな火球とそれに劣らぬ大きさの風球が襲い来る。

 

 

だがこれだけ大きな攻撃魔法であれば、檜山くん達から僕らは見えないだろう。

 

ならば手は一つだ。

 

「絶対離さないって言った?じゃあ、離すなよ?」

 

そう言って僕は、持っていた槍を横に放り投げた。

 

「ああ?お前何して………」

 

近藤くんが何か言っているが気にしない。

 

フリーになった両腕を後ろに伸ばし近藤くんの襟をガシッと掴む。そのまま背負い投げの要領で近藤くんを火球と風球の前に投げ出す。

 

「がぁぁぁ!」

 

二つの魔法は近藤くんの背中に炸裂し、爆煙が上がる。

 

相変わらず檜山くん達から僕は確認できないだろう。

 

離さないと言っていた近藤くんだったが、魔法を受けた衝撃と痛みで僕から手を離してしまっており、ダメージで気を失っている。

 

「ぎゃははは!聞いたかよ、今の情けねえ声!じゃあ次は俺の番だ!存分に堪能しろよ!南雲~!」

 

やはり檜山くんはこのまま短剣で攻撃してくるつもりらしい。

 

だが今、煙の中で蹲っているのは近藤くんであって僕じゃない。このまま檜山くんが攻撃したら近藤くんが滅多切りにされてしまう。

 

さすがにそれを見ないふりはできない。

 

槍を回収せずに煙の中を突っ切って檜山くんの正面に躍り出る。

 

「な!南雲!どうして?」

 

倒れているはずの僕が飛び出してきて檜山くんの顔が驚愕で満ちる。

 

僕はそのまま勢いに任せて彼の顔面に飛び蹴りを食らわせる。

 

「ほがぁぁぁぁ」

 

飛び蹴りをくらった檜山くんは数メートルほどすっ飛んでいく。

 

「は?え?いったい何が?」

「なんで大介が吹っ飛んでくるんだ?」

 

斎藤くんと中野くんは状況をまだ理解できていなかった。今のうちに槍を回収する。

 

「あがぁぁぁぁ!………くっそ!南雲ぉぉぉぉ!」

 

鼻の骨が折れてしまったのか、鼻血をポタポタと垂らしながら立ち上がってくる檜山くん。再び襲ってきそうな雰囲気だったが、

 

 

「何やってるの⁉」

 

 

一人の女の子の、怒気を孕んだ声が響き渡った。

 

その声に「やばい!」という顔をする檜山くん達。

 

 

なぜならその声の主は、彼らが惚れている白崎さんだったからだ。

 

その後ろには八重樫さんや坂上くん、天之河くんにメルドさんもいる。

 

まあ当然だろう、あれだけ魔法を使って爆音を鳴らしていたのだから。何事かと見に来るのが普通だ。

 

 

こうなると、慌てるのは檜山くん達だ。自分たちの方から僕に手を出したのに返り討ちにあっているのだから。

 

「南雲君大丈夫?怪我は無い?」

 

「うん?大丈夫だよ。それよりも、あそこで蹲ってる近藤くんを治してあげて。たぶん重症だ」

 

「え……あ、うん。わかった」

 

白崎さんが僕のもとに駆け寄ってきてくれたので、自分は平気だと伝え近藤くんの治療を頼む。

 

白崎さんは僕が平気なことに驚いていたが、近藤くんの状態を伝えたら彼の方へと走っていった。

 

「さて、どういう事だ、何があったんだ?南雲」

「詳しく聞かせて頂戴」

 

白崎さんが治療を始めると、メルドさんと八重樫さんが事の顛末を尋ねてきた。

 

ごまかす理由も無いので今あったことをありのまま話した。

 

「檜山くん達が稽古と称して4人がかりで襲ってきたので、応戦してただけです。そしたら斎藤くんと中野くんが撃った魔法が近藤くんに当たって倒れました。その後、近藤くんを僕だと思い込んだ檜山くんが彼を攻撃しようとしたので止めました」

 

「………一人で4人を相手にしていたのか?」

「はい」

 

「………南雲君が?」

「うん」

 

「………そのステータスでか?」

「はい」

 

メルドさんと八重樫さんが交互に尋ねてくるので全部肯定する。

 

二人とも僕が言ったことが信じられないのか呆けた顔をしている。

 

「じゃあ彼らが負傷しているのは、彼らの自業自得………」

「何を被害者面しているんだ南雲!今すぐ檜山達に謝れ!」

 

 

……………………え?

 

 

何を言っている?ちょっと意味が分からない。

 

僕らが話しているところに天之河くんが割り込んできたが、そこまでは良い。そこまではわかる。

 

だがその後だ、その後何を言ったのか全然わからない。

 

 

被害者面? 誰が?

 

謝れ? 誰に?

 

メルドさんも八重樫さんも、治療しつつ僕らの話を聞いていた白崎さんも意味がわからないという顔だ。坂上くんでさえ「え?これそういう話か?」みたいな顔をしている。

 

「檜山達は、誰よりも実力が低い君を気遣って一緒に訓練をしていたんだろう!そんな彼らに対して襲われた?近藤が重傷を負ったのは自分のせいでは無い?ふざけるな!恥を知れ!自分の弱さを棚に上げて、彼らの心遣いも理解せず、自分は関係ないなどと!よくそんなことが言えるな!」

 

(うわぁ~~~そういう解釈するの?)

 

呆れて言葉が出ない。一部始終すら見ていないのだから、僕の言葉を全部信じることはできないとしてもその解釈はないだろう。

 

メルドさんも頭を抱え、八重樫さんも「また始まった」といった表情だ。

 

「檜山達は手加減して君の訓練に付き合っていたはずだ。だが君はそれを弁えず彼らを攻撃したんじゃないのか?傷ついた彼らの様子を見れば誰が見たってわかる!」

 

 

もう嫌だ、この人。

 

 

自分で矛盾した事言ってるの気づいていないのか。天之河くんはさっき僕が誰よりも弱いと言った。

 

その僕が、どうやったら彼らをボコボコにできるんだ。実際ボコボコにしたけども。

 

内心ツッコミを入れつつも、相手をするのが面倒になってきた。だが天之河くんを面倒とは思っていない人物がいた。

 

そう、檜山くん達である。

 

「そうだ、天之河の言うとおりだ!俺らはただ南雲のために稽古をつけてやろうと思っただけなのにさぁ、なんか俺らが全部悪いとか言ってるじゃん。酷いよな~南雲は」

 

今の状況で檜山くん達が天之河くんの言葉に便乗すれば、もうダメだ。

 

もはや天之河くんは自分の考えを疑うことも、撤回することも決して無い。

 

「彼らもこう言っている!南雲、君は彼らの優しさを跳ね除け、踏みにじった。そのことに関してしっかりと謝罪すべきだ」

「…………………はぁ」

 

溜息しか出てこない。

 

なんかもう気持ち悪くなってきた、天之河くんの言い分に、天之河くんの考えに。

 

見かねたメルドさんが仲裁に入ってくれた。

 

「そこまでだ、天之河。この件は俺が預かる。………それよりも、これから全体演習の時間だ。天之河と坂上は先に戻って他の教官達に訓練を始めておくように伝えてくれ。こいつらには俺から言っておく」

 

「しかし………はい、わかりました。メルドさんがそう言うなら」

 

「???まあ……はい」

 

天之河くんは最初こそ不満そうな顔だったが、渋々メルドさんの言葉に従った。それに続く坂上くんだが、彼は終始?を浮かべ続けていた。

 

去り際天之河くんは僕の方に視線を向けていたが気にしない。今回の件に関しては、天之河くんは全く関係が無いのだから。

 

 

その後メルドさんは檜山くん達からも事情を聞いていた。

 

檜山くん達は口々にあれこれと訴えていたが、話を聞き終わったメルドさんに先に訓練に向かうよう促されていた。

 

檜山くん達も去り際に僕の方を見ていたが、その眼からははっきりと怒りや憎悪が宿っているのがわかった。

 

「さて……すまなかったな南雲、お前を庇ってやれなくて」

 

「い、いえ!そんな、メルドさんは何も悪くないですよ。檜山くん達に絡まれたのは僕ですし、天之河くんの言葉に反論しなかったのも僕ですから」

 

メルドさんが謝ってきたので、慌ててそんな事は無いと伝える。実際メルドさんは何も悪くない。

 

むしろ僕は感謝している。あの状況で待ったをかけて、場を収めてくれたのだから。

 

「でも、メルドさんは、その………実際どうだと思っているんですか?」

 

正直あの場を収めてくれたからこそ、気になっていた。メルドさんは今回の事をどう思っているのだろう。

 

もしメルドさんも天之河くんと同じような考えを持っていたら、割とショックだ。

 

「うん?そりゃあ、お前の言い分が正しいだろうな」

 

当然だろうと言いたげな表情でメルドさんは言った。

 

「まず4対1で稽古をつけようとした時点で檜山達に非がある。そんなものは稽古とは言わん。それにあいつらはお前が魔法で攻撃してきたなんて言っていたが、お前が魔法を使えないことは知っている。結界師ゆえ結界を張ることはできるが、魔法陣を描いて魔法を撃つことができないことは教官の間では周知のことだ」

 

檜山くん達、何か色々言ってるなと思ったがそんなこと言ってたのか。なんでそんなすぐバレる嘘を。

 

余程僕に罪を擦り付けたかったらしい。

 

「あとあいつらが訓練中、頻繁にお前に絡んでは嘲り侮蔑し邪魔をしているのは知っていた。その都度注意はしていたが、わかったと言いながらもあいつらは懲りずにお前にちょっかいを出していた。その時点であいつ等の言葉を信じる謂れは無い。さらに言うと、お前が毎日必死に槍術の特訓をしていることを、俺達教官はみんな知っている。槍術の型を学び、繰り返し反復していることをな。だから檜山達に比べればお前の方がよっぽど信頼できる。職業柄、訓練への身の入れ方でどんな奴かは大体わかるからな」

 

 

メルドさんが、僕が槍術の型を反復していることを知っているとは思わなかった。しかも面と向かって信頼できるなんて言われたら、なんだかこそばゆい。

 

「……そうですか。ありがとうございます。……良かったです」

 

メルドさんにお礼を言う。だが、同時に途轍もない罪悪感が襲ってくる。

 

(すいません、メルドさん。僕はまだ、あなたに話していないことがある。隠していることがある)

 

僕は自分の本当の力をメルドさん達に伝えてはいない。

 

元の世界においては、一般人に自分の異能について話すことは、有事の際を除いて禁じられている。

 

メルドさんは騎士団長であるため一般人ではない。だが元の世界の異能については全く知らないのだ。

 

その点では一般人と同義だ。故に、まだ話してはいない。

 

(その時が来たら、すべて話します)

 

心の中で謝りつつ、この場に残ったメルドさん、八重樫さん、そして白崎さんと共に訓練場へ移動する。

 

「ねぇ南雲君、いつもあんな事されてたの?」

 

移動中白崎さんが尋ねてきた。

 

「ん?まあ、今日みたいに武器とか魔法とかを使ってあからさまに攻撃されたのは初めてだよ」

 

「あからさまにってことは今までも似たようなことはあったんでしょう?どうして一言も言ってくれなかったの⁉」

 

この二週間、手が滑ったとか言って武器を振るってきたり、狙いが逸れたとか言って魔法を撃たれたりしたことは何度もあったが全部紙一重で躱していた。

 

ただ、そんなことをはっきりと言う訳にもいかず、笑ってはぐらかした。

 

「…あはは。まあ、いつもって訳じゃないし、特に問題も無かったから」

 

はぐらかしたものの、問題が無かったのは事実だ。

 

それでも納得できなさそうな白崎さんだったが、渋々引き下がってくれた。

 

「南雲くん、何かあれば遠慮無く言ってちょうだい。香織もその方が納得するわ」

 

渋い表情の白崎さんを横目に、八重樫さんが苦笑いしながら、けれど少し心配そうな顔でそう言った。

 

「………ありがとう。じゃあ()()()()()()、その時は言うよ」

 

 

そう言って、僕はこの話を終わらせた。

 

 




いかがでしたでしょうか。楽しんで頂けましたか?
ハジメが槍術師よりも槍術師してしまいましたが、私としてはハジメにはこれくらいやってほしいと思っています。ただ、結界術無しでこれですから、結界術を使ったらどうなるんでしょうね。

ハジメが近藤を背負い投げするのは、ドラゴンボールとかでよくある羽交い絞めの対処方です。ここはもう少しわかり易く書きたかったのですが、言葉が思いつきませんでした。

それと、ここで訂正させて頂きたいのですが、第三話でイシュタルがハジメのクラスメイトは、常人の数十倍から数百倍の力が宿っていると言っていますが、正しくは数倍から数十倍です。原作を誤読していました。
第三話の方も訂正しておきます(2020.5.15)


次はいよいよ迷宮回です(たぶんベヒモス登場まで?)。

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