【依存】から始まるヒーローアカデミア   作:さかなのねごと

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56.少女、苦難と。

 

▽前回のあらすじ

・A組とB組対抗肝試し開始。

・肝試しの組み合わせは

 ①常闇と葉隠 ②轟と爆豪 ③オリ主と障子

 ④八百万と青山 ⑤蛙吹と麗日 ⑥尾白と峰田

 ⑦飯田と口田 ⑧緑谷と耳郎

・③のオリ主、障子組が中間地点のラグドールに会ったところでネホヒャン脳無襲撃。

・障子の複製腕のひとつが切断される。

・今からネホヒャン脳無と交戦。

 

 


 

 

 見上げた空には黒煙が立ち上り、すぐ向こうにはわたしたちの意識をトばす毒ガスが揺らめいている。もう、さっきまでの夜はどこにもない。しんどいながらもみんなで互いを高め合っていた、楽しかったはずの合宿は──(ヴィラン)襲撃という最悪の事態に変じてしまった。

 

「ネホヒャンッ!!」

 

 僅かな月明かりさえ掻き消すかのように、脳無がその巨体を伸ばし、大きく振りかぶった。その手に握られたメリケンサックがぎらりと光る。

 

「っく……!」

「、ラグドール!」 

 

 脳天に向かって振り下ろされた凶器を、ラグドールは地面に転がりながら避ける。彼女はわたしを心配させまいと「大丈夫!」と笑ったけれど、その目には焦燥が滲んでいた。

 ラグドールの“個性”は【サーチ】。彼女が一度その目に映したものは、居場所も弱点も丸わかりだという。だからラグドールは焦っている。毒ガスの中に倒れたままの生徒たちの姿を確認しているから、一刻も早く救出に行かなければいけないから──逃走も、時間稼ぎも、選ぶことはできないのだ。

 だから残された選択肢は、ただひとつ。

 

「やはり、こいつはここで、倒さねばなるまい」

「……うん!」

 

「っだめにゃん! キミたちは早く施設へ、ッ」

「危ない!」

 

 わたしたちを制止しようとしたラグドールは、けれどその言葉を中断せざるをえなかった。脳無は脇目も振らずにラグドールに突進し、今度は背中から生えた金槌を振り下ろす。彼女がそれを避けたと見るや飛んでくる2撃目、3撃目。執拗に彼女に向けられる攻撃から守るべく、わたしは羽根でラグドールを引き寄せた。

 脳無は、横槍を入れたわたしを目のない顔で一瞥するも、すぐにラグドールに向かって駆け出す。わたしが羽根で足元を掬ったり膝裏を攻撃したりしても、何も気にした様子がない。

 ただただ執拗にラグドールを目指して、駆け、攻撃を加えていく様は──まるで、そうインプットされたみたい(・・・・・・・・・・・)

 

「ラグドール、脳無はあなたを狙っているようです!」

「そんな状況で、ひとり置いていくわけにはいかない」

「っ、でも……!」

 

 ラグドールも状況はわかっている。それでも首を縦に振らないのは、ひとえに彼女がヒーローだからだろう。

 ヒーローは、みんなを救ける人。災害、事故、(ヴィラン)……ありとあらゆる理不尽から人々を守る存在。わたしたちみたいなヒーロー候補生なんて庇護対象でしかない。わかっている。そんな、庇護対象のわたしたちを同じ戦場に立たせるなんてこと、ヒーローが頷けるわけがないって。

 

「……ごめんなさい、ラグドール。あなたの立場や、気持ちを、軽んじているわけではないんです。……でも、」

 

 でもここで退いてしまえば、多くの人が傷ついてしまうかもしれない──未来が、喪われてしまうかもしれない。

 

「それだけは、わたし、絶対に嫌です」

 

 そう言ったわたしに、ラグドールは大きな目を見開いた。それからきゅっと、眼差しが強くなる。そこに込められているのは生徒を巻き込んでしまう自分への不甲斐なさや、悔しさもあるのだろう。それでも確かに決意の色があって、わたしも強く頷いた。

 

「ラグドール! あいつの“個性”や弱点、わかりますか!」

「……もちろん!」

 

 ラグドールの目が凛々と輝く。たくさんのものを見通す彼女の【サーチ】が、脳無の秘密を暴いていく。

 

「……これは……」

 

 その中で、彼女は知ったのかもしれない。

 脳無は元はわたしたちと同じ人間で、でもそうとは思えないくらいに身体を弄られてしまっているのだと。

 その事実を目にして、彼女は一瞬息を飲んだ。けれどそれも束の間、薄く開いた口を結び直し、ラグドールは表情を改める。強く、凛と、必要な情報を告げる。

 

「あいつが持ってる“個性”は【身体強化】【毒無効】【武器格納】【身体エネルギーの動力変換】。この4つだにゃん!」

「【毒無効】……敵のガスで行動を鈍らせることはできませんね」

「それも見越して、(ヴィラン)中間地点(ここ)に脳無をやったのかもしれん、な!」

 

 これで何度目だろう。もう数えきれないくらいに振り下ろされた金槌。それが握られている腕を障子くんが掴んだ。彼は自身の“個性”【複製腕】を用いて手を増やし、脳無の両腕と、背中から生えた6つの触手をそれぞれ掴み、動きを封じにかかる。

 

「ヒャン!」

「ぐ……ッ」

 

 がっぷり組み合った両者が、ぐぐぐと互いを押し合う。脳無は凶器を振り回そうともがき、それを押し留める障子くんの腕に血管が浮いている。チェーンソーの先が障子くんの頬を僅かに掠め、薄く血が飛び散ったけれど、それでもなお障子くんは離れようとしない。じりじりと押され、地面に轍を残しながらも、一歩たりとも退こうとしない。

 

「障子くん……!」

 

 いくら握力540kgを誇るとはいえ、チェーンソーやドリルといった凶器にまみれた脳無に向かっていくのは危険だ。そんな危険をおしてまで彼は脳無に立ち向かった。至近距離で組み合うことから逃げない──わたしたちを、守るために。

 

「っ、障子くん、もう少しだけそのまま!」

 

 そんな障子くんの思いを無駄にするわけにはいかないと、意を決して翼をはためかせ、脳無の上空に陣取る。上からその巨体を、荒れ狂う凶器を見下ろし、鋭く息を吸った。

 

(こいつの“個性”が【武器生成】じゃないなら……!)

 

 今持つ武器を無力化させてしまえば、新たな武器は生まれない。こちらからの接近、攻撃、捕縛も容易になる。

 狙うはチェーンソー。その本体とカッティングアタッチメントの隙間。よく見て、集中して──そこに羽根を滑り込ませる。1枚で足りないなら2枚、3枚、もっと多く。羽根の摩擦を以てして、チェーンソーの振動を止める。

 

「よし……!」

 

 これでチェーンソーはただの棘のついた鈍器だと、ほっと息をついたその時、わたしの横を彼女が走り抜けていく。緑色のロングヘアを靡かせながら跳躍し、脳無の胸元に着地。強く踏みつけながら駆け上がり、

 

「【身体強化】は主に上半身、次いで脚。防御が薄いのは──頭部!」

 

 黄色のフリルミニスカートから伸びる足が、強かに脳無の頭を蹴り飛ばす。所謂サマーソルトキックを喰らわしたラグドールは、宙返りしつつ脳無から距離を取り、再度体勢を低くして構えを取った。その視線の先で、脳無は仰向けになった状態から起き上がろうとしていた。けれどその動きは明らかに鈍い。

 

「効いてる……!」

 

 ラグドールが看破した弱点は、間違いなく脳無に大きなダメージを与えていた。奴が持つ武器の大半は無効化し、弱点が通用することもわかって、戦況がこちらに傾いていることを実感する。ならばとわたしは声を励ました。

 

「障子くん、もう一回脳無の動きを止められる?」

「やってみせよう」

「お願い、わたしも今度は羽根で援護する。ラグドールには引き続き回避に専念してもらって、脳無の攻撃を引き付けてもらう隙、に……」

 

 と、その時。

 目の無い顔が、ゆらりと、こちらを見た。

 

「、な──ッ」

 

 瞬きひとつ。その僅かすぎる間に、わたしの眼前に脳無が迫っていた。驚きにまともな声も出せないまま反射的に身を捩る。わたしのすぐ後ろにあった木が、メリケンサックの一撃を受けてへし折れた。回避できたことを安堵する暇を与えず、脳無はわたしに向かって突進してくる。まるで、さっきまでラグドールを相手取っていた時みたいに。

 

「なんで、今になって、わたしを……っ!」

 

 (ヴィラン)の襲撃。脇目も振らずにラグドールを狙う脳無──この状況からわたしは、(ヴィラン)連合、ひいてはその後ろに控えるAFO(オール・フォー・ワン)がラグドールの“個性”を欲しているのではと予想していた。実際に目の当たりにした【サーチ】の精度が素晴らしく高かったから、この予想は外れていないだろう、彼女を守らなければと、そう思っていた。

 そこまで考えて、はっと息を飲む。

 あの時の、公安会長の言葉が脳裏によぎった。

 

『気を付けなさい。常に注意を払い、想定するのよ』

 

 彼女はAFO(オール・フォー・ワン)の存在と、わたしの【自己再生】と【譲渡】の“個性”を指して、そう述べていた。

 

『──あなたが、狙われる可能性を』

 

 

「! ぐ、ぁっ……!」

「空中!」

 

 羽根を無造作に掴まれ、そのまま地面に叩き付けられる。脳と身体全体を揺さぶる衝撃と痛みに、意識が一瞬遠退く。急いで態勢を整え直さなければと、治癒しながら顔を上げた。

 

「……あ、」

 

 迫り来るのは、何も持っていない右手の握り拳。わたしの命を奪うなら、まだ駆動音を響かせているドリルを向ければそれで済むことだ。そうしないのは、やっぱり──。

 

「──おおお!」

 

 気合いの声。グッと強く握られる4つの拳。それらがひとつの力となって脳無の身体を吹き飛ばす。はっと我に返ったわたしが見たのは、殴られて地面を転がる脳無と、

 

「しょうじ、くん」

 

 わたしを庇うように立つ、大きな背中。

 

「空中、怪我は!」

「大丈夫にゃん!?」

「だ……だい、じょうぶ、です。ありがとう……」

「……無事で何よりだ」

 

 わたしの無事を認めた障子くんとラグドールはほっと息をつき、けれど表情は緩めず脳無の状態を確認しに行った。脳無は、起き上がらない。蓄積されたダメージから行動不能になったのだろう。その様子を見守りながらゆっくりと立ち上がる。頭の中では、予想と不安がぐるぐるとない交ぜになっていた。

 わたしは、殺されなかった。生かされた。生かしたまま、どこかへ連れ去ろうとしたのだろう。どこかといっても、それは十中八九AFO(オール・フォー・ワン)の元といえる。はじめの標的はラグドールだったに違いないけれど、その後、わたしに標的が切り替わった。本当にそのまま、スイッチで命令を切り替えた(・・・・・・・・・・・・・)みたいに──

 

「……“命令”……」

 

 USJに現れた脳無は、死柄木弔の命令を受けて動いていた。……なら、今は?

 

(今は、誰の、命令で……)

 

 そこまで考えて、わたしは周囲を見渡した。ラグドールからわたしへ標的を移したのは、わたしたちの戦いをリアルタイムで見て、判断しうる誰か(・・)がいたということなのではと、そう考えたからだ。

 暗闇に閉ざされた森に、じっと目を凝らす。そこに潜む誰か(・・)を見逃さぬようにと、意識を集中させていた。だから、

 

 だから、目の前を埋め尽くすその光に息を飲んだ。

 一瞬のタイムラグ。その後に、

 

 ──ごう、と熱が膨れ上がった。

 

「ぎ……っ!!」

 

 呆けた口から水分が失われる。身体の内側からジュッと焼ける音がして、反射的にわたしは上空に飛び上がっていた。熱い。痛い。息苦しい。このままでは駄目だと身体が訴えるまま、ただひたすらに上空へ。熱と光を振り切ったわたしが見たのは、眼下に広がる──青い炎だった。

 

「これ、は、──ッ!」

 

 考える暇なんて与えないとばかりに、その炎は波打ちわたしに向かってきた。慌てて翼をはためかせて逃れるも、炎はまるで大口を開けた怪物のように再度わたしを飲み込もうとしてくる。その度に紙一重で避けていくけれど、1枚、また1枚と羽根が焼け落ちていく。夜空を一瞬だけ照らして、煤になって消えていく。

 

『俺の【剛翼】もおまえの【翼】も、基本的には同じもの。だから弱点も一緒』

 

 いつか、わたしがもっと小さかった時、ホークスが教えてくれたのに。気を付けないといけないよ、って。

 

『羽根は燃える。火に弱い。だから火を使う相手と会敵した時のパターンはいくつか想定しておかなきゃね』

『うん』

愛依(あい)、おまえには【自己再生】があるけど……【翼】には効きが悪かったね?』

『……うん』

 

 わたしの持つ“個性”【自己再生】には、身体の傷や病を治癒する効果がある。けれど何故か【翼】などの“個性”因子が絡む部分については、上手く治癒できないという弱点があった。羽根が傷つくことで制動権を失い、身体から離れてしまったら、自然に生え変わるのを待つしかないのだ。

 

『愛依の【翼】、スピードやパワーはともかく、再生速度だけは俺を上回ってるんだよね。だから【自己再生】の影響は受けてると思うんだけど……』

 

 ホークスは思案にしばらく目を細めて、それから「まァとにかく」と話を締め括った。

 

『どっちにしろ火に注意するに越したことはない。(ヴィラン)を捕まえるにしろ脅威から身を守るにしろ、羽根は必要不可欠だからね』

『う、ん。火には素早く対抗する。できない時はとにかく逃げる、だよね』

『そうだよ。できる?』

『っでき、ます!』

『ん、いい返事』

 

 彼がそっと髪を撫でてくれた理由を、目を伏せながら笑った理由を、当時も幼心に理解していた。

 ホークスは、こんなわたしを案じてくれた。心配してくれた。それが泣きたくなるほど嬉しくて、こんなにも優しい人に報いたくて、……その気持ちは今も変わっていない。

 

 だから今は逃げないとと、必死に飛び続けた。襲い来る炎を上下左右に飛んでかわす。大切な人の教えの通りに。それが正しいと、自分や誰かを救うことになると信じて。

 逃げて、逃げて、逃げて、

 逃げて──

 

 

「あれ? そっちに逃げていいのか?」

 

 はっ、と気づく。逃げて逃げて逃げ続けて、いつの間にかわたしの背後にはガスだまりがあった。

 目の前には青い炎。逃げなきゃいけない、でも、でも!

 

 炎がガスに引火したら、そこに倒れているみんなは……!

 

「──ぁ、」

 

 迷いは、思考と行動を停止させる。

 次の瞬間、わたしの身体は炎に呑まれていた。肌をいたぶる熱と痛みに呼吸を奪われ、意識が霞んでいく。身体が傾いで、浮遊感に包まれる。地面に叩き付けられる前に飛び上がろうとしたけれど、それも束の間、最後の羽根が焼け落ちる音が聞こえて、わたしは地に転がった。

 

「げほ、っぐ……!」

 

 炎が掻き消えて、息ができるようになっても、わたしは起き上がれずにいた。酸欠で目の前がくらくらする。ダメージが大きすぎて、すぐに治癒が、できない……!

 

「そりゃヒーローの卵だもんな。他の奴らを盾にされちゃ逃げられないわな」

 

 地面を這いずるわたしの元に、誰か(・・)が近付いてくる。わたしより年上で、でもまだ若いと思える男性の声。

 彼は笑う。嗤うといった方が正しいかもしれない。

 

お優しいこった(・・・・・・・)

 

 その言葉を聞いた途端、わたしの脳裏にあの日の路地裏が甦った。痛みに呻く身体に鞭打って、わたしは顔を上げる。

 夕闇迫る路地裏の影に、まるで溶けていきそうだと思ったんだ。その無造作な黒髪も、継ぎ接ぎだらけの服も。

 

「……あな、たは……」

「お? 俺のこと覚えてたのか」

 

 彼は、嗤う。継ぎ接ぎの皮膚を歪めて、にんまりと。

 それは確かに、あの日、あの路地裏で出会って言葉を交わした“お兄さん”で、わたしは震えた声で問いかけた。

 

「……っどうし、て、」

 

 どうしてここにいるのか。どうしてこんなことをしたのか。そう尋ねたかったのに、喉がずきずき痛んで上手く言葉にならない。ざらついた問い掛けを、彼はどう受け取ったのだろう。彼の無感動な笑みからは、何も読み取れない。

 

「“どうして”、ねぇ」

 

 彼はわたしの近くにしゃがみこみ、視線を近付けた。

 

「……どうしてだと思う?」

 

 その、綺麗な綺麗なエメラルドブルーの目が、

 わたしを、見ている。 

 

 

「……あ、……」

 

 

 何かがふと、頭に浮かぼうとしていた。

 けれどそれは、目の前を通った銀の壁に遮られる。呆けたわたしの口から漏れるのは白い息。ひやりとした冷気が身体の熱を冷ましていく、──氷の壁。

 

「空中!!」

「と……どろき、く……」

 

 氷の壁が、継ぎ接ぎの男性とわたしを隔てる。それを築いた轟くんはわたしに意識があることを確認し、ほんの少し表情に安堵を浮かべた。そんな彼の向こうでは、爆豪くんが吼えている。

 

「っんの、待てやこのクソ(ヴィラン)! 逃げんな!!」

「待て! 駄目だ爆豪、お前の“個性”じゃガスに引火する」

「……ックソが!!」

 

 会話を聞くかぎり、さっきの男性は逃げていったようだ。少し心にもやが残るも、危機が去ったことは確かだと息をつく。

 

「空中!!」

 

 その時、草むらを掻き分けて障子くんとラグドールが駆け込んできた。2人とも息を切らしてはいるけれど、目立った怪我はしていないようで、わたしは安堵を重ねる。

 

「障子、くん……ラグドール……よかった、無事で……」

「……おまえが無事ではない」

「そうにゃん! こんな、酷い火傷……」

 

 障子くんは眉間に皺を寄せながら拳を握り、ラグドールはわたしの肩に手を添えて上体を支えてくれた。……2人が心配してくれているのだと痛いほど伝わって、わたしはそっと微笑む。

 

「あり、がとう。でも大丈夫、です。また、治るから……」

 

 ゆっくりと治癒を掛けていくうちに、ひび割れた声も焼け焦げた肌も元通りになっていく。そんなわたしの治癒を待ちながら、みんなはこれまでの状況を話してくれた。

 轟くんと爆豪くんは、途中ガスで倒れていた円場くんを保護して、宿泊施設に戻ろうとしていたらしい。けれどその道中で常闇くんととある(ヴィラン)が交戦していた。“個性”の相性もあって助太刀も難しく戦況を見守っていたら、後方で青い火の手が上がり、わたしが空で追い回され、ついには撃墜したところを目撃して──氷に乗って駆けつけてくれたのだという。

 

「常闇くんが、(ヴィラン)と……?」

「常闇は大丈夫なのか」

「ああ、相手も戦い慣れてはいたが、常闇が優勢だった。俺らの助けは要らないってハッキリわかる程度にはな」

「ケッ」

 

 不貞腐れながらも否定しない爆豪くんが、轟くんの言葉が真実なのだと裏打ちする。常闇くんは大丈夫なのだと、それにひとまず胸を撫で下ろした、そんな時。

 

《A組B組総員──プロヒーロー・イレイザーヘッドの名に於いて、戦闘を許可する!!》

 

 脳裏に響いたのはマンダレイの【テレパス】。

 彼女は続いて、こう述べた。

 

(ヴィラン)の狙いのひとつ判明──!

 生徒の“かっちゃん”!! 並びに、空中さん!!》

 

「「「!」」」

 

 互いに視線を交わして、息を飲む。

 

《わかった!? “かっちゃん”! 空中さん! 2人はなるべく戦闘を避けて! 単独では動かないこと!!》

 

 わたしは胸元を握り締めていた。さっきの脳無や男性の襲撃で、わたしが狙われていることは何となく予感していたから、そこまでの衝撃はない。でも、

 

(でもどうして、爆豪くんが……?)

 

 わたしの場合は【治癒】の“個性”を狙ってのことだろう。ラグドールが狙われていたのもきっと【サーチ】の“個性”欲しさだろうし、爆豪くんもそうなのだろうか。それだけなんだろうか、……本当に?

 

「空中、……大丈夫か」

「! ご、ごめん、うん、大丈夫」

 

 少し考え込んでいただけ、と答えると、障子くんは気遣わしげに目を細めた。その仕草に「本当に大丈夫だから」と声を重ねて、わたしは爆豪くんに視線を向けた。彼はぷんすかと、眦を吊り上げながら怒っている。

 

「……爆豪くん、は……狙われる心当たりとか、ある?」

「あるわけねぇわ!!」

「う、ん、そう、だよね……」

 

 疑問は、まだある。わたしたちの身柄を狙ったのが、どうしてこの林間合宿中だったのだろうということだ。少数とはいえプロヒーローがいるこの状況より、下校途中や帰宅後を狙った方がよっぽど確実に誘拐できただろうに、(ヴィラン)はそうしなかった。

 

(何か、別の目的があった?)

 

 プロヒーローがついてる合宿中でなければならなかった理由──けれどそれを考えている時間はない。轟くんは顔を上げて、わたしたちを見渡しながら口を開いた。

 

「とにかく、2人を保護しながら施設へ行こう。ここにはラグドールもいるが、相澤先生とブラド先生がいる施設の方がより安全だ」

 

 その言葉に頷き、立ち上がる。その拍子にふらついてしまったわたしの肩を、ラグドールが両手で支えてくれた。お礼を言おうと、わたしは振り返る。

 

「立てるにゃん?」

「は、い、大丈夫です。ありがとうございま──」

 

 

 

 わたしは、知覚を補助する羽根のほとんどを失っていた。

 だからこの瞬間の気づきは、まさしく“奇跡”といっていいものだった。

 

 視界の端で何か(・・)が近付いてくるのに気づいて、

 わたしは咄嗟に、ラグドールの身体を突き飛ばした。

 指先から離れる身体。驚いたラグドールの顔。

 ゆっくりとスローモーションで見えていたそれらが、

 

 ──ばつん、と、遮断される。

 

「空中!?」

 

 わたしを呼ぶ声。それすら遠く、隔絶。

 

 

56.少女、苦難と。

 

 


 

 明けましておめでとうございます。今年も拙いながらssを書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

 新年の挨拶をさせていただいたはいいんですが、全くもっておめでたくない展開で笑ってしまいますね。荼毘との二度目の邂逅など、以前から書きたかったところが書けて個人的には楽しかったです。

 

 次回は林間合宿編ラストです!さまざまな人物の視点から原作との解離点を書いていきたいと思います。その後の神野襲撃編も合わせてまた読んでいただけると嬉しいです!

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