【依存】から始まるヒーローアカデミア   作:さかなのねごと

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XX.しあわせを頬張る

▽注意事項

・これは弊宅hrakss『【依存】から始まるヒーローアカデミア』の過去軸番外編です。

・幼少時オリ主愛依やホークス、若目良さんたちが登場します。

・主にホークスの過去を(幼少期はオリ主とともに公安ビルで暮らしていた、ということにして)捏造しています。

・三人称視点。

 

───

 

「これから言うことをよく覚えておきなさい」

「はっ、はい……!」

 

 淡いプラチナブロンドに透き通るような碧眼は、どこか北の海を思わせた。常に冷静な声も相俟って、いつも背筋が伸びるというか、畏まった気持ちになる。そんな公安会長に対し白い羽根先までぴんと伸ばした少女──愛依は、直立不動で返事した。そんな愛依にひとつ頷き、会長は手に持っていたものを机に置く。

 

 コトン、と小さな音。小さな皿。そこに鎮座している丸いフォルムは。

 

「……、……これ、は……?」

「昨年1月に何人もの人が“不慮の窒息”で亡くなっている。その原因がこれよ」

「……!」

 

 愛依が顔を強張らせ、会長が神妙に頷く。2人の視線は皿の上──餅に注がれていた。

 

「餅を喉に詰まらせた場合、患者は声が出ない、咳ができないなどの兆候を見せるわ。反応がない場合はどうするの?」

「は、はいっ。きゅうきゅう車を、よびます」

「よろしい。迅速な行動が必要となります」

 

 その後も会長はつらつらと餅による窒息への対処法を教授していった。患者の意識がある場合は背部叩打法、それでも駄目なら腹部突き上げ法を試すこと。掃除機のノズルを口に入れるのは不衛生からの合併症を引き起こすリスクがあるため奨励しないということ──至極真面目に話す会長と、至極真面目に頷く愛依。そんな彼女たちを遠目に見やって、目良がぽつりと呟く。

 

「……お餅を食べるときは小さく切るとか、水分と一緒にとか、そういう話でいいんじゃないでしょうか?」

 

 何故こんなに訓練じみた内容に……との呟きに、会長はつと目を逸らし、愛依は首を傾げる。不思議な沈黙が数秒続いたのち、素知らぬ顔をした会長が口を開いた。

 

「とにかく、縁起物だからといって油断しないこと。いいわね?」

「は、はいっ!」

「油断ねぇ」

「目良。貴方が監督責任者なのよ、わかっているわね」

「ハイ勿論」

 

 ぺこりと礼を返して、目良は愛依の手を引いて会長室を辞した。最上階からエレベーターに乗り込み、いつものフロアーへ。しんと静まり返った“いないはずの子どもたちの部屋”。そこにかつんと心なしか軽やかに、革靴の音が鳴る。

 

「さて行きましょうか。他の準備も済んでいますよ」

「ほかの……?」

 

 不思議そうに首を傾げる少女に柔らかく目を細めて、目良は“仮眠室”のドアを開けた。明るい室内と温い空気、そしてどこか華やいだ雰囲気が少女と男を出迎えた。

 

「お帰り」

「! ……ただいま」

 

 そして部屋の奥からひょこっと顔を覗かせた少年に、愛依はほわりと破顔する。安堵と歓喜に足取り軽く駆け寄る少女を抱き留めて、ホークス少年は緩く首を傾げた。

 

「会長のお話何だったの?」

「えと、あのね、あなたがおもちのどにつまらせたら、はいぶこうだほうとふくぶつきあげほう、わたしがしてあげるね……!」

「何て??」

 

 何やら意気込んで両手を握る愛依から目良へと視線を移すホークス。目良は何とも言えない顔で肩を竦めた。それで概ねのことを理解したようなしていないような、まァ大事じゃなさそうだしいいかと少年は気持ちを切り替える。

 

「じゃあその時はよろしくね」

「うん!」

「わァいい返事……まぁ今はそれよりこっち」

「こっち? ……!」

 

 ホークスが愛依の背を押し、後ろから手を重ねるようにしてローテーブルの上の重箱を開けさせる。漆塗りの重箱は三段重ね。蓋を開けて広げていくと、中に詰められていた多種多様な具材がお目見えした。見るも鮮やかな品の数々に、愛依の青い目もきらりと光る。

 

「わ、わ……! これおせち、だよね?」

「そ。……お正月だからって買ってくれたんだよ。誰かさんがね」

「日本の伝統行事に触れるのも教養のひとつですからね」

「物は言いようだなぁ」

 

 ホークスの苦笑に飄々と返して、目良はテーブルへと足を進めた。少年少女を席に座らせ、取り皿を渡す。

 

「おせちにはそれぞれ意味があるのを知っていますか?」

「? いみ、ですか?」

「ええ。例えば“黒豆はまめまめしく働くように”、“栗きんとんは豊かな年になるように”。“伊達巻は知識が豊富になるように”……全てに意味がこじつけられているんですよ」

 

 数の子は子孫繁栄、田づくりは五穀豊穣、昆布巻きは喜び……時に言葉遊びを取り入れながら意味づけられた品々の解説に、愛依はふんふんと相槌を打ち、ホークスはそんな少女を横目で見守っている。

 

「ちしきがほうふ……かしこくなるってことで、合ってます、か?」

「そうですね」

「じゃあわたし、だてまき食べたい……!」

 

 目良の言葉を聞いて、愛依は笑うように意気込むように口角を持ち上げた。

 

「もっとべんきょうがんばって、もっとかしこくなって、……ちゆも上手にできるようになれたら、いいなあ」

 

 にこにこと笑う顔は無邪気そのもので、少女の発言に何の含みもないことは明らかだった。けれどそこに“微笑ましい”以外の感慨を抱いてしまうのは、普段から思うところがあるせいか。ホークスははたりと目を見張った後、その藤黄色を細めて微笑んだ。

 

「……そんなに頑張んなくてもいいんだけどなァ」

 

 少年が少女の頭を撫でると、その指の隙間を柔らかな白髪がさらりと流れる。それが心地いいのか、撫でられることが嬉しくて仕方ないのか。愛依はホークスの言葉に少しだけ不思議そうにしつつも、ふすふすと頬を蕩かせている。

 そんな幼い少女に、仕方ないなと言いたげに柔らかく微笑む。少年の慈しむような眼差しはその年に見合うとは言い難い。穏やかで、あたたか。そうした光を自分以外の誰かに全て注いでしまいそうな、そんな危うさも感じさせた。

 

(……本当に、困ってしまうくらい、いいこたちだ)

 

 そうさせているのは自分たち大人──そんなやり切れなさに目良はほろ苦く微笑む。けれどそれを露わにするのは狡い気がして、彼は努めて飄々と振る舞った。“さて”、とわざとらしく手を打って、少年少女に諭すように言う。

 

「甘いものばかりはいけませんよ、野菜も魚も肉もバランス良く食べなくては。……そうだ、海老食べましょう海老」

「? えび?」

「海老です。ホラがぶっといっちゃってください」

「……! 頭ついてる……!?」

「さすがに頭と殻は取りなね」

 

 隣に座るホークスが手本を見せるのに倣いながら、おっかなびっくりといった様子で海老を剥いていく愛依に、目良はそっと目を伏せた。

 

 ──“海老のように背中が丸くなるまで、長生きできますように”。

 そんなこじつけにすら縋りたくなったのだ。

 目の前で笑うこの子たちの笑顔が、枯れずに咲き続けますように。背中の紅白の羽根が、傷つくことなく飛べますように。

 

 ずっとずっと健やかに、長生きできますようにと。

 

「……? あの、目良、さん?」

 

 そんな風に思いを馳せていた目良だったが、呼び掛けに我に返る。気づいた時には少女の青い目が真っ直ぐこちらを向いていて、彼は驚きに瞬きひとつ。それからふと微笑んだ。

 

「どうしました?」

「えと、えび、上手にむけました!」

「本当だ、とっても綺麗に。なのでどうぞ食べ」

「目良さんどうぞ!」

 

 エッ、と声に出すのは何とか堪えたが、その眠たげな目は真ん丸に見開かれている。そんな目良の様子に肩を震わせながら、ホークスはにんまり笑った。

 

「目良さんも長生きしなきゃ、ですもんね?」

 

 少し生意気そうに笑いながらも、その目に労りの色が窺える少年に、意気揚々と海老を差し出して目をきらきら輝かせる少女。2人を前に目良は呆気に取られ、暫くした後に右手で顔を覆った。

 

「まったく、君たちは……」

 

 隠した手の中で、くしゃり、噛み締めるように笑う。そうして深く息を吸って、吐いて。顔を上げた時にはいつも通りの眠たげな顔で、けれどいつもより少し、あたたかく笑っていた。

 

「ではお言葉に甘えて、頂きます」

「はい! いっぱい食べて、いっぱい長生きしてくださいっ」

「これ食べるたびに残機が増える感じですかね」

「ざんき?」

「長生きパワーって感じのやつ」

 

 だいぶふわっとした解答をしつつ、ホークスは愛依から視線を移し、目良をじとりと半眼で見やる。

 

「まァ目良さんには? 海老で栄養摂ってもらうのもいーんですけど、ちゃんと寝てもらわなきゃってのもあるんですよ。わかってます?」

「1日4時間睡眠厳守を今年の抱負にします」

「! 目良さんまたねてない、ですか?」

「おっと藪蛇」

 

 むぅ、とむくれそうになった愛依を誤魔化すべく目良は立ち上がった。パンパンとややわざとらしく手を叩く。

 

「さてと、うかうかはしていられません。お餅もあるんですからね」

「おもち……! はいぶこうだほう、ふくぶつきあげほう……!」

「何でさっきから餅詰まらせる前提??」

 

 ……というよりは、習った言葉を反芻して覚えたいのと、使いたいのと、両方なのだろう。そう察したホークスは「まァ好きにさせてあげるか」とやんわり笑い、愛依の肩を叩いた。

 

「ホラ、お餅どうやって食べる? 確かきなこと砂糖と醤油と海苔はあったから、甘いのもしょっぱいのもいけるよ」

「煮るのも焼くのもお好きにどうぞ」

「えっ? ええと、えっと、」

 

 “どうしよう”、と小さな声で呟く愛依に、“どうしたの”とホークスが問う。そんな何でもないやり取りに少女はふわりと眉を下げて微笑んだ。

 

「おいしいこと、たのしいこといっぱいで、まよっちゃう」

「ふは、……ン、そうだね」

 

 交わす眼差しでさえ、こんなにもあたたかい。きっとその頬も、心までもがぬくいんだろうなあと思って、ホークスは笑みを深めた。

 

 美味しいこと。楽しいこと。嬉しいこと。あたたかいこと。そんな幸せばかりに埋もれて、困りきってしまえばいい。

 

(そんな1年に、してあげなきゃね)

 

 決意と願いを込めて、少年はまたふすふす笑う少女の頭を撫でてやった。

 

 

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