【依存】から始まるヒーローアカデミア   作:さかなのねごと

19 / 100
USJ襲撃編
13.少女、救助訓れ


 

 雄英に入学して1週間ほど経った。独り暮らしも、高校生としての生活も慣れてきて。世間もオールマイトが雄英の教師に就任したことをすっかり受け入れて、校門前のマスコミも姿を見せなくなっていた。

 そんな矢先の、出来事だった。

 

「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見ることとなった」

「ハーイ! 何するんですか?」

「災難水害なんでもござれ、救助(レスキュー)訓練だ」

 

 見ることに“なった”という言い方に引っ掛かりを覚えたものの、救助(レスキュー)訓練という言葉に気を取られてしまった。救助(レスキュー)──ヒーロー基本三項のひとつで、わたしが最も、頑張りたいと思っていること。

 

「レスキュー……今回も大変そうだな」

「ねー!」

「バカおめーこれこそヒーローの本分だぜ!? 鳴るぜ! 腕が!!」

「水難なら私の独壇場ケロケロ」

 

「おいまだ途中」

 

 ギロ、と睨みをきかせて静かにさせた後、相澤先生は説明を続けた。今回はコスチュームの着用は自由だということ。演習場は遠いからバスに乗っていくこと──以上準備開始、と締め括られ、わたしたちはそれぞれ席を立った。

 

 

 

 

 

 コスチュームに着替えたり、装備を確認したりして、準備を終えたわたしたちはバスに乗り込んだ。「バスの席順でスムーズにいくよう番号順で2列に並ぼう!!」と意気込んでいた飯田くんが、「こういうタイプだったくそう!!」とバスの内装に項垂れる様子を慰めたり励ましたりしながら、バスは進んでいく。

 

「私思ったことなんでも言っちゃうの緑谷ちゃん」

「あ!? ハイ!? 蛙吹さん!!」

「梅雨ちゃんと呼んで。──あなたの“個性”、オールマイトに似てる」

「!!!」

 

 そんな中、梅雨ちゃんが何気なく言った一言に、緑谷くんは飛び上がらんばかりにビクッと肩を揺らしていた。……そんなに驚くことかな、と不思議に思って、そちらに視線を向ける。

 

「そそそそそうかな!? いやでも僕はそのえー」

「待てよ梅雨ちゃん、オールマイトは怪我しねぇぞ。似て非なるアレだぜ」

 

 何故か慌てる緑谷くんを見かねてか、切島くんが間に入る。

 

「しかし増強型のシンプルな“個性”はいいな! 派手で出来ることが多い! 俺の【硬化】は対人じゃ強えけど、いかんせん地味なんだよなー」

「僕はすごくかっこいいと思うよ。プロにも十分通用する“個性”だよ」

「プロなー!! しかしやっぱプロも人気商売みてぇなとこあるぜ!?」

「僕のネビルレーザーは派手さも強さも折り紙つき☆」

「でもお腹壊しちゃうのはヨクナイね!」

 

 ……しばらく妙な沈黙が続いて、それを破ったのは切島くんだった。要所要所で会話を繋いでくれる人なんだなあと、改めて思う。

 

「派手で強ええっつったら、やっぱ轟と爆豪だな」

 

 轟くんの氷結と炎。爆豪くんの爆破。確かに2人とも凄い威力だし、使い方が上手い。けれどそんな褒め言葉を受け取った当の本人たちはクールだった。轟くんは、……聞こえてないかのように目を伏せたままだし、爆豪くんはそっぽを向いている。

 

「ケッ」

「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なそ」

「んだとコラ出すわ!!」

「ホラ」

「つ、梅雨ちゃん……」

 

「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだ性格と認識されるってすげぇよ」

「テメーのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!」

 

 梅雨ちゃんに引き続き上鳴くんまでもがガンガン言うし、周りのみんなも爆豪くんの反応に気にした様子もない。八百万さんは「低俗な会話ですこと!」と眉を少しひそめるだけで、麗日さんに至っては「でもこういうの好きだ私」とうららかに笑っている。「爆豪くん君本当口悪いな!」と突っ込んでいるのは飯田くんだ。

 

「……みんな物怖じとかしないんだね……」

「かっちゃんがイジられてるとか信じられない……」

 

 ぽつりと同時に呟いたのは緑谷くんだった。視線が合って、ああ気持ちがわかると苦笑を交わす。すると緑谷くんはなにかに気がついたように、あっと目を輝かせた。

 

「そういえば、空中(そらなか)さんの“個性”はホークスに似てるよね! ただ飛行できるだけじゃなくて、羽根1枚1枚を操作できるんでしょ?」

「あー確かにな! No.3ヒーローのホークス!」

「かっこいいよねーホークス! 人気なのもわかるっていうか」

「確かに羽根の使い方が似てるかも」

「っわ、わたしは、そんな、ホークスほど上手に操作できないよ」

 

 唐突に水を向けられて焦る気持ちと、ホークスがかっこいいと思われてることが嬉しい気持ちとで、顔に熱が集まる。劣等感とか、憧れとか、悔しさとか、嬉しさとか、いろんな気持ちが綯交ぜになって、わたしは目を伏せて笑った。

 

「わたしと彼では全然違うけど……でも、そうだね。ああなりたいって目標にしてたから、似てるところは、あるかも」

 

 本当のことすべてを話してはいないけど、嘘だって言っていない。ああなりたい。彼みたいなヒーローになりたいと、そう憧れた気持ちに嘘はないのだから。

 

 

 

 

 

「すっげーー!! USJかよ!!?」

 

 バスから降りたわたしたちが目にしたのは、滝のように巨大なウォータースライダーとプールに、炎や土砂に包まれた町並み、倒壊したビルの群れ。ひとつひとつがなにかのアトラクションか何かかと思うような施設が、目の前の広大な敷地に幾つも聳え立っている。わたしも資料で見たことはある“あの遊園地”みたいだな、なんて思っていると、入り口に立っていたその人が進み出てきた。

 

「水難事故、土砂災害、火事……エトセトラ。あらゆる事故や災害を想定し僕がつくった演習場です。その名も……

 ──嘘の()災害や()事故ルーム()!!」

 

(((USJだった!)))

 

 進み出たその人は、宇宙服で全身を包んでいた──いや、宇宙服に似たヒーロースーツを着たその人は、この雄英高校の教師であり、プロヒーローの1人。

 

「スペースヒーロー13号だ! 災害救助で目覚ましい活躍をしている紳士的なヒーロー!!」

「わー! 私好きなの13号!!」

 

 興奮気味に緑谷くんがそう言って、嬉しそうに麗日さんが飛び跳ねる。そんな2人に軽く会釈して、13号先生は相澤先生に近づいた。

 

「13号、オールマイトは? ここで待ち合わせるはずだが」

「先輩それが……」

 

 先生たちは更に声をひそめて話し出したから、聞き取れたのはそこまでだった。……本来ならいるはずのオールマイトがいない、ということは、何かあったのかもしれない。マスコミに捕まっているとか、そんな様子は無かったと思うんだけど……。

 

「えー始める前にお小言を1つ、2つ、3つ、4つ……」

 

 オールマイト不在ではあるけれど、授業は始めるらしい。わたしたちの前に立った13号先生は、指折り数えて、ゆったりとした口調で話し始めた。

 

「皆さんご存知だとは思いますが、僕の“個性”は【ブラックホール】。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

「知っています! その“個性”で、どんな災害からも人を救い上げるんですよね」

 

 緑谷くんの返答に、こくこく、と力強く頷く麗日さん。2人の尊敬が詰まったきらきらした目に、けれど13号先生は、静かな声で続けた。

 

「ええ……。しかし、簡単に人を殺せる“個性”です。皆さんの中にも、そういった“個性”がいるでしょう」

 

 ──例えば、と、考えてみればいくらでも思いつく。

 緑谷くんの超パワーで殴ったら。飯田くんの脚力で蹴ったら。爆豪くんが至近距離で爆破したら。轟くんが燃やしたり凍らせたりしたら。麗日さんの【無重力】で空高く浮かした相手を、急に解除したら──わたしの【翼】だって、人を浮かして高い所から落としたり、刃のように形状変化させて切りつけたりできる。

 

 わたしたちは、誰もが、人を殺せる。

 その事実を、ただ静かに13号先生は突きつける。

 

「超人社会は“個性”の使用を資格制にし、厳しく規制することで、一見成り立っているように見えます。しかし一歩間違えれば、容易に人を殺せる“いきすぎた個性”を個々が持っていることを忘れないでください」

 

 しんと静かに、13号先生の言葉を、この場にいる誰もが聞き入っていた。

 

「相澤さんの体力テストで、自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘で、それを人に向ける危うさを体験したかと思います。

 この授業では……心機一転! 人命の為に“個性”をどう活用するかを学んでいきましょう」

 

 ヘルメット越しのくぐもった声が、柔らかくなったのがわかった。明るく穏やかな音で、13号先生は話を締め括る。

 

「君たちの力は人を傷つける為にあるのではない。救ける為にあるのだと心得て帰ってくださいな」

 

 人を、救ける為にある。そう言われるだけでなんだか、心がほっとあたたかくなるような、そんな気がした。

 

「──以上! ご静聴ありがとうございました!」

「ステキー!」

「ブラボー!! ブラーボーー!!」

 

 ぺこり、と一礼した13号先生に、拍手が沸き起こる。わたしも心のままに、手が痛くなるまで拍手をした。

 そうした歓声と拍手が鳴り終わる頃を見計らって、一歩下がって様子を見ていた相澤先生が進み出る。

 

「んじゃあまずは……」

 

 これからのことを指示しようとした相澤先生が、その口を止めた。彼は後方にある広場の方に視線をやる。

 どうかしたのだろうか、と視線を追うようにそちらを見つめると、広場の中央──何もない空間に、じわりと影が滲んだ。ズズ……とそれはまるで白い紙にインクを垂らした時のように、微かにじわりと、広がって。

 

「──っ!?」

 

 広がった影の穴から、手が、のぞいた。

 

「全員ひとかたまりになって動くな!!

 ……13号! 生徒を守れ!!」

 

 普段の気だるげな態度をかなぐり捨てて、相澤先生が鋭く叫ぶ。広場の影は一気に広がって、そこから何人もの人が現れた。

 全員成人はしているだろう。男性も女性もいて、中には異形型の“個性”だろうと思われる人物もいる。さまざまな人たち、共通しているのは──目に宿る殺意だけ。

 

「何だアリャ!? また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」

「動くな! アレは、──(ヴィラン)だ!!」

 

 さっきまでただの影だと思っていたものが、人形をとった。それは鋭い金の目を揺らめかせて、低い男性の声で話し始める。

 

「13号に……イレイザーヘッドですか……先日頂いた(・・・)教師側のカリキュラムでは、オールマイトがここにいるはずなのですが」

「やはり先日のはクソ共の仕業だったか」

 

 頂いた(・・・)教師側のカリキュラム。先日。クソ共の仕業。……考えなければならないピースは散らばっているのに、うまくまとまらない。心臓の鼓動が、うるさい。

 

「どこだよ……せっかくこんなに大衆引き連れて来たのにさ……オールマイト……平和の象徴……いないなんて……」

 

 細身の青年だった。わたしたちとそこまで年も変わらないだろうと思える、若い男性の声。それでもここまで嫌な予感がするのは、その身体中を押さえつけるようにくっついている数多の“手”のせいなのだろうか。

 “手”を纏った彼は、顔にも“手”を仮面のようにつけているので、その人相や表情はわからない。それでも、

 

「子どもを殺せば、来るのかな?」

 

 ──狂ったような笑い声に、ゾッと、背筋が凍る。

 

 本来ならば命を救うための訓練を行っていた、この時。

 わたしたちは初めて、(ヴィラン)と相対した。

 

 

13.少女、救助訓れ

 

 


 

 “個性”は人を簡単に殺せるというここでの話を、24巻のトガちゃんの使い方を見て思い出しました。お茶子ちゃんとトガちゃん。使う人によって全く用途も印象も違ってきますね。

 ところで13号先生が女性だとこの時点で思ってた人ってどのくらいいらっしゃるのか。私はファンブックで知って驚いて変な声が出ました。

 

▼0521追記

 誤字報告ありがとうございます!今回の「救助訓れ」については原作漫画のタイトルをなぞったのでそのままにさせて頂きます(恐らく救助訓練になりそうでならないって話なので原作の遊び心かと思います)。

 私はそそっかしいので他にも色々と誤字等があるかと思いますので、また見かけたらご報告頂けるとありがたいです。ありがとうございました! 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。