ありふれない結界師は比較的優秀   作:灰色パーカー

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ベヒモスまで書くと言ったな、あれは嘘だ




6.深夜の訪問者

 

白崎さん達と共に訓練場に着くと、やはり全体演習は始まっていた。

 

遅れてきた僕らに対する皆の反応は様々だった。遅れてきたことに対して心配する人や不審そうな目を向ける人、無能な僕が来たことに軽蔑する人など。

 

だが皆の反応を見るに、どうやら天之河くんや檜山くん達はさっきの騒動を皆に話してはいないようだ。

 

これには少し驚いた。檜山くん達はともかく、天之河くんは当然話しているものだと思っていた。

 

檜山くん達の場合、話したとしても皆には笑って流されるか、逆に自分たちが無能のレッテルを張られてしまいかねない。だから彼らが話していないのはわかるのだが……

 

天之河くんの場合、僕が如何に人として間違っているかとか、僕のようには決してなってはいけないとか、もしくはこの世界に来て一層おかしくなった僕を皆で更生させようとか、見当外れな事を言ってそうだったのだが。

 

 

多少引っかかるものの、切り替えて演習に参加する。そう簡単には結界術を使う訳にはいかないので、それ以外の方法で戦えるようにしておかなくてはならない。

 

状況に応じた陣形の組み方など覚えることも多いのだ。他の事を考える暇はない。

 

 

 

~数時間後~

 

 

全体演習も終わり普通なら夕食まで自由時間なのだが、今日はメルドさんから伝えることがあると呼び止められた。

 

「明日から、実践訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。今までの王都外での魔物との実践訓練とは一線を画すと思ってくれ!要するに気合入れろってことだ。今日はゆっくり休めよ!では、解散!」

 

(大丈夫か?こんなに早く遠征になんか行って)

 

一抹の不安を覚えるが、メルドさん達が既に決定してしまっているのでどうしようもない。

 

 

せめて本当に危ない状況にならないことを祈ろう。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

オルクス大迷宮は全100層からなる、七大迷宮の内の一つであるという。

 

この迷宮は層が深くなるにつれて魔物が強くなるものの、階層ごとに魔物の強さを測りやすいという利点があるため冒険者や傭兵、新兵の訓練には非常に人気だそうだ。

 

僕らは今、メルドさん率いる騎士団員複数名と共に【オルクス大迷宮】に挑戦する者のための宿場町【ホルアド】にいた。

 

この町には王国直営の宿があり、僕はその宿の一室にいる。

 

他の皆は二人一部屋なのだが、どういう訳か僕だけ一人部屋だった。

 

明日から早速迷宮に潜り、実践訓練を行うそうだ。今回の遠征では、進んでも二十階層までらしい。

 

メルドさん曰く、

「いくら南雲がステータスに見合わない戦闘が可能だとしても、本職の戦闘員に比べればやはり心もとないからな。二十階層までなら、お前をカバーしながらでも十分全体を機能させられる」

 

とのことだ。初めてなのだから何もそこまで進まなくていいのではと思ったが、口には出さなかった。

 

 

 

 

夜も更け、槍の手入れをもう一度して寝ようかなんて考えていると、部屋のドアをノックする音が響いた。

 

(誰だ?こんな時間に)

 

妖退治をずっと務めていた僕からすれば大したことは無いが、他の人にとっては十分遅いと言っていい時間だ。

 

よっぽど大事な話か、それとも厄介ごとか……なんて考えていると、

 

「南雲君、起きてる?白崎です。ちょっといいかな?」

 

なんて声が聞こえた。どうやら訪問者は白崎さんのようだ。厄介ごとでは無かったので一先ず良かったが、何の用だろうか、こんな時間に。

 

「はーい、起きてますよ~何か用事……です…か?」

 

待たすのも悪いと思って急ぎドアを開けると、純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの白崎さんが立っていた。

 

「…………………」

 

絶句した。なんて格好しているんだこの人は。羞恥心とか無いのか。白崎さんの天然ぶりには本当に驚かされる。

 

「???」

 

ドアを開けたまま何も言わない僕を見て、白崎さんはキョトンとしていた。

 

「……あぁ、ゴメン。で、どうかしたの?何か用事?」

 

とりあえず要件を聞くことにする。できるだけ白崎さんの服装を見ないようにしながら。

 

「ううん、その、少し南雲君と話したかったから・・・やっぱり迷惑だったかな?」

 

 

まぁ、もう寝ようとしていたし、そもそもこんな時間に会いに来るのがおかしいので迷惑かと聞かれればそうなのだが・・・

 

「・・・・・・・どうぞ」

「うん///」

 

白崎さんを部屋に招いた。そうせざるを得なかった。なんとも嬉しそうに部屋に入っていく白崎さんだが、何がそんなに嬉しいんだ?

 

ティーパックのようなものでお茶を入れ、窓際のテーブルに座った白崎さんに差し出し、彼女の向かいに座る。

 

「ありがとう」

 

そう言ってお茶を飲む彼女の姿は、まるでおとぎ話に出てくる天使のようだった。

 

月明かりに照らされた相貌と、漆の光沢のようにきれいな髪はとても神秘的で、クラスの、いや学校の男子が彼女を女神と崇める理由が少しだけわかった気がする。

 

彼女がお茶を飲み終わったタイミングで要件を聞く。

 

「それで、話したいことって何?・・・明日の事?」

「・・・うん」

 

そういうと、白崎さんはさっきまでの笑顔が嘘のように暗く思いつめた表情になった。

 

「明日の迷宮での訓練だけど……南雲君にはこの町で待っていて欲しいの!メルドさん達やクラスの皆は私が必ず説得する!だから、お願い!」

 

白崎さんは話しているうちにどんどん身を乗り出して懇願してきた。いきなりそんなことを言われても困る。

 

「ちょ、ちょっと待って!落ち着いて!・・・それは、足手纏いだから来るなってこと?」

「違うの!足手纏いだからとかそういう事じゃないの!」

 

違った。白崎さんは慌てて弁明する。では何だというのだ。何故そこまで町に残って欲しいのだろうか。

 

 

白崎さんは深く深呼吸をし、ゆっくりと話し出した。

 

「あのね、なんだか凄く嫌な予感がするの。さっき少し眠ったんだけど・・夢を見て・・・・そこには南雲君も居たんだけど・・・声を掛けても全然気づいてくれなくて・・・走っても全然追いつけなくて・・・・それで最後は・・・」

 

その続きを話すことを恐れるように押し黙る白崎さん。数秒置いて白崎さんは、泣きそうな表情で顔を上げた。

 

「消えてしまうの」

 

そう言って俯いてしまう白崎さん。余程その夢が怖かったのだろう、彼女は僅かに震えていた。

 

だがこっちとしてはそれどころでは無い。

 

「怖っ!え、何?白崎さんって未来予知できるの?」

「・・・え?」

 

震えていた白崎さんだったが、僕の反応が思いのほか大きかったのかびっくりしている。

 

「ていうか消えるって何!?怪物か何かに食べられるの?崖から落ちるの?それとも流れ弾に当たって爆死⁉さすがにそんな死に方は嫌なんですけどー!」

 

勢いよく椅子から立ち上がり、頭を抱えて絶叫する。

 

「ちょ、南雲君落ち着いて!」

 

白崎さんが慌てて落ち着くように促してくる。

 

思いのほか取り乱している僕を見て驚いていたが、あたふたしながらも僕を必死に宥める彼女は、もう泣きそうな顔も、体の震えも無くなっているようだった。

 

()()()()()()、椅子に座る。

 

 

「できないよ、未来予知なんて。さっき言った通り夢で見ただけ・・・でも、やっぱり怖くて・・・」

 

「・・・その夢って危ないのはむしろ白崎さんの方なんじゃ?」

 

「え?」

 

「だって声も届かず、追い付けもせず最後には僕が見えなくなるんでしょ?・・・やっぱり危ないのは白崎さんなんじゃない?」

 

「な、なんで?」

 

「だって僕は明日、全体の最後尾に配置されるんだよ?つまり僕が一番後ろってことは、僕の前にはクラスの皆がいるんだよ。それで僕に追い付けないなら、僕以外の皆にも追い付けないってことでしょ?てことは白崎さんだけが置いて行かれてるってことになるわけで・・・」

 

「あ・・・」

 

ここまで来て白崎さんも僕が言いたいことがわかったらしい。

 

つまり、遠ざかっているのは僕ではなく白崎さんではないのかということに。

 

「いや、でもあれは・・・」

 

言いたいことはわかってくれたようだが、やはり納得はいかないらしい。

 

「夢なんてそんなもんだよ。見方を変えるだけで色々な理解の仕方ができる。結局、迷宮に潜るっていう時点で、僕や白崎さんだけに限らず皆危ない目に合う可能性はあるんだよ」

 

「でも・・・」

 

「ここにはメルドさん達騎士団の人達、強力なステータスや技能を持つクラスの皆がいる。もし何か起きても、皆が力を合わせることができれば何とかなるよ。それにさ・・・」

 

「・・・・それに?」

 

目を閉じて一拍置き、微笑みながら白崎さんの目を見て告げる。

 

「白崎さんやみんなが思っているほど、僕は()()()()()

「!」

 

僕の言葉に白崎さんは驚いていた。

 

当然だ。ステータスが低く、魔法も使えず、まともに戦うことすらできない僕が“弱くない”なんて言っても強がりにしか聞こえないだろう。

 

 

だが事実だ。もし本当に死にそうになっても、何とかできるだけの力は持っている。

 

だからこそ、自信をもって白崎さんに伝えたのだ。取り繕った、上っ面な言葉ではなく、本心からの、ありのままの言葉を。

 

「・・・そっか、そうだよね。南雲君は()()()強いもんね」

 

そういって、クスクス笑いだす白崎さん。なんか思ってた反応と違う。

 

「南雲君は、私と会ったのは高校に入ってからだと思ってるよね?でもね、私は、中学二年の時から知ってたよ」

 

え、そうなの?会ったことあるっけ?全く身に覚えがない。

 

まさか結界師としての僕を知っているのか?なんて少し焦っていると、また白崎さんはくすりと笑っていた。

 

「私が一方的に知っているだけだよ。・・・私が最初に見た南雲君は土下座してたから、私のこと見えてなかっただろうから」

「は?土下座!?」

 

なんて恥ずかしいところ見られてるんだ。

 

いつだ?中二の時に土下座なんてしたか?全然覚えていない、やばい本当に恥ずかしい。そんな僕の気持ちを知ってか知らずか白崎さんは話を続ける。

 

「うん。ちょっと怖そうな人たちに囲まれて土下座してた。蹴られたり、踏まれたりしてたけど、それでも止めなかったの。そのうち怖そうな人たちも呆れて帰っちゃった」

「そんなカッコ悪いところを見られていたとは・・・」

「ううん、カッコ悪くなんて無いよ。むしろ私はアレを見て南雲君のこと、すごく強くて優しい人だなって思ったもの」

「・・・はぁ?」

 

いよいよ話がわからなくなってきた。土下座しながら蹴られたり踏まれたりしているのが優しいって何だ?

 

「だって南雲君、(ほこら)が壊されないように必死に頭を下げていたんだもん」

 

 

・・・ああ、そうか。あの時のことか。

 

 

ようやく思い出した。たしかに中二の時に一度土下座をしたのだった。

 

あれは、前日の妖退治で御池鳩公園に忘れ物をしたため学校帰りに取りに行った時だ。

 

夜に回収すればよかったのだが、誰かに拾っていかれても困るので、夕方に一度御池鳩に行ったのだ。

 

そしたら公園内の割と奥の方にある小さな祠を高校生くらいの不良が壊そうとしていたのだ。

 

その祠には御池鳩の主の御神体が祀られている。

 

もちろん本体がそこにあるわけではない。あくまで木彫りの御神体があるだけだ。

 

その御神体は御池鳩の主が封印された時に、開祖が彫り置いていったらしい。詳しいことはわからないが、非常に大事なものであるため壊されるわけにはいかなかった。

 

ただ、結界術で撃退する訳にもいかなかったので、土下座をするしかなかった。

 

その不良たちは単純に何かに当たりたいだけに見えたので、土下座をすれば僕に意識が集まるだろうとの考えだった。

 

案の定彼らは、僕を蹴るだけ蹴って帰っていった。

 

普段は祠に人払いの御札を張り付けて一般人が近づかないようにしているのだが、その御札は定期的に張り替えなければならなかった。

 

それを僕がすっぽかしていたために招いた事態だったので、土下座する羽目になったのも不良に暴行を受けたのも自業自得でしかなかった。

 

だから情けない思い出として忘れていたのだった。

 

「強い人が暴力で解決するのは簡単だよね。光輝君とかよくトラブルに飛び込んでいって相手の人を倒してるし・・・でも、弱くても立ち向かえる人や自分以外の何かを守るために頭を下げられる人はあんまりいないと思う。実際あの時、私怖くて・・・自分は雫ちゃん達みたいに強くないからって言い訳して、誰か助けてあげてって思うばかりで何もしなかった」

 

 

それが普通だ。白崎さんの対応を責める人は誰もいない。

 

誰だって自分からトラブルに首を突っ込もうとは思わない。天之河くんみたいな人は別だが。

 

「だから、私の中で一番強い人は南雲君なんだ。だから、高校に入って南雲君を見つけたときは嬉しかった。・・・南雲君みたいになりたくて、もっと知りたくて色々話し掛けたりしてたんだよ?南雲君すぐに寝ちゃうけど」

 

「あ、あはは・・・なんか、ごめんね」

 

(ごめんなさい。土下座の件は僕の自業自得なんです。あなたが思っているような強さは僕持ってません)

 

図らずも白崎さんが僕に構ってくる理由がわかり、長い間気になっていた疑問が氷解した。

 

だが予想外の高評価を受けていたことには、そんな事無いのだと苦笑いしながら謝辞を述べる。

 

「だからかな、不安になったのも。迷宮で南雲くんが何か無茶するんじゃないかなって・・・怖い人たちに向かっていった時みたいに・・・・・でも、うん!」

 

白崎さんは決然とした、不安も恐怖も無い真っすぐな目で言った。

 

「南雲君は強いから、きっと・・・大丈夫だよね!」

 

どうやら夢で見た不吉な予感は振り払えたらしい。良かった、柄にもなく慌てふためく演技までした甲斐があった。

 

下手したら余計に不安にさせてしまう恐れもあったけど。

 

 

「でも、もしも・・・本当に危なくなった時は、その時は、私が南雲君を守るよ」

「え?」

 

てっきりさっきので話は終わりだと思っていたのだが、白崎さんは更に話を続けた。

 

守る?僕を?

 

「私の天職は“治療師”だから。誰かの傷を治すことに限っては、誰にも負けないから。もし南雲君に何かあっても、私が必ず治すから!・・・必ず南雲君の命を守ってみせるから!」

「・・・そっか」

 

 

なんと力強く、決意の籠った言葉だろうか。これが先日まで異能を知らなかった人の言葉だろうか。

 

これを聞いて「いや、間に合ってます」などと言える人がいるだろうか?

 

いるはずが無い。ここで断れば、それこそ彼女の心を踏みにじることになる。

 

 

「・・・じゃあ、その時はお願いします。・・・まあ、そうならないのが一番だけど」

「ふふっ、そうだね//」

 

 

僕が笑ってそう言うと、白崎さんもつられて微笑む。その後、しばらく談笑して白崎さんは自室に戻っていった。

 

 

僕はベットに横になりながら、白崎さんとの話を思い出していた。まさか中二の時から僕を知っていたとは・・・

 

まあ、結界師としての僕を知っている訳ではなさそうだったので良しとしよう。割とすぐバレそうだけど。

 

もう寝よう、明日も早い。

 

“弱くない”なんて言った手前、ちゃんと戦えなければ話にならないのだから……

 

 

 

~白崎side~

 

 

自室に戻りながら、私は南雲君が言った言葉を思い出していた。

 

 

“みんなが思っているほど僕は弱くないから”

 

 

南雲君がそう言ったとき、彼が()()()()に見えてしまった。

 

そんなはずはない。あの場にいたのは紛れもなく彼だ。

 

いつも始業時間のギリギリに登校してきては、ほとんどの授業で熟睡している彼だ。クラスの皆に何を言われても、何でも無いかのように笑っている彼だ。

 

 

そのはずだ、彼以外の何者でも無いはずだ。

 

それなのに、どうしてもあの時の彼を、私を安心させようと優しく微笑んでくれていた彼を、いつもの彼とは思えなかった。

 

まるで彼の中に()()()()()()()()()、私が知っている彼が()()()()()

 

そんな錯覚さえ抱いてしまうほどに・・・

 

けれど、不気味さは感じなかった。怖いとか恐ろしいとか、そういった感情は無かった。

 

あるのはただ、()()()だった。彼なら何があっても何とかしてくれるだろうという期待にも似た何か。

 

 

最初南雲君の部屋を訪れた時、不安でどうしようも無かった。ただの夢であるはずなのに、体に纏わりつく言い知れぬ不安があった。

 

だが、あの時の彼の眼は、そんな嫌な気持ちを吹き飛ばしてくれた。彼の眼が私の中の不安を無くしてくれた。

 

 

そうだ、彼は以前から・・・初めて見たあの日から、ずっと強い男の子なのだ。心が強い男の子なんだ。

 

私はまた甘えてしまった。あの日、彼が土下座をしてまで祠を守っていた時と同じように、彼の強さに甘えてしまった。

 

南雲君のようになりたいなんて思っている癖に、結局怖がるだけで、何もしなかった。

 

・・・そうだ、このままじゃダメなんだ。今のままじゃ何も変わらない。

 

彼のように、何かに立ち向かうために、一歩踏み出さなきゃいけないんだ。

 

 

そう思って、決意して、伝えたんだ。私が守るって。どんな怪我をしても必ず助けるって。

 

それを聞いた彼は微笑みながら言ってくれた。守ってくれと、頼んでくれた、任せてくれた。

 

嬉しかった、とても、とても……

 

もう、逃げない。怖くても、不安でも、南雲君みたいに一歩踏み出すんだ

 

 

 

きっと、これが私の()()()()()()()

 

 

 




前書きでも書きましたが、ベヒモスまで書けませんでした。
香織とハジメのやり取りが思いのほか長かったですね。

次こそは、ベヒモス登場まで書きたいです
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