Anthology "Flower"   作:蒼星緋咲

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何度目まして。蒼星緋咲と申します
実はこれ、一週間前にまっつんさんに押し付けられたテーマだったり……。ほんとは140字題材らしいんですけど、書き方のスタイルとしても絶対に収まらないんですよね

さて、そんな裏話はさておいて。本編をお楽しみください。久々に自信をもって送れる作品だと思ってます


I'm a Challenger

 リビングで、陽菜はお茶を飲みながら何かを読み進めている。出会ったころから、ひたむきに努力する姿勢はまったく変わっていない。

「舞花ちゃん?」

 こっちに気づいた陽菜が、自分に話しかけてくる。一人で考えてるのも疲れてきて、陽菜に「隣いい?」と聞いたら、「いいよ」って返された。

「オーディション資料?」

「ううん。新作アニメの台本」

「へー……すごいね……。で、何の役?」

 そう聞くと、陽菜は登場人物リストの一番上……から何番目かのキャラを指さす。

「主役じゃないんだ」

「うん。キャラクター資料読んだら、私の声が似合ってるって、そんな気がして」

 それに、主人公のクラスメートだし、物語の中でも重要人物だから。そう、付け足してくれた。でも、気になるのはそこじゃない。

「どうして、主役狙わなかったの?」

 陽菜なら、充分狙えたはず。だからこそ、そう陽菜に聞いてみる。陽菜は少し悩んだ後、自分に説明してくれた。

「実はね、オーディションの募集をしていた役が、この子ともう一人、この子しかいなかったの」

 そう言って、陽菜はさっき指さした一つ下の名前を指さす。

 つい、腑抜けた返事が出てしまった。あのマネージャーは、それぞれの適正は考えてくれるけれど、その中での妥協は許さない人だ。

「なんで?」

 理由を知っておきたいから。チームメイトとして。そして……彼は自分のマネージャーでもあるから。

「えーっと……」陽菜が少し考え込む。しばらく待つと、陽菜が口を開いてくれる。

「このアニメ、制作会社の事務所さんの新人さんが主役なんだ」

「えっと……どういうこと?」

 思わず、聞き返してしまう。そういうことは聞いたことあるけれど、自分はそんな提案を受けてこなかったから。

「これは真咲さんが言ってたんだけど、新人を売り出すために、関わりの強いアニメ会社がやるアニメに声を当てることもあるんだって」

 ふーん……そんな返事をして、陽菜の読んでいる資料から一枚、手に取る。確かに、見慣れない名前が並んでいる。その人たちの事務所は、陽菜の言った通り大手アニメ製作社と関わりのある事務所だ。

 キャラクター名簿の一番上。『ミクさん』と書かれた、おそらく主人公の名前に目をつける。多分、これがさっき陽菜が言ってた新人さん。

「この『ミクさん』って人が、陽菜の言ってる新人さん?」

「うん。声優のお仕事は初めてなんだけど、歌はすごく上手なんだって」

「へぇ~……」

 そのほかにも、見知らぬ名前をいくつか見かける。この人たちも『ミクさん』と同じような経緯なのか、あるいは違うのかはわからないけれど。こんな中に入っていくのは、自分ならすごくハードルが高い、と思う。

「陽菜ってさ、あの頃からだいぶ変わったよね」

 見ていた資料を陽菜に返してから、そう話しかける。陽菜からは、きょとんとした顔が返ってきただけだった。

「最初のレッスンのこと、覚えてる?」

「うん。わたしが桐香先生に怒られた日のことだよね」

「そこなんだ……。その時の陽菜、すごいおどおどしてたよね」

「舞花ちゃん……」

 陽菜が落ち込む。違う。自分はこんな話をしたいんじゃなくて。

「ごめんごめん。でもさ、今の陽菜からは、そんな姿想像できないなって」

「ううん。そんなことない。今でも固まっちゃうことだってあるし、収録現場では緊張だってするし……」

 そういって、陽菜は自分を卑下していく。でも、自分はそんな陽菜が見たいわけじゃないから。

「そんなことが聞きたいんじゃないよ。今の陽菜は……なんていうかさ。自信があるっていうか、本気で好きに見えるんだ。声優って仕事が」

 陽菜を励ますために、精いっぱい言葉を紡ぐ。話し終えたら、陽菜は顔を赤くして、俯いていた。照れてるのかな。

「そ、そっか。舞花ちゃんにはそう見えてたんだ」

「もしかして……照れてる?」

「もう! 舞花ちゃんのバカ!」

「ごめんって。その収録成功したらご褒美あげるからさ」

「……ほんと?」

「うん。だからさ、頑張ってよ。自分も頑張るから」

 もともと取り付けるつもりの約束だったから、これでいい。今の陽菜の夢を支えて、応援したい。いずれ離れてしまうかもしれないけど、今は同じチームで、チームのリーダーだから。それに、今まで陽菜が自分たちにしてくれたことと、同じことだから。

 一度、自室へ向かおう。今の自分にも、やれることがあるかもしれない。陽菜からの返事は背中で受け止めて、自室に繋がる階段を上った。

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 ── 憧れだけで物を言っているなら今すぐやめろ!

 

 あの時、エチュードで志穂が言ったセリフ。今になって、頭の中で反芻する。答えなんて決まってるはずなのに、答えられない未来の話。

 志穂は、声優に人生を救われたから。ほのかは、ヒーローになるために。そして陽菜は、大空に飛び立ちたい。それぞれの、理由と夢。他のみんなも、それぞれにそれをもって、みんなで協力して、ここまで大きくなった。

 もちろん、自分にだってそれはある。ナンバーワン声優になって、弟たちの期待に答えてあげる。弟たちの憧れになる。それが、今の自分の夢であり、ここにいる理由。

 でも、その先がわからない。きっと、巣立っていく人もいる。もしかしたら、この道をやめてしまう人だっているかもしれない。ナンバーワンになるならきっと、避けては通れない道。

 もちろん、決意は揺らがない。だからこそ、最短で突っ切りたい。そうしたら、その人たちの夢にも、なれるって信じてたから。

 

 でも、そうじゃない。陽菜はコツコツ積み上げてきて、名前も知らない小さなファンを見つけた。ちゃんと周りを見てるから、エールブルー全体のリーダーに誰も文句を言わなかった。ひたむきに努力するから、新作アニメのオーディションに合格した。

 陽菜と自分との違いはきっと、「小さなことでも挑戦するかどうか」なんだと思う。自分は今の実力を過信して、大きなものばかりを掴もうとしてた。その結果が、今の自分なのかもしれない。

 陽菜は亀で、自分は兎。怠けた兎は、最後に亀に抜かれて負ける。兎が勝つためには、最後まで出し惜しみしないこと。

 

 携帯電話を手に取る。コール音が、やけに長く感じる。そのあとに聞こえてきた声は、自分たちのマネージャー。

『舞花、どうしたの?』

「マネージャー、自分──」

 




お読みいただきありがとうございました。楽しめましたでしょうか?
自信をもってとは言いましたけれど、改めて読むと浅いですね。反省点です

さてさて、話は変わりますが、Twitterにて創作垢なるものを開設いたしました。進捗などはそちらに呟いていこうと思いますので、よろしくお願いいたします。

ではでは、また次の作品で。シリーズものも書いていきたいですね

それでは! チャオ~
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