Anthology "Flower"   作:蒼星緋咲

5 / 5
更新忘れててごめんなさい!!!
蒼星と申します!!

3話連続の夜空シリーズ、今回がラスト3作目です

是非お読みください!!


月明かりの夜に

 すっかり日も落ちて、ここから聞こえるのは子どもたちのはしゃぎ声と、その子どもたちを呼ぶ母親の声。そして、かき消されそうなヒグラシの鳴き声に、ちょっと遠くから電車の音。

 ここから見える人たちの中には、秋を感じさせる服装をする人もちらほらと見受けられる。かく言うわたしもその一人で、陽菜に合わせてもらったこの服は、夜なのに心地よい暖かさをくれる。

 

 数日前に、わたしが陽菜に「お月見しよう」って言って。それから結局用意できたのは、買ってきたお団子だけ。二人ともそう余裕があったわけじゃないし、志穂と舞花は、近いうちに参加するイベントに向けて準備したいってことで、誘えなかったし。

「そろそろ、かな」

 約束してた時間まで、あとちょっと。月はまだ、東よりの空に小さく輝いている。わたしたちのお月見は、そんな時間に、この公園のベンチで。

 

 秋を伝えるように吹く、やさしい夜の風。でも、その風が運んできたものは、秋だけじゃないみたい。

「おまたせ、ほのかちゃん」

「ううん、わたしも来たのついさっきだから」

 なんて、嘘をついて。このやりとりは、なんだかデートみたい、って、陽菜ははにかんで。そう聞くと、なんだか恥ずかしくなったから。わたしもはにかんで、そうだねって答える。

 風が、今度はわたしたちの間を通り抜けていく。座ろうなんて言いださなくても、一緒に座って。それがなんだか不思議で、二人で笑いあう。

 

「はい、これ。みんな忙しかったから、買ってきたものだけど」

 そう断ってから、袋からお団子を取り出して、ふたを開ける。何もかかってなくて、真っ白な、お月見団子。串に刺さったそれが、いくつか入ったものが一つのケースに収まっている。

「ううん、それでも嬉しいよ。ありがと、ほのかちゃん」

 貰っていい? と聞かれたから、いいよ、と答える。串を一つ取って、食べる様子を見ていると、おいしそうに食べてくれて。気休め程度の雰囲気作りにしかならなかったのに、それでも喜んでくれたことは、素直に嬉しい。

「ほら、ほのかちゃんも」

 そうして差し出された手には、もう一本のお団子。わたしは小さく頷いて、それを受け取る。

「……うん、おいしい」

 行きつけの団子屋さんで買ったはずなのに。食べると、なんだか不思議な感じがした。

 ううん、味自体は、変わってない。いつもと違うのは、誰かと食べているということと、今日が十五夜という特別な夜だということ。

「でしょ? ねえ、ほのかちゃん。これ、どこで買ってきたの?」

「アトロールの1階にある、団子屋さんなんだけど……今度、一緒に行く?」

 そう誘ってみると、目を輝かせて頷いてくれる。これだけでも誘った甲斐があったな、なんて。そう思ったら、なんだかわたしまで楽しくなってきて。

 

 月を見て、お団子を食べる。毎年してきたことではあるんだけど、友達とやることはなかったかもしれない。いつも、十五夜に家族とだったり、一人でだったり。

 でも、今日は……今年の十五夜は、違った。今は、隣に陽菜っていう友達がいるし、ここにはいないけど、志穂や舞花っていう仲間だっている。そして、エールブルーっていう、新しい居場所も。

「……ほのかちゃん?」

 眠たいとか、そういうことじゃないけど。そっと、頭を預けてみる。陽菜はわたしより背は低いから、体も預ける感じにはなったけど。

 そこそこ時間がたったのか、子どもたちの声も、聞こえない。目を閉じて、耳をすませば、家の中から子どもたちがはしゃぐ声は聞こえるけど。近くから聞こえるのは、ヒグラシの鳴き声と、電車の音。仕事帰りの人の声は、もう少し後みたい。

「ねえ、陽菜」

 こうやって二人でいるの、なんだか久しぶりじゃない? そう、尋ねてみる。今までもなかったって訳ではないけど、ゆっくり話せたってわけではないから。まあ、大体はわたしのせいなんだけど。

「だってほのかちゃん、いつも走って帰ってるじゃん」

 ほら、拗ねた声で、そう答えてくる。得意げに言うことじゃないんだけど、陽菜のことが分かってきたって考えると、ちょっといいと思わない? なんて。

 それでも、決まってしまったルーティーンはなかなか変わらないもの。これからも寮と事務所の間は走って移動するだろうし、仕事そのものも今以上に忙しくなるだろうし。だから、今まで以上に、こんな時間なんて取れなさそう。

 さっきの答えに、返す言葉は見つからない。ちょっとだけ沈黙が流れてから、「別にいいけど」なんて、いまだに拗ねた声で言われる。それはもう、苦笑いしかできないかな。

「なんで笑ってるんですかー」

「ごめんって」

「ほんとにそう思ってる?」

「思ってるから」

 そこまで言うと、少し陽菜の肩が動いて。陽菜の方を向くと、晴れた表情で空を見ていた。わたしも、いつまでもこうしてるわけにもいかないって思って、姿勢を直す。

「あっ……」

「どうしたの?」

「ううん、なんでもない」

 それだけ言うと、陽菜は空に向かって手を伸ばす。まるで、何かを包むみたいに、その腕を動かす。

 月には、いろいろな動物がいるって言うから。そういうものを、掴もうとしてるのかな、とか。陽菜は、こういうところすごくロマンチストだから。

 陽菜にならって、空を見上げる。都会の空は明るくて、星はほとんど見えないけど。そのなかでも、月は大きく輝いている。たしかに、手を伸ばせば光くらいはつかめそうなくらい、その輝きは優しい。

「ほのかちゃん。『月が、きれいですね』」

 こっちを向いて、はにかみながら。陽菜が、そう言ってくる。わたし達はタマゴとは言え声優だから、声に感情を乗せるのも、その感情を読み取るのも、そう難しくない。

「うん。きっと、『あなたと見る月だから』」

 だから、わたしも笑って、そう返す。陽菜はえへへと笑うから、わたしもつられて。

「なんだか、恥ずかしいね」

「そうだね。こんなセリフ、滅多に言わないもん」

 うん……。そう頷くと、また手を伸ばして。今度は月を掴もうとする陽菜を、そっと見守って。

 

 ふと、小さいころに読んだ、お父さんが子どもに月をプレゼントする話を思い出した。それでは、確か月は欠けていって、消えてしまう。

 きっと、本当に月を手に入れても、それが幸せなのか、正しいのかなんて、わからないけど。その時ほしいものを手に入れたその子は、きっと幸せだった。

 わたし達も、同じような気がした。必死につかんだ、声優という仕事や、その中での役。それは、掴んだ手から零れ落ちることも、欠けて無くなることもあるし、そもそも掴めないことだってたくさんある。

「……でも、きっと、届かないからきれい、なのかなって思う」

 それでも、掴んだ瞬間は、嬉しくて、幸せだから。手を伸ばして、無理矢理背伸びして。そうやって、掴んだものだから。

「ほのかちゃん?」

 頬を伝う、生暖かい感触。一足遅れて、わたしは泣いてるんだと気付く。泣く要素なんて、どこにもなかったはずなのに。

 ベンチの上から、一人分の重さがなくなる。その直後、手に温かい感覚が。

「陽菜……」

「ほのかちゃん、すぐに無理しちゃうから。辛いことがあったら、相談してよ」

 わたしじゃ、力不足かもしれないかも、って、陽菜は言うけど。その言葉は、すごく温かった。

「うん、ありがとう……」

 そう告げたとたんに、堰を切ったように涙があふれだして。陽菜が抱きしめてくれたから、その胸を借りて。

 

 

 多分、今日のお月見は、ずっと忘れないと思う。

 




コピペしたら3000超えてなかった……

如何でしたか? よければ感想の方向の頂ければ嬉しいです!
裏話できるほどそれがないので、ここで〆ます

ではでは、また次の作品で!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。