薄暗い廃工場の入り口で千聖は先程の男性に刺される真澄を見てしまう。
赤い雫は汚れた床にポタッポタッ……と滴り落ちる。
「ま、真澄……さん?」
「少し離れた場所なのによく分かったね? 千聖さん。まぁ、それはいいよ」
そう言うと、真澄は刺されたナイフを抜こうと触れ、軽く静電気がバチバチと帯びる。
するとナイフを持っていた白カラスは気絶したように崩れ落ちる。
背中に刺さるナイフを抜き取ると内ポケットに仕舞う。
痛々しくも刺された痕から血が止めどなく零れ落ちる。
千聖に軽く近づくと、千聖は手提げカバンに入っているハンカチを持ち、急いで近づいてくる。
「ちょ、ちょっと! 動かないで! 傷が酷くなるわよ!」
「大丈夫だよ、まだ普通に動けるし、深く刺された訳でもないから……ハンカチが汚れるから止めといてくれないかな?」
「汚れるからって、血がまだ出てきてるじゃない! ひとまず止血しとかないと……!」
千聖はカバンから取り出した清潔な白いハンカチを取り出し、真澄の背中にできた刺し傷に押し当てる。
汚れを知らぬ白いハンカチは、血によってだんだんと赤く赤く染まっていく。
やがて白い部分が全て赤く染まり変わる。
千聖はハンカチの他に治療できるものはないか探していると近くでビリビリと何かを破く音が聞こえる。
その音は真澄が片袖を引き千切り、刺されたナイフで片袖を包帯に変化させていた。
「使ったものは仕方ない、とりあえず傷痕にそのままハンカチを当ててもらえるかな? 包帯を巻くからさ」
「貴方……痛く無いの? すごく痛いはずなのに……」
「痛くない訳ではない……かな? でもさ、もっともっと痛いことはとっくに体験してるからさ。それと比べたら全然耐えられるよ。それに……」
「ひとまず、救急車ね。それとその包帯で巻くのをやめておきなさい。清潔な布ではないもの……」
そうして、千聖はカバンからスマホを取り出そうとする腕を止める。
その手は、真澄から出ていた。
「ちょっと、これじゃ「すまないが、救急車を呼んでも意味はない」あ……え?」
「応急処置はできたから、あとは家で大人しくするよ」
「待ちなさい、その傷で治療しないと……」
「ありがとう、助かったよ千聖」
そう言って、立ち上がり、去ろうとすると入り口からコツコツと足音が聞こえてくる。
真澄は千聖を背中に隠し、入り口を確認する。
入り口に影ができ、その人物は入ってくる。
その姿は、雪のように白く輝き、腰あたりまで伸びる髪。すらっとし、長い足。
そこら辺に滴っている血の海より濃い赤い瞳。
両手に持っている小型ナイフ。
そして、埃一つついてないメイド服。
「見つけましたよ?」
「貴方は……誰?」
「はぁ……シアンか。お前はやっぱり来たのか」
「私の行くべき場所は何時も何処でも貴方の後ろです。例え何処に行こうと着いて行きます。私の後にはメラルに任せてあります。あの子ならできますからね」
「来ちゃったものは仕方ないか……とりあえず千聖を送り届けないとな」
「え……えぇ」
そのメイドはシアンという名を持っていた。真澄とのかかわりがあるらしい。
シアンは、そのまま近づき真澄の前に立つ。
千聖も警戒を解き、シアンと言われた少女を見ていた。
両手に持っていたナイフは何時の間にか消えていて、素手であった。
千聖に気がつくと、顔を確認するために顔を近づけていた。
「…………」ジー
「えっと……何か付いてるかしら?」
「いえ、貴方が話されていた人物かと思いましたので。髪の色や身長、瞳の色等々違っていましたので」
「そうなのね」
「とりあえず、此処を出るとしないか? 千聖も帰らないと駄目だろ?」
「そうね、でも病院には必ず行ってちょうだい」
「大丈夫だよ」
「行 き な さ い」
「大丈夫です。私がしっかりと連れて行きますので。千聖様……あっ、紹介が遅れました。シアンと申します」
「シアンさんね、私は白鷺千聖です」
「それで、千聖。どこまで送っていったらいい? 学校までか? それとも最寄りの公園とかかな?」
「そうね、このまま病院と言いたいけど、この時間だもの。応急処置したとはいえ、救急で呼び出したとしても歩けてるもの。ひとまず公園でいいかしら?」
「シアンもそれでいいか?」
「何時迄も私の答えは決まってますよ? 例え地獄でも、私は着いていきます」
「ありがとな……。さて、行こうか」
廃工場から歩き、公園に向かう。
会話はシアンと千聖のみであった。
どんなものが好きなのかだったり、普段何をしているのかだったりと会話が広がっていた。
その際、真澄の方に電話が入る。その連絡は恋からであった。
「はい、どうした? 恋?」
「おにーさんっ! 大丈夫でしたか!?」
「ちょっと落ち着けって」
「……少し声が痛みに耐えてる感じ」ボソボソ
「ん? 恋? 聞こえてるか?」
「おにーさん、怪我でもした? 何時もよりも声に力がないよ?」
「ん?」
「おにーさん、怪我したでしょ?」
「応急処置も終わってるから大丈夫だよ」
「道具一式持って、家に行きますので、玄関で合流しましょう」プツッ
「おい、恋? 恋?」ツーツー
「恋ちゃんからの電話ね?」
「まぁ、そうだね。玄関で合流らしいからな……とりあえず千聖を公園まで……」
「それは私が着いて行きましょう」
「シアン?」
「大丈夫です。コウエンにまで千聖様と一緒に行きます」
「えぇ、その方がいいわ。私はシアンさんとまだ話したいし。真澄さんは早く家で休んだ方がいいわ」
「千聖さんの言う通りです。私も真澄様に早く休んでいただきたいので……」
「シアン、俺の家分かるのか?」
「大丈夫です。それくらいなら分かりますよ」
「りょーかい、なら千聖のことはシアンに任せるよ。でも危ない時は呼んでくれよ?」
「了承しました。では、行きましょう。千聖様」
そうして、真澄1人と千聖とシアンの2人に分かれた。
そして、自宅に行くと玄関の前に恋と命の2人が立っていた。
「おかえり、真澄。それと……パスパレの白鷺さんと……メイドさん?」
「おかえりなさい、おにーさん」
「命と恋? どうした、そこに立って……?」
「おにーさんが心配だったので、あの後食事を終えて、分かれたんですがその時命さんと会いまして……」
「あなたが1人で囮になったって聞いたから心配したのよ。まぁ、心配してたのは私たち以外にもいたみたいね」
「恋にも悪いことしたな、いきなりでごめんな……」
「いえいえ、大丈夫ですよおにーさん! 今度はしっかり言ってくれましたから。でも、何も言わずにいなくなるのはやめてくださいね?」
「その今度があったらね?」
「さて、それじゃ応急処置はしてあるなら本格的に治療するわよ。真澄、家に道具はあるかしら?」
「一通りの物は用意してあるよ。消毒液、包帯、ガーゼ等々。今回は自分だったが、ほかのメンバーの治療のために準備はしてある」
「なら、さっさと治療しましょ。貴方はどうするのかしら、白鷺さん。このまま帰ってもいいわ」
「そうね、このまま帰宅させてもらうわ。明日は予定があるので、申し訳ないけど……」
「ひとまず、今日はもう何もないと思う。でも、気をつけて帰ってくれな?」
「えぇ……」
そのまま千聖は帰宅していく。
猩は家を開けると、恋と命が入ってくる。
「それじゃ、お邪魔するわね」
「お邪魔します。おにーさん! それで救急箱はどこに?」
「どうぞ。恋、セットは正面の部屋の棚の中にあるよ。命、とりあえず正面の部屋の椅子まででいいか?」
命は猩を支えゆっくり歩いていく。恋は治療するための道具がある棚の中を探しにいく。
「えっと、傷薬に包帯、テーピングのロールにガーゼ! 一通り揃いました!」
「恋、ありがとね。さて、治療を始める前に聞きたいことがあるわ、猩……」
椅子に座る猩の目の前には、救急箱を持つ恋と鋭い目線を向ける命が猩を見つめていた。