【依存】から始まるヒーローアカデミア   作:さかなのねごと

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44.少女、演習試験。

 

 わたしたちの演習試験場は屋内──店舗の入ってない巨大ショッピングモールといったような場所だった。7階建てとなっていて、各所に置かれたエスカレーターで登り降りが可能。円形の広間は吹き抜けとなっていて、飛ぶこともできるけれど……、

 

「……機動力を削ぐ地形だね」

「ああ。故に我らに宛がわれたのだろう」

 

 ひとつの広間はまあまあの広さではあるものの、広間と広間を繋ぐ通路は狭く、充分に翼を広げられそうにない。屋外なら緊急避難として上空に逃れたり、上から(ヴィラン)の位置を補足したりできそうだったけれど、天井のあるここでは無理だ。

 ステージ中央のスタート位置。ここに着くまでに観察した印象を話し合い、3人で頷き合う。

 

「想定していたほどの機動力は望めない……けど、」

「そうね。作戦は、既に話した通りでいいと思うわ」

「うん、……」

 

 梅雨ちゃんの言葉に頷くと同時に、スピーカーから声がした。出張所で待機、モニタリングしているというリカバリーガールのものだ。

 

『では蛙吹、常闇、空中(そらなか)組の期末試験を始めるよ!

 レディーーー……ゴォ!!』

 

 スタートの合図がアナウンスされた瞬間、わたしは羽根を飛ばした。ひとつは、いざという時のアレ(・・)のところへ。そして他は、わたしを中心に円形上に広げていく。

 

「逃走成功には指定のゲートを通らなくちゃいけないから、先生はゲート付近で待ち伏せかしらね」

「うん、上手くいけば先生とゲート……両方の位置を補足できるかも」

 

 梅雨ちゃんとわたしの視線が交錯する。そして、互いに頷き合った。

 

「何かあれば報せる(・・・)ね」

「ええ」

 

 梅雨ちゃんの緑がかった黒髪が靡き、通路の向こうへと消えていく。それを見送って、わたしと常闇くんは吹き抜けスペースを使って上昇。7階の通路に進んだ。

 ……まだ、飛ばした羽根に反応は無い。羽根の振動に注意深く耳を傾けながら、わたしは常闇くんに続いて走った。脳裏には、先ほど待機場所で立てた作戦がよぎる。

 

 

 

『やはり、逃げ切りを軸に行動するべきではないか』

 

 開口一番そう断言した常闇くんに、梅雨ちゃんも同意した。

 

『私もそう思うわ。常闇ちゃんと黒影(ダークシャドウ)ちゃんはともかく……私と愛依(あい)ちゃんでは拘束力も攻撃力も足りない』

『否……相手はあのオールマイト。相対すれば俺たちとて力不足。容易に押し切られてしまうだろう』

『となればやっぱり逃走が勝ち筋ね。会敵したとしても引き付けて……出来ればこの中で一番スピードのある愛依ちゃんだけは逃がす形にしたいわ。愛依ちゃんはどう思う?』

 

 常闇くんと梅雨ちゃんが考えを深めてくれている間に、わたしもわたしなりに考えた。わたしたちの強み、“個性”……それを知っている先生(オールマイト)なら、どう動くか。

 

『……戦闘よりも逃げ切りを狙うのは、わたしも同意見だよ。でもわたしを逃がすっていうのは、きっと、オールマイトも予想してるはず』

 

 あのパワー、スピード、威圧感。それが迫ってくると思うと、やっぱり身体が恐怖を訴える。震える手を握り締めて、不安を押し殺した。深く、息をする。

 落ち着け。頭を冷やして、冷静に。いつもホークスが言っていたでしょう。視野は常に広く保て。ひとつの考えに囚われてはいけない。さまざまな可能性を想定して、探るんだ。たくさん、もっと、見つけないと。

 

『オールマイトはきっと、わたしを真っ先に潰しに来る』

 

 この状況を打破する矢は、ひとつでは足りない。

 

『──だからこそ(・・・・・)、そこを突こう』

 

 

 

 ぴく、と。羽根が振動を拾う。地響きといっていいほど凄まじい勢いで、こちらに近付いてくる!

 

「常闇くん二時の方向! 来ます!」

「了解、黒影(ダークシャドウ)ッ!」

「アイヨォ!!」

 

 察知した瞬間、常闇くんに警告を飛ばして、散った羽根を回収し始める。そこに躊躇もタイムラグも無かった。不意を突かれたわけでもなく、予め想定した通りのことを、自分にできる最速で行っていただけ。

 それなのに、

 

「やあヒーロー、ご機嫌如何かな!?」

 

 ひとつ瞬きの間に、オールマイトが寸前に迫っていた。小粋なジョークのつもりだろうか、やけに明るい声色とは裏腹に、突き出された拳に容赦は一切感じられない。咄嗟に羽根を硬化させて自身をくるみ、後方に思い切り飛ぶ。

 

「……ッう、く……!」

 

 翼の盾で拳を受け止めると同時に、後方へ飛ぶことで衝撃を逃がす──それだけやってもこの威力なのだから、本当にデタラメな強さだ。壁に打ち付けられ、ずきずき痛む頭と腹と背中を【治癒】しながら立ち上がる。顔を上げると、黒影(ダークシャドウ)を纏った常闇くんがオールマイトに立ち向かっていた。

 

「オールマイト、如何に偉大な貴方であろうと、ここで止めさせていただく!!」

「……ほう、そうか! なるほどね、てっきり空中少女を逃がしていると思ったが──蛙吹少女を行かせたのか!」

 

 そう。逃げ切りを行うのならば、狙われてるわたしよりも梅雨ちゃんが適任。そう判断して彼女を別ルートから先に行かせた。オールマイトの接近を察知した時、梅雨ちゃんにくっ付けた羽根も回収してある。羽根がわたしの元に戻る動きを見て、梅雨ちゃんにもどこにオールマイトがいるのか伝わっただろう。

 一の矢は、通った。ならば次はと気を引き締める。

 

「さてさて! そうとわかったなら、」

「“梅雨ちゃんの元に向かう”──ですよね」

 

 踵を返そうとしたオールマイトに向かって飛び立つ。

 

「させま、せん!」

 

 刃のように鋭くさせた羽根を、上から浴びせるように放つ。無数の羽根を受けて、オールマイトは顔を覆った。

 

「ウーム。行動できないよう脳を揺らしたつもりだったが、【治癒】で治してしまったかな!? ってあイタタタ!」

「……ご冗談を」

 

 大袈裟に痛がってくれているけれど、羽根の刃は分厚い筋肉に遮られてほとんど通っていない。わたしのパワー不足もさることながら、オールマイトの耐久力も規格外だ。わたしの全力は、ほんの浅い切り傷程度にしかなっていない。

 

(……でも、)

 

 わたしは、これでいい。

 今のわたしの役割は、撹乱と仕込み(・・・)なのだから。

 

「どうしたどうしたヒーロー! そんな弱攻撃じゃ(わたし)は止められないぞ!!」

「……ならばこれは、どうだ!!」

 

 羽根の雨はシャワーのように視界を覆っている。その死角から常闇くんがオールマイトへ肉薄した。“深淵暗躯”で黒影(ダークシャドウ)と一体となった彼が、その鉤爪を鋭く振るう。

 その衝撃が暴風となって頬を打った。今のはなかなか良い手応えだったのでは、とわたしは目を細めながら、放った羽根を回収して次に備えようとした。

 

「ンン、なかなかいい拳だ常闇少年!! ……だがね、」

 

 “良い手応えだったのでは”。

 “次に備えようとした”。

 ……そんなわたしの思考は、甘く、悠長だった。

 

「まだまだ腰が入っちゃいないな!!」

「ッぐぅ!!?」

「! 常闇く、──!?」

 

 わたしの甘さを打ち砕くような一撃が、常闇くんの身体を吹っ飛ばす。治癒しなければ、カバーに行かなければ──そんな思考がよぎったけれど、次の瞬間、それは真っ白に塗り潰された。遅れて腹部に、強烈な痛み。

 

「か、は……ッ!」

 

 はじめは呼吸ができなくなった。目が霞んで、耳鳴りがして、五感のすべてが遠くなる。一拍置いて息を吸い込もうとして、それより先に頭部に衝撃。ぐわん、と、世界が揺れて、わたしは床に崩れ落ちた。

 

「……ぁ……う……」

「悪いね空中少女! 君の【治癒】は少々厄介! だから強めに脳を揺らさせてもらったよ!」

 

 ぐわん、ぐわん、と依然世界は揺れている。身近で話しているんだろうオールマイトの声も、ぼんやりとしたフィルター越しに聞こえる。彼は明るく容赦ないことを宣って、わたしの身体を担ぎ上げた。両手を頭上でロープで拘束し、崩れた壁に引っ掛けるようにしてわたしを吊るす。

 

「HAHAHA! これで治癒はできまい! ここでしばらく大人しくしているんだな! じゃっ、(ヴィラン)の私は蛙吹少女の元へ急ぐんで!!」

 

 ヒーローらしい眩しい笑顔にサムズアップを残して、オールマイトは駆け出していった。明るい仕草とは裏腹に、やっていることは完全に(ヴィラン)そのものだ。一生懸命(ヴィラン)になりきっているんだなあ、なんて思いながら、わたしは小さく笑った。 

 オールマイトの腹パンによって甚大なダメージを受けたわたしたちは、治癒しないと動けない。常闇くんを治癒するためには、まずわたし自身を治癒しなければいけない。わたしを治癒するためには、患部に手で触れる必要があると──そうオールマイトは思っているんだ。だからわたしの手を拘束して行った。

 

(……念のためのカモフラージュ(・・・・・・・)が、変なとこで功を奏したな)

 

 初めての戦闘訓練。轟くんの氷結に囚われて右腕を怪我をしたわたしは、左手で患部に触れて傷を治した。他の訓練で傷を負った時も同じ。治癒するために、手で触れてきた。そうしなければできないとでもいうように。

 

「……は、……」

 

 静かに呼吸を整え、意識を集中させて──わたしは“個性”を発動させた。

 わたしは自分の怪我なら(・・・・・・・)、ノーアクションで治癒できる。

 

「……っ、常闇くん!」

 

 殴打された腹部を、壁に打ち付けた背中を、揺らされた頭部を治して、腕を拘束しているロープを羽根で切った。少しふらつく視界を頭を振ってクリアにしつつ、床に倒れ伏している常闇くんに駆け寄る。

 

「ぐ……!」

「大丈夫、すぐに治す……!」

 

 腹部に手を当てて、エネルギーを注ぎ込む。常闇くんの眉間の皺がゆっくりと薄くなり、赤い目が細く開かれる。

 

「すまん、空中……助かった!」

 

 治癒しきったと同時に、常闇くんは跳ね起きた。その目はオールマイトが走っていった方をきつく見据えている。……梅雨ちゃんのことを心配しているんだとわかって、わたしは強く頷いた。

 

「羽根を先行させる。わたしたちも行こう!」

「……ああ!」

 

 まだ負けていない。まだ、わたしたちは行ける。

 二の矢が与えた傷は浅かったけれど、傷はつけたのだ。まだ望みはある。ちゃんと、三の矢に繋げられた!

 

(後は、3人揃って……!)

 

 ぎゅうと拳を握り締めて、わたしは翼をはためかせた。

 

 

 

 

「……!」

 

 オールマイトを追いかけ、追いついたその場所には、可愛らしくファンシーに飾られたゲート……ゴール地点があった。けれどわたしが息を飲んだのはそれが理由ではない。

 

(梅雨ちゃん……!)

 

 オールマイトに片足を掴まれて、上下逆さまに梅雨ちゃんが吊るされていた。ここまで身を隠しつつ進み、見つかっても諦めず抵抗したのだろう。ヒーロースーツはぼろぼろで、ダメージのせいかぐったりと辛そうに目を閉じている。

 

「なんと! ここまで追いついたかヒーローよ!」

 

 わたしたちの気配を察したのだろう、オールマイトがこちらを振り返った。片眉を跳ね上げて、ウムム!と唸ってみせる。

 

「どうやって治癒したかは知らんが、まったく! やんちゃな少年少女どもめ!」

 

 プンスカ!といった擬音が似合いそうな口調だけれど、こちらに向けて身構えるその姿には、ほんのひとかけらの隙も見当たらない。彼は梅雨ちゃんが持っていたカフスを遠く投げ飛ばし、グッ──と低く身を屈める。

 

「大人しくしていれば、痛い思いをせずにすんだものを!!」

 

 低い体勢からの、突進。それはまるでロケットのようにこちらに迫り、そのスピードは衝撃波となってわたしたちの頬を打つ。吹き荒れる暴風に目を細めながら、わたしは見た。

 

 一気に距離を詰められ、そのヒーロースーツの色彩が視界を埋めた。わたしたちに再び一撃を喰らわせようと、目前で逞しい腕が引かれる。グッと音がしそうなくらい強く、拳が握られて──

 

 不意に、その巨体が、傾いだ。

 

「な──」

 

 何故かその瞬間だけスローモーションになったかのように、ゆっくり、はっきり、鮮明に見えた。

 がくりと突然糸が切れたかのように崩れる右膝。信じられない、というようなオールマイトの表情。彼に抱えられたままの梅雨ちゃんが、薄目を開けてそっと微笑む。

 

(そう、その隙をずっと、わたしたちは待っていた!)

 

 梅雨ちゃんの笑みを見て、わたしも口の端を吊り上げる。そうして手を下に払った。その動きに連動するように、遠くに置いてきた羽根が動く。

 いざという時のアレ(・・)は、最後のダメ押しをするために目をつけていた。わたしたちの中で一番の攻撃力を誇る常闇くん。彼がその真価を発揮できるようにと、そのレバーに羽根を絡ませていたのだ。

 

 アレ(・・)を、ブレーカー(・・・・・)を落とす。

 バツン、という音とともに、広間が暗闇に閉ざされた。

 

「!? これは……!」

「ゆくぞ、黒影(ダークシャドウ)……闇は俺たちの縄張り(テリトリー)……」

 

 オールマイトはわたしたちの目前に迫っていた。それは同時に、こちらにとっても攻撃のチャンスだということ。

 暗闇の中、ゆらりと隣から強大なエネルギーが迸るのを感じる。静かな声で半身に呼び掛けていた常闇くんが、鋭く息を吸って、吐いた。

 

「出し惜しみは要らん!! 全力をぶつけろッ!!!」

「ッオラアアアアァァァァァ!!!」

「ぐぬぅ!!?」

 

 暗闇下の、黒影(ダークシャドウ)の最大火力。それを受け止めて流石のオールマイトも床を削りながら大きく後退した。仕込んだ麻痺毒で足元が覚束ないのも効いているようだ。大きく肥大した影の腕。その乱打に防戦一方となっている。

 

(今だ!)

 

 この機を逃す手はないと、わたしは足元を強く蹴って飛び立った。目指すはオールマイトの後方にある脱出ゲート。常闇くんと黒影(ダークシャドウ)と交戦している今ならばとトップスピードで突っ込んで、

 

「おおっとっと危ない危ない!」

「、いっ……」

 

 脇をすり抜けようとして、その大きな左手に捕らえられた。代わりに梅雨ちゃんは床へと投げ出される。……右手でこの状態の黒影(ダークシャドウ)を相手取りながら、わたしを難なく捕まえてみせる。そんな化け物じみた戦闘能力に、乾いた息をこぼした。

 

「この隙にゴールへ、ってことかい? させないけどな!!」

「さすが、ですね……!」

 

 腕を掴まれる痛みで顔をしかめながら、わたしは笑った。このまますんなりゴールへ行けたらそれはそれでいい。でもそれが不可能になったとしても構わない。

 だってわたしの本命は既に果たされている。

 わたしの手は、梅雨ちゃんに届いた!

 

 

 

『梅雨ちゃんを先行させて、囮のわたしにオールマイトが接近した時に、わたしと常闇くんでコレ(・・)を喰らわせよう』

 

 “ちょっとピリッとする程度の毒性の粘液”。事前にそれを梅雨ちゃんに作ってもらい、わたしの羽根と黒影(ダークシャドウ)の鉤爪に塗っていた。梅雨ちゃん曰く、そこまで強い毒じゃないから動きを止めるにしても少しの間だけだし、あのオールマイトには効かないかもしれないと。それでも、浅いけれど皮膚を切り裂き、体内に直接塗り込んでいったら効くんじゃないか。ほんの一瞬の隙を積み重ねることで勝機が見えるんじゃないか。そう思って話し合いを続ける。

 

『梅雨ちゃんの麻痺毒の他に……わたしは最後のダメ押しとして、羽根でブレーカーを落とせるよう用意しておくね。光源が無くなって、黒影(ダークシャドウ)の威力も上がるはず』

『ソレデオレタチがオールマイトをヤッツケルンダナ? マカセロ!』

『傲るな、黒影(ダークシャドウ)。それで倒れるほどNo.1(オールマイト)は柔じゃない』

 

 テンションを上げる黒影(ダークシャドウ)を静かな声で宥めつつ、常闇くんはわたしを見た。

 

『無論俺たちに出来ることは全力を尽くそう。……しかし、暗黒の利点はそれだけではなかろう』

 

 おまえはもっと他の可能性を見出だしたのだろう?、と。

 わたしへの信頼を込めて、常闇くんは赤い瞳で微笑む。それが嬉しくて、わたしも笑って頷いた。

 

『うん。その通りだよ、常闇くん』

 

 暗闇に閉ざされた中なら、梅雨ちゃんが何をしていても(・・・・・・・)、オールマイトにはわからない。

 

『最後の、本当に最後の手段……お願いね』

『ええ、任せて』

 

 梅雨ちゃんはいつものように人差し指を口許に当てて、けろりと言った。

 

『私の胃袋は出し入れできちゃうの。だから──』

 

 

 

「……なるほど……なるほど!!」

 

 ガチャン、と金属の擦れる音。それから少しの沈黙を経て、オールマイトの声が熱を帯びる。

 

「……蛙吹少女がカフスを1つ持っていたから、私は常闇少年か空中少女のどちらかが残りのカフスを持っているものと考えていた。だが、……それすら、見越していたのかい?」

 

 明るい目が興味深そうにわたしたちを見る。それに頷いたのは、この最後の一手を提案してくれた梅雨ちゃんだ。

 

「私は常闇ちゃんと比べて攻撃力は無いし、愛依ちゃんと比べて速さも無い。挙げ句はじめ持っていたカフスを奪われ、放られてしまったら……」

 

 ──そんな私への警戒は、薄くなるわね?

 

「だからこそ、もう1つのカフスを胃の中に飲んでいたの。麻痺毒の粘液に、暗闇、黒影(ダークシャドウ)ちゃんの一撃、愛依ちゃんの撹乱……ほんの一瞬の隙を、何度も何度も積み重ねて、やっと見つけたオールマイト(あなた)の無防備をつくために」

 

 梅雨ちゃんの手が、オールマイトの左手首を指差す。そこには金色のハンドカフスが、まるでやり遂げたと胸を張るように煌めいていた。

 

「……素晴らしい! 素晴らしいぞ少年少女!! よくぞ3人で力を合わせ、策を練り、実行し、(ヴィラン)を捕縛した!!」

 

『蛙吹・常闇・空中チーム、条件達成!』

 

 オールマイトから満面の笑みとともに讃えられて、リカバリーガールのアナウンスが響いて。そこでようやく、演習試験をやり遂げたことを実感した。あの高すぎる壁を越えられたのだと自覚した途端、胸の奥から立ち上った熱が頬を染めていく。

 

「……やっ、たぁ……!」

 

 込み上げる喜びが声を弾ませる。気を抜けばその場でぴょんぴょんと跳ね回ってしまいそうなのを何とか堪えて、ぎゅうと拳を握り締めた。

 

「フッ……成し遂げたな」

「ええ。みんな、お疲れさま」

「うん……! 梅雨ちゃんも常闇くんも本当にありがとう……!」

「オイソラナカァ! オレハ!?」

「ふふ、うん! 黒影(ダークシャドウ)も強かった。格好よかったよ、ありがとうね」

「ヘッヘヘヘ! トーーーゼンっ!」

 

 みんなで笑みを交わして、胸を張る黒影(ダークシャドウ)を撫でて、梅雨ちゃんの傷を治癒して。そうこうしていると背中の羽根が咳き込む音を拾った。その小さな音を辿って振り返る。するとこの場を後にしようとしていたオールマイト先生が、その大きな背中を丸めていた。

 

(……先生?)

 

 傷は浅かったはずなのに、その咳は苦しそうだった。苦しいのを悟られまいと、必死に押し殺すような響きだった。もしかして麻痺毒が想定より身体に残っているのかもしれないと、わたしははっとして駆け出した。

 

「オールマイト先生……!」

「、うん? どうしたんだい空中少女?」

「すみません、少しだけお時間をください」

 

 断りを入れて、彼の前に立つ。無数の浅い切り傷。そのひとつに触れてエネルギーを注ぎ込んだ。容器に水を注ぎ込む時のように、ゆっくり、丁寧に、溢さぬように──

 

(……?)

 

 その途中、違和感を覚えた。注ぎ込んだエネルギーは患部の他にも伝播していくものだけれど、この筋骨隆々の身体は何かがおかしい。

 エネルギーが、呼吸器官や胃袋に行き渡らない。まるでそこだけ、生きていないみたい(・・・・・・・・・)

 

(……なんて。何を馬鹿なことを考えてるの、わたし)

 

 オールマイトが、No.1ヒーローが、そんなことあるわけないのに。万が一呼吸器官や胃がほとんど無い状態なら、あんな風に戦うなんてできっこないのに。

 見当違いも甚だしいな、と、有り得ない考えを取り払う。

 

「……終わりました。これで、傷は全部治ったかと……、

 ……? オールマイト、先生?」

 

 治癒を終えて顔を上げると、オールマイト先生が不思議な顔をしていた。驚愕、疑問、歓喜、心配──さまざまな感情がない交ぜになったかのような。

 

「……」

「……あ、あの……」

「……まさか、いや、……」

「えっと……?」

 

 彼の青い目が、ぐるぐると思案で揺れていた。それが不思議でならなくて、わたしは恐る恐る口を開く。

 

「あの、わたしの【治癒】に何か……?」

「……ああ、いや、……私の気のせいだったようだ!」

「え?」

「いやホント、気にしないでね! 治癒ありがとう! 助かったよ!!」

「……お、お役に立てたなら何よりですが」

「うん!! ありがと! それじゃね!」

 

 ばちこん!と眩しいウインクを残して、オールマイトは駆け出していった。その大きな背中があっという間に通路の影に消えていく。……よくわからないけど、オールマイトが元気ならよかった。ほっと胸を撫で下ろす。

 

 最後に芽吹いた小さな疑問は、期末テストを無事終えたことの安堵に包まれ消えていった。こうして目まぐるしかった1学期の幕は下り、わたしたちは夏休みを迎える。

 

 わたしにとっては一生忘れられない──そんな夏休みを。

 

 

44.少女、演習試験。

 

 


 

 Q.梅雨ちゃんの粘液ってどれくらいの威力なの?

 

 A.わからん!!!!!

   とりあえずヒーローズライジングを参考にしました。

 

 オールマイトがあまりに強すぎたので常闇くん、梅雨ちゃん、オリ主のできること全部ぶつけようとしてこんな感じになりました。ふわっと見ていただければ嬉しいです。

 梅雨ちゃんは結構策士なイメージがあるので、最後のどんでん返しを担ってもらいました。梅雨ちゃんが格好いいアニメ5期が最高に楽しみです。

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