海軍専門の泥棒   作:小狗丸

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 赤ん坊の頃に両親を亡くした俺バトレム・D・ディボスをたった一人で育ててくれた祖父が死んでから早一年。

 祖父の命日の今日、俺はこの日記をつけることにした。

 日記をつけることにした理由は、俺が近いうちに海へ旅立つので、その決意を確かなものにするためだ。

 俺の家は代々東の海(イーストブルー)にある小さな島に住み、古代文明の技術を研究する学者の家系だ。そんな家系の影響か俺は機械や兵器が大好きで、まだ見ぬ未知の機械や兵器を見るために海へ旅立つことを子供の頃から夢見ていた。

 当然俺は海に出るために子供の頃から身体を鍛え、航海術等の旅に必要な知識や技術を学び、海へ旅立つ準備を整えてきた。そしてその準備ももうすぐ終わる。

 俺が旅に出たらこの日記帳は航海日誌へと変わるだろう。

 

 

 

 俺は一年前、死んだ祖父が遺した遺書からこの島に眠る「とんでもない存在」のことを知った。

 兵器製造戦艦アーレース。

 はるか昔にあった古代文明によって造られた戦争の神の名を持つ古代兵器だ。

 祖父の遺書によると俺の家系は元々この古代兵器を管理する一族らしい。

 アーレースの存在を知った俺は早速アーレースを探し、見つけた時にはこれ以上ない感動を覚えた。そして感動を覚えた俺はアーレースを自分だけのものにすると決めた。

 古代兵器は世界政府と海軍の管理下にあって、それ以外の者が所持することは重大な犯罪だが知ったことではない。世界政府にも海軍にもアーレースは渡さない。これはもう俺のものだ。

 そして非常に悔しい話だが、今の俺にはアーレースの仕組みも動かし方も全く分からないが、それでも俺の「悪魔の実」の力ならアーレースを動かし、その力を利用することができる。

 フネフネの実。

 それが俺が食べた悪魔の実。食べた者は自分の乗る船を手足のように操るだけでなく、船に関する様々な能力を持つ「操船人間」となる。

 ちなみに俺がフネフネの実を食べたのは五歳か六歳くらいの頃で、味の方は毒の一歩手前の不味さだった。

 アーレースは「兵器製造戦艦」の名の通り、艦内に兵器を製造する工場を持ち、そこから造られる兵器、そして艦にある武装は現在のどの兵器よりも強力だった。しかしこの艦にはそれ以上の驚くべき秘密があった。

 それは人造人間製造工場。

 この工場から造り出される人造人間は常人より高い身体能力を持ち、造り出した主人に絶対の忠誠を誓う兵士となるらしい。

 人造人間製造工場を知った俺は人造人間を造り、自分の部下にすることを考えついた。しかし工場が一度に造れる人造人間は八人だけで、製造に一年程の時間を必要とするのだ。

 その為、祖父が死んですぐに旅立つつもりだった俺は、旅立ちを一年延期して今日までまった。

 フネフネの実の能力で調べたところ、八人の人造人間は明日完成するみたいだ。

 ……しかし、部下ができるのは嬉しいのだが俺、ちゃんと喋れるかな?

 自慢ではないけど俺は人と話すのはそれほど得意ではなく、友人なんて一人もいないんだけど?

 

 

 

 ………今日は色々と予想外な出来事があった。

 アーレースの艦内にある人造人間製造工場に行くと、そこには俺の部下となる予定の人造人間が八人、完成していた。

 八人の人造人間達は、見た目は完全に俺と同じ人間で、全員が同じ容姿をしていて八つ子を見ているような気分だった。

 人造人間達の容姿を説明する前に、まず「兵士」という単語から人造人間が逞しい男だと思っていた俺の予想を反して、人造人間達は「女性」であった。

 それで人造人間達の容姿は、透き通るような銀色の髪に金色の瞳、雪のように白い肌。十代後半くらいに見える顔立ちと小柄な体格とは不釣り合いなくらいに豊満な体付き。

 そんな一目見たら忘れられないような美人達が八人、人造人間製造工場で俺を待ち構えていたのだ。

 ……裸で。

 そのあまりにも予想外で桃源郷な光景に驚いた俺は、思わず転んで頭を打ち気絶してしまう。

 次に目覚めると俺はアーレースの艦内にあるベッドの上に眠っていた。どうやら八人の人造人間達が俺をここまで運び、手当てをしてくれたみたいだ。

 ……裸で。

 その事実に俺は目を覚ましてすぐに「ありがとうございます!」と叫んでしまった。

 美人の部下ができるのは大歓迎だが、彼女達は本当に強いのだろうか?

 

 

 

 八人の人造人間達が無事完成してから三日が経った。

 初めて会った時は彼女達は強いのだろうかと思っていた俺だったが、その心配は全くの的外れであったのをこの三日間で思い知らされた。

 八人の人造人間達は「アマゾースシリーズ」というらしく、最初から兵士となるべく造られただけあって全員その戦闘力は非常に高く、純粋な戦闘では確実に俺より強いだろう。しかし幸いにも彼女達は主人である俺に絶対の忠誠心を持っているのは確かなようで、自分達の方が強いからと反逆される心配はないみたいだ。

 とりあえずいつまでも彼女達を人造人間と呼ぶのもアレなので、くじ引きやらジャンケンで本人達に長女から八女までの順番を決めさせた後、名前をつけることにした。

 長女アマゾース・アデラ

 次女アマゾース・イザドラ

 三女アマゾース・ヴェラ

 四女アマゾース・エラ

 五女アマゾース・オーラ

 六女アマゾース・カミラ

 七女アマゾース・キーラ

 八女アマゾース・クラーラ

 以上が人造人間の彼女達の名前だ。少し安直な気がするがその辺りは我慢してもらうしかない。

 とにかくこれで部下もできたことだし、そろそろ旅立つことにしよう。

 

 

 

 旅立つことを決めた俺だが、アーレースに乗って海に出るつもりはない。

 確かにアーレースは非常に優れた艦だし、艦の機能も今まで異常無く動いていたが、今まで数百年間整備をしていなかった艦に乗る気はない。それにアーレースに乗って海に出たらすぐに世界政府や海軍に目をつけられるだろう。

 フネフネの実の能力の一つには、異空間を作り出してそこに船をしまうという非常に便利な能力があり、アーレースはその能力でしまって旅立ちのための船は別の船にする事にした。

 一応実家にも買い出し用の小船はあるが、流石にそれでは九人で海を旅するのは無理だ。

 だから俺は海軍から手頃な軍艦を奪い取ることを部下であるアマゾースシリーズ……いや、アマゾース姉妹に提案した。

 元々海軍から船やら金を盗み出すことは以前から考えていた。

 口外するつもりは全くないが、それでも古代兵器であるアーレースを所持している以上、普通の手段で旅の資金を稼ぐのは難しい。だったら金がある所から盗んでしまおうというわけだ。

 これに対してアデラが「旅の為に船とお金を盗むのは分かったけど、何で海軍なの? 海賊の方がよくない?」と聞いてきた。

 確かに海賊の方が罪に問われるリスクはないが、海賊は見つけにくい上に金が確実にあるかも分からない。だけど海軍だったら駐屯地に行けば確実にいるし、金も高確率である上、俺の知らない兵器の情報が見つかるかもしれない。だからリスクを覚悟しても海軍を狙うことにしたのだ。

 そう説明すると今度はオーラが「貴方って海軍に目をつけられたくないのか、そうでないのか分からないわ」と言い、アマゾース姉妹全員が呆れたような目で俺を見てきた。

 

 

 

 アマゾース姉妹に海軍から船と金を奪う計画を話した俺は早速、アマゾース姉妹と共に近くの島にある海軍の駐屯地へ向かい計画を実行した。

 結果から言えば計画は大成功。俺達は無事、海軍から船と金を盗み出して、この日記も盗み出した船の船長室で書いている。

 計画の内容は簡単。アマゾース姉妹が用意した爆弾とかを使って海軍達の目を引きつけている間に俺が船に忍び込み、フネフネの実の能力を使って船を動かしたらアマゾース姉妹を回収して逃げるというものだ。

 アマゾース姉妹の戦闘力が常人よりも遥かに高かったことと、フネフネの実の能力で動かす船の動きが迅速ということもあって、計画は思っていたよりずっと簡単に成功した。

 ……というか俺が船と金を手に入れてアマゾース姉妹を回収に行った時、彼女達ってば捕縛に出てきた海兵のほとんどを倒していたんだけど? これってもう少し俺が遅かったら駐屯地が彼女達に制圧されて騒ぎが予想以上に大きくなっていたんじゃないか?

 盗んだ船は海軍の船にしては武装も船体も貧弱な気がしたが、この東の海(イーストブルー)は「最弱の海」と呼ばれるくらい海賊とそれに戦う海軍のレベルが低い為、仕方がないことなのかもしれない。

 とにかくせっかく手に入れたのだから、しばらくはありがたく使わせてもらうとしよう。

 

 

 

 記念すべき初仕事から五日後。俺達はとある島にある街へとやって来た。

 この街へと来た理由は食糧や水の買い出しと、次の仕事のためだ。

 この街にはそれなりに大きな海軍の駐屯地があり、買い出しを終えた俺達はその日の夜、海軍の駐屯地へ盗みに入った。

 作戦の内容は初仕事の時とほとんど同じ。アマゾース姉妹が注意を引きつけている間に俺が盗み、その後で逃げるというもの。

 ただし逃走する時にフネフネの実の能力で異空間にしまっていた海軍の船を呼び出すと、追っていた海軍が全員驚き、中には腰を抜かす者がいたのは中々面白かった。

 面白かったといえば盗みをしている最中、興味深いものを見つけた。それは駐屯地の司令官が海軍の資金を横領している証拠の書類で、俺はその書類を司令官の執務室にある机の上に置くと、書類の一枚にある悪戯書きを書いた。

「中々面白い内容の書類を読ませていただきました。あまりにも面白い内容だったので内容の一部をこちらでも写し書かせてもらいました。今夜頂戴したお金は、この件の口止め料とさせていただきます。

 ディボスグループ船長、バトレム・D・ディボス」

 もちろん写し書きなんて真っ赤な嘘だ。こうしておけば海軍の追手の動きも少しは遅くなるだろうと思っての悪戯書きだったのだが、効果は抜群だったようで、追手が急に俺達を追うの止めて引き返して行ったのは逆にこちらが驚いた。

 うん。この手は中々有効だな。横領の証拠を見つけたら使う事にしよう。

 ちなみにディボスグループとは俺が考えた俺達の呼び名である。

 これからも海軍に盗むをする以上、海賊のような扱いになるのは目に見えているのだが、実際に海賊行為をしているわけではないのでこの名前にしてみた。

 

 

 

 前に日記をつけた日から一ヶ月ぶりにこの日記をつけた。

 この一ヶ月で九回も仕事をしたので、日記をつけることを忘れていたのだ。

 今回の仕事は中々に興味深いものだった。今回の海軍の駐屯地で盗むをしていた俺は、この近くの島で秘密裏に海軍が最新鋭の潜水艦の試作艦を建造しているという情報を入手した。

 なんでもDrベガパンクという「世界で最高の科学者」と呼び名も高い海軍お抱えの科学者が設計に携わっている高性能な艦らしく、東の海(イーストブルー)で建造している理由は「海賊も最弱の海で最新鋭の艦を建造しているとは考えまい」というものらしい。

 この最新鋭の潜水艦の試作艦は是非欲しい。

 いい加減、俺達も正式な自分達の船を欲しいと思っていたところだ。この試作艦なら俺達の正式な船になるのかもしれない。

 試作艦を盗むことに決めた俺がアマゾース姉妹にこの試作艦のことを説明すると、彼女達も乗り気で試作艦を盗む事に賛成してくれた。

 

 

 

 最新鋭の潜水艦の試作艦を盗むと決めた日から四日後。俺達は海軍から試作艦を盗むことに成功した。

 ……しかし今回の仕事は危なかった。

 計画は順調であったのだが、最後の最後で海軍本部から来たという数名の海兵達が俺達の前に現れたのだ。彼らは海軍本部から来ただけあって、東の海(イーストブルー)の海兵とは格が違い、今まで「苦戦」を知らなかったアマゾース姉妹が初めて苦戦をする強さを持っていた。

 戦いの最中に俺は、フネフネの実の能力で異空間にしまっていた船の大砲を呼び出して本部の海兵達に向かって撃った。大砲の砲撃は本部の海兵達を倒すまでには至らなかったが、それでも多少の手傷を負わせることができたようで、俺達はその隙に試作艦に乗り込み海軍達から逃げることに成功したのだった。

 もう一度言うが今回の仕事は危なかった。

 あの時、何かが違っていたら俺達は海軍に捕まっていたかもしれない。もうあんな事にならないよう、これからはもっと慎重に行動するようにして、力もつけないといけないだろう。

 そう思っているのはアマゾース姉妹も同じようで、彼女達はこれまで以上に戦闘訓練を行なっている。俺も後で戦闘訓練に参加するつもりだ。

 それと今回決死の覚悟で盗んだこの試作艦は予想以上に高性能な上に快適で、俺達はこの艦を正式な船にすることに決めて「シールス号」と名付けた。

 

 

 

 潜水艦の試作艦、シールス号を海軍から盗んでから一週間が経った。

 とある無人島でシールス号を自分達に使いやすいように改造していた俺達の元に、ニュース・クーが新聞と一緒に驚くべきモノを持ってきた。

 最初は何かのチラシかと思っていたが、それはチラシではなく最新の指名手配書で、指名手配書には見慣れた顔……つまり俺の写真が載っていた。

「ディボスグループ船長〝幽霊船〟バトレム・D・ディボス、懸賞金360万ベリー」

 通称の「幽霊船」というのはフネフネの実の能力で逃走用の船を呼び出したり、前の仕事で船の大砲を呼び出したところから付けられたようだ。

 この自分の指名手配書を見た時、俺は特に驚かなかった。何しろ今まで海軍専門の泥棒をやって来たからこうなるのは当然で「思ったより早かったな」という感想しか出てこなかった。

 むしろアマゾース姉妹の「懸賞金低すぎない?」という視線を一身に受けるの方が辛かった。

 別にいいだろ! 東の海(イーストブルー)の平均懸賞額300万ベリーは超えているんだから!

《追記》

 シャボンディ諸島を目前にこの日記を読み返してみた。

 あの頃は300万代の賞金首でしかなかった俺が今では「億超え」の賞金首になっているとは。

 正直、誇らしいやら、この頃に帰りたいやら複雑な気分だ……。


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