誰が為に鼓動は鳴る   作:断花葵

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少年は奮起する、後悔しない為に


4話 過去の記憶、後悔

「さて、始めますか。」

 

 ウォーミングアップを済ませながらそんなことを呟いた。

 結局昨日はなのはの家に泊まったのだがよく考えれば悪いことではなかった。

 桃子さんのご飯は美味しいしなにより、

 

 「準備はいいか映司。」

 「はい、恭也さん。」

 

 恭也さんとの朝練ができる。

 いくら魔法が使えるからといって体が追い付かなくては意味がない。

 その点、対人戦は好都合だ。

 

 「いつでもかかってきていいからな。」

 「分かりました。」

 

 恭也さんを目の前に対峙する。

 先程の様子とは打って変わって日本刀の様な鋭い空気に変わった。

 

 「では、参ります。」

 「ああ。」

 

 道場に緊迫した空気が走る。

 恭也さんは何時でも来いと言った、ならこちらから行くのが道理だろう。

 

 「……ハァ!」

 

 目の前の相手に迫ると左の拳を突き出す。

 しかし、どれも捌かれてしまう。

 

 いったん距離を置くと恭也さんが挑発してきた。

 ……野郎。

 

 挑発に乗るような形になってしまったが一気に距離を詰め右の大振り、かと見せかけてローキックを浴びせた。

 だが、それを軽々と避ける相手。

 ならばとそれに追撃するように懐に潜り込んで拳を突き出した。

 

 「いい判断だ。だが甘い。」

 「は?」

 

 強烈なボディブローが決まったと思った瞬間、物凄い速さで恭也さんが消えそのまま空振りに終わった。

 

 「終わりだ。」

 

 振り向くと木刀の切っ先が瞳に映る。

 

 「ああーーー!何で勝てない!」

 

 倒れるように道場の床に仰向けになる。

 いい線いってると思ったのになあ……

 

 「当たり前だ、まだまだ負ける訳にはいかない。」

 「そんなこと言って恭ちゃんちゃっかり()()使ってたもんね。」

 「……何の事だ?」

 

 まじか……そりゃ勝てる訳ないわ。

 ちなみに美由希さんが言った『神速』とは恭也さん達が使う御神流の奥義の一つらしい。

 なんでちゃっかり使ってんだよ!

 

 「まあ……前よりは強くなったんじゃないか。」

 「うんうん!」

 「こんなぼこぼこにされてもねえ……」

 

 ジト目で言い返す。

 そういうが強くなった実感が湧かない。

 勿論、あの時よりは強くなったと思うが……

 

 「それでも美由希には勝ったんだろ?」

 「あれは……まあ。」

 

 美由希さんに勝った時はほぼまぐれに近いというか、フェイントをかけたときに足が滑って狙った方向とは逆に当たっただけだからな。

 一発でも与えられたら勝ちと言われたがあれを勝利と認める訳にはいかない。

 

 「それにちゃんと与えたメニューをしてるようだからな。これならもっと増やしてもいいな。」

 「うええ。」

 

 朝から最悪だ。

 

 ♦♦♦

 

 「じゃあ俺は一回家に戻ります。」

 「うん、また学校でね。」

 「いつでも遊びに来るんだよ。」

 

 高町一家に別れを告げて自分の家に帰る。

 あの家で過ごすと久しぶりに家族というものを感じた気がする。

 

 「ただいま。」

 

 誰もいない家に入る。

 すぐさま自室に戻り制服を脱ぐと軽く消臭剤をかける。

 そのまま着替えると一階のリビングに行き、

 

 「帰ったぞ親父、母さん。」

 

 ()()()()()()()()()()に向って呟く。

 そう、俺には既に父がいない。

 母さんは元々体が悪く、俺を出産する時の無理が祟ってそのまま。

 親父は……

 

 「……っと、もうこんな時間か。」

 

 時計を見ると学校の時間に迫っていた。

 そういえばあの指輪って誰のなんだ?

 仏壇を見ると母さんの写真に似たような指輪が写っていた。

 元々は母さんの私物でそれを親父が持っていたのだろう。

 

 「じゃあ今度は俺が持ってていいよな。」

 

 そう言ってから学校へ向かおうと玄関に向かう。

 その瞬間、気のせいかもしれないが写真に写る二人が微笑んでいた様な気がした。

 

 ♦♦♦

 

 【side 士郎】

 「……心配ねえ。」

 「映司君の事かい?」

 

 なのはの友達である彼。

 しかし、それ以前に自分の友人の子どもだ。

 

 「やっぱり家で引き取ったほうが良かったのかも……」

 「それは駄目だよ。」

 

 心配する妻に向かって答える。

 

 「でも……」

 「彼が決めたことなんだ、僕達は見守るしかできないよ。」

 

 そう、これは彼が決めたんだ。

 

 ♦♦♦

 

 彼と出会ったのは病室だった。

 当時僕はボディーガードをしていた。

 だけど事故にあって生死をさまようほどの大怪我をしていた。

 そんな中、同僚でもある五代祐樹が見舞いに来ているとあいつの後ろに彼がいた。

 

 「おいおい、大丈夫か?御神流も大したことないな。」

 

 当然話すこともできないから頷くことしか出来なかった。

 あいつ分かってて言ってるな……

 

 「無理すんなって。ここにフルーツ置いとくぞ」

 

 いや持ってくるのはいいが食べれないんだが。

 お見舞いの品を棚に置くと急に気づいたように、

 

 「そう言えば紹介してなかったな、俺の息子の映司だ。ほれ挨拶しろよ。」

 「こんにちは、映司といいます。」

 

 彼の印象は佇まいといい同じ大人を相手にしていると感じてしまうほどに大人びていた。

 俺の視線が気になったのか祐樹の後ろに隠れてしまった。

 そんな彼に対してあいつは笑いながら、

 

 「とにかく息子共々よろしくな。じゃそろそろ帰るわ、……あの仕事なんて辞めて全うに生きるんだな。」

 「ちょっと親父!……さようなら。」

 

 彼らの後ろ姿が見えた。

 それが最後とも知れずに。

 

 

 次に会ったのは僕が寝たきりから回復した時の事だった。

 病院でリハビリをしていると行き成り僕宛に電話が来た。

 

 「もしもし、高町ですけど。」

 「あ……士郎さんですか、お久しぶりです五代映司です。」

 

 声の主は祐樹の息子である映司君だった。

 久しぶりに聞いた声はどことなく震えたような気がしていた。

 

 「どうしたんだい映司君?何か用事かい?」

 「えっと……」

 

 歯切れの悪い声が聞こえる。

 ……どうしたんだろうか。

 

 「あの……聞いてください。……親父が死にました。」

 「っ、なんだって?」

 

 祐樹が死んだ?あの傍若無人なあいつが?

 急な発言に呆然としているとそれに関せずといった様子で映司君の淡々とした声が電話越しに聞こえる。

 

 「……ですのでこの日の葬式に参加できますか?」

 「ああ……」

 

 動揺を隠せずその日を迎えることになった。

 

 

 その日は雨だった。

 同じ組織の人達もちらほらといたが行われたのは小さな葬式だった。

 僕も家族を連れながら行くと傘を差さずにあいつの遺影を持った映司君が立っていた。

 一通り済ませると彼の元へ行った。

 

 「映司君……」

 「……あ、士郎さんですか。今日はありがとうございます。」

 

 無の表情が伺える。

 それはまるで人形のように魂が抜けた顔だった。

 

 「……これからどうするんだい?」

 

 親を失った子どもに対しては遠慮のない質問だった。

 だが、あいつには親類はいないはずだ。

 彼には居場所がない。

 そんな事を考えていると映司君は他人事のように、

 

 「……多分どこかの施設送りがいいとこじゃないですか。」

 

 なんてことないように呟いた。

 この子は本当になのはと同い年なのだろうか。

 初めて子どもに恐怖した。

 

 「君が良ければ……うちに来るかい?なのはも喜ぶよ。」

 「それは駄目です。」

 

 僕の提案をすぐさま断る。

 

 「それだけは駄目なんです……それだけは……」

 「……っ。」

 

 その言葉を皮切りに映司君から何か溢れだした様に答えた。

 恐らくだが何かに触れてしまったようだ。

 この場で聞いても映司君は答えてはくれないだろう。

 僕は意思を決めた。

 

 「分かった。何かあればいつでも頼るんだよ。」

 「……ありがとうございます。」

 

 この後映司君は施設には行かず元の家で一人暮らしを始めた。

 そしてうちに来ると土下座をしながら、

 

 「お願いします!俺を鍛えて下さい!」

 

 こんなことまで言い出した。

 一体何が彼をここまで突き動かすのだろうか。

 俺には分からない。

 

 「……頑張るんだ映司君。」

 

 情けないがその言葉しか出てこなかった。




悲惨な過去、少年は父を男は友を想起する。
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