Anthology "Flower"   作:蒼星緋咲

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通り雨の帰り道

「あちゃー……」

 下校時刻、唐突に降り出した雨。確かに天気予報でも降るとは言っていたけれど、降雨量を甘く見ていた。にわか雨にしては、多すぎる量。

「陽菜の言う通りにしておけばよかった」

 やみそうもない雨を見て、そう呟く。走って駅まで行こうにも、雨が強くて、びしょ濡れにならない方法が見つからないくらい。陽菜や千紗さんに怒られる、そう遠くない未来を想像して、力なく笑った後、ため息をつく。

 携帯電話のカレンダーから、今日の予定を確認する。放課後はオフだから、帰ってゲームしようってみんなと約束したんだっけ。

「濡れるのは嫌だけど、このまま待ってても何もないしなぁ……」

 もう一度、ため息をつく。仕方なく携帯電話を取り出して、天気予報を調べる。今朝の予報と変わらず、少し待てば止むらしい。

 その間の時間を埋めるために、何をしようか。教室に戻るか、それとも図書室とかに行ってみるか。

 図書室に行ってもやることなんてなさそうだから、教室に戻ろう。言い訳は「忘れ物した」でいいかな。今ならまだ、クラスメートもいると思うし。話したりゲームしたりで、止むまでの暇は埋められそう。そう考えて、下校する人の流れに逆らう。

「いて」

 誰かにぶつかった。思ったよりもその子の力が強くて、その場に倒されてしまう。

「大丈夫?」

 そう差し伸べられた手は、ちょっと大きくて。戸惑いながらも、その手を取る。

「立てますか? お嬢様」

 ちょっとふざけた口調で、そうエスコートされた。手を引かれるがままに、自分はついていく。

 

 ほどなくして、自分たちは立ち止まる。手が離れてから、彼女に大きくため息をついて、話しかける。

「ほのか、どういうつもり?」

 階段の踊り場。雨音が響く中、自分たちは向き合う。息は切れていないけれど、内心すごく焦っているし、驚いている。

「傘、持ってきてないでしょ」

 自分のカバンを指さして、そう言ってきた。

「どうして?」と聞くと、下駄箱でため息をついていたから、らしい。ほのかの観察眼に、思わず苦笑いしてしまう。

「今朝、陽菜が言ってたのに。『夕方に雨が降るかも』って」

 聞いてなかったと告げると、呆れられたような顔をされる。まあ、ちょっと考えれば当然だけど。

「で、どうやって帰るの?」

 窓に勢いよく当たる雨音を背景音に、自分に問いかけてくる。

「……頑張って?」

「なにそれ」

 ほのかに、鼻で笑われた。それに対して、自分も苦笑い。頑張ってって、自分でもどうするのかわからない。

 あからさまに考えているポーズをしてみる。何か思いつくかと思ったけど、いくら考えても全力で駅まで走るくらいしか答えは出てこない。

「ほのかー、どうしよう」

 もうお手上げで、ほのかに泣きつく。後輩に泣きつく先輩っていうのが想像できなかったけど、現に自分がそうなってる。それも、収録とかじゃなくて現実に。

 誰もいなくてよかったって、ふと思った。前みたいに噂になると、きっとひきつった笑いしかできない。

 何してるの、と小さなため息が聞こえる。

「帰るよ」

 そういってすぐに、自分は手を引かれる。なんだかデジャヴを感じながらも、ほのかについていく。

 

 下駄箱のところまで戻ってきて、ほのかはおもむろに傘を取り出す。差したと思うと、そのまま立ち止まった。自分も靴を履いて扉の前まで向かうけど、傘がないからそこで立ち止まる。さっきそんな話をしたはずなのになとほのかを見ると、手招きしていた。

「狭くない?」

「ないよりかはマシでしょ」

「そりゃそうだけど……」

「これわたしのだから、嫌なら舞花が走って駅まで行ってもいいんだよ?」

「うっ……」

 そうなってしまっては元も子もないから、黙ってほのかに近寄ることにする。

 2人で雨の中帰ることは多々あったけれど、こうやって帰るのはなんだかんだ初めてで、ちょっとだけ緊張する。それに、誰かに言われたらすごく恥ずかしい気がする。

 

 そんな緊張を和らげるために、ちょっとだけ耳を澄ませる。傘に当たる雨音や地面に当たる雨粒、雨の中に響くローファーの足音。すぐそばにほのかがいるからか、ちょっとだけ違って聞こえる気がする。

 こういうのにあまり詳しいわけじゃないけど、なんとなく雰囲気が違うのは分かる。ほのかを横目に見ると、多分同じことを考えてる。そんな顔をしてる。

 肩が雨で濡れてきたけど、なんとなくその感触は気持ち悪い……わけじゃない。だからって心地がいいかといわれるとそうでもないけど。でも、いつもは嫌いな雨の日がほんのちょっとだけ好きになれるような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「おーい!」

 駅で陽菜が呼びかけてくる。普段はふさがっているはずの左手を陽菜に振って応える。陽菜に怒られる心の準備をしながら、2人で陽菜たちの元へ向かう。

「チサが『舞花が傘忘れたみたいだから』って。ホノカと相合傘?するのは意外だったけど」

 肩や腕にかかった雨水をはらおうとしたら、柚葉からそう言われ、タオルを渡された。陽菜は陽菜でにこにこしてるし。

「ふふっ。よかったね、舞花ちゃん」

 そりゃ、雨の中全力ダッシュは免れたけど……。どういうことなの!!

 




こちらはpixiv企画『CUE! Actors Story!』の企画作品にもなっております
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