蒼星と申します!!
3話連続の夜空シリーズ、今回がラスト3作目です
是非お読みください!!
すっかり日も落ちて、ここから聞こえるのは子どもたちのはしゃぎ声と、その子どもたちを呼ぶ母親の声。そして、かき消されそうなヒグラシの鳴き声に、ちょっと遠くから電車の音。
ここから見える人たちの中には、秋を感じさせる服装をする人もちらほらと見受けられる。かく言うわたしもその一人で、陽菜に合わせてもらったこの服は、夜なのに心地よい暖かさをくれる。
数日前に、わたしが陽菜に「お月見しよう」って言って。それから結局用意できたのは、買ってきたお団子だけ。二人ともそう余裕があったわけじゃないし、志穂と舞花は、近いうちに参加するイベントに向けて準備したいってことで、誘えなかったし。
「そろそろ、かな」
約束してた時間まで、あとちょっと。月はまだ、東よりの空に小さく輝いている。わたしたちのお月見は、そんな時間に、この公園のベンチで。
秋を伝えるように吹く、やさしい夜の風。でも、その風が運んできたものは、秋だけじゃないみたい。
「おまたせ、ほのかちゃん」
「ううん、わたしも来たのついさっきだから」
なんて、嘘をついて。このやりとりは、なんだかデートみたい、って、陽菜ははにかんで。そう聞くと、なんだか恥ずかしくなったから。わたしもはにかんで、そうだねって答える。
風が、今度はわたしたちの間を通り抜けていく。座ろうなんて言いださなくても、一緒に座って。それがなんだか不思議で、二人で笑いあう。
「はい、これ。みんな忙しかったから、買ってきたものだけど」
そう断ってから、袋からお団子を取り出して、ふたを開ける。何もかかってなくて、真っ白な、お月見団子。串に刺さったそれが、いくつか入ったものが一つのケースに収まっている。
「ううん、それでも嬉しいよ。ありがと、ほのかちゃん」
貰っていい? と聞かれたから、いいよ、と答える。串を一つ取って、食べる様子を見ていると、おいしそうに食べてくれて。気休め程度の雰囲気作りにしかならなかったのに、それでも喜んでくれたことは、素直に嬉しい。
「ほら、ほのかちゃんも」
そうして差し出された手には、もう一本のお団子。わたしは小さく頷いて、それを受け取る。
「……うん、おいしい」
行きつけの団子屋さんで買ったはずなのに。食べると、なんだか不思議な感じがした。
ううん、味自体は、変わってない。いつもと違うのは、誰かと食べているということと、今日が十五夜という特別な夜だということ。
「でしょ? ねえ、ほのかちゃん。これ、どこで買ってきたの?」
「アトロールの1階にある、団子屋さんなんだけど……今度、一緒に行く?」
そう誘ってみると、目を輝かせて頷いてくれる。これだけでも誘った甲斐があったな、なんて。そう思ったら、なんだかわたしまで楽しくなってきて。
月を見て、お団子を食べる。毎年してきたことではあるんだけど、友達とやることはなかったかもしれない。いつも、十五夜に家族とだったり、一人でだったり。
でも、今日は……今年の十五夜は、違った。今は、隣に陽菜っていう友達がいるし、ここにはいないけど、志穂や舞花っていう仲間だっている。そして、エールブルーっていう、新しい居場所も。
「……ほのかちゃん?」
眠たいとか、そういうことじゃないけど。そっと、頭を預けてみる。陽菜はわたしより背は低いから、体も預ける感じにはなったけど。
そこそこ時間がたったのか、子どもたちの声も、聞こえない。目を閉じて、耳をすませば、家の中から子どもたちがはしゃぐ声は聞こえるけど。近くから聞こえるのは、ヒグラシの鳴き声と、電車の音。仕事帰りの人の声は、もう少し後みたい。
「ねえ、陽菜」
こうやって二人でいるの、なんだか久しぶりじゃない? そう、尋ねてみる。今までもなかったって訳ではないけど、ゆっくり話せたってわけではないから。まあ、大体はわたしのせいなんだけど。
「だってほのかちゃん、いつも走って帰ってるじゃん」
ほら、拗ねた声で、そう答えてくる。得意げに言うことじゃないんだけど、陽菜のことが分かってきたって考えると、ちょっといいと思わない? なんて。
それでも、決まってしまったルーティーンはなかなか変わらないもの。これからも寮と事務所の間は走って移動するだろうし、仕事そのものも今以上に忙しくなるだろうし。だから、今まで以上に、こんな時間なんて取れなさそう。
さっきの答えに、返す言葉は見つからない。ちょっとだけ沈黙が流れてから、「別にいいけど」なんて、いまだに拗ねた声で言われる。それはもう、苦笑いしかできないかな。
「なんで笑ってるんですかー」
「ごめんって」
「ほんとにそう思ってる?」
「思ってるから」
そこまで言うと、少し陽菜の肩が動いて。陽菜の方を向くと、晴れた表情で空を見ていた。わたしも、いつまでもこうしてるわけにもいかないって思って、姿勢を直す。
「あっ……」
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
それだけ言うと、陽菜は空に向かって手を伸ばす。まるで、何かを包むみたいに、その腕を動かす。
月には、いろいろな動物がいるって言うから。そういうものを、掴もうとしてるのかな、とか。陽菜は、こういうところすごくロマンチストだから。
陽菜にならって、空を見上げる。都会の空は明るくて、星はほとんど見えないけど。そのなかでも、月は大きく輝いている。たしかに、手を伸ばせば光くらいはつかめそうなくらい、その輝きは優しい。
「ほのかちゃん。『月が、きれいですね』」
こっちを向いて、はにかみながら。陽菜が、そう言ってくる。わたし達はタマゴとは言え声優だから、声に感情を乗せるのも、その感情を読み取るのも、そう難しくない。
「うん。きっと、『あなたと見る月だから』」
だから、わたしも笑って、そう返す。陽菜はえへへと笑うから、わたしもつられて。
「なんだか、恥ずかしいね」
「そうだね。こんなセリフ、滅多に言わないもん」
うん……。そう頷くと、また手を伸ばして。今度は月を掴もうとする陽菜を、そっと見守って。
ふと、小さいころに読んだ、お父さんが子どもに月をプレゼントする話を思い出した。それでは、確か月は欠けていって、消えてしまう。
きっと、本当に月を手に入れても、それが幸せなのか、正しいのかなんて、わからないけど。その時ほしいものを手に入れたその子は、きっと幸せだった。
わたし達も、同じような気がした。必死につかんだ、声優という仕事や、その中での役。それは、掴んだ手から零れ落ちることも、欠けて無くなることもあるし、そもそも掴めないことだってたくさんある。
「……でも、きっと、届かないからきれい、なのかなって思う」
それでも、掴んだ瞬間は、嬉しくて、幸せだから。手を伸ばして、無理矢理背伸びして。そうやって、掴んだものだから。
「ほのかちゃん?」
頬を伝う、生暖かい感触。一足遅れて、わたしは泣いてるんだと気付く。泣く要素なんて、どこにもなかったはずなのに。
ベンチの上から、一人分の重さがなくなる。その直後、手に温かい感覚が。
「陽菜……」
「ほのかちゃん、すぐに無理しちゃうから。辛いことがあったら、相談してよ」
わたしじゃ、力不足かもしれないかも、って、陽菜は言うけど。その言葉は、すごく温かった。
「うん、ありがとう……」
そう告げたとたんに、堰を切ったように涙があふれだして。陽菜が抱きしめてくれたから、その胸を借りて。
多分、今日のお月見は、ずっと忘れないと思う。
コピペしたら3000超えてなかった……
如何でしたか? よければ感想の方向の頂ければ嬉しいです!
裏話できるほどそれがないので、ここで〆ます
ではでは、また次の作品で!!