通形先輩の言葉を受けて、物間くんと一緒に直談判して、ようやく掴み取ったインターンへの切符。決意新たに常闇くんと博多にやってきたわたしは、さまざまな思いと共にインターンに臨んだのだけれど。
《帰ってきなさい》
「……え、ええと、その、相澤せんせ、」
《帰ってきなさい》
「そ……っれは、でもわたし、」
《聞こえなかったか? ──帰ってこい》
「せ、先生……!」
……始まってすぐ、終わってしまいそうです。
《ここよりお届けするのは怪傑浪漫!! そう! 私はジェントル!! ジェントル・クリミナル!!》
博多到着直後、ビル爆破事件に遭遇したわたしと常闇くんは、そこに駆けつけたホークス事務所の面々と一緒に避難誘導と事後処理を終えた。そうして夕方、事務所に戻ったわたしたちが目にしたのは、ジェントルと名乗る男性の動画だった。
《
《、は……!?》
芝居がかった大きな声も、やたら高いところから紅茶を注いでびしゃびしゃ溢れさせているところも。……何より相対するわたしの存在が、この動画があの時に撮られたものだと証明していた。
わたしはゴーグルを着けていて顔はあまり見えないけれど、雄英の制服を着ていて、背中には白い羽根がある──その特徴から
《雄英高校1年A組、空中愛依くん!! 君は、このヒーロー社会をどう思う!?》
……動画内で、はっきりとジェントルはわたしの所属と名前を叫んだ。わたしを“雄英高校の空中愛依”だと知らしめた上で、こう問い掛けた。
《今のままの“当たり前”が続けばいいと、本気で思ってるのかい!?
──“当たり前”になった社会の裏で、苦しみ喘ぎ、泣く者がいるのに!?》
《……そ れは、》
編集したのだろうか、動画内ではあの時語られなかったジェントルの犯行動機が明らかになっていた。
彼が爆破したビル。そこに事務所を構えていたとあるヒーローは、裏で
《そんなヒーローが罷り通っていいのか!! そんな社会であって、本当にいいのかね!?》
罪を声高に糾弾し、ヒーローや社会の在り方を画面越しに問い掛けるジェントル。間近で相対した
動画を視聴した人が、雄英高校に問い合わせしたのかもしれない。わたしたちがホークス事務所でその動画を見終えたたった数十分後、相澤先生からの着信が入った。テレビ電話を繋げたわたしに開口一番届いたのは、『帰ってきなさい』という低い声。
「……ご迷惑をおかけして、本当に、すみませんでした……」
きっと動画の件で雄英高校に多大な迷惑をかけてしまっただろう。今は神野の件でただでさえ雄英は難しい立場にあるのに、余計な波風を立ててしまった。
「……っ本当に、本当にすみませ、」
《いつかも言ったがな、空中》
不甲斐なさと申し訳なさが胸を衝く。謝罪を重ねようとしたわたしを、けれど相澤先生は制した。
《迷惑じゃない》
「……先生」
《そこだけは、履き違えるな》
低く、短く、ともすれば冷淡とも聞こえる響きの中に、静かな優しさがある。それが痛いほどに伝わるから、わたしは上手く言葉を継げなかった。はくり、唇を震わせる。その沈黙を破ったのは相澤先生の方だった。
《件の動画は俺も見た。おまえの姿や名前が出されているのも確認した》
「……、はい」
《神野で良くも悪くも有名になったおまえを利用して、声を大きくしようとしているんだろう。おまえに社会の在り方を問い掛けることで、動画を見る奴らの心を揺るがそうとしている》
ジェントル・クリミナルは自分を“救世たる義賊の紳士”と謳った。“当たり前”に蓋をされ、腐ってしまった世を変えるべく、警鐘を鳴らす者だと。
彼らは“当たり前”を、このヒーロー社会を変えようとしている。変えようと志す人々を、増やそうとしている。
「……そのために、わたしを……」
わたしの存在が、社会を揺るがす一助になってしまうのか。
そう思えば不甲斐なさが心を満たすけれど、俯きかけたわたしを制するように、相澤先生の声が飛んだ。
《
「……このまま、放っておくべきだと?」
《少なくともおまえは手を引くべきだ。あいつの狙いのまま事が動けば、またおまえが利用されるかもしれん》
相澤先生の黒い目が、画面越しにわたしを見据える。
《空中。──おまえが、傷つくことになる》
「……先生、……」
──相澤先生はいつも、わたしたちを守ろうとしてくれる。ぶっきらぼうながらも厳しく諌め、優しい言葉を掛けてくれる。今までも、そして、今この時も。
彼にこれ以上の心労を掛けてはいけない。掛けたくない。そのためには先生の言う通り、雄英に帰るのが一番正しい選択なのだろう。
(……ジェントルはわたしに、“またお会いしよう”と言っていた……)
その言葉を鵜呑みにするのなら、彼はまたわたしに接触しようとしてくるはずだ。同じような動画を撮られ、同じように晒されて、同じように社会によからぬ波を立てて──結果、雄英に迷惑を掛ける。……相澤先生は“迷惑じゃない”って言ってくれているけれど、その思いは嘘ではないのだろうけれど、わたしは胡座をかいていてはいけない。
わかっている。理解も納得もしている。
(……わかって、いるのに、)
わたしはどうあっても、頷けない。
「……ジェントル・クリミナルと名乗った彼が、このインターンというタイミングで──わたしが雄英の庇護下から離れたタイミングで──仕掛けてきたのは、恐らく偶然ではありません」
事後処理中に聞こえてきた内容によると、爆発したものはパソコンやエアコン、コピー機など、元々オフィスに置かれていたものだったそうだ。何者かによって爆弾を仕込まれたのか、それとも爆弾に
そうじゃなきゃ、あんなにたくさんの爆弾を、わたしと常闇くんが博多駅に着いた直後に爆発させるなんて芸当、できっこない。
「わたしはジェントル・クリミナルと対峙した際、彼の“個性”を垣間見ました。透明な、弾力のある膜……空気のトランポリンのようなものを生み出して、わたしの羽根を弾いていました」
《何が言いたい》
「彼一人の“個性”では、人知れず爆弾をオフィスに潜り込ませることも、物を爆弾に変えることも難しいと思います。彼は複数で動いていると見るべきです。……、」
──そしてきっと、その中に、
「……わたしがこの日、この時間に、ホークスの元へインターンに行くということを知った
テレビ越しに、相澤先生が僅かに眉間の皺を深くした。彼はいつものポーカーフェイスを貫いているけれど、それでもほんの微かに、気持ちが揺れている。
USJ襲撃事件に引き続き、先日起きた林間合宿襲撃事件。これはどちらも伏せられていたはずの情報が流出してしまったことに端を発する。今回の一件も、そうだとしたら。
《……それはおまえの憶測に過ぎない》
「確かに、憶測です。それでもわたしは、少しでも可能性があるならば、後手に回りたくはありません」
わたしは続けて声を重ねる。雄英内部に潜む内通者の存在。その正体。雄英が性急に寮生活の基盤を整えたのも内通者を明らかにするためだろう──つまりそれだけ、雄英が求めている情報というわけだ。
そこに、付け入る。
「わたしがジェントルを引き付けて、捕らえて、彼の裏に通じている者を暴きます。ここで行動せず、ただ雄英に帰るだけなら……何も変わらず、同じような騒ぎを繰り返すだけです」
《……空中、》
「“守られるばかりのヒーローになりたくありません”。……以前伝えたのと変わりなく、わたしは今でも、同じ気持ちです」
努めて真摯に表情を塗り固めて、声を作って訴える。どうかどうか、雄英のために、何よりわたし自身のために、インターンに行かせてほしいと。
──そうする一方で、心の中で苦笑が溢れた。
(……ほんとうに身勝手で、傲慢な言い分)
普通に考えれば、ジェントルの捕縛はわたしのような
ただでさえ
(……ああ、でも、それでも……)
──わたしはインターンを、やり遂げなくちゃいけない。
『
会長は言っていた。神野からたった1、2週間。その僅かな間で違法スーツ・アイテムの闇市場が需要の増加と共に活性化していると。
そうしたサポートアイテムを得て、計画を立て、徒党を組み、集団で社会に仇なす
『今や
今もずっと、氷の声が静かに響いている。
『だからあなたに命じます。
ホークスの元でインターンを行いながら、
公安からの秘匿任務。神野や多古場でしくじったわたしに与えられた挽回の機会。みんなのために、わたしができること。
会長からの命令だとしても、それをやり遂げたいと思ったのはわたしの意思だ。そのために何としてでも、相澤先生を説得して、インターンを継続させなきゃ──そんな決意を胸にわたしが顔を上げた時だった。
視界の端で、ひらりと、赤い羽根が翻る。
「俺は空中さんに賛成ですよ、イレイザーヘッドさん」
あ、と思った時には、ホークスがわたしの隣に並んでいた。いつもの涼しげな顔で笑って、画面の中の相澤先生を見ている。
《……ホークス》
「俺も彼女たちはここに残って、インターンを継続するべきだと思います」
……
《……とても合理的とは思えないが》
「そうすか? 相手の狙いはハッキリしてる。それに合わせて俺らプロがバックアップすれば捕縛は容易でしょ」
《簡単に言ってくれる》
「自信はありますよ」
ホークスの笑顔はにこやかで、すらすらと流れる言葉は澱みない。声の抑揚だって自然で、おかしなところなんてないはずだ。
「ジェントル・クリミナル──本名は飛田弾柔郎。“個性”や素性、来歴は既にこちらの調査で割れてます。今後奴を捕らえれば、背後にいる者も、洗いざらい丸裸にできるでしょう」
けれど、何故か。辺りの空気が重く、冷たくなっていくのを感じた。そんなわけがないのに息がしづらくなった気がして、ひゅ、と喉の奥がいびつに震える。
ホークスは笑みを深めた。睫毛の角度が僅かに変わって、細められた目に影が落ちる。
「それって、
「っ、ホークス……!」
まるで雄英を軽んじているような言葉選びと声色に、思わず抗議の声を上げる。それにホークスはちらりと横目でわたしを見下ろしたけれど、何も言わなかった。
(……ホークス?)
視線が交わったのはたった1秒ほど。たったそれだけで、ホークスは再び画面越しの相澤先生に向き直った。ぱん、と両手を打ち鳴らす。まるで空気と感情と話の流れを、切り替えるスイッチのように。
「ま! インターン継続は確かにリスクあるかもですが、それを補って余りあるリターンはありますよ」
《得られる情報か?》
「それだけじゃなく、“標的に晒された雄英生が、未来のヒーローらしく自分で
あまりにさらっと明るい声で言われて、わたしは動揺を隠しきれなかった。
息を飲んだ音が聞こえていなければいい。
揺れた肩に気付かれていなければいい。
……そう願うわたしの気持ちとは裏腹に、ホークスは見透かすような眼差しでわたしを射た。
「“ここで行動せず、ただ雄英に帰るだけなら……何も変わらず、同じような騒ぎを繰り返すだけ”、だったよね?」
「……あ……」
「あとこうか。“守られるばかりのヒーローになりたくありません”……君は、強くなるためにインターンに来たんだね」
ふっと、眉を下げて、ホークスは微笑んだ。けれどそれも一瞬、彼はふいと視線を逸らして画面を見据える。半歩、前に踏み出した。
「そういった理由も鑑みて、インターン継続は妥当かと思いますよ。それでももし不安なら、そうっすね、この件の全責任は事務所所長である俺が受け持つってことで」
立ち尽くすわたしからは、今、彼の表情は見えない。大きな赤い翼越しの肩が“仕方ないな”と言いたげに竦められただけ。
それでも、今。ホークスは笑ってるんじゃないかと思った。
──あの、いつも以上に飄々とした、静かな瞳の微笑みで。
《No.3ヒーロー、ホークス》
今の今まで黙考していた相澤先生が、重い口を開いた。長い前髪から覗く目が、鋭い光を宿している。
《あなたの実績と言葉を信じます。……信用して、いいんですね?》
「ええ、──勿論」
そんなやり取りを最後に、相澤先生は深い溜め息をこぼしながらも、わたしと常闇くんのインターン継続を認めてくれた。
───
福岡の治安を維持するホークス事務所。6月にあった職場体験時に訪れたきりだったけれど、当時から特に何も変わっていないように見えた。
インターン中止か継続か、会議をした応接間。それからキッチンで作った料理で簡単な夕食を済ませて、シャワールームで汗を流して──今わたしは、仮眠用の個室にいる。職場体験と同様に、インターン中もこの個室を使っていいとのことだった。
「……、」
こんな夜が、前にもあった。わたしは考え事をしていて、疲れているのに眠れずぼうっとしていた。
そして、自販機が廊下にあるってことを思い出して、散歩がてら飲み物を買いに行こうと部屋を出て──
(そこで、ホークスに会った……)
はくり、と声になりきらない息が漏れた。喉が渇いて、少しだけ痛む。
迷いと、恐怖が、わたしを躊躇わせる。……それでも消しきれない期待が、わたしの足を進ませた。震える指先がドアノブを捻る。
「……!」
押し開いたドアの向こう。夜に沈んだ廊下に、ふわりと赤い羽根が浮かんでいた。扉が開く音を感知したのか、わたしが息を飲む音を拾い上げたのか、その両方か──剛翼は宙を泳ぎ出す。
(……あ、)
いつかの夜。二人でホットコーヒーとコンポタを片手に話した背もたれのないソファーの前を通り過ぎ、更に羽根は進んでいく。ぼんやりと宵闇を照らす自販機の灯りを追い越して、廊下の奥目掛けて、より暗いところへ。
「……ホークス、さん」
「や。こんばんわ、愛依」
そうして辿り着いたのはホークスの執務室だった。彼は入室したわたしに微笑みながら、腰掛けていた椅子から身体を起こす。
“空中さん”ではなく“愛依”と呼んだその声に、心が震えたのを必死に隠した。……きっと仏頂面になっていたのだろう、ホークスはきょとんと目を丸くした後、優しげに首を傾げる。
「どしたの。眠れなかった?」
「……そっちこそ」
「俺はまァ、お仕事だよ」
「……、」
“何の仕事?”、と訊くのは、少し怖かった。かといって上手な話題転換も思いつかなくて、わたしは言うべき言葉を失ってしまう。
(訊きたいことも、話したいことも、たくさんあったはずなのに……)
公安会長から言い渡された秘匿命令を果たすため、わたしは具体的にどんなことをすればいいの。──あなたはこのことを知って、どんなことを思ったの。
息を吸い込んで、唾を飲み込んで舌を湿らせて、唇を震わせて。何度も言おうとしたのに、結局何も言葉にならない。
……“どうして”と自問する一方で、本当はわかっていた。訊かなければいけないことだけれど、訊きたくなかった。怖かったんだ。
(訊いたら、踏み込んだら、もう、……)
──もう、“愛依”って呼んでくれなくなるんじゃないかって。
「やっぱ、疲れちゃった?」
俯いて黙り込んでしまったわたしの額に、ふわりと柔らかい感触。瞬きをしたわたしの眼前に、小さな雨覆がひとひら舞っていた。それはわたしの額を再び優しく小突いて、それからホークスの背中に戻っていく。その軌跡を目で追ったわたしと、こちらを見るホークスの視線がぶつかって、……その目が優しく微笑んでいたから、反射的にわたしは唇を結んだ。
「、……疲れてないよ。これくらい平気だもの」
「アララ、意地っ張り」
「ほ、ほんとだもの」
「ほんとかなァ」
ホークスは昔よくしてたみたいに、からかい混じりに肩を竦めて笑った。それからさらりとさり気なく、重苦しい沈黙を破る。
「インターン初日から災難だったもんね」
「……それは、そう、かも」
「なんか前もこうだったよね。職場体験初日」
「! 確かに……! あの時も博多に来た途端、駅前で騒ぎがあって……」
たった3ヶ月前の出来事だというのに、妙な懐かしさがあって、思わず声が上擦る。ホークスも同じ気持ちなのかなとか、同じことを思い出してるのかなとか、そんな能天気なことを思って、のんきに嬉しくなっていた。
「……あの日の夜も、あなたとこうして話をしたね」
そうやって笑ったわたしの笑顔と、ホークスの浮かべるそれは全く違っていた。そのことに、一拍遅れて気づく。
彼はそうだね、と。何かを噛み締めるように目を細めた。何かを懐かしみながら、何かを思いながら──それを咎めるように笑っている。
「…………啓悟くん……?」
夜に沈んだ暗い執務室に、ホークスの藤黄色の目がいやに鮮やかだった。彼はゆっくり目蓋を下ろして、それから殊更ゆっくり目を開けた。
たったひとつの瞬きだ。
それだけで、全ての温度や揺らぎを削ぎ落とした。
「まァなんだかんだあったけど、インターン継続できてよかったね。雄英のスタンスはどうあれ、
彼が空に放った声は明るかった。
「でもまさか、内通者の存在を仄めかして、雄英にとっての利を武器に交渉を持ち掛けるなんて思わなかったよ。──しかも“インターンで強くなりたい”っていう、若者らしく可愛い精神論との併せ技」
片眉を上げて、目を眇めて、笑う。
「しばらく見ない間に、随分と口達者になったもんだね」
「……、そう、かな」
彼の思いがわからない。でもきっと、額面通りに受け止めてはいけないんだろう。
彼はわたしを、褒めてはいない。
わたしの冴えない返事にも然程興味は無いようで、ホークスは曖昧に頷いた。澱みなく本題を切り出す。
「んじゃまァ、君も上から聞いてると思うけど、今回のインターンは公安の任務も兼ねて進めていくよ」
「……はい。
「まァね。とりあえず当分は職場体験の時と同様、市中にパトロールに出てもらうつもりでいるよ。程よくメディアに取り上げてもらって、【空中愛依が雄英の庇護から離れて、博多の街中をふらついている】って情報を日本全国に流す。それで連合が接触してくるのを待って──」
そこまで話して、彼はああ、と宙に目を向けた。何かを思い出すような仕草。それからやたら皮肉げに、鼻で笑う。
「ジェントル・クリミナル。あの傍迷惑な動画投稿者の方が早いかもしんないね。
「──手間が省けて助かるよ。好都合だね」
ひゅッ、と、いびつな音が喉で鳴って、わたしは胸元を握り締めた。みっともなく跳ねた心臓を押し潰すように。
息を飲んだ音が聞こえていなければいい。
揺れた肩に気付かれていなければいい。
……そう願うわたしの気持ちとは裏腹に、ホークスは見透かすような眼差しでわたしを射た。
「ねえ」
「……っ」
「君も、ある程度の理解と覚悟をして、ここに来たんでしょ」
こつん、と足音がする。然程大きな音ではないのに、まるで楔のように響いた。足が縫い止められて、呼吸さえ覚束ない。立ち尽くすわたしの目の前で、彼は足を止めた。
「だから親身になってくれる先生にあんな言い訳までして、インターン継続を選択した。──違う?」
「……、違いません」
顔を背けてしまいたくなる気持ちに、必死に抗った。怖くなんてないと、思いたかった。
「ヒーロー・シエル」
あなたを怖がってなんかないと、わかってほしかった。
「
わたしだって頑張れる。
あなたと一緒に頑張れると、信じてほしかったから。
「──はい。承知しました」
だからわたしは強張る頬を叱咤して、微笑んだ。眉尻を下げて、目を細めて、口角を吊り上げて。嫌みなく、隙なく、完璧に──いつか教わったように、笑った。
そんなわたしを見下ろして、ホークスは一瞬目を丸くした。意外そうな表情、……けれどそれもすぐ、笑みに隠されていく。
「……はは、」
ホークスは、いつも以上に飄々と笑っていた。彼の藤黄色はどこまでも静かで、一切の温度も揺らぎもない。
(……ああ、)
その顔をされてしまうと、わたしはわからなくなる。
この人は、一体何を思っているんだろう。
本気で隠されると、こんな一瞬の内に遠くなってしまう。……遠ざけられて、しまう。
「君は本当に、真面目な
彼の真意はわからない。
でもきっと、褒めてはいないのだろう。
この夜にわかったのは、たったそれだけだった。
89.少女、暗い夜の中で。
ご無沙汰しております……(小声)色々あって書けなくなっている間にヒロアカ最終巻も発売されましたね。ホークスと目良さん、公安組の新情報にウキウキしながら生き長らえました。肝心の更新した話は全然ウキウキしてないんですが、ギスギスもそれはそれで書いててとっても楽しかったです!インターン編はこんな感じの湿度が続く予定です。悪しからずご了承いただければ有り難いです。
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