『……おいっ、いるんだろモノクマッ!』
僕は困惑する皆を出しおいて、天井を見上げ叫んだ。怒りと困惑……あらゆる感情が入り混じった声で。
すると、食堂のテーブルの下からひょっこりと、奴が現れた。
『やあやあ諸君ッ! 今日も元気に集まってるね~、関心関心! 』
『ッチ、出たな爆弾熊ッ!』
『だから僕はモノクマだっての!! 』
『どうして……どうして多恵のお母さんを……ッ!』
『これは……どういうことだい、子熊くん?』
『しっかりと説明してくださる?』
『勿論、的を射た発言でな』
『おやおや、僕からのプレゼントを、ちゃんと受け取ってくれたみたいだねぇ~! 』
モノクマはまるで"それが当たり前であるかのように"喋っている。その喋り方は、どこか僕らの中に自然と殺意がわいてくる。モノクマが僕らの中で殺し合いを起こさせたいというのなら、この会話術はさすがとしか言わざるを得ない。
『お~感じる、感じるよっ。今君たちの中に感じている殺意……がね? きっとその写真の真偽が気になるのでしょう? だったら、殺せばいいよ! 誰かを殺して、卒業すれば……外に出る事ができるのだから! 』
『殺す? ふざけるな! どうしてそんなことをさせるんだ!』
『全く的を射ていないな……俺らがそんなことするはずがないだろう』
『(フッ)当然さ、僕の手は子猫ちゃんを汚す為にあるんじゃないからね……』
『多恵……怖いよ、青空姉』
『……大丈夫だよ』
『はっはっは……これまた、ふざけた心理戦みたいだねぇ』
『……』
皆が次々と思っている事を口に出している中、浦川さんだけは只ひたすらに目の前のキャンパスに絵を描いている。ただの現実逃避なのか、それとも本当に興味がない事なのか……それは僕にはわからない。
『……浦川さん』
僕は話しかける。
『……どうしたの?』
『浦川さんは……凄いね、こんな状況なのに、落ち着いているから……』
『別に……落ち着いてなんかないよ、この状況で落ち着ける人なんて……あそこの人だけだと思う……』
と、浦川さんはソフィアさんと門目君を筆で指す。
『今、私にできるのは、これだけだから……』
無表情のまま、まるで何かをあきらめているかのように、筆の動きを止めない。
『そう……なんだ』
『……』
きっと、浦川さんは自分が楽しいと思う事をして、自分の落ち着かせる事しか、今できる事はないと判断しているのだろう、実際それは正しい判断だと思う。
『だけど……』
何が【超高校級の空想家】だよ、ロクな暇つぶしにもなりゃしないよ……それに、こんな状況で浮かぶ妄想なんて、恐ろしい結末になるに決まっている。
『うぷぷぷぷぷ……それじゃぁ僕はこれで! ワックワクでドッキドキの学園生活を、どうぞごゆっくり~! 』
そういって、モノクマはまたどこかへ去ってしまった。
『テメェ待ちやがれ!』
『紬君、また攻撃すると……』
『ッチ、わかってるよ、んな事』
『神楽、あぁいう殺伐とした人間が人を殺めていくのですよ、近づかない方がいいです』
『志津姉、いくらなんでもそれは……』
『アァ!?』
『ひっ、僕は悪い子じゃないよ、信じて……』
神楽くんが志津さんの後に隠れる、さすがの姉弟関係だ。
『……私、部屋に戻るねっ。猫がお腹すかせてるから……』
『う、うん……というか今更だけど、猫なんてよく連れてこられたね……』
『村戸さん! 貴方も飼えばわかりますよっ、猫と飼い主は一心同体なんです!』
『僕もアイドルとは、一心同体のはずだったのに……はぁ』
『落ち込む所ちがくない?』
『うぅ~……眠いぃ~』
『夢喰ちゃん、一緒に部屋戻ろう?』
『……うん』
睦月さん、そして村戸さんと夢喰さんはそれぞれ自分の部屋へど戻っていった。昨日と会話内容にさほど変化はないが、顔にいつもの笑顔はなかった。
『どうしよう……皆がバラバラだよ』
『仕方ないよ、佐藤君……今私達にできる事は、誰も死なな用に祈り、脱出口を探す事だけなんだから……』
『う、うん』
『……ッチ、おい青空、ついてこい』
『ん? 私?』
『っていってんだろゴラ』
『わかったわかった……』
紬君と青空姉は宿舎とは反対方面の通路へ行ってしまった。一体何があるんだ……? 僕はこっそりついていく事にした。
●
紬君と青空姉が向かった先は、2階へ続く階段……の入り口だった。現在は封鎖されており、2階へ行けない状態となっている。
『それで……いったい何の要件で?』
『このフェンス……怪しいだろ?』
『怪しいけど……今は昇れないんじゃ』
青空姉がそこまで言うと、紬君はフェンスの錆びた部分を親指でクイクイッと指した。
『これぐらいの小さな錆びだ……気づかなくても不思議じゃねぇだろ』
『よく気付いたね……さすがは【超高校級の脱獄犯】』
『テメェ……拳で小さくても穴開けれるか?』
『は、はぁ!? 急にもほどがあるでしょ!?』
『ッチ……テメェの素性は割れてんだよ』
素性? 何の話だ……?
『……』
『確かにお前は【超高校級の姉御肌】だろう……それに代わりはねぇ。だがなぁ、その肩書をもらう前……"別の"才能を持ってたんじゃねぇか?』
『……どうして、それを?』
『……情報屋ってのは上手く使えば便利だなぁ?』
紬君はニヤっと笑いながら、自動販売機を指さした。……成程、あれで枢木君を釣ったのか。
『……あいつ、そんな情報まで?』
『……そうなんだろ? 【元・超高校級の空手家】さんよォ』
『……もう、そんな肩書で呼ばれる事はないと思ってたけど』
【元・超高校級の空手家】茅野 青空
『でも、もう私にそんな力はないよ……身体は鈍っちゃってるし』
『ほんとか? おらよっ!』
『!?』
紬君は青空姉に真正面から殴りかかろうとした、咄嗟に僕は止めに入ろうとしたが、その前に驚くべき光景が飛び込んできた。
青空姉は驚きつつも体が反応し、紬君の拳を止め、そのまま綺麗な背負い投げをかましたのである。
驚いたのは、青空姉が紬君の腕をつかんだ時、あの紬君が若干痛がるような顔を見せた事だ……多分相当な腕力だったのだろう。
『ごほっ……ははっ、やっぱ鈍ってねぇじゃねぇか……』
『……身体って、こんな勝手に反応するんだ』
『……俺の真正面の殴りを避けれる奴は早々いねぇ……脱獄するために、数人の武術家を殴り飛ばしてきたからな。それを軽々といなしたお前は、やっぱ相当な腕だぜぇ?』
『……そう、でも壊すお願いは聞けないよ。この空手だって、妹を護る為に得た物だから』
『へっ、俺を投げ飛ばしたのにか?』
『ご、護身だって』
慌てつつも否定した青空姉は、紬君の腕をつかんで立たせた。
『それに、これを壊して……もしモノクマに知られたら、話にならないよ』
『ちげぇねぇ』
『やっぱ囮に使おうとしてたのか』
『察しがいい女は嫌いじゃねぇぞ?』
『ははっ、冗談は顔だけにして』
『どういう意味だゴラ』
そのやり取りを見て、少し安心した僕は、そのまま食堂へと引き返していった。
『……傍観者も消えたな』
『やっぱり気づいてたんだ』
『看守一人の見逃しが命取りだからな? それで……なんでその肩書を捨てた?』
『いう必要あるのかな?』
『テメェ、人に信じろっていう前に、まずは自分の素性を教えろってんだ』
『……護れなかったから……妹を』
『妹? あぁ、あの時言ってたな。どういう意味だ?』
『……それは』
●
『……さて、食堂には……あれ?』
食堂へと戻ると、もう既に全員いなくなっていた。
『部屋に戻ったのかな? ……それに浦川さんも』
僕は食堂の椅子に座り、悩みこんだ。
こうやって悩んでいる内に、誰かが殺されているかもしれない……いや、そんなことは絶対にない……。
だって……人を殺して、外に出るなんて……皆の様子を見るに、そんな事考えるはずがない……。
ソフィアさんだって……緑川くんだって……工藤くんも村戸さんも……みんなみんな……。
『……はぁ』
『うぷぷ、溜息をつくなんて、君らしくないじゃないか~』
『!?』
あの忌々しい声が聞こえる……きっと僕の後だ……あの狂気さえ感じられる地獄のような声……。
『……何の用だ?』
『別に用なんてないよ~。僕は学校の見回りをしていただけだからね』
『監視カメラあるくせに……』
モノクマはわざとらしい戯言を淡々と繰り返す。一発ぶん殴ってやりたいが、それは校則違反だ。……クソ、都合のいいような教訓を作りやがって。
『……じゃぁ、僕から聞かせてもらうよ』
『なんだい? 』
『どうして、お前は僕らにこんな事をさせるんだ……共同生活して仲良く……って感じじゃないだろ、これは』
『うぷぷ……誠君は知りたがりだねぇ。さっき写真の質問をしてきたのも誠君だろう? 嫌になるね~。しょうがないなぁ~少しだけ教えてあげるよ、僕は何故オマエラにこんな事をさせるのか……そ~れ~は~』
『君たちに絶望してほしいからだよ』
……は?
『……なんだよそれ、答えになってないよ!』
『いいや? これが答えだよ、ここにいる子達はね~自分の人生に深く絶望したことがない奴らだけなんだ。真の絶望を知らない……だからこれは、絶望を知るための特別授業みたいなものなんだよ』
『……ぜつ……ぼう?』
『そう、絶望さ』
確かに……自分が生まれた時から今を振り返ってみると、僕は家庭環境に恵まれていたのか、強く絶望したことはない。
空想という才能を見つける前の自分……それについて悩み、多少の絶望なら味わったことはあるが、真の絶望は味わったことがないと思う。
……まぁ、こいつのいう絶望が何なのかはわからないが。
『……成程……でも、僕らはそんな絶望に屈しない。誰も殺しはしないし、誰も殺されない。絶対にだ!』
『本当かなぁ~? まぁ、僕からはオマエラの思う通りになればいいねって思うくらいしかできないからねぇ~。それじゃ、サヨナラ~』
と、モノクマはまたどこかへ去ってしまった。
『……クソ……』
真に絶望したことがない……僕は例外だとしても、そんなことがありえるのだろうか?
人間だれしも、深く絶望する生き物なんじゃないのか?
『……そうだ』
〇
【超高校級の絵師】の部屋前
『……浦川さん、いる?』
僕はインターホンを鳴らした。
『……いないのかな?』
『(フッ) 子猫ちゃんをお探しかい?』
『うわっ!?』
背後から突如工藤君が声をかけてきた。そういえば、工藤君の部屋はここの向いだったな。
『そ、そうだけど?』
『(フッ) 子猫ちゃんなら、眠る子猫ちゃんの部屋に行ったよ、何の用かは知らないけどね』
『眠る子猫……夢喰さんの事?』
『(フッ) 当たり前じゃないか』
当たり前なのか……? 工藤君はもう少し、その口調を直してほしい所ではあるけれど……。
……成程、確かにこんな性格なら、絶望することもなさそうだ。
『そうだ、工藤君』
『(フッ) どうした?』
『工藤君って、絶望したりすることある?』
『……』
『工藤くん?』
『(フッ) 深い質問だ、それはまるで深淵のように』
『はぁ』
『勿論あるに決まっている……そう、自分の顔のかっこよさ……にだ、罪な男だよな、私という存在は』
『あーはいはい……教えてくれてありがとう』
僕はそれを軽く受け流し、夢喰さんの部屋へと向かった。
〇
【超高校級の睡魔】の部屋前
僕は教えてもらった通りに、夢喰さんの部屋へと訪れ、インターホンを鳴らした。
『……誰?』
浦川さんの声だ
『僕だよ、誠』
『……まぁいいか、多分入っていいよ』
『多分って……』
なんかダメな気がするが、僕は扉を開けて中へと入る。そこでは、ベッドで横になっている夢喰さんを絵に起こしている浦川さんがいた。
『何してるの……?』
『……寝るの邪魔しなければ何してもいいって言ったから……』
『そ、そうなんだ……でも、どうして絵を?』
『ただの暇つぶし……』
浦川さんは表情を変えず、ただ目の前のキャンパスだけを見つめ、筆を動かしていた。
『……でも、絵っていいよね』
『え?』
『怖い事も……全部忘れていられる……絵をかいてない時の私なんて、ただの引っ込み思案のビビりな女の子だもん』
『浦川さん……』
彼女も僕と同じなんだろうか……何もない時の自分が嫌い……何も才能がない自分が嫌い……何かで自分を肯定できていないと辛くなる……。
いや、ただ自分の逃げる場所が欲しいだけなのかもしれない。
でも……僕はどこか羨ましいとさえ思えた。
『……それは、良い事だと思うよ』
『……いい事って?』
『そうやって、何か役に立つ才能が持てるっていうのは……僕には、浦川さんや皆見たいに目立った才能は持ってないから』
『【超高校級の空想家】って名前はあるのに……?』
『……あまりいい名前とは思えないよ、僕には』
『……』
浦川さんはそれだけ聞いて黙り込んでしまった。……する話を間違えただろうか、と僕は後悔した。
『……私は、その才能が羨ましいと思う』
『え?』
『……友達が、出来そうじゃん……なんか、面白い空想を暴露したり、とか』
『ははは……友達、出来たらいいんだけど……』
『私がなってあげようか?』
『え?』
『友達』
こんな感じに作る物なのか? 友達って。
『……いいの?』
『佐藤君は悪い人じゃなさそうだから』
『……それは、信頼してくれているのかな……』
『……』
浦川さんはそっぽを向いた。
『……でも、ありがとう』
『いいよ、これで友達だね、ほら友達出来たじゃん』
これは僕の才能というより、浦川さんの才能な気がするよ……。
でも、少しは仲良くなれた……のかな?
〇
【超高校級の空想家】の部屋
浦川さんの部屋を後にし、僕は自室へと戻った。
こんな絶望的状況の中で、まさか友達が作れるなんて夢にも思わなかった。
でも、友達を作る事自体に悪い気はしなかった。
『……こうやって、他の人とも仲良くなれたらいいんだけど』
と、一人で呟いてると、突然電子手帳にお知らせが入った。
『……なんだ?』
その内容は"浴室が解放された"という物だった。
『浴室……風呂にはいれるのか? シャワーで十分だけどな……』
でも風呂に入らなくても、身体の疲れが取れると言えばウソになる。癒しだと思っていたシャワーと食事の時間でも、ここ最近何故か疲れてしまうのである。いや、ただ億劫な気持ちになっているだけなのかもしれない。
……と、その時だった。
ピーンポーン。
個室の扉を叩く音と同時に、インターホンが鳴った。呼ぶならどっちかにしなよ……と呆れつつ、僕は扉を開けた。
『……松丸さん? それに皆も……どうしたの?』
『あ、来た来た、あのね? さっき浴室が解放されたっていったじゃん? だから、せっかくだし皆で風呂にいきたいなぁ~って』
『皆で?』
『まともに皆と喋ってないからな、的を射た行動だとは思う』
『まったく……皆と違って私は忙しいのですけれど……』
『……チっ』
門目君と紬君、そしてソフィアさんがいるのは驚いた……まぁ紬君とソフィアさんは根負けしたんだろうな。
『うん、勿論いいよ。準備してくるから待ってて。』
僕は、クローゼットに支給されていたタオル等を持ち、皆と浴室へ向かった。
◆
【男子浴場】
『はっはっは! 久しぶりの入浴だなっ! 頭を使うと、風呂に入りたくなってくるという物よ!』
『(フッ) 自分は嬉しいよ。汚れた顔を洗う時間が出来たのだから……』
シャワーはいれよ、というツッコミはしないでおこう。
『……ッチ、風呂なんてシャワーでいいのによぉ、あの歌バカは』
『こういう機会だ、入っておけ。今のお前は的を射ていない程臭いぞ』
『アァ!?』
『ま、まぁまぁ』
門目君は一言余計なんだよなぁ……。
『でも、こうやって裸の付き合いをすることで、互いに信頼し合えるんじゃないかな……』
『そうそう! それに、こういう時だからこそ出来る話もあるというもんですよっ! そう、アイドルの話とかね!』
『あーうるせぇ……』
『アイドルには興味ない、あれは的を射ていない文化だ』
『貴様ッ! 今全世界のアイドルファンを馬鹿にしたぞ!』
『ははは……僕は好きだけどな、時々テレビとかで見た事あるし』
『佐藤君、君とは友達になれそうだよ!』
『え!? アイドルについて詳しくなれば、信頼してくれるのか……?』
『倉家、あの道には触れない方がいいぞ』
『ッチ、うるせぇし、さっさと風呂入って終わらせようぜ』
『(フッ) 確かに、長く入って子猫ちゃんたちを困らせでもしたら、大変だからね』
『女子程、風呂は長くなると思うけどね』
全員がそれぞれのタイミングで服を脱ぎ、浴室へと入った。
『広ッ!? これで7人分かよ!?』
『僕のプロデュースしているアイドルが全員収まる程の広さだぞこれは……』
『はッはッは、緑川君、それは言い過ぎではないかい? 君のプロデュースしているアイドルの数は……』
『せめて湯舟に入ってから、その話はしてほしいな……』
風呂の内装は予想をはるかに上回る程だった。
大きなサウナに、種類豊富の浴槽。まるで、大きな銭湯のようだった。
効能も……よくわからないが、色々書いていた。
『ッチ、女子が好きそうな事ばっか書いてら』
『効能というのは、的を射ていない事しか書いていないから、俺はあまり好きではないな』
『はっはっは、効能という物は科学で証明された事であるぞ! 的はいている!』
『枢木、少しうざいからだまりな』
『んー辛辣ゥ~』
『(フッ) 美貌効果、この私の美しい顔に、さらなる輝きが生まれるのか』
『ケッ、今よかだいぶマシになるんじゃねぇか?』
紬君も少しづつだが、皆を前にして笑うようになっていた。これも青空姉と行動を共にしているからなのだろうか。
そういや……女子の方は、今どうなっているのだろう……すると、壁の向こう側から、微かだが声がした。
〇
『すご──いっ、凄いよ青空姉、広いッ、広いよッ! こんな広い浴室見た事ない!!』
『はいはい……少し待ってって……』
〇
青空姉と松丸さんの声が聞こえる。
『おん? 向こうも来たか?』
『(フッ) 楽しそうな声じゃないか……癒し効果倍増ってところかい?』
『おい佐藤、覗きなんて的を射ていない事するなよ』
『誰が!?』
何で急に僕はあらぬ疑いをかけられたんだろう。
『さっきから耳が壁によりつつあるからだろ』
『はっはっは! 佐藤君、君も男だなッ!』
『……え?』
『お前も気になるのかい? 未来のアイドル候補の体型という物を!』
なんか急に緑川君と枢木君が妖しい笑みを浮かべながら僕のいる方へ寄ってきた。
『……オイ門目、あれは無視したほうがいいのか?』
『あぁ無視が安定だ』
『(フッ) 男としてみっともないねぇ』
『さ、三人とも、そんなことすると信頼が薄れるよ!』
『僕を仲間に入れるなーっ!』
4人の可哀そうな人を見るような冷たい視線が、僕の心に深く突き刺さった。
すると又声が耳に入ってきた。
〇
『……湯舟に魚とかいないかなー』
『魚……熱帯魚ですか? 村戸さん……』
『そうそう、いやぁ話がわかるねぇ~、さすがは【超高校級の飼育係】!』
『……いるわけないでしょう? 釣りバカと飼育バカ』
『むー!』『ぶぅ~……』
〇
『この我の情報収集能力をもってしても、女子の体型という物を調べるのは至難の業でね……我はつくづく思ったよ……自分が女子だったら、なーんて』
『アイドルプロデューサーとして、体型チェックは基本なんだ!』
『門目君……助けて……』
『知らん』
門目君の無慈悲な返答に、僕は涙した。
〇
『……うぅ~、なんで自室以外で眠ったらいけないの……』
『私も絵描きたかったんだけどな……ごめんね、起こしちゃって』
『……うぅ~~~……風呂は嫌い』
『なんで?』
『……皆の体型を見て、つらい思いをするから』
『え?』
『何喰ったら、あんな大きくなるの……?』
『へ?』
『……確かに、青空さんは少し成長しすぎかと』
『なんかそういう効果のお茶でも飲んでいるのでしょうか』
『えっ……え?』
〇
次第に話がそっち方面へと流れていった。
そういや、青空姉って結構大きかったよな……と脳内で回想する。
『ゴメン、無理ッ!』
僕はたまらず赤面し、湯舟にダイブした。
『ヴォイ!! ビックリするだろうが!』
『ゴメン……でも、ね?』
『……まぁ仕方ない』
『むっ、佐藤君、逃げるとは男じゃないな!』
『でも2人じゃ、この仕切りを越えるのは無理だなっ、仕方ない、諦めよう』
『諦めようって……』
こうして、僕は自分に打ち勝つ事ができた。
◆
【浴室前】
『いや~、良い湯舟だったね! 男子もどうだった?』
『う……うん、最高だったよ』
『あれ? 佐藤君大丈夫? 元気ないけど』
『あーコイツは気にすんな、変態バカが移りそうになっただけだ。……で? そっちもどうしたよ、姉御肌さんが相当疲れたような顔してるじゃねぇかよ』
『……う、うん……大丈夫……はは』
きっとあの後、全員に襲われたんだな……。
『ですが……まぁ、いい暇つぶしにはなりましたわね』
『はっはっは、そうだな! 最高の浴場だったしな!』
『……こうやって、皆と楽しく生活できたらいいですね……』
『あぁ、殺し合いなんて的を射ていない事、起こしてはならないな』
と、その時、校内放送がなった。
『ピーンポーンパーンポーン、午後10時となりました。ただいまより、夜時間となります。一部の部屋は使えなくなりますのでご注意ください、それではおやすみなさ~い』
夜時間と知らせるアナウンスだった。
『……それじゃぁ、明日もよろしくね』
──うん。
全員がそう頷き、それぞれの自室へと戻った。
◆
【超高校級の空想家】の部屋
皆が笑い、そして楽しいひと時を過ごしたんだ……今日は、大丈夫。
あんな写真だって、きっとモノクマの嘘に決まっている……きっと……きっと……。
『……大丈夫、だよな』
僕らはそう、信じ切っていた。
◆
4日目
『オマエラ! 7時です! 起床時間です! 今日も張り切っていきましょう! 』
あの忌々しい声で目が覚める。まぁでも、今となってはこの声が僕にとっての目覚まし時計となっていた。やけにうるさい声なので、起きれてはいるのだが……。
じゃぁ準備していつも通り食堂にいくかな……そう思った時だった。
ピンポーン……とインターホンが鳴った。
『? 誰だろ……』
と、恐る恐る開けると、そこには青空姉と松丸さん、そして枢木君がいた。
『ん? 2人とも、どうしたの?』
『あのね! 昨日の入浴が楽しかったからさ! 朝風呂に行こうと思ってさ!』
『せっかくだし、佐藤君も誘おうかなって』
『はっはっは! 我もちょうど朝風呂に行こうと思っていたところでねっ!』
お前は覗きの細工でもしたいだけなんじゃないか……?
『僕でよかったら……勿論!』
『よし、決まりだね!』
『じゃぁ、準備してくるから待ってて』
僕は急いで準備し、4人で朝風呂に入りにいった。
◆
【男子脱衣所】
『それにしても、枢木君って風呂好きなの?』
『風呂自体は嫌いじゃないぞ? 疲れた身体を癒してくれるからな!』
意外な事実だな。
『僕も……なんだか風呂が好きになりそうだよ、皆で入るのは楽しかったからさ』
『うむ! 我もだ!』
と、2人で服を脱ごうとした。
──その時だった。
『キャァァアァァアァアァァアァ!!!!!!!』
『!?』
『なんだ!? 二人の声か!?』
『こっちだ! 枢木君もきて!』
『おい、女子脱衣所だぞ!?』
『もしもの時は謝る!!』
僕と枢木君は、女子更衣室へと駆け出した。
『青空姉!? 松丸さん!? どうかした!?』
幸い二人はまだ脱いでいなかった。
『青空姉……どうして……』
『多恵ちゃん、大丈夫、大丈夫だから……あ、佐藤君、枢木君も』
『青空、どうしたというのだ!?』
『青空姉?』
『あ……あれ……』
あれ?
僕と枢木君は、ゆっくりと浴場の方に視線を動かした。
僕らは固まった。
そこには、あってはならない物があった。
『……ぁ』
『……嘘、だろう?』
僕と枢木君は一歩、歩み寄り……その光景が真実であるかを確かめた。
『……』
僕は首を振った。
『……まじ……なんだな?』
『……え?』
『何で……何でぇ……』
どうして……何で?
どうして……【超高校級の飼育係】睦月 穂香が死んでいるんだ?
・生徒名簿
【超高校級の空想家】佐藤 尊
【超高校級の釣人】 村戸 加奈
【超高校級の射手】門目 佳次
【超高校級の姉御肌】 茅野 青空
【超高校級の情報屋】枢木 誠
【超高校級の歌手】松丸 多恵
【超高校級のナルシスト】工藤 佐助
【超高校級の睡魔】夢喰 夏帆
【超高校級の脱獄犯】紬 大河
【超高校級の茶道家】倉家 志津
【超高校級の信者】倉家 神楽
【超高校級の絵師】浦川 瑠璃
【超高校級のプロデューサー】緑川 慎二
【超高校級の飼育係】睦月 穂香
【超高校級のバイオリニスト】ソフィア・クラウディア
残る生存者 14人