宇宙世紀0080、1月中旬。
「見ろよ、でっけぇ! 超でっけぇなぁ、あれがMSってヤツなのか! 初めて生で見たぜっ!」
「じゃあ、あれが……あの、ガンダム!?」
「バッカ、全然シルエットが違うだろうがよ。あれはジムってんだ! ガンダムはあっち!」
月面都市グラナダで終戦協定が結ばれて間もない、この当時――地球のパリでは、終戦を祝うパレードが連日のように催されていた。
陸戦型ガンダムや陸戦型ジム、量産型ガンキャノン等々。地球連邦軍の誇るMS達がエトワール凱旋門を潜り、シャンゼリゼ通りを闊歩する。
その歩みが生む振動に、大通りを彩るマロニエの木々が、艶やかな葉を揺らしていた。
18mを優に超える、鋼鉄の巨人達。彼らを仰ぐ花の都の人々は、初めて間近で観るMSの巨大さに圧倒されながらも、拍手と喝采で出迎えていた。建物のバルコニーや屋上から伸びる連邦軍の軍旗が、風に煽られはためいている。
人類の半数以上を死に至らしめた、史上最悪の戦争。その悲劇がようやく終焉を迎え、人々は待ち侘びていた平和の到来に沸き立っていた。
「……ケッ、なーにが勝利だよ。あいつらが勝ったって、結局俺達の暮らしは何一つ改善されてねぇじゃねぇか」
「バ、バカ! 滅多なこと言うんじゃねぇよ、あのバカでかい奴に踏み潰されちまうぞっ!」
「んなこと言ったってよぉ……!」
――だが、そんな「物語」が終わっても。この世界に生きている彼らの「日常」は、絶えず繰り返されており。
「戦後」というその道は、決して平坦なものではなかったのだ。
地球連邦軍の勝利によって世界が平和になっても、それで誰もが分け隔てなく救われたわけではないのである。むしろ市井にとっては、これからが本当の戦いであった。
ジオン公国軍との戦争、という時代だったからこそ耐えられた苦しみは、その戦争が終わってからも続いている。コロニー落としによる異常気象、農業の不振、治安の悪化、連邦軍駐屯兵の横暴。
戦時を理由に見過ごされていたその全てが、人々の不満に繋がり。「敵」が失われたからこその不穏な気配が、すでに漂い始めていたのだ。
今こうして、パリの人々を賑わせているパレードも。実態としては、そういった不満を躱すためという目的も兼ねている。
そんな意図が透けて見えるのか、このパレードすらも冷ややかに見つめている市民も、決して少なくはなかった。
「いやぁぁっ!」
「や、やめろっ! その娘に触るなっ!」
「るっせぇっ! この女、スペースノイドだろっ! ジオンのスパイに決まってらぁ、俺達が口を割らせてやるっ!」
「てめぇのジオン訛りはなぁ、耳障りなんだよっ!」
それほどまでに荒んでいる、戦後だからか。戦争を起こしたジオン公国とスペースノイドを結びつける者達が、短絡的な暴行に走るケースも後を絶たなかったのである。
パレードで賑わうシャンゼリゼ通りから遠く離れた、とある路地裏。エッフェル塔に見下ろされたその場所では、今日も無辜のスペースノイドが傷付けられようとしていた。
人気のない路地裏で、何人もの男達がスペースノイドの女性を襲い、組み伏せる。このような悲劇すらも、今のパリでは
「きゃあっ!? ふ、服、破かないでぇっ!」
「や、やめろ! 確かに彼女はサイド3の出身だが、戦争が始まる前からこの街で暮らしていたんだぞ! 関係なんてあるわけないんだ、離してくれ――ぐはっ!?」
「こんなイイ女連れておいて、離せはねーだろダボが! 飽きたら返してやるから、鼻血垂らしてくたばってな!」
「オラ、こっち来やがれ! 壊れるまで遊んでやるぜっ!」
「い、いやぁあ! 誰かぁあ!」
もちろん最後には、警察や連邦兵によって然るべき処罰が下されるだろう。だがそれは、連邦やスペースノイドに対する不満を募らせた彼らに、女性が辱められた
彼女が傷付けられることはもはや、避けられない。彼女の恋人も、彼女自身も、その現実が理解できないわけではなかった。
「……ねぇ」
「あん? なんだお前――ぶげがッ!?」
だからこそ。
恋人達を「力」で引き裂き、己の欲望の為に無辜の女性を――その「貞操」を踏み躙ろうとする、暴漢達が。
「な、なんだてめぇらッ!」
「……!?」
居合わせた
それは、一瞬の出来事。
スパイと決め付けたスペースノイドの女性と、この場で
「その汚い手を離しな。ジオンはジオン、スペースノイドはスペースノイド」
「一緒くたに、するんじゃないわ」
ミナト・ヒヤジョウと、レイチェル・マスタングの鉄拳が――その醜い顔面に炸裂したのである。
悪を叩きのめす、強烈な拳打。その反動でたわわに弾む巨乳が、暴漢達の注目を一気に集めた。
「こ、こいつの仲間か!?」
「やってくれたな……! 代わりにあんたらを可愛がってやるぜっ!」
パンチ1発で仲間達を沈められた暴漢達の間に、どよめきが広がる。相手が連邦軍のエースであるとは知らない彼らは、カジュアルな私服に袖を通した美女達の正体を、すぐに見抜くことが出来ずにいた。
「……!? お、おい! この女達――ブゴッ!?」
だが、連邦軍の広報を通じて知れ渡っているその美貌は、路地裏の薄暗さで隠し切れるようなものではない。汚物を見下ろすような眼で、こちらを睨む彼女達の正体に勘付いた1人が、声を上げようとする。
――しかし、その前に。後頭部に炸裂した鞄の一撃で、意識を刈り取られてしまうのだった。
「力強くで女の子を襲うなんて真似、よく平気で出来るわね……どうせ相手がアースノイドでも、あなた達には関係ないんでしょ?」
「んだとッ!? てめぇ、ひん剥いて啼かせてや――んがッ!?」
「喋らないで。……不愉快だから」
その鞄を振るった後、あられもない姿にされた女性に自分のコートを被せながら。暴漢達を侮蔑の眼差しで突き刺す、アリサ・ヴァンクリーフ。
そんな彼女に掴み掛かろうとする男は、アッシュ・ヴァンシュタインが振り下ろした鞄によって、瞬く間に昏倒してしまう。
「このぉッ――んげッ!?」
「仮に彼女がジオン出身の者だったとしても、すでに戦争は終わっているんだ。……無用な攻撃は、身を滅ぼすと知れ」
「今の君達のように、な」
「あ、あんた達は、まさか……!?」
さらに、怒りを露わに彼女達に襲い掛かろうとした者が――冷静な佇まいの美女達に、足を引っ掛けられ転倒していた。
そこで彼は、ようやく
ミナト・ヒヤジョウ。
レイチェル・マスタング。
アリサ・ヴァンクリーフ。
アッシュ・ヴァンシュタイン。
マルティナ・テキサス。
ローズマリー・アクランド。
いずれも、暴漢達が
かつて戦場と化したジャブローにおいて、多大な戦果を残した精鋭達を中心に結成された、「パリ防衛隊」。その中核を成す、実力と容姿を兼ね備えた美女達が、今目の前にいるのだと。今になって、悟ったのである。
「どど、どうなってんだよ一体! 何で、何で『パリ防衛隊』のエース達が、揃いも揃ってこんな……!」
「今日はオフだったから、隊の皆でショッピング……っていうところだったのだけれど。こんな場面に出会したとあっては、非番だとは言ってられないからな」
「あんた達の罪状、数え出したらキリが無さそうだねぇ。とりあえず、警備隊のところまで来てもらおうか?」
「ひ、ひぃぃっ! つ、捕まってたまるかぁあっ!」
だが、時すでに遅し。人数では勝っていたはずなのに、いつの間にかほとんどの暴漢が昏倒させられている。
連邦軍のエース、それもパリ市民から絶大な人気と支持を集めている防衛隊に楯突いたとあっては、どんな罪に問われるか分かったものではない。ようやくその危機に理解が追い付いた瞬間、残った男達は脱兎の如く逃げ出していた。
――しかし。その先頭を走っていた1人が、逃げた先に立っていた
「ぼぎゃへぇッ!?」
「でしたら、捕まる前に覚えておいてください。――戦争はもう、終わったのだと」
それすらも、彼女にはお見通しだったのだ。
入隊以前から、奇跡の美貌と市民に持て囃され。求婚してくる男性が後を絶たない、美女揃いのパリ防衛隊においても――新進気鋭のエースと目されている、ヴィヴィアンヌ・ル・ベーグには。
「それが分からないのなら、分かるまで牢にいてください。心底、迷惑なので」
やがて、この世のものとは思えない汚物を見るかのような、心の底からの「嫌な顔」を向けながら。仲間達を代表するように、ヴィヴィアンヌが呟いた瞬間――残った暴漢達の心は、今度こそ完全に叩き折られたのだった。
「す、すごい……」
「あれが、パリ防衛隊……!」
一方、そんな彼女達の仁王立ちを目の当たりにして。襲われていた恋人達は唖然とした様子で、暫し顔を見合わせている。
「……全く、血の気の多い娘達だ」
そして。部下達が見せる正義感の熱さに、苦笑を浮かべながらも。
遠くからその推移を見守っていた、パリ防衛隊司令官のパスカル・ネヴィルは。彼女達の働きを肯定するように、深く頷いていた――。
◇
それから、僅か数分後――通報を受け、連邦軍の警備隊が現場に到着したのだが。その時すでに沈黙していた暴漢達を目の当たりにして、彼らは呆然としていたのだという。
それは、ヴィヴィアンヌ達の戦いを目撃していた恋人達も同様であり。瞬く間に暴漢達を打ちのめしてしまった、美女達の勇姿は――彼らの眼にはっきりと焼き付いていた。
その後、彼らの目撃情報から事情を知った時の市長は、ヴィヴィアンヌ達に「市民を救った英雄」への感謝状を授与。このニュースはパリ中に報じられ、彼女達のメディアへの露出度も、大幅に上がったと言われている。
以前から男性達を惹きつけていた彼女達の美貌も、その話題にさらに火を付ける結果となり。連日、彼女達の特集が組まれるようになっていた。
男性達からの誘いには全く興味を示さず、縁談にも応じないガードの固さも、彼らを余計に焚き付けているらしい。
ローズマリーの父である連邦政府の官僚や、アリサの両親に当たる軍の高官らが、愛娘を前線から遠ざけるためとして。その広報活動に協力的だったことも、この露出を後押ししている。
そんな親馬鹿達の介入に辟易する本人達を他所に、彼女達の人気は日増しに高まっていくのだった。
――そして。
世界各地に散っていた、元ジャブロー所属部隊の面々も、そのニュースを知り。
リュータ・バーニングをはじめとする男性陣は、新聞を目にした途端。パリ防衛隊に配属された彼女達の「活躍」を描いた記事に、揃いも揃ってなんとも言えない表情を浮かべていたという――。
【挿絵表示】
なんで舞台がパリなのかと申しますと、作者が新サクラ大戦経由で今さらサクラ大戦3にハマったニワカ勢だからです(о´∀`о)
OPもEDも神曲でしたなー(*´꒳`*)
さてさて。次回の番外編は、オデッサ作戦を舞台とする本編の前日譚を描いていく予定なのですが。実はそこで、第2弾のキャラ募集企画を開催しようと思っておりまして。
前回より若干規模等を縮小した上で、今度はジオン兵のオリキャラを募集したいなーと考えております。詳しくは私の活動報告を参照! ですぞ(*´ω`*)