とあるアンリエッタのお話   作:cameletter

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第四話 お友だち100人できるかな? 種まきの季節。

四話 お友だち100人できるかな? 種まきの季節。

 

 トリスタニの王城。時は昼下がり。

 一人のうら若き乙女が自らの手で紅茶を入れていた。此所はアンリエッタのプライベートスペース。

 

 部屋にはサイレントをかけ外には音が漏れないのはあたりまえ、扉を氷付けにして誰も入ってこれないようにしていた。

 水水風を掛け合わせたその守りは同じトライアングル以上でなければ打ち破ることは不可能であり、小煩い侍従やメイド達は完全にシャットアウトできる。

 魔法の無駄遣いに思えるがアンリエッタ極めて真面目である。

 トライアングルあるいはスクウェアであってもアンリエッタの部屋の近くで杖を振るおうとすれば、アンリエッタが衛兵を頼んでいる近衛騎士が制止に入るだろう。

 

 アンリエッタは彼の実力を評価しており信頼もしていた。

 

 アンリエッタはこうでもしないと、自分で紅茶を入れることさえできない自身の身の上に嘆く。自分からこの地位についたとはいえ、やはり息苦しいのだ。

 

 室温もアンリエッタが展開している魔法のおかげでとても涼しくなっており入れ立ての紅茶がさぞかしおいしくなるだろうとほくそ笑む。

 この時のアンリエッタは無敵だった。

 

 カップに自慢の紅茶を注ぎ込む。紅茶の香りとともに白い湯気が立ち上る。

 

「どうぞ」

「あ、アンリエッタ殿下……」

「なんでしょう? デムリ殿。熱いうちに飲むとおいしいですよ?」

「そ、そんなもったいない――」

「私これでも紅茶を入れるのはそこそこ自信があるのですよ?」

「もちろんです。とても上手でありました。ですが……」

「あら? デムリ財務卿は平民のメイドが入れた紅茶は飲めて私の入れた紅茶は飲めたものではないと? 残念ですわ。今すぐ取り下――」

「い、いただきますから! だから杖を降ろしてください!!」

 

 デムリ財務卿。トリステインの国庫を管理する責任者であり、アンリエッタが非公式お茶会に誘った一人である。

 

 アンリエッタはこれからトリステインの財政を上向かせるために、ともに戦う戦友を私的にお茶会に誘ったのだ。アンリエッタは親睦会兼激励会のようなものだと考えていた。

 

 しかし、デムリがなかなか心を開いてくれないことにアンリエッタは心を痛めた。

 

「あ、あちぃ、いえ、とととてもおいしゅうごじゃいまぃた」

「紅茶はゆっくり香りを楽しんで飲むものですよ? そんなに急いで飲んで……口をやけどしてしまったみたいですね」

「ぃいえ。このていひょのはなれておぃましゅ」

 

 デムリは口のやけどを無視しようとするがちゃんと発声出来ず無理をしているのがバレバレだった。

 アンリエッタは杖をデムリに向ける。水のトライアングルのアンリエッタにとって治癒はお手の物である。デムリのやけどは瞬く間に完治していた。

 

「もう一杯いかがですか?」

「そんなもったいn――ありがたく頂戴いたします」

 

 アンリエッタの慈悲深い心にデムリは涙を流す。まさに聖母の生まれ変わりのような優しさであった。

 

「それで……リッシュモン殿はどうですか?」

「そうですな。これほどおいしい紅茶は滅多にお目にかかれませぬ。この場に呼んで戴いて私は今日ほど生きててよかったと思うことはないかもしれませぬ」

 

 リッシュモンは王国の司法権を担う高等法院の長であると同時に25年に渡って王家に仕える忠臣である。アンリエッタはリッシュモンの協力なくして改革は進まないと判断していた。アンリエッタはリッシュモンとも是非お友だちになりたくてお茶会に呼んだのである。

 

「そう。よかったわ。気に入ってもらって。もしよければこれからもお茶会を開きたいのだけど来てくださるかしら?」

「それはありがたいお言葉ですかアンリエッタ殿下には立場というものがおありになります。私室に招き寄せるなど言語道断であります。決してこのような事はもうなさらないように」

「……リッシュモン殿は忠臣なのですね。その言葉心にとどめときますわ」

 

 デムリがしどろもな一方、リッシュモンはある程度の余裕を持ち合わせていた。それは長年政争に身を預けてきた場数や、自身がフィリップ三世の頃から務める忠臣だとアンリエッタに慕われているからだった。

 実際にアンリエッタはリッシュモンに一目置いている。

 

「それでアンリエッタ殿下。どのような目的で私たちをお呼びになったのですか? まさかただのお茶会というわけでもありませぬよね?」

「? ただのお茶会ですよ?」

 

 アンリエッタは愛らしい笑みを浮かべながら杖をくるくる回しながらそういう。

 その杖に連動してアンリエッタの頭の上で氷の槍がくるくるしているのは愛嬌である。

 

 アンリエッタはそれで冷風を作り出しているのだ。繊細なコントロールを必要とする動作だったが、アンリエッタは苦もなく涼しい顔で回し続ける。

 

 アンリエッタが十歳の時にクーラーの代わりとして発案した魔法で、魔法の無駄遣いに思えるがアンリエッタ極めて真面目である。

 

 この魔法のおかげで夏場も涼しくひんやりの環境をコスト0で達成できたのだから。実に環境に優しいエコでアンリエッタは重宝していた。

 

「ただのお茶会ですか……」

「えぇ、そうよ。それともリッシュモン殿には何か話したいことがあるのですか?」

「いえ、特にはありませぬが」

 

 リッシュモンはある程度の余裕を持ち合わせているつもりだ。

 

「お茶会というからにはおしゃべりしないといけないわね! そうだ。お祖父さまの事を教えてくださる?」

「……フィリップ三世の事ですか?」

「えぇ。そうよ。私はお祖父さまにお会いしたことがありませんから」

「……わかりました。私のわかることならなんでもお教えいたしましょう」

 

 リッシュモンはある程度の余裕をかなぐり捨てた。

この小娘は何を考えている? とリッシュモンは警戒を最大限にあげる。この注意深さがリッシュモンを高等法院の長に成り上がらせたのだ。

 

 突然皇太子につきたがったアンリエッタをリッシュモンは子供のおもちゃが欲しがる行為だと考えた。マザリーニがそれに賛同したのも権力に虎視眈々としていた貴族院への牽制だと思っていたのだ。

 

 リッシュモンはマザリーニがアンリエッタを成人するまで皇太子にするつもりはないことを知っていたから、牽制で終わるだろうと軽く見ていたのだが。

 

 しかし蓋を開けてみるとマザリーニは本気で動いた。貴族院の反主流派や中間派層など幅広くあっという間にまとめ上げアンリエッタの立太子が決定してしまったのだ。

 

 リッシュモンが気づいたときには手遅れだったのである。高等法院の長に赴任してからそう日がたっておらず地盤をまだ固めきれていなかったのも大きい。

 もう少し立太子の話が遅ければ地盤が固まり、議員の取り込みもスムーズに進み、おそらく時期尚早へと持ち込んでアンリエッタの立太子を抑えられたはずだったのだ。

 

 実を言うとアンリエッタはギリギリのタイミングで皇太子になっていのだが、その事をつゆ知らずにいた。

 

「お祖父さまはどういう人だったのですか?」

「そうですね。聡明で偉大な方でした。私は晩年の頃しか知り存じてませんが、――」

 

 リッシュモンは当たり障りない事をアンリエッタに説明しながら、今後の事について考えていた。

 アンリエッタの立太子のせいでリッシュモンの計画は大幅な見直しが必要になていたからだ。その直接の原因となったアンリエッタが興味深そうに話を聞いている。

 

 もし単純に好奇心からくるものなら問題ないが、これが演技であるとするならば、リッシュモンの政略は大幅な転換を必要とする。

 

 今日はその事を見極める材料にはなるだろう。リッシュモンもこのお茶会を有益なものにするべく集中した。

 

「では当時のトリスタニアもさぞかし賑やかだったでしょうね」

「そうですね……活気に溢れていました」

「今のトリスタニアと比べればどうですか? やっぱり当時の方が活気があったりするのかしら?」

「いえ。今もそれに劣らないほどの活気が溢れています。これからアンリエッタ殿下の治世でますます活気溢れるでしょう」

「まぁ、うれしいわ。そのためにも頑張らないとね。リッシュモン殿もデムリ殿も手伝ってくださいますよね?」

 

 リッシュモンは考える。アンリエッタは当時の政治や様子についてよく聞いてきた。今では古き良き時代だと言われているフィリップ三世だが、決して万能だったわけではない。

 それに後を継いだ先王ヘンリーも暗愚ではなかったが、手堅い政策しかとってこなかった。時代の移り変わりとともに必要となる政策の変更がおろそかになり、また饑饉や戦争などでトリステインの経済は下向いたままだ。

 

 貴族の専横も大きな原因だったが。リッシュモンはそう考えて自嘲する。

 

「まぁ、てそろそろ時間ですわね。今日のお茶会は楽しかったですわ」

「私も昔を思い出していい時間でした」

「興味深い話でありました」

 

 アンリエッタが解散の告げる。アンリエッタの言ったとおりに本当にただのお茶会であった。

 リッシュモンはこれをどう判断すべきか迷った。ただわかったことはアンリエッタが本気でトリステインの事を勉強しようとしていることだった。少なくとも子供の我が儘だけで皇太子になっただけではないことを知れたのは収穫だと考える。

 

 まだ結論を出すときではない。リッシュモンはそう結論付けた。だがしかし、なぜデムリ財務卿がいたのだろうか?

 デムリ財務卿がいた理由をリッシュモンは考えるが特に思い当たらないのであった。

 

 

   *

 

「何か問題はありませんでしたか?」

「いえ。つつがなく」

 

 お茶会の後、アンリエッタは本当の意味でのびのびできる時間になった。

 

「どうでしたか? アンリエッタ殿下」

「そうですね。トリステインにはリッシュモン殿は必要だと思います。種は蒔きました。あとはその種がどう育つか見守るだけです。……もっとも水やりはかかしませんけれどね」

「それは楽しみです」

 

 アンリエッタは一人の衛兵と楽しそうに会話するが、他の衛兵は素知らぬふりだった。

 

「そうだ。少し紅茶が余っているのだけどどうかしら? 子爵?」

「ご同伴預かりましょう……本体がいけないのが残念です」

 

 アンリエッタはつかの間の逢瀬を楽しむのだった。

 

 

 

 

あとがき

マザリーニ出張中。そして、

マザリーニの浮気に対抗してアンリエッタの浮気のターン。自業自得だね! マザリーニ!

ハーレム√に欲目を出しちゃうからいけないんだよ!

ちゃんとアンリエッタだけを見ないからこうなるんだよ!

 

 

 

というのはおいといて、どうもcameletterです。

少々時間が空きました。小説一本書いていたのでこっちに割く暇がなかったです。この三日でえらいスキルアップした気がする。フラグ叩き折りましたよ!

ただ『しばらくは一人称かかねぇええええぞ!』な感じであります。

 

 

さて四話ですね。

可憐な花には毒があるそうです。ならアンリエッタにも毒になってもらいましょう。

 

リッシュモンの元ネタてブルターニュ公でOK? なら正義の人だよね! なら正義√もあるのではないかという作者のひねくれた思考でありました。

 

デムリ財務卿はドジっ子の属性付与に成功したそうです……ごめん。きっと君には隠された役目があるんだよ! そう。きっと! 今から考えるから! 読者も考えてくれるから!(他力本願)

 

 

 

NGシーン

 

。アンリエッタはリッシュモンとも是非お友だちになりたくてお茶会に呼んだのである。

 

「そう。実はあなた達が初めてなの……」

「はい?」

「だから私の初めてをあなた達に差し上げたの」

 

 もちろん誰にも飲ませることができなかった紅茶の事である。

 

 

おわり

 

 

とあるアンリエッタの受難の軌跡 第四巻

 

紅茶……アンリエッタが城から抜け出してトリスタニアのお店から直接自分の目で買った茶葉。メイドに隠れて自分で飲むのが最近のマイブーム

 

サイレント……チート。魔法の呪文

 

デムリ財務卿……伏線になるかもしれない人。みんなドジっ子に仕事を与えてください!

 

非公式お茶会……アンリエッタが(マザリーニに)隠れて開くお茶会。

 

やけど……アンリエッタに触れるとやけどするぜ! (火あぶり的意味で)

 

まさに聖母……後の「アンアン実現党」の前身

 

リッシュモン……アンリエッタの当初の的(誤字にあらず)

 

高等法院……賄賂は一人何口でもうけつけてます。毎度のご利用ありがとうございます

 

お友だち……アンリエッタ十二歳。いまだ友達100人ならず。王の力は孤独です。アンリエッタ・ド・トリステインが命じる。お友だちになって!

 

フィリップ三世……アンリエッタのお祖父さん。そこそこ強かった。すごかった。

 

杖をくるくる……シャーペンをくるくるする感じで。

 

氷の槍……ラグーズ・イス・イーサ・ウォータル――ジャベリン!

 

クーラー……夏の必需品。アンリエッタの魔法コントロール力・集中力・持続力を鍛えるのにぴったり。スクウェアも夢じゃないです。

 

種……アンリエッタ姫はSEEDを持つ者なのです。

 

水やり……水をあげすぎると根が腐ります。

 

衛兵&近衛騎士&子爵……マザコンがロリコンにクラスチェンジしたようです。

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