猩兼真澄の自宅にて……
「えっと、傷薬に包帯、テーピングのロールにガーゼ! 一通り揃いました!」
「恋、ありがとね。さて、治療を始める前に聞きたいことがあるわ、猩……」
「恋、言いたいことは分かってる。先にこっちを終わらせた後に話すよ」
「……そうね。先に治療が先ね。ごめんなさい。でも、しっかりと答えなさい。痛くするわよ」
「隠すつもりは無いよ、それじゃ頼む」
「そしたら、恋。鋏はあるかしら? 無いなら何か切れるものを……」
「こちら鋏とカッター、両方とも準備できてます!」
「そう、鋏を貸してちょうだい」
「はい! 分かりました。おにーさん、それじゃ、シャツを切りますよ?」
「…………」スースー
「やっぱり、治癒のために睡眠をとったのね。恋、このあと血を見ることになるけど大丈夫?」
「少し怖いです。ですが、このまま無視なんてしたくないです。おにーさんの治療、急ぎましょう! 命さん」
「そうね、それじゃ包帯を巻きやすくするのと、状態確認しやすい様に家具を動かすわよ。恋、貴方もこの配置に頼めるかしら?」
そう言って、恋にメモを渡した。
そのうちに、命は医療服を着る。
机の上に猩を乗せるために、物をどかし始める。
机の上が片付き、机の上に猩をうつ伏せに寝かせる。
命は鋏を持ち、シャツを縦に切り裂く。
シャツを切り裂き、開くと……
恋は驚愕し命は確信していたのか、あまり驚かない。
「やっぱりね、かなり身体付きが良くなっていたから気になっていたけど結構鍛えていたみたいね」
「おにーさん……いったい何処で……しかも傷がいっぱい……」
「それほど、濃厚な行方不明期間だったはずよ。この傷なんて、かなり鋭い刃物で裂かれているし、この腕だって……」
そう言って、シャツを完全に脱がした猩の背中には、先ほど刺された傷の他にも沢山の傷があった。
命に言われた腕は、完全に切断された痕跡がある。今は義手がある。片腕はまだ本物の猩の腕であった。
「さて、とりあえず今回はこの傷でしょう。恋、アルコールはあるかしら?」
「……」
「恋、今は物思いにふける必要はないわ。私たちが今すべきことをしましょう」
「……はい」
そうして、治療を始める。
命は経験があるのか、テキパキと処置を始める。
恋も命のサポートを始める。
2人は何度も経験したことがあるのか、無駄のない動きで治療を続ける。
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〜数十分後〜
「さて、治療も終えたわね」
「そうですね……命さん」
「恋、こっちに来なさい」
「え? は、はい……」
命は恋を呼ぶ。近くに寄るとすぐに恋を抱きしめる。
「み、命さんっ!? どうしたんですか!?」
「恋、聞きなさい。今はまだ混乱してるかもしれないわ。でもね、この傷の付きかたはね、誰かを守ってできたものと思える。でないと、猩が背中を見せて切られるなんてことは、ほぼないと思っていいわ」
「……」
「その、行動を肯定しなさいとは言わないわ。でも否定するのは駄目よ? これを否定すると言うことわね」
「……猩さんの行動を否定することになる……ですよね?」
「ええ、そうよ。かと言って肯定しなさいなんて言わない。私だって許せないわ。こんなに傷ついて」
「……分かります」
「だから、私は決めたわ。猩の傷つける全てのモノから守るって……。でもね」
「……」
「私でも気づけない穴がきっとある。それで傷ついてしまうかもしれない。だからね、恋……貴方の力も貸してちょうだい?」
「私の……力……ですか?」
「1人の力だと、ほんのちっちゃな力にしかならないわ。でも、2人ならどうかしら? 3人になったときは?」
「少しずつでも強大な力になります……」
「そう、その力を手に入れるために貴方の力が必要なの。だからね」
そう言って命は恋に手を差し、頭部を下げる。
「弱い私と一緒に彼の力になってくれないかしら? お願い……恋」
「私、命さんの話を聞いて決めました。命さんよりも小さな力です。ですが、小さな力でも役に立つなら私は喜んで力を貸します。ですので、一緒におにーさんを支え合いましょう! 命さんっ!」
「えぇ、もうこれ以上彼を傷ついてほしくないからね」
「それに関しては私も同感ですよ? 弦巻命さん。氷川恋さん」
「「!?」」
振り向くと天井から逆さになっているシアンがいた。
2人は驚きを隠せずにいたが、シアンは表情を変えず、天井からシタッと降りる。
「はじめまして、猩様のメイド兼情報担当のシアンです。お二人方……あっ、こちら紅茶になります。落ち着きますよ?」
元々配膳するためなのか、カートの上に紅茶やらお茶菓子が用意されており、カップを2人と自分の前のテーブルに置き紅茶をいれるのだった。
「お二人方、紅茶はミルクや砂糖を入れますか? それともストレートですか?」
「……私はストレートでお願い」
「ミルクのみでいいでしょうか?」
「ストレートとミルクのみですね。こちらになります。お茶菓子も一緒に召し上がりください」
恋と命は紅茶やお茶菓子に手を出す。それにより少し興奮状態だったところを鎮静効果により、通常に戻る。
「紅茶をありがとうございます。シアンさん……でしたね」
「えぇ、お好きにお呼びください」
「自己紹介が遅れてたわね。私は弦巻命。猩とは少し古い仲よ」
「氷川恋です。シアンさん、いきなりですみません。おにーさんと何時お会いしたのですか?」
「そうですね……詳しくは私も説明できませんが少なくともお教えできるのは、『行方不明期間』の間であることは確実です。あの方は私を含め数人、命の危機からお救いいただけました。そのおかげで私は今もなお、活動を続けられます。私の命はあの人に差し上げています。例えどんなことをされても、痛みに表情を変えても拒むことはないです」
「そこまでのことがあったのね。それで、私たちに話をしようとしたのはどうしてかしら? 紅茶も自分の分を用意して……」
「貴方達とお話しをしたいと思っておりました。猩様がずっと話されていた、『親友』の貴方達と……」
「そう……」
「親友……おにーさん……」
紅茶を飲みながら話を続けていた。
そこで色々な話をしていく。
行方不明期間の時、何処にいたのかは明かすことはしなかったが、どういう日々を過ごしていたのか。
猩がいない間何があったのかの情報を互いに共有しあっていた。
数十分もの間話していると置き時計がポーンボーンと鳴り響く。
夜も遅くなってしまっていた。
その音が響くと同時に恋のポケットから音楽が鳴り始める。
プルルルル……プルルルル……
「あっ、ごめんなさい。私の携帯です。少し離れますね」
「この時間だし、多分お姉さんたちね。さっきも会っていたみたいだし……そろそろお開きにしましょう」
「命様、今日はお泊まりになってはいかがでしょう。恋様もご一緒に……。その方が猩様もお喜びになるでしょうし」
「そうね……恋を送り届けるにしても遅くなるわね、それなら一日お世話になるわね。シアンさん」
「了解しました。湯汲みの準備はすでに整っております。服に関してですか、既に用意しておりますので、こちらをご使用ください」
「元々、泊まらせる予定だったのかしら?」
「いえ、何時いかなる時も対応しております」
「命さん、シアンさんすいません。そろそろ私帰りますね」
「恋、ちょうどよかったわ。今日はここでお泊まりしましょう。シアンさんからの許可は得ているわ」
「えっ? いいんですか?」
「その方が猩様もお喜びになると思いますし、治療もなされてお疲れでしょう? 湯汲みもありますので、こちらでお休みください」
「そしたら、紗夜ねぇに連絡入れときます!」
その様な会話を始め、お泊まりをするのだった……