「オールマイト……!」
相澤先生の腕をあんなにも粉々にするような剛腕。得体の知れない手だらけの
オールマイトの振りかざした拳が、脳ミソ
「真正面から殴り合い!?」
目で追えないほどに速すぎる乱打が、ヒーローと
「【ショック無効】ではなく【ショック吸収】ならば!! 限度があるんじゃないか!!? 『私対策』!? 私の100%を耐えるなら!! 更に上から捩じ伏せよう!!!」
数えきれない拳を放ちながら、口許から血を吐きながらも、彼は笑っていた。
「ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの!
──これがNO.1ヒーローなのだと、眩しいくらいに。
「
「……すごい……」
最後に放った一撃で、脳ミソ
「やはり衰えた……全盛期なら5発撃てば充分だったろうに、300発以上も撃ってしまった」
それを成したオールマイトは、笑っていた。力強いその笑みを浮かべたまま、ぐるりと視線を向けて、その先を見据える。
「さてと
「……チートが……!」
手だらけの青年が忌々しげに呻く。がりがりと首元を力任せに掻きむしり、吼えた。
「衰えた? 嘘だろ……完全に気圧されたよ。よくも俺の脳無を……チートがぁ……! 全っ然弱ってないじゃないか!!
(……
その口振りに疑問を覚える。あの男は今冷静ではない。それでも、いや、だからこそ、その言葉に嘘はないんだろう。
少なくともあの人になにかを教える立場の人がいるということ。そして、オールマイトの弱体化だなんて嘘にしか思えないことを、信じてしまえるデータか、信頼があるということ──
「……どうした!? 来ないのかな? クリアとかなんとか言ってたが……出来るものならしてみろよ!!!」
「うぅうぅぅおおぉおぉぉおおおぉ……!!」
言葉にならない呻き声に、悔しさと苛立ちがある。それでもオールマイトに気圧されているのが見てとれたから、このままオールマイトが圧倒すると、そう信じて疑わなかった。
何も危険はない。もう大丈夫。“彼がいるなら大丈夫”。
──それなのに、緑谷くんが飛び出した。
オールマイトを庇うように、黒もやの
「!? みっ……!」
「オールマイトから、離れろ!!!」
どうして飛び出したの。どうして今その必要があったの。──そんな驚きが思考を奪って、一瞬なにもできずに立ち尽くす。すぐに羽根を飛ばしたけれど、一瞬のタイムラグが大きすぎた。
「二度目はありませんよ!!」
黒もやが、あの不気味な手が、緑谷くんに迫る。
間に合わない、羽根が、届かない──!
「させない!!」
絶望するわたしの隣で、13号先生が“個性”を発動させた。【ブラックホール】──どんなものでも吸い込んで塵にする。その吸引力はこれほど離れていても健在のようで、緑谷くんを襲おうとした
「っんだよ、コレ……! ムカつくなぁぁあ……!!」
それでも。追い込まれた
──その手を、銃弾が貫いた。
「ごめんよ皆、遅くなったね」
背後のゲートが開く。聞こえてきた声に振り返ると、麗日さんが泣きそうな顔で笑った。その目に映る人物に、安堵がやってくる。
「飯田くん……!」
「1ーAクラス委員長飯田天哉!! ただいま戻りました!!!」
飯田くんはその駿足を生かして、学校に救けを求めに行ってくれていたらしい。彼が連れてきてくれたプロヒーローたちを見て、わたしもほっと息をこぼした。
「あーあ……来ちゃったな。ゲームオーバーだ。帰って出直すか黒霧……──ぐっ!!」
スナイプ先生の銃弾が手だらけの青年を射抜く。それでも黒もやは効いていないようで“個性”を使って脱出しようとしているけれど、13号先生の【ブラックホール】に引きずられてうまく発動できずにいる。
「この……ブラックホール!! 厄介な……!!」
「オイ黒霧! 行動不能にさせたんじゃないのか!?」
「確かに先ほどまでそうだったのですが……!」
「今度は後れをとりませんよ……! 大人しくしなさい!」
ズズズ、と引き寄せられた黒もやと手だらけの
「……あぁそうか、おまえ、回復キャラだったのか」
「……っ」
無表情の中に、言い知れぬ不気味さを感じ取って、わたしは一歩退いてしまった。そんなわたしから興味を失くしたように、ふいと視線を反らして、
「今回は失敗だったけど……今度は殺すぞ、
平和の象徴……オールマイト」
「、待っ……!」
黒もやが青年を包み込み、小さくなっていき、わたしたちの眼前で完全に消えてしまった──逃がしてしまった。その後悔に俯きそうになって、唇を噛んで首を振る。顔を上げる。まだやるべきことが残っている。
「!?
ばさ、と翼を広げて跳躍し、セントラル広場に降り立つ。どうしてセメントス先生が“個性”で壁を展開させているのかは気になるけれど、とにかく今は、と壁の前で倒れている緑谷くんの傍に駆け寄った。
「緑谷くん……!」
「空中、さん……」
先ほど確認した左手の親指と中指、それに加えて両足の骨が折れている。きっと、さっきオールマイトを救けに入った時の踏み込みだろう。
「……どうしてこんな、無茶を……」
どうして飛び出したの。どうしてそれが必要だったの。……わからないことや訊きたいことはあるけれど、何よりまずは、やるべきことをしないと、と治癒にとりかかった。
緑谷くんの両足、そして左手。それぞれに触れてエネルギーを注ぎ込む。完治の気配に目を開けると、……目の前がくらりと眩んだ。
「……ぇえっ!? そ、空中サン!!?」
前のめりで緑谷くんにもたれ掛かったわたしに、緑谷くんが驚いている。声がひっくり返って、わたわたして……申し訳ないなと思ってはいるのだけど、今は身体が、動かない……。
「……空中さん? 空中さん!?」
「おいどうしたんだよ、緑谷!」
「空中さん、急に倒れて……すごい熱だ……!」
「なんだって!?」
ぼんやりとする聴覚で、緑谷くんと切島くんの声を拾う。
「……だい、じょうぶ。“個性”、少し、使いすぎちゃった、だけ」
心配することないと伝えたくて、無理やり口を開いた。
けどそれも、長くは続かない。
「寝てたら、すぐ、治……」
「空中!!?」
「空中さん!!」
ふ、と電源を落とすかのように、すべての感覚が途切れた。
ぼんやりと熱に浮かされた頭が、ぼんやりとした世界を捉える。視覚も聴覚も水の中にいるかのようで、ひとつ膜を隔てているようで、はっきりしない。まばたきを繰り返す。次第にクリアになっていく感覚で、自分がベッドに寝かされていることに気づいた。わたし自身が熱いからか、シーツが程よくひんやりしていて気持ちいい。
「……わたし……、──!」
ぼうっとした意識が、一気に覚醒する。わたし、あのUSJで、
ガバッと上体を起こすと、衝撃についてこれなかった頭がくらりとした。う、と小さく呻いたわたしの肩に、誰かの手が乗った。
「馬鹿だね、飛び起きる奴がいるかい」
これをお飲み、と差し出されたコップを受けとり、水をゆっくりと喉に流し込む。飲み干して、は、と息をこぼした頃には、目眩はもうなくなっていた。しゃっきりした頭で、傍らのリカバリーガールに向き直る。
「リカバリーガール……! みんなは無事だったんですか? 誰も怪我をしてたり……そう、オールマイトも口から吐血してて……!」
「落ち着きんさい」
ぴしゃりと言われて、口をつぐむ。どうやらここは保健室のようで、わたし以外にベッドは使われていないようだけど──と、視線で探っていたことを見破られたらしい。また大きな溜め息を吐いて、彼女は話し出す。
「……怪我人はいないよ。みんな掠り傷程度さ。重傷者は、あんたが治癒したあの3人だけだったからね」
「……よかった……」
オールマイトに治癒はできなかったし、他のクラスメイトの安否もわからなかったから、今のリカバリーガールの言葉に心底ほっとした。……けれどリカバリーガールの表情は晴れない。
「……今回は事情が事情だから、あまりお小言は言えない……ところだから、控えめにいこうかね」
複雑そうに目を伏せて、彼女は話し始める。
「あんたの【治癒】は、エネルギー源があんた自身だ。使いすぎて体内のエネルギーが不足して、熱が出るというのも、仕方ないんだろうさ」
しわくちゃの手が、わたしの手をとる。
「それでもね、心配はしてしまうんだよ。
……こんな年寄りに心労をかけるんじゃないよ」
「……はい。ごめんなさい、リカバリーガール」
謝って下を向く、そんなわたしの肩をぽんと叩いて、帰宅する準備をおし、と彼女はわたしに制服を手渡した。いつの間にか着替えさせてもらったらしい病院服から制服に着替えて、シャッとカーテンを引く。外はもう、すっかり夜だった。
「お世話になりました」
「はいよ。ペッツをお食べペッツを」
「あ、ありがとうございます……」
「ちょうどいいタイミングだよ。迎えも来たからねぇ」
「? 迎えって……」
「よう」
廊下の暗闇に溶けるように立っていた相澤先生に、悲鳴を上げることはなんとか堪えた。それでも口に入れたばかりの飴を飲み込んでしまって、少し咳き込んでしまったけれど。
「あの、本当にすみません……」
「謝るな」
「はい……」
先生は淡々といつものように言った後、沈黙した。ブロロロ、とエンジン音だけが聞こえる静かな車内で、何を言うべきか躊躇うような沈黙が続いて。
「……謝るのはこちらの方なんだがな」
それが破られたのは先生の方からだった。助手席から視線で問いかけると、相澤先生は前方を見つめたまま返した。
「俺らの負傷を治癒したせいで、エネルギー不足になったんだろ」
「……でも、それはわたしがそうすべきだって、そうしたいって選んだからです。先生の“せい”って、そんなことは全然なくて……」
選択には責任が伴う。だとするなら、
「責任があるとしたら、それは、わたし自身に他ならない」
わたしは心からそう思うのだけれど、相澤先生は不服なようで、あからさまに眉根を寄せた。不機嫌そうな顔がミラー越しに見える。
「生意気言うな、空中」
「な、生意気って、」
「おまえは生徒だし、俺は担任。……守られるべきなんだよ、おまえは。そういう立場にある」
「……守られる、立場……」
なんだか擽ったいような、慣れないような。不思議な感覚に口ごもる。……でも、本当に、公安の元に所属していて、それを隠しているわたしに、そんな権利はないように思う。こんな風に気遣ってもらって、嬉しい気持ちと罪悪感とが、同時に胸を襲って。
「……ありがとう、ございます」
何故だかこぼれてきそうな涙を、俯いて笑って、誤魔化した。
「あの、ありがとうございました、相澤先生」
「おう」
アパート前で下ろされて、深く頭を下げたわたしに、相澤先生は髪をぐしゃぐしゃしながら言う。
「……後でケータイ見とけ。クラスの奴らも、おまえを心配していた」
「え、……わ、わかりました」
「じゃあな。明日は臨時休校だ、しっかり休めよ」
「はい。……では、また」
車が路地に消えていくのを見届けて、わたしは振っていた手を止めて鞄を探った。『ケータイ見とけ』……確かに保健室で起きてから今までスマホを確認する間がなかったしな、と部屋に向かいながら操作する。
ぱっと明るくなった画面に、その表示された内容に、目が点になってしまった。
「……へ?」
着信履歴に“ホークス”の名前が並んでいた。忙しい彼が電話してくるのも珍しいのだけど──着信数がエグい。数える前に数えるのが億劫になってしまうようなその量に、疑問が沸き上がる。
「え、な、なんで……?」
こんなことは初めてで、いつも感じる嬉しさより心配が勝った。まさか、ホークスの方でも何かあったんじゃないだろうかと眉をひそめたその時、また着信が入ってきた。驚いて、慌てて部屋に入って、玄関口でスマホをタップする。
「……あの、もしもし、」
『
「うん、わたしだよ。ホークス、いっぱい着信入ってたけど……何かあった?」
沈黙。深い溜め息。困惑するわたしが呼び掛けると、彼はまた溜め息を吐き出した。苛立ちと安堵が混じったような、そんな声が耳元でする。
『何かあったのそっちでしょ。だから電話してたんだよ』
「! さすがというか……もう知ってるんだね」
まだマスコミが発表してないはずの情報を、どこで誰からどうやって知ったのか。気にはなるけど、ホークスだったら知ってるだろうなと納得してしまう。
靴を脱ぎながら部屋に入る。ぱち、とスイッチを操作して電気をつけると、真っ暗だった部屋が光で満たされた。
『今スマホ見た?』
「うん、……その、ごめんね。着信気づけなくて」
『……
「……ホークス、実はどこかで見てたりした?」
『馬鹿』
端的で辛辣な言葉に苦笑をこぼす。馬鹿って酷いなあ、なんて軽い口調で返しながらソファに沈んだ。柔らかい感触に身体を預けて、ほうと息を吐いて。そんな無防備な瞬間だったからかもしれない。
『……心配した。仕方がなかったとはいえ……あんま無茶せんでね』
ホークスの声が、すっと、心に入り込んだ。
「……ごめんなさい、啓悟くん……ありがとう」
リカバリーガール、相澤先生、クラスのみんな、そして、ホークス。こんなにたくさんの人に心配してもらえて、今日という日がなんとか無事に終わろうとしているのを実感した。それと同時にあの時の、誰かが殺されるかもしれない恐怖とか、力が足りずに
だから、なのか。さっきは我慢できた涙が溢れてきた。こんな情けない様をホークスには知られたくなくて、必死に嗚咽を噛み殺す。
『──愛依、』
我慢、してるのに。なんで。
『……よく頑張ったね。だからもう、泣いていいよ』
なんでそんな優しい声で、暴いてしまうの。
「……っふ、ぅ、……っ」
ぼろぼろと涙が流れてぐちゃぐちゃになった顔。ひぐひぐとみっともなく溢れる嗚咽。どれもこれも情けないのに、ホークスはうん、うん、と優しい相槌を打ってくれる。
そんなことを繰り返して、わたしの涙が落ち着いてきたころ、ホークスが冗談めかして笑った。
『……あー……でも、困るなァ』
「……?」
『電話越しじゃ、なんもしてやれん』
「、なにそれ」
涙が滲んだまま、ふふ、と笑う。なんもしてやれんって、絶対そんなことありっこないのに。今も、今までも、ずっと。わたしはあなたに救けられてきたのに。
「……十分すぎるほどだよ、啓悟くん」
16.少女、帰り道。
オリ主の治癒した人物が活躍することで展開が少しずつ変わっていく。そんな原作沿いにしていきたいです。願望です。