五話 人材捜しは書類仕事から。
「改革をします」
「はい?」
「そういうわけでみなさん、それぞれ素案を来週までに用意してきて
ください」
アンリエッタが国政に躍り出て半年あまり。ようやくアンリエッタを中心に据えた政治も安定してきたところであった。アンリエッタはようやく現状維持でなく未来志向の事を考えられる現状に一息つくのだった。
*
「デムリ財務卿。予算を健全化しましょう」
「はぁ」
「目指せ国債発行額0よ。むしろ債権国になるわよ」
「残念ながら無理です」
悲しいトリステインの実情にアンリエッタは地面にひざまずいた。だがアンリエッタも歳出をそう簡単に減らす事ができないことを知っていたし諦めないのだった。
「今年の小麦の出来具合は?」
「平年と特に変わりないです」
「……それはよかったです」
農業国家であるトリステインにとってGDPの変動は食糧の出来具合に左右される。とはいってもエキュー金貨を基軸通貨とした金本位制であるために表の数字には表れにくくなる。豊作なら小麦の単価が押し下がり凶作なら跳ね上がる。とても流動的である経済体制だった。
平年通りということは、豊作でもなく凶作でもなく、国家としては通常運転である。絶好の改革日和ともいえる。お金はないが。
「なんでこんなにお金ないのかしら?」
「とはいいましても現在の状況でも国家は回っていまして……ですから特に問題点はないと――」
「私は未来志向のない退廃的空気がこのトリスタニア、そしてトリステインを覆っていると思ってますの。こんなんじゃダメだわ。もっと活気のあるみんなが明るい国家にしないと」
「すばらしいお考えですぞ!」
「貴族Aさん。協力してくれるのかしら?」
「え……」
アンリエッタと貴族達の攻防が始まる。アンリエッタは自分の中で優先順位を作り出していた。できるならば全てを実行に移すのが理想なのだろうが、国庫は乏しく貴族達の反発を最初から受けるのは得策でないとの判断からだった。
そんなアンリエッタがプレゼンを始めるのだった。
「帝政ゲルマニアは昨今平民の力を取り入れているとの事をよく聞きますわ。我がトリステインにとってもそれはいいことだと思うの」
「殿下! 平民どもに力を与えるなんてとんでもないですぞ!」
「そうですわね。上手くやらないと危険性はあると思いますわ。でもゲルマニアをみなさい。昨今の経済成長率は目を見張るものがあります」
「トリステインが格式高い始祖に連なる伝統のある王家で、ゲルマニアなどと比べるなど必要ないことですぞ」
「そう言ってられないわ。最近の対ゲルマニア貿易の収益をしっているかしら? 徐々に赤字幅が広がっているのよ」
じわじわとトリステインを浸食する赤字。トリステインの国庫にある金準備高は徐々に、しかし加速度的に減少していっていることにアンリエッタは危機感を持つ。現在のペースだと四半世紀は持つかもしれない。しかし四半世紀後なくなってからでは遅いのである。余裕のあるうちに産業を育て、内需を拡張し、輸出産業を確立するのが至上の命題であるとアンリエッタは国のトップとしての使命だと考える。
「そういうわけで、私は第一次五カ年計画を考えてみたの」
「……五カ年計画?」
「そう。単年度の予算では足りなく時間も少なくて成果が現れにくい。でも五カ年分の予算をまとめればまとまったお金ができる。成果も単年度で見るのでなく五年という長いスパンで見るの。短い目で見るのでなく五年という中期的な目で政策を考えてみましょう」
そしてその五カ年計画が終わる頃に原作開始時期であることもアンリエッタにとって大事だった。アンリエッタは原作通りに進ませるつもりはないにしても、国力が増せばそれだけ出来ることが増えると考えていた。アルブレヒト三世などと結婚話が出るなど断固お断りなのである。気持ちでは生涯独身王族を標榜していた。
「しかし、五カ年分の予算を用意するなんて無理では?」
しかし貧乏国家の性(さが)。お金がないのである。
「五年分の予算を一括で用意するわけではありません。ですが初期投資費用などがあるのも事実です。その分は国庫を段階的に放出します。クルデンホルフ大公家やガリア・アルビオンからの借款も検討しようかと思います」
貴族達がざわめくのを見てアンリエッタは、私服を肥やしている貴族達がお金を王家に拠出金を出してくれれば、と口の中でぼやく。汚職をしている貴族達を摘発してその私財を押収するのも考えたが、それは諸刃の剣だった。順調に摘発を進められるほどアンリエタおよび現在の王家には力がないし、中途半端にやっても小物が釣れるだけで大物には逃げられる。財政の足しには一時的になるかもしれないが、小物であっても汚職していた貴族の穴を埋められるほどトリステインには人材の余裕がない。人員の刷新・大規模な官僚組織の改編をするにしても、その対応に追われ、外に目を向けるどころではなくなるのだ。
「三つの基軸をもうけます。殖産興業・鉱山開発・農業の効率化です。殖産興業は将来的に輸出可能となる産業の育成・発展。例えばタルブ村のワインなどさらなる増産・ブランド化。鉱山開発は、現存の鉱山の体制を見直し、効率化・増産できるならばしてください。そして新たな鉱山候補地の発見。特に鉄鉱石と石炭が今後の重要資源となると考えています。また新たな効率のいい製鉄技術の開発もここに含みます。最後に農業の効率化。小麦は現在のトリステインの主要産業であり、主要輸出物でもあります。新たな農法の検討および農具の開発など、まだまだ発展させる余地があると思っています」
当たり前の事がもっとも難しいとアンリエッタは思う。今まで言ってきたことは当たり前のことであり、常にやってきたといってもよい。しかし成果が上がらないのはなぜか?
当たり前すぎて変化がないのだ。アンリエッタは今までなあなあでやってきた事を五カ年計画と銘打って大規模に強制的に実施しようと考えた。きっかけさえあればトリステインは変われるとアンリエッタは信じていた。
零成長で景気が停滞しているトリステイン。アンリエッタは緊縮財政を取るのではなく積極的な財政によるてこ入れを行う事にした。トリステインの地力を上げれば、国力も増し結果歳入の増加をもたらす。積極的な財政の放出でインフレーションの起こる可能性もあるが、その時は増税による引き締めを行えばいい。
隣の法衣貴族とこそこそ話をする貴族を見る。アンリエッタは平民の教育を王室の細々とした財産でやる事にしていた。
貴族達の反発は必至であるからだ。逆に言えば、平民の登用がなければ貴族達が反発する理由はなくなる。堅実に第一歩を進み出すことをアンリエッタは優先させる。
そしてアンリエッタは今日一日黙っていたマザリーニを見る。今日の話はマザリーニと話し合って決めた事だが、これからのトリステインはアンリエッタ主導を強調付けるためにマザリーニが表に出てくる機会は減らしていくことになる。視線があったマザリーニがアンリエッタにうなずく。アンリエッタとマザリーニはすでに腹案を持っている。しかし、
「では、来月初めの会議でこの五カ年計画について、それぞれの担当部分の素案を出して下さい。大胆な案を期待してますわ。それを下地に一ヶ月ほどの会期中に議論を重ねてよりよい計画にしていきたいと思います」
アンリエッタはそういって、より細かい基準を書いた紙を渡す。それぞれの担当がすべき事、優先順位や予算の大中小それぞれ三つずつの案の提出など、それは多岐にわたっていた。アンリエッタは会議に出席しない下っ端からも簡易ながらも意見を収集する事にもしていた。
そしてその中からアンリエッタとマザリーニが考えた以上の妙案が出てくることを期待していた。例え実行に移せなかったとしても、その案を考えた人物は見所があると判断できる。堅実で実行可能な案なら、その人物は堅実で施政能力の高い人物である可能性が高いし、当たり障りのない案なら可もなく不可もない。そして荒唐無稽な案ならその人物には期待できない。
今後の改革においてトリステインを支える人材を見つけることも兼ねていたのだった。
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『平民の生活についての簡単な計算』
生活費120エキュー
エンゲル係数70%と設定
食費は84エキューに
このうち主食の小麦に50エキューとする。残りはベーコンとか卵かなぁ。
一日に一人あたり必要なカロリーを1200キロカロリーとする。
小麦100グラムあたり300キロカロリー
ベーコン一枚100キロカロリー
卵一個70キロカロリー
一日二食でベーコン2枚・卵3個・小麦300グラムで1200カロリーに到達。
一日に使える小麦に対する金額は137ドニエ。その他で93ドニエ。
1リーブル 約0.47kgなため、一日あたり0.64リーブルの小麦が必要
100グラムあたりの単価は46ドニエ
残り計算めんどいかもです
小麦一リーブルあたり216ドニエ=22スゥ=0.02エキュー
1ヘクタールは0.01km^2(野球グラウンドより小さい感じ)で、1200キロの収穫と推測
1アルパンは0.33km^2
さてここで問題。農家は手作業でどこまでの広さの土地を管理できるでしょうか? 村での共同体とはいいますし大家族ですし……どうなんだろうか。
というわけで逆算 現実の単位で計算。
ガリア人口が1500万人。ガリアの1/10の面積であるトリステインは150万人と設定。
一人の一年での小麦消費量は110キログラム。
150万人を食わせる小麦の量は1億6500万キログラム。
生産人口を120万人
小麦生産人口は100万人。
一人が生産する必要があるのは165キログラム……
必要な耕地面積は0.13ha 甲子園のグラウンドのちょうど1/10です。うーん。結構現実味のある数字になった気がする。
8人家族として1haですね。
さて、次に農家の収入を出してみよう。
165キログラムの小麦は76エキューに化けて……あれ? 120エキューに届きませんね。でも小麦は自給できるわけで50エキュー浮くからその他で26エキュー。卵も鶏飼っているだろうから、なんとか生活できる範囲にはなったか……?
とまぁ超簡単な計算をしてみました(面倒だったけど 後悔中)
数字は低く見積もっています。現代ほどの品種改良はされていないでしょうし単位面積あたりの収穫量も少なく計算してたり、栄養素も少なく見積もっています。
トリステインの人口が生きていく必要最低限ラインで数字が出てる感じかなぁ。実際は余剰生産もありますし、でも運搬・売買による差益や税金もありますし…… 平民一人が120エキューという基準はやはりトリスタニアなどの都市に住む住民だけにあてはまりそうですね。
税率てどれぐらいかもわかりませんし50%ぐらい持って行きそうですし行かなさそうですし、うーん。
とはいっても農家もそれほど悪くない生活水準付近な気もします。
現実の中世ヨーロッパに比べたらかなりましなレベルじゃないでしょうか……まぁ、仮定の話ですがね……
デルフ君は5000リーブル=235キロの小麦と同じ価値なんですね。うひょー。
あとがき
マザリーニが空気化してますけどここに宣言します! マザリーニが主人公です(大嘘)
というのはおいといて、眠たいcameletterです。
最近浮気しすぎてなかなか大変です。
オリジナル書こう→二人称に挑戦だ!→六行で飽きる→よしボーイミーツガールだ!→いや、ここはガールミーツボーイにしよう!→ガールミーツガールもいいんじゃね?→自重しよう→ガールミーツボーイで世界系にしよう→2k字ぐらい書く→これ短篇におさまらないね。中篇には確実にいくよ→なんで短篇で世界系にしようとしたんだ? 自分は、てことで没→アンリエッタでも書くか→平民の計算で飽きる→前々から考えていたある企画? のでも書くか→先人は偉大だなー→疲れた→先行公開するのもありだけど、今はやめとこう→アンリエッタの続き
この間にも積んでたラノベ3冊退治して、SAOの三巻を冒頭立ち読みして直葉のキャラ把握。ついでに一巻だけ買って読了。さらにciv4btsで不死はきついなー、皇帝楽やなー、なんてやってたりします。二十世紀になったら戦争しかけるために軍拡しないといけないこの頃です(え
最初にSAO二次の『キリトの幼なじみに転生した人』について補足について、『キリトの幼なじみに転生した人』の後書きの後ろに乗せときました。
さて五話です。
外交パートにするつもりだったですけど、内政パートに変更。
そろそろ政治させるべきかなっと思ったので。ただ面倒だったので手抜き気味かもですが。
アンリエッタが挙国一致内閣を発足させるまで先は長そうですね。アンリエッタの第一歩は貴族の既得権益を一切触れないことにしたようです。敵を作るよりはコントロールを選択した感じでしょうか? バックがまだしっかりできていない十二歳の女の子ですからね。一応。ただ原作開始時期には十七歳になってバックも強固になっていい塩梅になっているかもです。
それにしても、立地のモデルである、オランダとベルギーて鉱山ないですよね……。困るぐらいないですよね……。ファンタジー(御都合主義)て便利ですよね……。
そういえば欧州各国て今緊縮財政のまった中ですよね。イギリスとかイタリアとかとか。
リーマンショックの時は金融緩和の財政出動で乗り切りましたけど、欧州危機の今は緊縮中。二度目はできない政策なようで。でも本当に今のまま緊縮財政で乗り切れるのかなぁ、と思いつつ、
今日アメリカがQE3(量的緩和第三弾)を実施して、お前は少し自重しろ! と思いつつ日銀の対応に期待したいところですね。
積極財政といえば、自民党のマニフェスト素案で10年間で200兆円をインフラに費やすと過去にでましたけど、これどうなったんだろうか? 本決定になったと聞かないのですが。
まぁ、個人的にはこれはこれでアリだよなー、と思いつつ誰が総裁になるねん。て感じだったりします。
2012年9月の後書き、当時の時事ネタがいっぱいですね。。。
この頃は、リーマンショック、その後の2010年欧州ソブリン危機の延長線上で、世界中の金融システムが不安視されていた時代です。
政府債務の圧縮のための緊縮財政をとり、失業率が高止まりするなど不安定でした。
日本も超円高の時代でした。
>リーマンショックの時は金融緩和の財政出動で乗り切りましたけど、欧州危機の今は緊縮中。二度目はできない政策なようで。でも本当に今のまま緊縮財政で乗り切れるのかなぁ、と思いつつ、
今日アメリカがQE3(量的緩和第三弾)を実施して、お前は少し自重しろ! と思いつつ日銀の対応に期待したいところですね。
今、新型コロナウィルスによる二度目の金融緩和と財政出動が世界中で行われています。
二度目はできない、というはずなのに二度目を行っている。特にアメリカの金融緩和は圧倒されます。
副作用が恐ろしいです。。。世界は伝統的財政規律を捨て、このままMMT理論に移行していくのだろうか。