【依存】から始まるヒーローアカデミア   作:さかなのねごと

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12.少女、B組と。

 

 【治癒個性教育プログラム】──読んで字の如く、【治癒】の“個性”を教育するための学習カリキュラムだ。具体的には、ヒーロー基礎学の単位を調節して、空いた部分を【治癒】特化の学習内容に変更するとのことで。

 

「【治癒】“個性”の訓練のため、今日はA組の空中がおまえたちの怪我を治癒する。空中、」

「はい、……空中(そらなか)愛依(あい)です。今日は、よろしくお願いします」

 

 リカバリーガール曰く、“個性”というのは基本的に使えば使うほど伸びるので、医学の知識を詰め込む以外は実際に治癒しまくろうとのこと。そのため今日のヒーロー基礎学の時間は、治癒係として1年B組の戦闘訓練に同行させてもらうことになったのだ。

 B組担任のブラドキング先生に促され、みんなの前に出てお辞儀をする。ぱちぱちとあたたかな拍手と、よろしくなという呼び掛けに、緊張が少しだけほどけた。

 

「空中さん、いや、空中でいいかな?」

「好きに呼んでくれたらいいよ、えっと……拳藤さん」

「そう? じゃ、そうさせてもらう」

 

 さっぱりとした笑顔を浮かべているのは、拳藤一佳さん。B組の学級委員長を務めているらしい。

 

「今日はよろしく。A組はちょっと前に戦闘訓練やったんだよね。怪我人とか結構出た?」

「う、ん、……重傷者は1人だったね」

 

 脳裏に緑谷くんの姿がよぎる。同時に爆豪くんの姿も。……彼らみたいなことがそうポンポンと起こるとは思えないけど……。

 

「……B組の人の中で、こう……すごく好戦的な人っている、かな」

「好戦的? 鎌切とか鉄哲とか、回原もそうかも。あとある意味で物間」

「? ある意味って……」

 

 その意味を問おうとしたけれど、ブラドキング先生による点呼が始まってしまった。拳藤さんはごめん、よろしく!と言いながら手を振ってくれたので、わたしも手を振り返して準備に向かう。

 ……思ったより好戦的な人はいるそうで、大怪我しないか心配になる。……いや、うん。今は戦闘訓練。そしてわたしは、怪我を治癒するために呼ばれた。なら、やることはひとつ。

 

「リカバリーガール、」

「おや、来たね。そこにお座り」

「はい」

 

 リカバリーガールの出張用テントに入り、促されるまま彼女の横のパイプ椅子に腰を下ろす。後ろにはベッド、目の前にはモニターが並び、ビル内の様子を映し出している。

 

「いいかい空中、戦闘中の様子をあんたにも見せるからね。どんな攻撃があって、どんな動きをして、どの部分をどう負傷したか──きちんと見て判断するんだよ」

「……っはい」

 

 ただエネルギーを注ぎ込むだけではいけない。どの部分に、どのように注ぎ込むか考えなければいけない。そうしてエネルギーの無駄遣いを無くして、以前指摘された問題点をクリアするのだ。

 そう気合いを入れ直して、モニターを見つめる。画面の中では1組目の戦闘訓練が始まったところだった。

 

 ──正直、裂傷や打撲傷辺りが主だろう。それなら公安での訓練で治したことがあるから大丈夫、とたかをくくっていた。今日はとにかく反復練習だと、そう思っていた。けれど、

 

「え、……え……?」

 

 ゲホゲホと咳き込む黒色支配くんを前に、わたしは固まってしまった。黒色支配くんは苦しそうに咳き込んで話せずにいるけど、どうしてこうなったのか、何が原因かは、彼に寄り添う他のメンバーの証言やモニターでの画面で把握している。それでもわたしは、動けなかった。

 

「き……きのこが、体内に……?」

 

 黒色くんの背中を擦っている小森さんが涙目で頷く。彼女の“個性”は【キノコ】。体から胞子を飛ばしてキノコを生やすというもので、訓練中、相手チームに確保されてしまいそうだった小森さんが咄嗟に発動したものが、黒色くんの気管に入り込んでしまったのだ。

 

「ごめんねごめんね黒色、私焦っちゃって……」

「ゲホッ、ゴホ、ッ、グ、ゲホッ……」

「黒色、大丈夫か」

 

 黒色くんを心配する小森さんや泡瀬くんの声や、黒色くんの咳を聞きながら、わたしは頭を巡らせた。早く、治してあげたい。早く治さないと、……でも気管に入ったキノコをどう処置したらいいの?

わたしがエネルギーを送ったら、キノコまで活性化してしまうのではないの?

 迷っている間にも黒色くんの咳き込みは止まらず、ついには涙まで浮かんできている。呼吸にも異常が見られる。どうしよう、どうしたら、早く、早く──

 

「……り、リカバリーガール……」

「……仕方ないね」

 

 はあ、と溜め息を吐きながらリカバリーガールが腰を上げる。今回彼女は、わたしの治癒が効率よく行えていたかチェックするためだけじゃなく、こうしてわたしがうまく治癒を行えなかった場合、代わりに治癒してもらうために同行してくれている。

 彼女はテント内に置かれていた棚から薬品を取り出し、手早く調合すると、黒色くんに向き直った。

 

「黒色、これをお飲み。……そう、ゆっくりでいいよ」

「ノコ……リカバリーガール、黒色だいじょぶなんです?」

「スエヒロダケが肺に入り込むってのは症例としてあるからね、抗真菌薬の投与でよくなるさ。ただ、“個性”で生えたキノコだからね。小森、人に生やしたキノコはいつまで保つんだい?」

「わ、わからない……人に生やしたのははじめてで……」

「そうかい、とにかく薬で様子を見よう。さあもう暗い顔はおやめ。ホラ浅田飴、浅田飴をお舐め」

「ノコッ」

 

 黒色くんや泡瀬くん、小森さんはリカバリーガールの処置で安心したようで、和らいだ顔で飴を口に放り込んだ。そんな様子をただ見ていたわたしを、リカバリーガールが見つめた。厳しい表情で。

 

「【肺スエヒロタケ症】、知らなかったようだね」

「……はい。すみません、勉強不足でした」

「入学して間もないからね、勉強不足なのは仕方ないさ。……でもね空中、あんた、知らない症例が出たからといって、本番でもそうやって狼狽えるつもりかい?」

 

 黒色くんたちが出ていったテントは、元の静けさを取り戻した。しいんと静まり返る中で、リカバリーガールの言葉が、真っ直ぐに届く。

 

「確かに現場にいる以上、知らない症例など無い方がいいに決まっている。でもね、この多種多様な“個性”溢れる超常社会、医学の事例に当てはまらない症例なんか、それこそ溢れるくらいあるんだよ」

 

 言われて、気づく。確かに“個性”が発現した今となっては人の体質や形状なんてさまざまなで、医学の常識というものが通らなくなってくるのも当たり前だ。……でも、じゃあ、

 

「なら、医学を学ぶのは……」

「医学を学ぶのが無駄って意味じゃないよ。さまざまな症例、それに伴う対応策を知っていることで、それを応用して治療にあたることができる」

「……っはい」

 

 思っていたことを見透かされて、恥ずかしくなって俯く。こんな視野の狭いわたしより、リカバリーガールはたくさんのことを知り、たくさんの怪我や病気を治してきたんだ。

 

「あんたに必要なのは、さまざまな症例にも対応できるほどに、確固たる医療知識や技術、そして治癒の経験を積むことだよ」

 

 そしてなにより、と付け加えたその声が、諭すような柔らかさを帯びる。

 

「あんたの前には、身体に異変を感じて不安になっている患者や、意図せず“個性”を使ってしまって、人を害してしまった人がいるんだよ。……あんたがオロオロした顔を見せてどうするんだい」

 

「! ……はいっ……」

 

 ヒーローは、人を救ける人。人に安心を与える人。……そんなヒーローが不安にかられてしまっていたら、誰かの心を救けることなんてできない。

 わたしは頷いて、ぎゅっと口許を結んだ。わたしはまだまだ未熟で、情けない。……けれどこの情けなさを傷として覚えておかなければ、わたしは前に、進めない。

 決意を新たに、モニターに視線を戻す。まだ訓練は続いていて、わたしの治癒係としての役目も終わっていない。頑張らなければと意気込んだわたしの肩を、リカバリーガールは優しく叩いてくれた。

 

 

 

 

 

 最後の組は宍田獣郎太くん、塩崎茨さんのペアと、鉄哲徹鐡くんと物間寧人くんのペアだった。宍田くんと鉄哲くんの派手な殴り合いで肝を冷やしたものの、負った傷はそうした打撲と塩崎さんの茨による引っ掻き傷程度で、わたしにも治癒できる範囲だった。

 

「……うん、これでおしまい。どう? 痛みとかは……」

「ねェ!! もうすっかり元通りよ!!」

「感謝致しますぞ」

「、よかった」

 

 鉄哲くんと宍田くんの打撲傷も完治して、2人とも元気そうに笑ってくれたからわたしも安心する。思わず笑みがこぼれた時、横から手が差し出された。

 

「ありがとね、空中さん。助かったよ」

 

 そう言ってにこやかに笑うのは物間くんだった。握手……されるほど大したことをしたつもりはないけど、でも断る理由もない。そっと右手を出して、彼と繋ぐ。

 

「そんな、たいしたことじゃ……」

「たいしたことない、ねぇ」

 

 物間くんの目が、すうっと細められた。ぎゅっと掴まれた手が、離れない。

 

「──羨ましいよ。いい“個性”だね」

 

「……!?」

 

 嫌な感覚にばっと手を振り払った。体の内側に触れられたかのような、そんな──

 

「あれ? 随分と敏感だね。普段はほとんど気取られないんだけど」

「今、なにを……?」

 

 物間くんはわたしの質問に答えず、何やら自分の身体をぺたぺた触っている。しばらくそうした後、つまらそうな顔になって呟いた。

 

「なァんだ、“スカ”か」

「す、スカ……?」

 

 いきなり握手して、なんだか変な感じがして、それで出てきた“スカ”という言葉。わけがわからなくなって目を白黒させるわたしに、宍田くんがそっと口を開く。

 

「物間氏は、触れることで空中氏の“個性”をコピーしたのですぞ」

「コピー? ……! それが物間くんの“個性”?」

 

 対戦を観戦している時は、音声は伝わってこないこともあってわからなかった物間くんの“個性”。それが明らかになってなお、意味がわからないことがまだある。

 

「そ。でも君のは“スカだったけどね」

「その、“スカ”って、どういう……?」

「それを君に教える義理はないと思うけど?」

 

 皮肉げな笑顔に、うっと言葉がつまる。た、確かにそうかもしれないけど、でも面と向かって“スカ”と呼ばれたら気になってしまう。──わたしの“個性”の、問題もあるし。

 そんな風に困って口ごもっていると、傍で見ていた鉄哲くんたちが声を上げてくれた。声というか、ブーイングを。

 

「オイ物間ァ! いいじゃねェか教えてやっても!!」

「そうですよ。空中さんは私たちの傷を癒してくださったのです。隠し事はすべきではありません」

「流石に“スカ”と言われては、空中氏が気になってしまうのも道理ですぞ」

 

「……君たちはいいね。正々堂々生きてるもんだ」

 

 ふう、と物間くんはため息を吐いた。羨望の滲んだ、眩しいものを見つめた時のような。彼はクラスメイトの言葉を受けて、渋々と言った様子で話し始める。

 

「僕の【コピー】は“個性”の性質をコピーするだけ。何かしらを蓄積したものをエネルギーに変えるような“個性”だった場合、その蓄積まではコピーできないようになってる。

 君の【治癒】は自分の中のエネルギーを使って発動するんだろう? 僕の中にそのエネルギーが無かったから、【治癒】は発動できなかった。……こういう、僕に発動できない“個性”を“スカ”って呼んでるだけ」

 

「……そう、なんだ」

 

 多分、だけれど。その説明の通りならば。

 物間くんは今、わたしの“個性”をコピーできている(・・・・・・・・・・・・・・・)

 でもそれを幸いにも気取られてはいないようだ。……そう、気取られては、いけない。努めて平静を装う。

 

「教えてくれてありがとう、……その、ついでに聞きたいんだけど、物間くんの【コピー】って、相手の“個性”は奪わないんだよね」

「……そうだよ。相手の“個性”を奪って自分のものだけにできるなら、もっと(ヴィラン)退治でも役立ったろうね。でも、」

「そんなことない!!」

 

 思わず大声が出てしまった。わたしらしくない。平静を装うなんて言っておいてこれだ。物間くんたちもびっくりしている。でも、でも、

 

「相手も自分も【コピー】した“個性”が使えるなら、たとえば、怪我人が多すぎる場面に出会したら、医療系ヒーローの“個性”をコピーしたら、そのヒーローと手分けして治療ができる……! 誰かと協力することができる“個性”だよ!」

 

「……その医療系ヒーローになりそうな君が“スカ”だったんだけどね」

「……あっ、えと、それは……」

 

 感情のままに喚いただけだから、率直に事実を突きつけられて確かにそうだと固まってしまった。そんなわたしを、物間くんは半目で見やる。

 

「というか、なにそれ。慰めのつもり?」

「え……!? ちが、そんなんじゃ、なくて、」

「物間ァ」

「……わかったよ鉄哲。この辺にしとく」

 

 全員の治癒は完了しているからと、彼らはリカバリーガールの出張用テントから出ていく。最後尾の物間くんは、ふと足を止めて、振り返ってわたしを見た。びく、と肩を揺らしたわたしを見て、ハッと鼻で笑う。

 

「アッハハ、随分とビビってるじゃん。なに、さっき言ったことは嘘だったの?」

「! 嘘じゃないよ!」

「うるさ。必死なの?」

「う、嘘じゃないって、思ってほしいだけで……」

 

 嘘じゃない。誓って、嘘なんかじゃない。物間くんに詳しく説明することはできないけど、でもそれは本当なのだ。

 ……こんなんじゃ信じてもらえそうもないけど、と、顔を上げると、物間くんが笑っていた。寂しそうだけど、柔らかい微笑み。

 

「……じゃあ、そういうことにしておくよ」

 

 ひらりと後ろ手に手を振って、彼はテントを去っていった。訓練の全行程が終了したから、わたしはリカバリーガールを手伝って撤収準備を始める。

 

(……なんだか、濃かった、な……)

 

 わたしのできないこと。すべきこと。わたしの“個性”のこと──この短い間に考えることがたくさんあって、なんだかどっと疲れてしまった。それでもまだ、頑張りたい気持ちは消えていない。やるべきことは目の前に並んでいる。ぐっと溜め息を飲み込んで、わたしは手を伸ばした。

 

 

12.少女、B組と。

 

 


 

 まだA組がUSJで会敵する前なので、マイルド物間くんのつもりで書きました。でも【ヒーローっぽい個性持ち】に対する思いは色々あると思うので、若干オリ主に対しては刺々しいです。もうちょっと仲良くなるにはもうちょっと腹割らないといけない。

 B組もみんな可愛くて好きですが、特に今回出てきた面子が好きです。宍田くんやきのこちゃんと仲良くなりたい。

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