長くなったので前後編にわけました。
階段側に現れた骸骨の魔物は“トラウムソルジャー”というらしい。
骸骨たちは大量の魔法陣から出現しており、その数は既に百体を超えているだろう。
一方、反対側に現れた魔物、“ベヒモス”と呼ばれたソレはまるでトリケラトプスのような体躯だった。頭部の角に炎を纏いこれまでの魔物とはまるで様子が違う。
「グルァァァァァァアアア‼」
「ッ⁉」
ベヒモスの咆哮で正気に戻ったのか、メルドさんが矢継ぎ早に指示を出す。
「アラン!生徒達をつれてトラウムソルジャーを突破しろ!カイル、イヴァン、ベイル!全力で障壁を張れ!何としてもヤツを食い止めるぞ!光輝、お前達は早く階段に向かえ!」
「待ってください!俺達もやります!あの恐竜みたいなやつが一番ヤバイでしょ!俺たちも………」
「馬鹿野郎!あれが本当にベヒモスなら今のお前達では無理だ!ヤツはかつて“最強”と言われた冒険者でさえ歯が立たなかった化け物だ!さっさと行け!俺はお前らを死なせるわけにはいかんのだ!」
メルドさんの鬼気迫る勢いに一瞬たじろぐも天之河くんは「見捨てては行けない」と指示に従わない。
メルドさんが天之河くんにもう一度撤退しろと伝えようとすると、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。
それを止めようと、王国最高戦力が全力の障壁を展開する。
「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さずー【聖絶】!」」」
三人同時に展開された純白に輝く半球状の障壁。短時間ではあるが何人の侵入をも防ぐ絶対の壁がベヒモスの突進を受け止める。
「くっ!」
衝突による凄まじい衝撃波に襲われ、撤退中の皆から悲鳴が上がる。転倒する者も数多くいた。
階段側に現れたトラウムソルジャーは今まで戦ってきた魔物とは段違いの戦闘力を誇る。
前方に立ちはだかる不気味な骸骨の魔物と、後方から迫ってくる恐ろしい気配にクラスの皆はパニックに陥っている。
隊列など無視して、我先にと階段へと走っていく。騎士団員のアランさんが必死にパニックを抑えようとするが、迫りくる脅威に怯え耳を傾ける余裕も無い。
(まずいな、このままじゃ死人が出かねない。なんとかしたいけど………)
あの骸骨相手でも、皆が訓練通りの動きをすることが出来れば恐らく負けないだろう。
だが、パニックに陥っている今の状況では普段通りの動きなど出来るはずがない。逆に近くにいる誰かを負傷させてしまう恐れがある。
すると、一人の女の子が後ろから突き飛ばされ転倒してしまった。「うっ」と呻きながら顔を上げた彼女の前には、一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。
(まずい!)
誰もあの子が倒れたことに気が回っていない。
このままではあの子が骸骨に殺される。そうはさせまいと、全力で彼女の方へと走る。
~???side~
(あ、死ぬ)
そう思った。誰かに突き飛ばされてしまい転倒した。
転んだ痛みに耐えながら急いで立とうと顔を上げたら、そこには骸骨がいた。
剣を振り上げて私を殺そうとする骸骨の姿が、私の命を奪おうとする魔物の姿が、そこにあった。
なんてあっけないのだろう。ついこの間まで只の高校生で、恐ろしい魔物とか危ない戦いなんかとは縁が無かったのに。
突然よくわからない世界に連れてこられて、訳も分からず戦うことになって。
必死に戦う術を習ったのに、こんな簡単に死ぬの?
………ああ、ダメだ。振り下ろされる剣ははっきりと見えるのに、体が動いてくれない。
きっと誰も私なんて見てない。目の前の骸骨に後ろから来る化け物、そっちに皆意識が向いている。
私だってほんの数秒前までそうだった。立場が逆でも私は助けには行けないと思う。誰も助けてくれないことに文句なんか言えない。
(でも、私はまだ、死にたくない………誰か、助けて……)
誰も来ないとわかっていても、そう望まずにはいられなかった。
もう目の前まで剣が迫っていた。私は目を瞑った。せめて痛みを感じませんようにと……
…………けれど、いつまでたっても痛みは襲ってこなかった。
どうして?どうして痛みが無いの?…………なんで?
もしかして………もう死んでるの?
そう思い、恐る恐る目を開けると………私の目の前に剣があった。
いや止められていた。槍のようなもので骸骨の剣が止められていた。
………誰?こんな状況で、一体誰が?
槍で私を守ってくれたのは誰なのかと、槍の持ち主に目を向ける。
それは、その人は…………
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女の子に振り下ろされた剣を済んでのところで槍を使って受け止める。
「ぐっ!」
さすがに骸骨の力は強く気を抜いたら押し切られてしまいそうだ。
(結界術を使おう!もう掟がどうこう言ってる場合じゃない!)
正直な話、今回の遠征では結界術を使うつもりは無かった。使わなければならないほど危険な状況にはならないだろうと思っていた。
不安ではあったけれど、メルドさん達騎士団の人達がちゃんと安全マージンを取っているだろうと。
事実メルドさん達は二十階層という浅い階層が安全を確保でき、僕らにとっても実りある訓練になるだろうと考えていたはずだ。
ただ、メルドさん達は徹底できていなかった。トラップの危険性をクラス全員に徹底できていなかった。
だから今、迷宮のトラップに引っ掛かり、窮地に追いやられている。
だがそれは仕方のないことだ。武器や魔法と違い、トラップの事は知識としてしか教えることができないのだから。
実体験が伴っていなければ、頭に残ることは難しい。
だから、メルドさん達を責めることはできない。
だがこのような状況では結界術を使わないなどと言ってはいられない。
(まずはコイツを倒す)
結界術を解禁することは決めたが、今のままでは骸骨を囲めない。
骸骨の剣を槍で受け止めているため、両手が塞がっているのだ。
(なら、囲まずに倒す!)
結界術は囲むだけが全てじゃない。身に纏うことだってできるのだ。
僕の場合、下手くそではあるが……
(絶界!)
サァーッと僕の全身を黒い結界、【絶界】が覆う。
本来、絶界とは自分の周りに黒い球状の結界を形成し領域内の自分以外のものを消し去る術である。
ただ僕の場合、身に纏うことしかできず敵を消し去ることもできない。
精々重傷を負わせるか、相手を吹き飛ばすくらいである。だが、今はそれで十分だ。
僕は絶界を槍にも纏わせることで、槍に触れているものさえも吹き飛ばす。
つまり骸骨を剣ごと後方へと吹き飛ばす。
そして一気に距離を詰め、槍に絶界を纏わせたままトラウムソルジャーの首を両断する。
「グゴォ!」
首を斬られた骸骨は、そのまま橋の下へと落下していった。
急ぎ女の子の方へと戻り無事か確認する。
「大丈夫⁉」
~???side
剣を受け止めていたのは、南雲だった。
クラスの中で最もステータスが低く、役立たずとか無能だとか言われている彼だった。
本職でもないのに槍を振り回している彼だった。
…………どうして南雲が?こんな状況じゃ、一番に逃げ出すはずの南雲が、どうして助けてくれるの?
「くっ!」
剣を受け止めておくのが辛いのか、南雲は苦悶の声を上げている。
………無理だよ、君じゃこの骸骨には敵わない。逃げて、このままじゃ君まで………
そう思った瞬間、逃げてくれと思った瞬間、異変が起きた。
南雲の全身を黒い何かが覆った。
まるで、
(……なに、あれ?)
黒い何かはそのまま槍にまで及んでいった。
槍の先端まで覆われた瞬間、骸骨が吹き飛んでいった。
南雲は吹き飛んだ骸骨との距離を一気に詰めて首を斬り落とした。
(……一体、何が…どうなって……)
目の前で起きたことが理解できないでいると、南雲は駆け寄ってきた。
===============
「大丈夫⁉」
へたり込んでいる女の子に声を掛ける。目立った外傷はなさそうだったが、念のために確認する。
「えっ……あ、うん」
やはり怪我は無いようだが、まだ頭が追い付いてない感じだ。放心してしまっている。
けれどこのまま呆けている場合では無い。
「ほら!何とも無いなら、ぼさっとしてないで直ぐに立つ!」
「え⁉は、はい!」
「よし!」
立つことを促すと、彼女は勢い良く立ち上がる。
それを見て彼女に少しだけ微笑む。
「この非常時で、あんなに気味が悪くて強い化け物がいたら不安にもなるだろうし、怖いだろうけど…………今までやってきたことをやれば大丈夫だから、ね?」
「う、うん……」
彼女を落ち着かせるために声を掛ける。悠長に話している暇は無いが、だからって何も言わないのは得策ではないだろう。
せめて周りが見えるくらいには落ち着かせないと……
「あのさ、出来る範囲で良いから周りの皆に声を掛けてあげて欲しい。落ち着いてとか、陣形を組むようにとか言ってあげて。…僕は、天之河くん達を呼んでくるから。頼んで良い?」
「…わかった、やってみる」
「よし!じゃあお願いね…………………え~と………ごめん、誰さんだっけ?」
「……はぁ⁉そ、園部………だけど……」
「そうだった、
そう言って、僕はベヒモスの相手をしている天之河くん達の方へと急ぐ。
今のパニックに陥った皆をまとめられるのは彼だけだ。
~園部side
「…………え~と……ごめん、誰さんだっけ?」
誰だっけって何⁉人の名前覚えてないわけ?
…………まぁ学校でも話したことは無かったし、そもそも南雲は人の名前なんて覚えていないのかもしれない。
だってオタクだし、三次元に興味無いとか言いそうだし…………
「………はぁ⁉そ、園部……だけど……」
ただ、聞かれてしまったので反射的に答えてしまう。どうせ直ぐに忘れるんだろうけど…
「そうだった、園部さん、
………………………………ッ⁉は?
よろしくと、そう言って南雲は天之河君達の方へと走っていった。
けどそれどころじゃ無い。そんなことどうでも良い。
今アイツ私の名前呼んだの?園部優花って?私名字しか言ってないのに、なんで下の名前知ってんのよ⁉
下の名前だけ覚えてて名字忘れるとかある⁉
クラス名簿とか見れば皆のフルネームはわかるだろうけど………もしかして全員の下の名前まで覚えてるの?
それとも……
変な疑問を持ってしまい、結局南雲に頼まれたことにはなかなか手を付けられなかった。
~天之河side
ハジメが橋の末端で園部優花を骸骨の魔の手から救出している頃、依然としてベヒモスは障壁に向かって突進を繰り返していた。
衝突するたびに衝撃波が起こり石造の橋を揺らす。
障壁には既にいくつもの亀裂が走っており、突破されるのは時間の問題だった。
「くそ!もうもたんぞ!光輝、早く撤退しろ!お前たちも早く行け!」
「嫌です!メルドさん達を置いて行くわけにはいきません!絶対、皆で帰るんです!」
「くっ!こんな時にわがままを……」
メルドは光輝達に撤退を指示するが、光輝はその指示に従わない。
メルドはあきらめているわけでは無く、この状況で少しでも全体の生存確率が高い手段を取っていた。
ベテランの勘を頼りに、ベヒモスの攻撃を障壁で受け止めながら押し出される形でこの階層を脱出するつもりだった。
だが、光輝はそれを理解できていなかった。どれだけメルドが説明しても光輝は“置いていく”ということが納得できず食い下がる。
それが、メルドや自分達だけでなくクラス全体をも危険に晒していることに光輝は気づいていなかった。
若さ故か、それとも自分の力を過信しているのかは定かではないが……
「光輝!団長さんの言う通りにしましょう!」
だが、雫だけはメルドの意図と今の状況を理解できているようだった。
日頃から光輝の暴走を窘め、一歩引いた立場で物事を見ているが故だろう。光輝の腕を掴み、撤退を促す。
「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねえだろ?付き合うぜ、光輝!」
「龍太郎………ありがとな」
しかし、光輝の残るという意志に賛同する者がいた。
坂上龍太郎。彼の言葉に光輝は更にやる気を見せるが、雫は血気盛んな男子二人に苛立ちを見せる。
「状況に酔ってんじゃないわよ!この馬鹿共!」
「光輝君!今は撤退した方が………」
「下がれぇーー!」
雫が光輝と龍之介に激昂し、香織も撤退を促そうとしたその時、メルドの悲鳴と同時に障壁が砕け散った。
暴風のような衝撃波が光輝達を襲う。
「くぅ!」「うわ⁉」「うぅ!」「きゃッ⁉」
皆それぞれ苦悶の声を上げる。最前線で障壁を張っていたメルド達は倒れ伏している。
「グゥオオオオオ!」
咆哮を上げ、なおもベヒモスは突進してくる
「まずい、メルドさん!」
「ぐぅ……くそ!」
受けた衝撃が相当大きかったらしく、メルド達騎士団の面々はまだ立ち上がれないでいた。
「龍太郎、雫、時間を稼いでくれ!」
「わかった、任せとけ!」
「…………やれることはやるわ!」
「香織!君はメルドさん達の治療を!」
「うん!」
光輝の指示の下、各々が役割を全うする。
龍太郎と雫が突貫して時間を稼ぎ、香織がメルド達の傷を癒す。
そして、光輝は魔法の詠唱を始める。
「神意よ!全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ!神の息吹よ!全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ!神の慈悲よ!この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!-【神威】!」
ロックマウントを倒した時とは比較にならない威力の斬撃が光輝の聖剣から放たれる。
放たれた斬撃は轟音と共にベヒモスに直撃した。
斬撃の余波で橋に大きな亀裂が入る。
龍太郎と雫は光輝が魔法を撃つ直前に離脱していたが、僅かな時間稼ぎであったにも関わらずかなりのダメージを負っていた。
「これなら………はぁ、はぁ」
「はぁ、はぁ、流石にやったよな?」
「だと良いけど………」
光輝は先の魔法でかなりの魔力を消費しており、肩で息をしていた。
光輝の傍に龍太郎と雫、さらに治療が終わったのかメルド達騎士団員も集まってくる。
「香織!連続で悪いが、直ぐに三人を回復してくれ!」
「はい!」
メルドの指示に従い、香織は直ぐに光輝達の治療を始める。
そんな中、徐々に砂埃が収まっていく。
その先には…………
「な!」
「嘘……だろ…」
光輝、龍太郎が驚愕の声を上げる。
渾身の魔法がまったく効かなかったことに動揺を隠せないでいると、ベヒモスは再び光輝達に突進してくる。
「くそ!俺たちがベヒモスを止める!光輝!お前はその間に他の三人をつれて今度こそ撤退しろ!」
「……い、嫌です!第一メルドさん達だけじゃ!?」
「これは命令だ!撤退するんだ!光輝‼」
「うわ!」
この期に及んでまだ、残ると言い張る光輝をメルドは香織達の方へと突き飛ばす。
もうベヒモスはすぐそこまで迫っていた。
「ダメ!」
「メルドさん‼」
雫と香織も思わず声を上げるが、もう間に合わない。
この場にいる全員がメルド達の死を予感したその時、
「方囲!……定礎!……結!」
聞き覚えのある声が響くと同時に青い壁が、否、青い結界が形成されベヒモスの方へと伸びていく。
そしてそのままベヒモスの巨体を押し返し、橋の末端まで吹き飛ばした。
「グモォォ――」
突然のことにベヒモスは何もできずに吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
それを見ていた光輝が、龍太郎が、雫が、そして香織が一斉に振り向く。
そこに立っていたのは…………クラスの者たちに無能のレッテルを張られている
後編へと続きます