幼少期の俺は、毎日のように泣いていた気がする。
『立て。こんなもので倒れていては、オールマイトはおろか雑魚
俺が五歳になったと見ると、あのクソ親父は“オールマイトを超えるための特訓”を課し始めた。あのただただ広いだけの家の奥、薄暗い廊下を引き摺られて辿り着く訓練場。筋トレで何度床に崩れ落ち、組み手で吹っ飛ばされて何度嘔吐したかなんて、もう覚えちゃいねぇ。
『やめてください! まだ五つですよ……!』
床に踞ってげぇげぇと胃のものを吐き出す俺を見かねて、お母さんはあのクソ親父に訴えてくれた。静かで穏やかな人だったから、それ以外で声を荒げたとこなんて見たことない。俺を庇おうと、守ろうと、あいつに立ち向かってくれたんだ。……それを、
『もう五つだ! 邪魔するな!!』
それを一蹴する声を、覚えている。見上げたお母さんが、あいつにぶたれて、体勢を崩して、床に倒れたのを覚えている。いつもは白いその頬が、赤黒くなっていったのを、覚えている。
それを見た瞬間、沸騰するように身体の奥から沸き上がった怒りを、悲しみを、……恐怖を、覚えている。
『嫌だよお母さん……僕……僕、お父さんみたいになりたくない』
あのクソ親父みたいになりたくないと、夜毎お母さんに泣いてすがった。
『お母さんをいじめる人になんて、なりたくない』
あいつは常々『ヒーローになれ』と俺に言った。そうして訓練を受け続けていたら、いつか、“あんなヒーロー”になってしまうのではないかと本気で思った。それが嫌で、怖くて、ぐすぐす泣いていた。何度も、何度も。毎日のように。
『…………』
そんな俺に思うところはあったのだろう。でもお母さんはただ、膝に乗せた俺を抱き締めて、優しく頭を撫でながら、言ってくれたんだ。
『……でもヒーローにはなりたいんでしょう?』
『焦凍見るな。
だからきっと、俺は耐えられたんだ。
夏兄たちが楽しそうに遊んでいるところを見ることさえ許されなくても、腕を痣になるくらい強く引かれて、引き摺られて、毎日あの薄暗い訓練場に連れて行かれても、そこでどんなに苦しんで泣いても、俺自身はきっと大丈夫だったんだ。
けど俺以上に、ずっと、ずっと、お母さんは苦しんでいた。
『お母さん……私、変なの……もうダメ』
ある日の夜。トイレに行こうと布団から起き上がった俺は、台所からお母さんの声がしたことに気づいた。電話しているのだろうかと、眠い目を擦りながら立ち止まる。……話している内容はよくわからなかった。わかっていなかった。
『子どもたちが……日に日にあの人に似てくる……』
だから、その場で立ち止まって耳をそばだててしまった。本当なら、聞かなかったふりをしてその場を後にすればよかったのに。あの時の馬鹿な俺は、
『焦凍の……あの子の左側が、
──時折とても醜く思えてしまうの』
眠気なんて吹っ飛んだ。でも理解が追い付かなかった。
『私……もう育てられない。育てちゃダメなの……』
だから、俺は。廊下の影から
『お……母さん……?』
振り返ったお母さんの、あの見開いた目に、俺はどんな風に映ったのか。その表情からなんとなくわかった。
お母さんは怒っていた。悲しんでいた。苦しんでいた。あいつを、俺の左側を憎んでいた。子どもすら憎んでしまう、そんな自分自身を1番、憎んでいた。何年も何年も貯め続けたその感情が、耐えて堪えて、そしてこの瞬間、ぷつりと堰が切れたのだろう。感情に呑まれて、きっと何も考えることなんてできてなかった。
手元のコンロでぼこぼこと沸いている、その薬缶を手にとって俺に向かって振り上げる。乱暴に扱われたその薬缶から熱湯が俺の左側に降り注ぐ。──こんな一瞬の出来事だ。その間お母さんは、我を忘れてしまっていたのだと思う。
『あああ焦凍!!』
だって、熱さと痛みに泣き叫ぶ俺を見て、お母さんははっとして駆け寄ってくれた。すぐさま布巾を手にとって、俺の左目に押し当てて、【冷却】の“個性”を使ってくれた。
『ごめんなさい焦凍……! ああなんてことを、ああ、あああなんてことを!!』
俺以上に苦しそうに泣き叫ぶお母さんを見て、わかった。
お母さんは本当は、こんなことしたくなかったのだと。こんなことしたくなかったのに、そうなってしまったのだと。行き場の無い、どうしようもない感情が溢れてしまっただけなのだと。
だったら言ってあげないと。『お母さんは悪くない』って。『俺は大丈夫だから、だから泣かないで』って。泣き止んだら、ちゃんと、伝えないとって──
──けど、泣き疲れて起きた次の日に、お母さんはいなかった。
『お母さんは……?』
『おまえに危害を加えたので病院に入れた』
事も無げにそう言ったクソ親父に、俺は一瞬呼吸を忘れた。目の奥がカッと熱くなる。指先がぶるぶる震えて痺れた。……いや、“事も無げに”は、違ったな。
『まったく……大事な時期だというのに……』
迷惑そうに溜め息を吐き、お母さんを悪者のように言う。
……誰のせいだと思ってるんだ。お母さんがあんなにも怒って、悲しんで、苦しんで、憎んでしまったのは、ぼろぼろに傷ついてしまったのは、全部、全部、全部──!!
『……おまえのせいだ……!!』
あのクソ親父のせいだ。【炎熱】のせいだ。俺の左側のせいだ。こんなものがあるから、お母さんを追い詰めてしまうんだ。だったらもう、こんなもの全部“いらない”と──これが俺が【炎熱】を封じる決定打になったんだが、それより前から、俺は自分の左側が嫌いだった。【炎熱】の“個性”が嫌いだった。クソ親父との繋がりを感じてしまう、この熱なんて無ければいいのにと、そう思っていた。
そんな考えを救ってくれたのは、テレビ越しに見たあの人だった。
『“個性”というのは親から子へと受け継がれていきます。しかし……本当に大事なのはその繋がりではなく……自分の血肉……自分である!と認識すること。
そういう意味もあって私はこう言うのさ!』
『“私が来た”──ってね!!』
オールマイトはニカッと笑ってそう言った。その言葉に救われ、その存在に憧れた。
どんな“個性”を持っていても、どんな親から受け継いだとしても、“自分自身”であることに変わりはないのだと。
『いいのよ、おまえは……血に囚われることなんかない』
お母さんも、そうだ、言ってくれていたんだ。始めから。
親父への憎しみに呑まれて見えなくなってしまっていた。あの優しい声を、忘れてしまっていた。それでもちゃんと俺の中に残っていたんだ──俺の、原点に。
『なりたい自分に、なっていいんだよ』
「俺だって、ヒーローに……!!」
ヒーローに、なりたい。オールマイトみたく、誰かを救えるような、“自分は自分だ”と、胸を張って言えるような強いヒーローに。
「焦凍ォォオオオ!!」
「やっと己を受け入れたか!! そうだ!! いいぞ!!」
「ここからがおまえの始まり!!」
「俺の血をもって俺を超えて行き、俺の野望をおまえが果たせ!!」
いつもは煩わしくて、いちいち勘に触っていた親父の声も、どこか遠い。思わず溢れた涙が視界を洗って、まるで新しい世界にやって来たかのようだった。
涙をぬぐう。俺をこの世界に連れてきた張本人を見る。
「……凄……」
「……なに笑ってんだよ」
ぼろぼろになって、何を笑ってるんだよ。
「その怪我で……この状況でおまえ……イカれてるよ」
そんなになってまで、俺の
「──どうなっても知らねぇぞ」
ダン!!と足を踏みしめて右足から【氷結】を、左手に【炎熱】を纏わせる。氷の向こうで緑谷も構えたのがわかった。……おまえも全力で来てくれるのなら、俺だって。
「緑谷、」
氷結に向かって炎熱を振り下ろす。
……なぁ、こんな時に、こんな声、きっとおまえには聞こえてねぇんだろうが、それでも、
「……ありがとな」
それからのことは、あまりよく覚えていない。氷結で散々冷やされたスタジアム中の空気が一気に炎熱で暖められて大爆発を起こしたのだと、実況席から聞こえる解説を他人事のように聞いていた。俺は、セメントス先生が張ったのだろうセメントの障壁をぶち壊して、ぼろぼろになったフィールドに、息を切らして立っていた。視界の先で、緑谷が壁に叩きつけられて、ずるずると地面に倒れていくのを見ていた。
「……緑谷くん、場外。轟くん──3回戦進出!!」
呆然とする俺に、ミッドナイト先生の判決や、観客のざわめきが聞こえてくる。
「緑谷のやつ、煽っといて負けちまったよ……」
「策があったわけでもなくただ挑発しただけ?」
「轟に勝ちたかったのか負けたかったのか……」
「何にせよ恐ろしいパワーだぜありゃ」
「気迫は買う」
「騎馬戦までは面白い奴だと思ったんだがなァ」
「……轟くん、」
知らずに握り締めていた拳をそっとほどかれて、あたたかい力が流れ込んでくる。はっとして顔を上げると、そこで
「……あの、今からわたし緑谷くんについて臨時保健室に向かうんだけど、轟くんも一緒に行こう。そこに体操服の予備があるから」
「……ああ」
言われて気づく。ロクなコントロールもせず全力で【炎熱】を使ったから、体操服の上着の左半分が焼け焦げてしまっていた。頷き、白い羽根がふわふわ揺れる背中を追って歩き出す。
スタジアムから廊下に差し掛かったところで、空中がびくりと肩を揺らして立ち止まった。どうした、と問い掛けるより先に、その理由に気づく。目にする。クソ親父が、腕組をして俺たちの前に立っていた。
「“邪魔だ”、とは言わんのか」
……そんな感情すら、遠くなっているのに気づいた。言葉なく考え込む俺をよそに、親父は勝手に熱くなっている。
「
“上位互換”という言葉に、空中の羽根が不自然にはためいた気がした。
「卒業後は俺の元へ来い!! 俺が覇道を歩ませてや、」
「捨てられるわけねえだろ」
勝手に並べ立てられる言葉を遮る。子どもじみた駄々なんて言ってくれたが、そんな簡単に今までの過去が、思いが覆るわけねぇよと、吐き捨てるように告げて。
「ただ、あの時あの一瞬は……、──おまえを忘れた」
緑谷と全力で向かい合ったあの時、あの感覚。あの世界。
「それが良いのか悪ィのか正しいことなのか……少し……考える」
黙り込んだクソ親父を残して、この場を去ろうと歩き出す。けれど空中は立ち止まったままだったから、俺は振り返って呼び掛けようとした。……それができなかったのは、親父を見上げる、空中の表情を見たから。
怒りや悲しみや、もどかしさとか、どうしようもない感情を綯交ぜにしたような目で、親父を見ていたから。
「……空中?」
「! ごめん、行くね。……失礼します」
親父にお辞儀して、小走りでこっちに来た空中に疑問が湧く。親父の姿が見えなくなってしばらくして、俺は口を開いた。
「空中。さっき何だか妙な感じだったが……どうしたんだ。もしかして、親父に何か言われたのか」
「えっう、ううん違うよ大丈夫! ……むしろわたしが失礼なことを言っちゃったというか、……」
「?」
もごもご言ってる真意を問い詰める前に、話はここで終わりだと、空中はぱっと明るく微笑んだ。
「とにかくわたしは何ともないよ、大丈夫」
そうして、笑みの色を変えて、俺を見た。
「……轟くんは、大丈夫?」
「……そう、だな」
その『大丈夫』にいろんな意味があるんだろう。俺は考えを巡らせて……思いついた全部を言葉にすることはできないけど、それでもぽつりと呟いた。
「案外、こんなもんだったのかって……妙な気分だ」
「……うん、そっか」
空中は静かに相槌を打つ。それ以上は何も言わなかった。
そのまま臨時保健室に入り、俺に体操服の上着を差し出した後、空中は奥のベッドへ向かった。静かにカーテンを引いて、ああ、と溢す。
「緑谷くん、起きたんだね、大丈夫?気分はどう……?」
「……そら、なか、さ……」
場外判定の後、搬送ロボによって運び込まれたらしい緑谷は、もう意識を取り戻してベッドに横になっていた。思わず俺も、空中の隣に立って緑谷に向き合う。
「……緑谷、」
「あ……轟、くん」
「……すまねぇ、悪かった」
「え、い、いや……僕もなんかズケズケ言っちゃったし……」
「確かにズケズケきたな。意外だった」
俺の事情を知ってるくせに、腫れ物にするどころか、拳を振るってぶつかってきやがった。俺が抱えていた過去や決意や憎しみを、ブッ壊していきやがった。
「けど、それが……」
それがなければ俺は、埋もれていた原点に返れなかった。
「……ありがとな」
「……ううん、……」
たくさんの言葉は言えない。それでも緑谷は、ほっとしたように笑って頷いた。……どうしようもなくお人好しだな、なんて、思う。そんな時。
「緑谷くん!!」「デクくん!!」「緑谷ァ!!」
バァン!と扉を開け放って飛び込んできた声に、びくりと振り返る。そこには飯田と麗日と蛙吹、それに峰田がいた。
「みんな……次の試合は?」
「ステージ大崩壊のためしばらく補修タイムだそうだ」
「心配できたんよー! ……でも
「お疲れさま、愛依ちゃん。流石ね」
「あ、ありがと……梅雨ちゃん」
わいわいと雪崩れ込んできたみんなに圧倒されていると、峰田が顔を強張らせて言った。
「怖かったぜ緑谷ぁ、あれじゃプロも欲しがんねーよ」
「塩塗り込んでくスタイル感心しないわ」
「でもそうじゃんか」
「……なんか、本当に色々、すまねぇ……」
「アッ轟くん!」
「違うぞ! 謝ることなど何一つ無いだろう!!」
せっかくプロに見てもらえる場だったのに、と俯く俺に、飯田が声を張り上げる。
「君は全力で戦った。緑谷くんもまた全力で戦った。素晴らしいことじゃないか!!」
真っ直ぐに向けられた称賛に、笑みに、少し固まる。
「そうそう、ナイスファイト! ってやつだ!」
「炎も使いこなせるなんて、強いわね、轟ちゃん」
「強“個性”のイケメンとか爆ぜろってんだ」
「峰田ちゃん」
「キョエッ」
「うん……やっぱ、轟くんは凄いよ!」
緑谷までもがそう言ってくれて、うまく、言葉が出てこない。
「……す、……すま、ねぇ」
やっと絞り出した声に、ふふ、と空中が笑う。
「そういう時は、“ありがとう”でいいんだと、思うよ」
眩しい。こんなに、視界は明るかったのかと、眩しすぎる世界に目眩すら覚える。日陰から日向に出たように、心が熱くなるのがわかった。
──でも、いいのか。このままここにいて、いいのか?
……本当に?
それからしばらくして、俺は再びステージに立っていた。向かい合う先に、飯田が気合い十分な顔で立っている。
『準決! サクサク行くぜ! お互いヒーロー家出身のエリート対決だ!
飯田天哉!!
ヒーロー家、と聞いて思い出す。……そういや飯田の兄はあのターボヒーロー・インゲニウムだったな。今さら思い出すなんて、本当に、今まで考えもしなかったんだな。
「STAAAART!!」
開始の合図と共に、飯田は地を這う氷結を避け跳躍した。一気に距離を詰められ、俺はなんとか身を低くして一撃目を避ける。けれどそこから流れるように打ち込まれる、二撃目の蹴りは避けられなかった。
「──決める!!!」
「っぐっ」
迷いの無い蹴り。動き。速さ。感心すると同時に、右手を伸ばし、力を込めた。
「すげぇ! 速すぎだろあの蹴り!!」
「だいぶ重そうなの入ったぞ!!」
体勢を崩した俺を掴み、飯田は走り出す。俺を場外に放り出すつもりだろうが、そうはさせねぇ。
「!!!」
──プスン、と音を立てて止まった足に、飯田が目を剥く。
「いつの間に!!!」
「蹴りん時」
動きが止まったその隙に、飯田の腕を掴み、全身を氷で覆わせる。
「範囲攻撃ばかり見せてたから……こういう小細工は頭から抜けてたよな」
「ぐうう……っ」
「警戒はしてたんだがレシプロ……避けられねぇな流石に……」
『飯田、行動不能! 轟、炎を見せず決勝進出だ!!』
……“炎を見せず”、か。確かに、炎を出して迎撃していれば、飯田を近寄らせることもなかったかもな。
……それでも俺は、迷っている。──考えている。
「くっ……兄さん……!」
飯田の呟きに、兄への思いを見た。兄のために、兄への憧れのために飯田は戦ってきたのかと、ぼんやり思った。……兄を、思っている。慕っている。何の躊躇も疑いもなく。
インゲニウムがすごいのか、飯田がすごいのか、……どちらだとしても、俺にはきっと、真似できない眩しさだ。
『君の力じゃないか!!!』
決勝戦を待つ控え室。脳裏に、緑谷の言葉が甦る。
緑谷にそう言ってもらえるまで“考える”なんて考えもしなかった。
言われるまでもなく、あの親父は、俺のこの左側は、【炎熱】は、同じものだと思っていた。すべて無くなってしまえばいいと、疑いもなくそう思っていた。
……だけど違うとしたら?この左側は“俺の力”だと認めてしまえるのだとしたら?──お母さんは、どう思うだろうか。
「あ?」
そんなことを考えていると、急にドアが乱暴に開かれた。顔を上げると、爆豪が目を丸くして入り口に立っていた。
「あれ!? なんでテメェがここに……控え室……あ、ここ2の方かクソが!!」
……わいわいと賑やかだな、なんて、それだけ思って、俺は視線を反らして俯いた。別に他意はなかった。
「……部屋間違えたのは俺だけどよ……決勝相手にその態度はオイオイオイ……」
だけど爆豪にとっては違ったらしい。ゆらりと揺らめくようにこちらに近寄って、バァン!!と爆破させながら机を叩き付ける。
「どこ見てんだよ半分野郎が!!!」
──“どこ見てるんだ……!!”
「……それ……緑谷にも言われたな」
思わずふ、と唇に笑みがのぼる。
「あいつ、無茶苦茶やって
あんなぼろぼろになっても、無茶苦茶やって、俺の心を無理やり軽くしてきやがった。……不思議な奴だな、と今も思う。
「幼馴染なんだってな。昔からあんななのか? 緑谷は……」
「──ッあんなクソナード……どうでもいんだよ!!!」
……何か、爆豪の琴線に触れたのかもしれねぇ。爆豪はさっきよりはっきりした怒りを見せて、机を蹴り飛ばした。
「ウダウダとどうでもいんだよ……テメェの家事情も気持ちも……! どうでもいいから、俺にも使ってこいや
──そいつを上から捩じ伏せてやる」
……どこで知ったかは知らねぇが、爆豪も俺の事情を知っていたらしい。肩を怒らせながら歩き去っていく爆豪の背中に、俺は心中で謝罪した。
ごめんな。きっと、おまえも全力で戦ってほしいって思ってるんだろうな。あんなにも勝利に、トップに拘っていたやつだ。【氷結】も【炎熱】もすべて出しきった俺に勝ちたいと、心から思ってるんだろう。
……だが、まだ、俺は考えている。
俺の心は軽くなった。視界は開けた。
こんな世界に、俺は、俺の納得だけで来ていいのか?
──お母さんはまだ、格子付きの病室にいるのに?
「……お母さん……」
まだ、まだ、考えている。考えなくちゃいけない。
俺はぎゅっと、左手を握り締めた。
27.氷炎、考える。
轟くんの過去の凄惨さを表現したくてこんなに長くなってしまった……オリ主やホークスはエンデヴァーを1人のヒーローとして見ているけど、こんな地獄の轟くん家をつくりあげたという点は決して忘れてはならないと思います。
やっっっとここまできました体育祭編!こんなに長くなるなんて思ってもみませんでした。あと1、2話で終わる予定です。