【依存】から始まるヒーローアカデミア   作:さかなのねごと

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11.少女、投票する。

 

 オールマイト。圧倒的な力とカリスマを兼ね揃えたヒーローの中のヒーロー。長らくNo.1ヒーローを務めてきた平和の象徴。そんな彼が急遽事務所を休業して雄英で教鞭を取るときたのだから、社会は、メディアは揺れていた。

 

「……うわ、」

 

 登校中、遠目に見えてきた校門の前に、無数の記者さんたちが陣取っていた。誰もがマイクやカメラを構え、通りかかる生徒たちにコメントを求めている。連日テレビや新聞で取沙汰されている、今最も注目されているニュースだ。マスコミが押し掛けるのも無理ないだろうな、と思いつつも、ため息が漏れてしまう。

 軽く深呼吸をして、意を決して、素知らぬ顔で通り過ぎようとしたけれど、こういう時の記者さんたちは怖いくらい目敏く速い。

 

「あ、そこの君! 雄英生だよね?」

「、あ……はい、」

 

 そうです、と答えた声は重ねられた質問に掻き消された。3、4人の大人に囲まれて足が止まってしまう。

 

「オールマイトの授業はもう受けた?」

「No.1ヒーローが教壇に立ってるってどんな感じ?」

「え、と、」

「先生としてのオールマイト、どう思う?」

「あの、すみませんわたし、そろそろ行かなくちゃ、」

「ちょっとだけ! 一言でいいからコメントください!」

 

 相手方もお仕事だ。だからこのグイグイくる感じも仕方ないことなのだけど、やっぱり今は困ってしまう。どうしよう、適当に当たり障りのないコメントをして立ち去るべきか、と考えていたら、

 

空中(そらなか)、」

 

 背後から呼び掛けれるままに振り返る。そこに相澤先生が立っていて、くい、と顎で学校の方を指した。

 

「遅刻するぞ。早く来い」

「はっ、はい!」

 

 これぞ天の助けとばかりに駆け寄る。相澤先生はわたしを背に庇って、やって来る記者さんに向かい合った。

 

「オールマイト、って小汚なっ! なんですかあなた!」

「彼は今日非番です。授業の妨げになるんでお引き取りください」

 

 少し失礼な記者さんにも表情を変えず、淡々と手を振って彼は学校へと歩き出した。その背を追い掛けるように、わたしも小走りで続く。

 

「オールマイトに直接お話伺いたいんですが!」

「あなた小汚なすぎません!?」

「どこかで見たことあるような、ないような……」

 

 校門の方では質問の嵐が止まない。ついにはオールマイトコールまで始まってしまって、この騒ぎはいつ収まるんだろうかとちらりと視線をやった。

 ──ら、いきなりガゴガコゴ!!と大きな音を立てて、重厚なシャッターが降りて校門を封鎖した。記者さんたちのざわめきが門越しに微かに聞こえる。

 

「……え、あれ、シャッター……?」

「人呼んで“雄英バリアー”だ。学生証とかの通行許可証を身につけてない者が門を潜ろうとするとセキュリティが働く。校内のあちこちにセンサーがあって、それに引っ掛かってもアウト」

「……さすが雄英というか……」

 

 セキュリティの強度も最高峰だったらしい。呆れたような感心したような不思議な気持ちで息をこぼす。そうして気づく。相澤先生へのお礼がまだだったことに。

 

「あ、相澤先生、先ほどはありがとうございました」

「礼を言う必要はない。だが……空中、ああいう手合いを軽くあしらうのは慣れておけよ。クソ真面目に取り合うのは時間の浪費だ。不合理の極みに尽きる」

「……はい、わかりました」

 

 よっぽどマスコミやメディア露出が嫌いなんだなあ、とわかって、苦笑混じりに頷いた。そんなわたしを横目でちらりと見て、彼は再び口を開く。

 

「空中、昨日緑谷の腕を治したんだってな」

「え……は、はい」

「それによる体調の負担はないか」

「な、無いです。大丈夫です」

「……それならいいが、」

 

 フウ、とため息を吐いて、伸ばしっぱなしでぼさぼさになった髪をくしゃくしゃして、相澤先生は静かに言う。

 

「緑谷が“個性”を制御できるようになるまで、まだ時間が掛かるだろう。その間おまえに負担を掛けることになるかもしれんが、」

「わたしは、大丈夫ですが」

「話を遮るな」

「はっ、はい! すみません……」

「……謝らんでもいい。だが、いいか、何かしら体調に異変があった時は、俺やリカバリーガールに必ず言え。いいな」

 

 “合理的”なことを重視して入学式やガイダンスをすっ飛ばして。わたしたち生徒のやる気を出させるために『除籍処分』なんて嘘を言う。ぶっきらぼうな言動も相まって掴みどころがない、という印象だった。

 それでも、それだけだったなら、治癒に自分のエネルギーを使うわたしを、こうも気遣うことなんてないはずだ。きっと、それだけじゃ、なくて。

 

「オイ空中、返事は。」

「は……はい、わかりました。相澤先生」

 

 わたしの返事に、どこか安心したように目を伏せた相澤先生は、……優しい人なのかもしれない。

 

 

 

 

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見させてもらった」

 

 始業のチャイムが鳴り、ホームルームが始まった。相澤先生は淡々とそう言って、すっと視線を“彼”に向ける。

 

「爆豪。おまえもうガキみてえな真似するな。能力あるんだから」

「──わかってる」

 

 俯きながら答える爆豪くんは、なにかを押し殺したような声だった。思うところはあれど、昨日の感情の爆発は消化した後なのかもしれない。

 そんなことをぼんやり考えていると、相澤先生は次に緑谷くんに水を向けた。

 

「緑谷はまた腕ブッ壊して一件落着か。“個性”の制御……いつまでも「できないから仕方ない」じゃ通させねえぞ。

 俺は同じことを言うのが嫌いだ。それ(・・)さえクリアすればやれることは多い。焦れよ、緑谷」

「っはい!!」

 

 はじめは相澤先生の指摘にビクッと体を震わせていたけれど、最後は力強く返答していた緑谷くん。……きっと大丈夫。諦めないで、制御できるよう頑張ってくれるはずだ。わたしの治癒が要らなくなるのも、そう遠くない日かもしれない。

 

「さてホームルームの本題だ。急で悪いが今日は君らに──学級委員長を決めてもらう」

「「「学校っぽいの来たーー!!!」」」

 

 相澤先生が神妙な顔つきで言うものだから、また何かの抜き打ちテストかと思ったら、学級委員長の選出だった。みんなはホッとしたのもつかの間、一斉に挙手をし始める。

 

「委員長!! やりたいですソレ俺!!」

「ウチもやりたいス」

「ボクの為にあるやつ☆」

「リーダー!! やるやるー!!」

「オイラのマニフェストは女子全員膝上30cm!!」

 

 ハイ・ハイ・ハイ!!!──と、みんながみんな手を挙げるものだから、なんだか圧倒されてしまう。本で読んだ限りでは、学級委員長ってそんなに人気職ってわけじゃなかったけど……ここはヒーローになりたい人が揃っているのだからまた違うのかな、なんて1人納得する。あの爆豪くんでさえ「やらせろ!!」と挙手しているし、緑谷くんも控えめながら挙げている。

 手を挙げていないのは、わたしと麗日さんと、右斜め前に座っている轟くんだけだった。ハイ・ハイ・ハイ!!と依然として声が響く中、そっと轟くんの肩を叩く。

 

「……なんだ」

「ご、ごめんねいきなり……手、挙げないの?」

「……俺はそういうのに長けてない。……おまえこそどうなんだ」

「わたしは……そうだね、わたしも、自信ないや」

 

 彼を追いかけてばかりだったから、誰かを先導してまとめる自分は想像できない。考えてみてもやっぱり無理で、苦笑をこぼした。

 

「静粛にしたまえ!!!」

 

 そんな時、飯田くんの一喝が響き渡る。

 

「“他”を牽引する責任重大な仕事だぞ……! 「やりたい者」がやれるモノではないだろう!! 周囲からの信頼あってこそ務まる聖務……民主主義に則り真のリーダーをみんなで決めるというのなら……、

 

 ──これは投票で決めるべき議案!!!」

 

「手ぇ聳え立ってんじゃねーか! 何故発案した!!」

 

 ……飯田くんも委員長やりたいんだなあと、ひと目見ただけでわかるほど、真っ直ぐ天に向かって挙手していた。葛藤があるのかふるふると震えてさえいる。

 

「知り合って日も浅いのに信頼もクソもないわ飯田ちゃん」

「そんなんみんな自分に入れらぁ!」

「だからこそここで複数票を獲った者こそが、真にふさわしいということにならないか!?」

 

 相澤先生は決まれば特になんの文句もないらしく、やり方は任せるとのこと。飯田くんの他にどうすべきか案は上がらなかったので、1人1票、委員長にふさわしい人物に投票することになった。

 ……たぶん、飯田くんが発案しなければ、みんな委員長をやりたいという熱意がありすぎて、話がまとまらなかったんじゃないかと思う。自分の願望を抑えてまで、みんなのためになるよう意見を出した──

 

(飯田くんが、ふさわしいんじゃないかな)

 

 そう思い投票した、その結果に、緑谷くんの声が裏返る。

 

「僕、3票ーー!?!?」

 

 黒板に記された結果は、確かに緑谷くん3票、八百万さん2票、その他に立候補した人たちに1票ずつ、というものだった。……あれ、飯田くんが1票ってことは……。

 

「1票……わかってはいた! 流石に聖職といったところか……!! 投票してくれた誰か、申し訳ない……!!」

「他に入れたのね……」

「おまえもやりたがってたのに……何がしたいんだ飯田」

 

 うちひしがれる飯田くんに、八百万さんと砂藤くんが呆れたように呟く。その気持ちもわかるけど、自分じゃない誰かがふさわしいと思って投票する飯田くんも、らしいというか、すごいというか。選ばれはしなかったけど、投票してよかったなと思う。

 こうして委員長に緑谷くん、副委員長に八百万さんが就任したところで、ホームルームは終了した。

 

 

 

 

 

 【ランチラッシュのメシ処】──雄英高校の食堂は、なんとあのプロヒーローランチラッシュが切り盛りしている。プロ級の料理が安価で食べられると聞いて、食堂はいつも大勢の生徒が集まる。

 

「相変わらず騒がしい……」

「ヒーロー科だけでなく、他の科の生徒が一堂に会すからな」

 

 常闇くんの呟きに障子くんが頷く。そうだね、と相槌を打ちながら、わたしは親子丼に舌鼓を打った。お肉はぷりぷり、玉子はふわふわ。よく味の染みた玉ねぎを噛むと口の中でじゅわっと旨味が広がるし、三つ葉の爽やかな苦味がいいアクセントになっている。

 

「おいしい……」

「本当に美味しそうに食べるわね、愛依(あい)ちゃん」

「だ、だって本当に美味しいから……。梅雨ちゃんはうどんだね。好きなの?」

「つるっとした喉ごしが好きなの。一番の好物はゼリーなんだけれど」

「そうなんだ」

 

 ゼリーか、なんだか梅雨ちゃんに似合うというか、ぽいというか。興味がわいて、わたしは向かいに座っている2人に問いかける。

 

「あの、障子くんの好きな食べ物って何?」

「俺か? 俺は……たこ焼きとイカスミパスタだな」

「イカスミパスタ……って、食べたことない、かも」

「そうなのか。ペペロンチーノに魚介とトマトの旨味が入っている、という感じで美味いぞ。機会があったら食べてみるといい」

「うん……あれトマトも入ってたんだね……」

「私も食べてみたくなったわ。常闇ちゃんは何が好きなの?」

 

「知恵の実……禁断の果実とも称される、林檎だな」

 

 フッとニヒルに微笑んでみせた常闇くん。その懐から、ヒョコ、と黒い影が飛び出てきた。

 

「リンゴ! リンゴ! 甘クテ瑞々シイノガウマイ!!」

「!?」

「っこら黒影(ダークシャドウ)! 戻れ!」

「エー、ナンダヨウ! フミカゲのケチ!!」

 

 ぶすっと頬を膨らませるようにして、その“影”はまた常闇くんの中に消えていった。唖然としながらも、今までの“個性”把握テストや戦闘訓練で見たこと自体はあったなと思い出す。

 

「い、まのって、常闇くんの“個性”だよね? 喋るんだ……」

「……ああ、俺の“個性”黒影(ダークシャドウ)には自我があってな」

「可愛いわ。なんだか常闇ちゃんの弟みたいで」

「可愛い……まあ、今の状況ならな」

「? それって……」

 

 “今”じゃなければ、また違うということ?

 そう尋ねようとしたわたしの声は、突如鳴り響いたサイレンに掻き消された。ウウーーー、とまるで何かが吼えるような物々しい音に、びくりと体を震わせる。

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難してください』

 

 淡々としたアナウンスとは裏腹に、それを聞いた生徒たちはパニックに陥った。みんながみんな急いで避難しようとしているのだけれど、そのせいで人が押して押されて集まって、渋滞を起こしている。

 

「いてぇいてぇ!!」

「押すなって!!」

「ちょっと待って倒れる!」

「押ーすなって!!!」

 

「! ケロっ、」「くっ」

「、梅雨ちゃん、常闇くん!」

 

 この人の波に、比較的小柄な2人が呑まれようとしているのが見えて、咄嗟に羽根を飛ばして2人を浮かせた。他の人より頭ひとつ分高くして端に寄せたので、これで2人が巻き込まれることはないと思うけど──と、そう考えているのは一瞬の間。だけどその一瞬の間に、出口に向かって走ろうとする人たちにぶつかった。ぐらりと押されるままに、倒れそうになって、

 

「空中!」

 

 ぐいっと力強く引っ張り上げられて、気づいた時にはわたしは障子くんの腕の中にいた。彼が引っ張り起こしてくれなかったら、今頃誰かに蹴倒されていたかもしれない。

 

「あ、ありがとう、ごめんなさい、障子くんは大丈夫……?」

「俺は平気だ。……しかしこれは、どうしたものか」

 

 低く唸るようにそう言って、障子くんは辺りを見渡した。依然として食堂中はパニックになった人たちで溢れかえっていて、止まれ!危ない!皆さんストップ!!といった声が飛び交っている。このままじゃさっきのわたしみたいに、倒されて他の人に踏まれて、大怪我をする人だって出るかもしれない。

 どうしよう。どうしたら、──迷うわたしの頭上から、声が降ってきた。

 

「皆さん……ダイジョーーーブ!!!」

 

 バッと顔を上げると、視界に入ったのは非常口。それと、その非常灯の近くまで浮き上がり、“非常口に駆け込むあのポーズ”をした──飯田くんがいた。

 

「ただのマスコミです! 何もパニックになることはありません! 大丈ーー夫!! ここは雄英! 最高峰の人間にふさわしい行動をとりましょう!!」

 

 飯田くんのインパクトのある、的確でわかりやすい言葉に、1人、また1人と立ち止まっていく。一気にパニックが落ち着いたのを見てとって、わたしはほっと息を吐いた。

 

 

 

 適切に状況に応じて判断して、適切な行動を取ることができる──やっぱり人をまとめる立場に立つ人というのは、そうした人がふさわしいんじゃないかな、と、そう思っていたのはわたしだけではなかったようで。

 

 

 

「委員長は……やっぱり飯田くんが良いと……思います!」

 

 他の委員会を決める会議の途中、緑谷くんがそう言った。彼は人の前に立って話すことにはじめ震えていたけれど、飯田くんのことを話すときは、ハキハキと迷いがなかった。

 

「あんな風に人を格好よくまとめられるんだ。僕は……飯田くんがやるのが正しい(・・・)と思うよ」

 

 そんな緑谷くんの称賛に、切島くんや上鳴くんが続く。

 

「あ! いいんじゃね!! 飯田食堂で超活躍してたし!! 緑谷でも別にいいけどな!」

「非常口の標識みてえになってたよな」

 

「何でもいいから早く進めろ……時間がもったいない」

 

 クラスメイトからの同意。相澤先生からの催促もあって、飯田くんは口許を引き締めて立ち上がった。その目にやる気がきらきら輝いている。

 

「委員長の指名なら仕方あるまい!!! 不肖飯田天哉!! 学級委員長を務めさせていただく!!」

「任せたぜ非常口!」

「非常口飯田!! しっかりやれよー!」

 

 非常口、という呼び掛けにわたしも笑みをこぼしながら拍手した。飯田くんの委員長就任についてはもちろん賛同する。……するのだけれど、心の中のもやが少し残っていた。

 

(……飯田くんや先生は、マスコミが校内に侵入したからって、言っていたけれど……)

 

 本当にそうなのだろうか。……本当に、マスコミにそんなことができるのだろうかと、そんな疑問が後をついて出る。脳裏によぎるのは今朝の出来事。相澤先生に教えてもらった“雄英バリアー”の存在。

 

(あれを破ることが、できた人がいる……)

 

 それは本当に、ただのマスコミだったのだろうか。

 考えても答えが出るわけではないけれど、なんだか胸にしこりが残ったようで、わたしは胸元を握り締めた。

 

 ──この予感が、後に重大な事件に繋がるのだけど、この時のわたしにはまだ知る由もなかった。

 

 

11.少女、投票する。

 

 


 

 A組のみんながそれぞれ大好きなんですけど、中でも大好きなのが梅雨ちゃん、常闇くん、障子くんなので積極的に絡ませていきたい所存(n回目)。

 イカスミパスタは“気になるけど食べたことのない料理トップ3”ぐらいに入ってるような気がします。

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