ありふれない結界師は比較的優秀   作:灰色パーカー

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ベヒモス登場(登場だけ)

割と駆け足です。


7.迷宮の罠

現在僕らは【オルクス大迷宮】の中を、隊列を組んで進んでいた。

 

メルドさんを先頭に幅5m程の通路をぞろぞろと歩いていると、開けた場所に出た。

 

ドーム状に天井が広がり、高さも10m弱ありそうだ。

 

すると、壁の隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。次から次へと出てくるのでかなり気持ち悪い………

 

 

「よし、光輝達が前に出ろ、他は下がれ!交代で前に出てもらうからな、準備しておけ!あれは、ラットマンという魔物だ。素早いが大したことは無い。冷静にいけ!」

 

天之河くんと坂上くん、八重樫さんが前衛で迫りくるラットマンを迎撃し、後衛の白崎さんと彼女と特に親しい女子二人、谷口さんと中村さんが魔法を撃つための詠唱を始める。

 

訓練通りの動きで天之河くん達はラットマンを殲滅していく。まあ、後衛の3人が撃った魔法の威力はあきらかに過剰だったが……

 

他の皆も交代しながらラットマンを次々に倒していく。

 

ただ、余り物の僕だけは他の騎士団の方と、後方から来るラットマンを相手にしていた。

 

ずっと、というわけでは無いが時折騎士団の人の間を負傷しながらも抜けてくる個体がいたので、そいつを槍で倒していた。

 

(絶対わざと通してるよな?)

 

なんて疑問を持ちつつも、問題なく倒していく。

全員がラットマンとの戦闘を終えると、メルドさんはどんどん下の階層へと降りていく。

 

他の皆もなまじ能力が高いだけに、特に苦戦もせずについていく。

 

もっとも、これだけスムーズに降りていけるのも騎士団の人達が“フェアスコープ”とやらで道中のトラップの有無を瞬時に判別してくれているおかげでもある。

 

メルドさんにもトラップの確認が出来ていない場所には決して行くなと強く言われている。

 

 

「よし!お前達、ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が出現するからな!今まで楽勝だったからって気を抜くなよ!今日はこの二十階層で訓練をして終了だ!気合入れろ!」

 

メルドさんの言葉に皆、気を引き締める。皆数人ずつでパーティを組んで魔物に対峙していたが、相変わらず僕だけは騎士団の方達と後方で魔物に対処していた。

 

 

(なんか学校でペアワークをするときに、一人あぶれて先生と一緒にやってる感じだ……)

 

なんて考えていると、また騎士団員が魔物を一体こちらに通してきた。

 

わざと通すくらいなら倒しといて欲しいのだが、そんな文句を言う訳にもいかず槍を構える。

 

(…少し距離があるし、試してみようかな、結界)

 

試すと言っても、間流結界術では無い。こっちの世界で習った“トータス流の結界術”だ。

 

トータスの結界術にはいくつかの種類がある。

 

自分の魔力と魔法陣を利用するタイプと、魔力ではなく道具を使うタイプである。

 

道具を使う結界の基本は「点と線」だ。対象の周りに道具を用いて“点”を打つ。そして打った複数の点を“線”で繋ぎ結界を形成する。

 

“点”が多ければ多いほど、より複雑に“線”が繋がり強力になる。

 

ただこのタイプの結界は、刻一刻と戦況が変わる実戦では使われることは無いという。

 

“点”を打つ時点で敵が別の場所に移動してしまったり、先に攻撃を食らってしまうからだ。

 

 

だが、今のこの状況では使用するのに問題は無い。通路の狭さ故に魔物は直進しかできず、魔物との距離故にこちらの作業の方が早く済む。

 

「よっと!」

 

腰に差していた苦無を二本、数m先の通路の端に投擲する。その間を魔物が通り抜けるのを確認し、自分の足元に三本目の苦無を刺す。

 

すると三本の苦無を“点”として“線”が結ばれる。

 

曲線で苦無が結ばれ円となり、さらにその円の中で苦無の三点が直線で結ばれる。

 

こうして三本の苦無を起点とした円の中に逆三角形が描かれた結界が形成される。

 

「グウォォ!」

 

こちらに突進して来ていた魔物だったが、結界の壁に阻まれ呻き声をあげる。

 

突進の威力が大きかったらしく結界に小さな亀裂が入るが、魔物の動きを止められればそれでいい。

 

間髪入れず、槍で魔物の脳天を貫く。

 

「グギャァァ」

 

断末魔を上げながら魔物は絶命していった。

 

 

その後ろを見ると騎士団の人達が「おお~」みたいな顔をしてこちらを見ていた。

 

(そんな感心するくらいなら魔物を通さないでよ)

 

 

これくらいならアイツでも倒せるだろうと思って通すなら良いけど、感心するくらい驚くなら、通さないでほしい。

 

もし僕が対処できなくて、皆の方に行ったらどうするんだ。

 

 

===============

 

小休止に入り、壁に背を預けて座っていると白崎さんと目が合った。

 

白崎さんはニコニコ笑いながらこちらに軽く手を振っているが皆がいる手前、手を振り返すわけにもいかず会釈だけして目をそらす。

 

「はぁ~、香織?なに南雲君と見つめ合ってるのよ?迷宮の中でラブコメなんて随分と余裕じゃない?」

 

「もう、雫ちゃん!変な事言わないでよ!私はただ、南雲君大丈夫かなって、それだけだよ!」

 

(そんな会話してる時点で二人とも気が抜けてるんだよな………)

 

 

八重樫さんと白崎さんの会話を小耳にはさみながらそんな事を考えていると、何処からか嫌な視線が向けられて来た。

 

ドロドロした気持ち悪い視線。もう何処から向けられているか確認したくも無い。

 

今朝から度々向けられてくるこの視線。反応するのも嫌になる。もう放っておこう。

 

 

 

二十階層の奥は鍾乳洞のような造りになっていた。この先に二十一階層への階段があるらしく、そこまで進んで今日の訓練は終了するとのことだ。

 

若干弛緩した空気の中、先頭を行くメルドさんや天之河くん達が立ち止まった。

 

「擬態してるぞ!周りをよーく観察しておけ!」

 

メルドさんがそう言った直後、前方の壁の色が変色し擬態していた魔物が現れた。

 

胸を叩きドラミングするその姿はまさにゴリラのようだった。

 

「ロックマウントだ!二本の腕に注意しろ、剛腕だぞ!」

 

天之河くん達が相手をしていたが、鍾乳洞のような地形のせいでうまく戦えないらしい。

 

するとロックマウントが突然後退し、大きく息を吸った。

 

(あ、やば)

 

ロックマウントが何をしようとしてるか理解した僕は咄嗟に耳を塞ぐ。直後、

 

「グゥガガガァァァアアアーーーーーーー」

 

部屋全体に強烈な咆哮が響き渡る。後方で、かつ耳を塞いでいた僕は無事だったが、前衛の天之河くん達は硬直してしまっていた。

 

ロックマウントはその隙に突撃してくると思ったのだが、傍らにあった岩を持ち上げて後衛の白崎さん達に向けて投げつけた。

 

白崎さん達は魔法で迎撃しようとするが、すんでの所で硬直してしまう。

 

 

投げられた岩もロックマウントだったらしく、空中で一回転し両手を広げて白崎さん達に迫っていく。

 

(なんかどっかで見たことあるな、あのポーズ…………)

 

のんきなことを考えていたが、白崎さん達にとっては一大事だ。

 

そうとう気持ち悪いらしく、白崎さん達は「ヒィ!」と悲鳴を上げて、固まっている。

 

「こらこら、戦闘中に何をやっている!」

 

 

慌ててメルドさんがダイブ中のロックマウントを切り捨てる。

 

白崎さん達は「すいません」と謝っているが、まだ顔が青ざめていた。

 

そんな彼女たちを見て怒りを露わにする者が一人。

 

「貴様………よくも香織達を……許さない!」

 

 

そう、天之河くんである。彼の怒りに反応してか彼の持つ聖剣が輝きだす。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れー【天翔閃】!」

 

「あ、こら!馬鹿者!」

 

「ダメだ、天之河くん!」

 

メルドさんの言葉を無視し、天之河くんは聖剣を振り下ろす。

 

僕も思わず声を上げるがもう遅い。聖剣に宿った強烈な光は斬撃となってロックマウントを粉砕する。

 

だがそれだけでは終わらず、聖剣の光はロックマウントの更に奥の壁をも破壊する。

 

衝撃で部屋全体が大きく揺れ、パラパラと天井の破片が、落ちてくる。

 

(危なっ!生き埋めにする気か彼は!?)

 

「ふう~」と息を吐き笑顔で振り返る天之河くんだが、メルドさんに拳骨を食らう。

 

「へぶぅ⁉」

「この馬鹿者が!こんな場所で使うような技じゃないだろう!崩落でもしたらどうするんだ!」

 

メルドさんのお叱りにバツが悪そうな顔をする天之河くんだが、白崎さん達に苦笑いされながら慰められていた。

 

 

その時、白崎さんが崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「………あれ、何かな?キラキラしてる………」

 

 

白崎さんの言葉に、全員が彼女の指さす方向を見る。

 

そこには青白く発光する鉱物が、まるで花のように壁から生えていた。

 

その美しい姿に白崎さん含め女子全員がうっとりとした表情になった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ、珍しい」

 

 

グランツ鉱石がどれほど凄い物なのかはよく知らないが、メルドさんの口ぶりから察するに相当希少なものなのだろう。

 

「素敵……」

 

白崎さんはメルドさんの簡単な説明を聞いて頬を染めながら、一層うっとりとしている。

 

 

(…どれだけ綺麗に見えてるか知らないけど、警戒を怠っちゃダメでしょ)

 

いくら何でも気を緩め過ぎだ。また魔物が襲ってきたらどうするつもりなのだろう。

 

まだ迷宮の中に居るというのに…………

 

女子だけでなく男子の気も緩む中、僕一人後方で警戒を強めていると、

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

そう言って唐突に檜山くんが飛び出した。彼はグランツ鉱石に向けて崩れた壁をひょいひょいと登っていく。

 

(…え、トラップの確認したの?)

 

そんな疑問を抱いていると、メルドさんが慌てて声を上げる。

 

「こら!勝手なことをするな!安全確認もまだなんだぞ!」

 

安全確認がまだというメルドさんの言葉に不安を覚える。

 

だが檜山くんは聞こえていないのか、はたまた聞こえないふりをしているのか、そのまま登っていく。

 

メルドさんが檜山くんを止めようと追いかけるが、その時、“フェアスコープ”で鉱石のあたりを確認していた騎士団員が最悪の事実を告げる。

 

「団長!トラップです!」

「ッ⁉」

 

遅かった。すでに檜山くんはグランツ鉱石にその手を伸ばしていた。そして彼が鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がり一気に部屋全体に展開される。

 

「くっ、撤退だ!早くこの部屋から出ろ!」

 

メルドさんが大声で皆に撤退を指示するが、間に合わない。部屋中が光に包まれ、僕らは一瞬の浮遊感に襲われた。

 

 

 

 

浮遊感が襲った直後、僕らはドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

 

(痛った…)

 

尻の痛みに辟易しつつも、僕はあたりを確認する。

 

明らかに先ほどまでいた場所ではない。僕以外にもメルドさんや天之河くんなど一部の生徒は周囲を警戒していた。

 

 

ざっと見た感じ僕らは今、石橋の真ん中にいる。

 

100mはあろうかという長さで欄干も縁石も無い橋だった。

 

橋の下には川は無く、あるのはただ真っ暗な闇だけであった。

 

橋の両サイドにはそれぞれ奥へと続く道と、上へと続く階段がある。

 

それを確認したメルドさんは険しい表情で僕らに指示を出す。

 

「お前達、直ぐに立ち上がってあの階段の場所まで行け!急げ!」

 

普段と違い余裕のないメルドさんの指示に、ただならぬ何かを感じわたわたと動き出すクラスの皆。

 

 

しかし皆が動き出したその時、橋の両端に魔法陣が現れる。階段側の魔法陣からは大量の魔物が出現し、反対側の魔法陣からは一体の巨大な魔物が現れた。

 

 

その巨大な魔物を見たメルドさんは唖然としながら、大粒の汗をかきながら言った。

 

 

「……まさか…………ベヒモス、なのか?」

 




いよいよ次回、ハジメが結界術で戦います。
ようやくここまで来た。
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