【依存】から始まるヒーローアカデミア   作:さかなのねごと

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14.少女、会敵する。

 

(ヴィラン)ンン!? バカだろ!? ヒーローの学校に乗り込んでくるなんてアホすぎるぞ!!」

 

 雄英高校はヒーローを養成する最高峰の学校ということもあって、教諭の多くがプロヒーローだ。そんな本拠地ともいえる場所に乗り込んでくるなんて、と、わたしも目の前の光景を信じられずにいた。

 それでも何度目を凝らしても、見えるものは変わらない。(ヴィラン)が目の前にいるという、その事実は変わらない。

 

「先生、侵入者用センサーは!?」

「もちろんありますが……!」

「あるのに、鳴ってない……誰かが妨害してる……?」

「ああ、現れたのはここだけか学校全体か……何にせよセンサーが反応しねぇなら、向こうにそういうことができる“個性(やつ)”がいるってことだな」

 

 轟くんは広場を見下ろし、普段と変わらない淡々とした口調で続ける。

 

「校舎と離れた隔離空間、そこに少人数(クラス)が入る時間割──バカだがアホじゃねぇ。これは、何らかの目的があって、用意周到に画策された奇襲だ」

 

 ……轟くんは冷静に言うけれど、とんでもないことだ。雄英の長い歴史の中で、こんなことが起きたのは初めてなんじゃないのかな。

 みんなが緊張に顔を強張らせる中、相澤先生が鋭く叫んだ。

 

「13号避難開始! 学校に連絡(電話)試せ!

 センサーの対策も頭にある(ヴィラン)だ、電波系の“個性(やつ)”が妨害している可能性もある。上鳴、おまえも“個性”で連絡試せ」

「っス!」

 

「先生は!? 1人で戦うんですか!? あの数じゃいくら“個性”を消すっていっても!!」

 

 ゴーグルをつけ、捕縛布を手にした相澤先生に、緑谷くんが駆け寄ろうとした。今にも戦線に赴きそうな先生を心配して眉が下がっている。

 

「イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の“個性”を消してからの捕縛だ。正面戦闘は……っ」

 

「──一芸だけじゃヒーローは務まらん」

 

 目を隠すゴーグルをつけているから、相澤先生の表情はわからない。ただ静かな、それでいて強い意思のこもった声が、わたしたちを安心させるかのように返ってきた。

 たった一言、それだけ告げて、先生は駆け出す。

 

「13号! 任せたぞ!!」

「相澤先生……!」

 

 呼び止める声に振り返ることなく、相澤先生は高く跳躍して広場に降り立った。単身飛び出した先生に狙いを定め、(ヴィラン)たちが舌舐りする。

 

「射撃隊、行くぞぉ!!」

「情報じゃ13号とオールマイトだけじゃなかったか!? ありゃ誰だ!?」

「知らねぇ!が、1人で正面突っ込んでくるとは──大まぬけ!!」

 

 鞭のような髪をしならせた女が、ガスマスクをした男が、指に射出口を持った男がそれぞれ構えたけれど──

 

「あれ? 出ね……」

 

 何も出ない(・・・・・)。異常に戸惑ったその一瞬をついて、相澤先生は捕縛布で3人の身体を捕らえ、引き寄せ、頭を強打させて昏倒させた。一瞬の攻防で一気に3人を伸した彼を見て、(ヴィラン)たちがざわめく。

 

「馬鹿野郎! ありゃ見ただけで“個性”を消すっつう……イレイザーヘッドだ!」

「消すぅ~!? へっへっへ、俺らみてえな異形型の“個性”も消してくへんのかあ!?」

 

 進み出たのは身体中に鉱石のようなものを纏った大柄の(ヴィラン)だった。筋骨隆々なその男に対し、相澤先生は怯むことなく「いや無理だ」と答えて。

 

「俺が消せるのは変化系や発動系に限る。──が、」

 

 素早く懐に入り込んだ先生が顔面を殴り付ける。と同時に捕縛布がよろめいた相手の膝を掴んだ。反対から殴りかかってきた別の男のパンチを、体勢を低くして避けて──

 

「おまえらみたいな奴の旨味は統計的に、近接戦闘で発揮されることが多い」

 

 先ほど捕縛布で掴んだ鉱石の男を投げ飛ばし、ぶつけた。2つの巨躯はぶつかった衝撃に耐えられず崩れ落ちる。

 

「だからその辺の対策はしてる」

 

 あっという間に5人を沈めた相澤先生に、緑谷くんは歓声を上げた。

 

「すごい……! 多対一こそ先生の得意分野だったんだ!」

「分析してる場合じゃない! 早く避難を!!」

「うん、ここに留まってちゃプロヒーローたちの邪魔になっちゃう。だから、」

 

 だから早くこの場から離れよう、と。飯田くんに続いてみんなを促そうとした。その時。

 

「──させませんよ」

 

「!!」

 

 さっきまで広場にいたはずの黒い影のような(ヴィラン)が、出口に向かおうとしていたわたしたちの前に立ち塞がる。ゆらりと揺らめくその姿に口のようなものは確認できない。それでもその(ヴィラン)は、この緊急事態にそぐわない、落ち着いた声で話し出す。

 

「初めまして。私たちは(ヴィラン)連合。僭越ながら……この度ヒーローの巣窟である雄英高校に入らせていただいたのは、

 ──平和の象徴オールマイトに、息絶えて頂きたいと思ってのことでして」

 

「……え、?」

 

 平和の象徴に、オールマイトに、……息絶えて頂く?

 あまりに穏やかな口ぶりだったからか、その意味を咀嚼するのに時間が要った。噛んで、飲み込んで、──その言葉の重さに胃がじくりと痛む。

 

(オールマイト、を、殺す……?)

 

 そんなことは不可能だとか、そんなことをしたら社会は、とか。いろんな考えが脳裏に飛び交って、全然まとまらない。

 

「本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるハズ……ですが、何か変更があったのでしょうか? まあ……それとは関係なく……、」

 

 わたしの役目はこれ。

 そう低く呟いて、その(ヴィラン)は何かをしようとした。それを察知した13号先生が指部分の装飾を外して戦闘態勢を取るも、その前を横切る2つの影。切島くんと、爆豪くん──!

 

「──っだめ、待って!」

「うおっ!?」

「アァ!?」

 

 それぞれの“個性”を発動させて(ヴィラン)に向かおうとしている2人を、咄嗟に羽根で持ち上げた。突然宙に浮いた体に2人が戸惑いや怒りの声を上げるも、今は聞くことはできない。そのまま羽根で2人を後方へ下がらせると、入れ代わりに13号先生が前に出た。

 

空中(そらなか)さん、2人と、皆と一緒に避難を!」

 

 13号先生の指先が開いて、そこから先生の“個性”であるブラックホールが渦を巻いて漏れ出した。どんなものでも吸い込んで塵にするという強力な“個性”。彼女はそれを使っての捕り物や救助に長けているプロヒーローだ。

 だからわたしが成すべきは、13号先生の足手まといにならないよう、みんなと一緒に戦線を離れること。

 

「みんな、早く外に……!」

 

 そう判断して13号先生たちに背を向けた。その瞬間。

 

「13号……災害救助で活躍するヒーロー。やはり……戦闘経験は一般ヒーローに比べて半歩劣る」

 

 ぶわりと、血の匂いがした。

 

「──自分で自分を塵にしてしまった(・・・・・・・・・・・・・・)

 

「「「先生ーー!!!」」」

 

 (ヴィラン)はその影を自在に操り、13号先生の【ブラックホール】を受け止め、その出口を先生の背後に出現させた。──ブラックホールは、音もなくすべてを飲み込み、塵にする。それは“個性”の発動者だとしても同じこと。彼女のヒーロースーツが、背中が、肌が、自分自身の“個性”で吸い込まれ、塵と化していく。

 

「13号先生……!」

 

 振り返ってはいけない。足を止めてはいけない。早くみんなを脱出させなければいけない。──わかってはいた。それでも視線を向けた先で13号先生がうつ伏せに倒れ込んでいるのを、その背中の傷跡を見て、わたしは踵を返した。返してしまった。

 

「っ先生から離れて!」

「死ねやクソがぁ!!」

 

 鋭く、固く形状変化させた羽根を射出する。それを追うように爆破で飛んできた爆豪くんが(ヴィラン)に向かって拳を振るう。ほぼ鈍器となった羽根をぶつけ、爆豪くんもほとんど容赦なく攻撃しているにも関わらず、影の(ヴィラン)は効いた様子は欠片も見せない。声も平静のままだ。……むしろ、

 

「危ない危ない……そう……生徒といえど、優秀な金の卵」

 

 むしろ──その声が、凄味を帯びた。

 

「ダメだ……どきなさい、2人とも!!」

 

 13号先生の制止が遠くなる。ブアッと瞬く間に広がった影がわたしたちを包み込み、視界を、聴覚を、隔絶した。きっと(ヴィラン)が見せた【ワープ】の“個性”だろう。わたしたちをどこかへ飛ばすつもりだと、そうさせてはいけないとわたしは翼を広げた。少しでも多くの人を退避させないと──!

 

「させませんよ」

「……!?」

 

 黒いもやが身体に纏わりつく。実体があるようには感じないのに、なぜだか羽根が締め付けられたかのように動かせなくなる。金色の目のような光が、すうっとわたしを見て細められた。

 

「機動力は削がせていただきます。……そうですね、あそこがいいでしょう」

 

「──空中!」

 

 視界が黒く染まって、空を飛んでいる時とも違う、不思議な浮遊感に包まれる。五感のすべてが遠退いていく中、微かに聞こえたのはわたしを呼ぶ誰かの声。そして、

 

 

『──散らして 嬲り 殺す──』

 

 

 そんな声が脳裏に響いて、次の瞬間、わたしは空中にいた。

 

「え、──!?」

 

 がくんと重力に従って落ちていく感覚に、咄嗟に翼を広げて宙に浮かぶ。辺りを見下ろすと、まず視界に入ってくるのはビルの群れ。びゅうびゅうと横殴りの風と雨。それから、

 

「っ常闇くん、口田くん!!」

 

 地上に向かって落ちていく2人の元に羽根を飛ばす。カーペットのように敷いた羽根で2人を受け止めて、ほっと息をつく間もない。

 

「来た来た!」

「3人か……仲良く三等分といこうぜェ」

 

「!? (ヴィラン)……!?」

 

 地上にはわたしたちを待ち受けていたかのように、10数名の(ヴィラン)がこちらを見上げて舌なめずりしていた。こちらにはっきりとした敵意を見せている以上、見逃してはくれないだろう。

 

(──どうする?)

 

 わたしの【翼】は、羽根を鈍器のように固くして射出することによって飛び道具になる。けれどパワーは低く、人ひとりを昏倒させようと思うなら数枚は必要だ。ここにいる(ヴィラン)全員をノックアウトさせるには羽根が足りない。大多数を相手取る戦闘は避けたい──なら一度このまま空を飛んで身を隠そうかと、そう思った時だった。

 

「空中、この羽根はこのまま俺を乗せて動くことはできるか!?」

「!? で、きるよ!」

「ならば俺の指示通りに! ──下へ!!」

 

 常闇くんの目に迷いはなく、もう既に臨戦態勢に入っている。わたしは一瞬考えた後、常闇くんを乗せた羽根を地上に向けて動かした。吹き付ける暴風雨に逆らうように、彼はバッと羽根から飛び降りて──影を振るう。

 

「薙ぎ払え! 黒影(ダークシャドウ)!!」

「アイヨォォォ!!」

 

 以前食堂で見た時はわたしたちより少し小さな身体で、声も高く、どこか可愛らしささえあったのに、今の黒影(ダークシャドウ)は違った。人間より一回りは大きいその身体で、鋭い爪で周囲を薙ぎ払う。その威力は足元のコンクリートにヒビをいれ、(ヴィラン)たちを根こそぎ吹っ飛ばした。

 

「くそッ、ガキ、が……!!」

 

 ビルの壁に身体をうちつけ、悪態をつきながら男が崩れ落ちる。彼らの意識が完全に途切れたのを見てとって、わたしと口田くんは常闇くんの元へ降り立った。

 

「……すごい威力だね、常闇くん」

 

 わたしの隣でこくこくと口田くんが首を縦に振る。そんなわたしたちを見て、常闇くんは嘴を開いた。

 

「俺の“個性”【黒影(ダークシャドウ)】は、闇が濃ければ濃いほど力を増す。その分獰猛になって制御が難しくなるが──逆に光の下だと弱くなる。御しやすくはなるがな」

「そう、なんだ……」

 

 だから昼の食堂で会った時とは様子が違ったのだと、あの時常闇くんが言った『今の状況ならな』という言葉の意味を知り、なるほどと頷いた。そうして話に一区切りついたところで、辺りを見渡す。

 

「ここは……USJの施設の1つ、暴風・大雨エリアだね」

 

 頭上を仰げば、この辺り一帯をドームが覆っているのが見えた。わたしたちは間違いなくUSJのエリア内にいる、ということは。

 

「……さっきの影の(ヴィラン)は『散らして嬲り殺す』って言ってた。黒いもやで包まれた時、みんな各エリアに散らされたんじゃないかな」

「フン……そして待ち受けている他の(ヴィラン)が我々を嬲り殺すと」

「コノ程度デ、チャンチャラオカシイゼ!!」

 

 常闇くんから顔を覗かせた黒影(ダークシャドウ)がハッと鼻で笑う。確かにこの子の言う通り、あの影の(ヴィラン)と違ってここで待ち構えていたのはチンピラの類いのようなものだった。けれど、

 

「……あまり強くはないとはいえ、多くを一度に相手取りたくはないな。どんな“個性”かもわからないし、闇雲に突っ込みたくはない」

 

 わたしたちを逃がすつもりがないならば、ドームの入り口にでも陣取ってそうだけど、敵の数も配置もわからずに突撃するのは危険だろう。

 

「確認すべきは敵の数、配置。……でも、」

 

 天を仰ぐと、ざあざあと降りつける風と雨が頬を打つ。この雨風が、今のわたしにとって最大の敵だ。

 

「……わたし、この【翼】の振動を読み取って少し遠くの音を聞き取ることができるんだけど……この大雨と暴風の中じゃ難しい」

 

 ホークスなら違ったかもしれないけど、少なくとも今のわたしには、この暴風雨を掻い潜って振動を拾うなんて芸当は無理だ。

 わたしに次いで、常闇くんが厳しい表情で口を開く。

 

「【黒影(ダークシャドウ)】はある程度の中距離攻撃が可能だが、現時点ではあまり遠くまで飛ばすことができん。そも、黒影(ダークシャドウ)と俺は繋がっているのでな、逆にこちらの位置を探知されかねん」

「そうなんだね、じゃあ……」

 

 わたしと常闇くんが揃って口田くんを見ると、彼は慌てたように視線を反らしながらも、おずおずと答えてくれた。

 

「ぼ、僕の“個性”は【生き物ボイス】……声で動物たちにお願いをきいてもらえるんだ」

「お願い……口田くん、それは生き物に偵察をお願いして、その結果を聞くことも?」

「……、……できるよ」

 

 少し続いた沈黙は、躊躇の表れだったのかもしれない。それでも口田くんは「できる」と自信をもって告げた。俯きがちだった視線が、真っ直ぐわたしたちを見ている。

 

「……口田くん、お願い。あなたの力が必要なの」

 

 わたしたちを殺す気で待ち構えているチンピラ。(ヴィラン)連合と名乗った【ワープゲート】の黒もや。手を纏った不気味な青年。異形型の大柄な男──乗り越えるべき壁は数多い。それでも。

 

「わたしも、頑張る。……一緒に、頑張ろう」

 

 『乗り越えて、更に向こうへ』と、校訓が声高に叫ぶ。

 わたしたちは視線を交わしあって、強く頷き合った。

 

 

14.少女、会敵する。

 

 


 

 次は口田くんと常闇くんとついでにオリ主のターン。

 口田くんて自身なさげな印象ですけど、“個性”強いですよね。動物に限らず後々虫まで使えて、しかも意志疎通が可能なのが万能すぎる。蜂とか蝶とか飛ばしておけばどこでもなんでも索敵諜報できるのでは……?

 

▼0522 書き直し

 ご指摘いただいて色々考えた結果、直したいところを書き直させていただきました。改訂後の方が個人的にお気に入りです。ご意見ありがとうございました!

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