「ねぇ? それでアキース君は一人で行動しているの?」
ディボスが考え事をしているとその横でモニカがアキースに話しかける。
「ううん。俺はいつもボロードと一緒にいるんだ。だけどボロードは何か用事があるみたいで少し前に一人で出ていったんだ」
「そう……。ボロードってあの有名なボロードのこと?」
アキースの言葉を聞いてモニカがそう言うと、アキースは驚いた顔となって彼女の顔を見る。
「ボロードを知っているのか!?」
「ええ、知っているわ。盗みの腕だけじゃなく、風や波を見る目にも優れていて、
『『………!?』』
モニカの言葉にその場にいた彼女以外の全員が驚き絶句する。そしてそれに真っ先に反論したのはアキースだった。
「ふ、ふざけんな! 何でボロードが船を盗まないといけないんだよ!?」
「だってボロード以外にルフィ達の船を盗む人がいないから」
大声で叫ぶアキースにモニカはそう断言してから根拠を説明する。
「まず私達がここに来る前にいた島の人達は除外。さっきナミが言っていたように彼らはトランプ海賊団の縄張りであるこの海域に船を出さないし、もし彼らが盗んだのだったら別の海域に逃げるはず。そもそもルフィ達はあの島のリゾート地のお客さんだったから、お客さんの船を盗む理由がないから除外。
次にトランプ海賊団も怪しいけど除外。海賊だから他の船からお金を盗む理由はあるけど、それだったら港で略奪が行われていないのも、被害がルフィ達の船だけというのも変よね? ルフィ達を倒すための罠、ていう線も考えたけど、それだったら船を盗むよりリゾート地で海水浴をしていて無防備だったルフィ達を襲った方が早いわ。
それで最後にボロードなんだけど……。ボロードって、泥棒の他にも小さな海賊団を捕まえて海軍に引き渡す賞金稼ぎみたいなこともしてるって聞いたけど?」
「……!?」
モニカに言われてアキースは顔を一気に青くして一歩後退りをした。
「ルフィ達から船を盗んだのは、罠を仕掛けた海におびき寄せて一気に捕まえる、あるいはトランプ海賊団に船を盗んだ濡れ衣を着せて互いを戦わせて共倒れさせるため。そう考えれば辻褄が会うわ。もちろん私が言っているのは何の証拠もないけど、島の人達やトランプ海賊団よりもボロードが盗んだ可能性が高いのは確かでしょ?」
「……」
「おっどろいた……! モニカ、貴女あれだけの情報でよくそこまで分かったわね?」
「スゲェぜ、モニカちゃん!」
どこか確信を持っているように言うモニカの言葉にアキースは何も言えなくなり、今までの話を聞いていたナミとサンジが感心したように声をかけた。
「ふふん♪ このモニカ様にかかればこれくらい当然よ!」
(原作知識をそれっぽく言ってみたけど、信じてもらえてよかった……)
モニカはナミとサンジに向けて服の上からでも分かるくらい豊かな胸を張って得意気に答えるが、内心では冷や汗をぬぐいながら安堵の息を吐いていた。
「……? つまりどういうことだ?」
「ようするにアキースの知り合いのボロードって奴がルフィ達の船を盗んだ犯人かも知れないってこと」
「何っ!?」
いまいちモニカの話を理解できなかったルフィにディボスが要点を説明すると、ルフィがアキースに詰め寄る。
「おい、お前! そのボロードってのは何処だ! メリー号を返せ、このヤロー!」
「そーだ、そーだ! 早く返せテメー!」
ルフィだけでなくウソップまでもアキースに詰め寄り、それに対してアキースはムキになったように叫ぶ。
「う、うるさい! そこのネェちゃんがそう言っているけど、ボロードが本当に盗んだか分からないだろ!? 確かめてもいないくせに勝手なことを言うな!」
「じゃあ確かめに行こうか?」
「……え?」
突然聞こえてきたモニカの言葉に、ルフィとウソップに怒鳴り返していたアキースが怒りを忘れて彼女を見上げる。
「だから確かめに行こうって言っているの。アキース君が乗っていたあの小舟、ろくに食料も水もなかったから近いうちにどこかでボロードと落ち合う予定なんだよね? そこまで案内してくれないかな?」
モニカの言う通り、アキースはこの後近くの島でボロードと落ち合う予定であった。そして自分達の行動を先読みされている少年には、目の前にいる赤髪の女性の言葉に逆らうことができなかった。
◆◇◆◇
「すまなかった! この通りだ!」
数時間後。とある島で泥棒ボロードはルフィ達、麦わらの一味の前で土下座して謝罪をした。
モニカの推測通り、ルフィ達の船、ゴーイングメリー号を盗んだのはボロードであった。最初は盗んだのは自分ではないと言っていたボロードであったが、モニカがアキースにも聞かせた推測を語ると、観念して自分の犯行を認めたのだ。
「ふざけんな! すまなかったですむか! メリー号を盗んだ上にトランプ海賊団のアジトに置いてきただぁ!? 今すぐ取り返してこい!」
ボロードはゴーイングメリー号をねじまき島という島にあるトランプ海賊団のアジト、その一番奥まで運んだと言い、それを聞いて最もゴーイングメリー号に愛着を持っているウソップが怒鳴る。しかしその声にボロードは首を横に振る。
「すまないがそれはできない。運ぶだけならなんとかなったが、取り返すとなるとトランプ海賊団との戦闘は避けられない。そうなったら俺一人ては無理だ」
「このや「解せねぇな」……ゾロ?」
ウソップがボロードに掴みかかろうとした時、ゾロが探るような目をボロードへと向ける。
「モニカの話では、お前は俺達とトランプ海賊団の共倒れを望んでいるらしいが、それだけならメリー号をどこかに隠せばいいだけだろ? 危険を冒してメリー号を敵のアジトへ持っていくなんて、まるで『なにがなんでも俺達とトランプ海賊団に戦ってほしい』みたいじゃねぇか? ……一体何を企んでいやがる?」
「そ、それは……」
ゾロの視線にボロードは目を逸らして言葉を濁す。するとそれを見てモニカが口を開いた。
「そう……。ボロードの目的はねじまき島にあるって噂の『ダイヤモンドクロック』なのね?」
「ダイヤモンド!? ねぇ、モニカ! それって一体何なの!?」
ダイヤモンドという単語に興味を引かれたナミが瞳を輝かせて聞くと、モニカは一つ頷いて答えた。
「今思い出したんだけど、ねじまき島には昔からからくりとかの機械に詳しい人達が住んでいて、ダイヤモンドクロックというのはそのねじまき島の人達が作ったっていう世界一高価な時計のこと。それを盗みだせた者は世界一の泥棒と呼んでも過言ではないそうだよ」
「世界一高価な時計!」
「! あ、ああ! そうなんだ。俺は世界一の大泥棒になるためにダイヤモンドクロックが欲しかったが、それにはねじまき島に居座るトランプ海賊団が邪魔だったんだ。だからお前達と奴らを戦わせて、そのどさくさに紛れてダイヤモンドクロックを盗もうと考えて、船をトランプ海賊団のアジトへ運んだんだ。……すまなかった」
モニカの説明にナミは表情を輝かせ、ボロードは自分の計画を話して謝罪をした。
しかしディボスには、計画が破綻したはずのボロードがどこか安堵しているように見え、更に言えばダイヤモンドクロックの話をしたモニカがボロードに助け船を出したように感じられた。