機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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 先週に引き続き、ちょびっとだけ番外編を書き足し。今回はチェンバロ作戦での出来事に触れた小話です(*´ω`*)



番外編 疾風の桜花 -シエラ・マクナイト-

 宇宙世紀0079、12月24日。地球連邦軍はジオン軍の宇宙要塞「ソロモン」への総攻撃を仕掛けていた。「チェンバロ作戦」と呼ばれる、戦争の終結に向けた一大攻略作戦である。

 

「ぐぅッ、うぅあッ……!」

『ケ、ケンジロー先輩っ! しっかり、しっかりしてくださいっ! お願い、死なないでっ!』

 

 その激戦の渦中。ケンジロー・カブトの乗機であるジム前期型は、リューコ・タカスギのジムコマンドを庇い、ジャイアントバズの直撃を受けていた。

 コクピット内を飛ぶ破片に身を斬られ、ケンジローは文字通り血だるまと化している。

 

 彼のジムはもはや原型を留めないほどにまで大破し、爆散していないのが奇跡的な状況だ。寄り添うように飛ぶリューコも、半ば半狂乱になりながら泣きじゃくっている。

 

『タカスギ、ケンジローは無事かッ!?』

『リュート中尉、ジャック大尉っ! 先輩が……ケンジロー先輩がっ! 私を、私を庇って……!』

『生きている人間が死人のような顔をするなッ! お前もケンジローも、まだ死んではいないッ!』

『だったら、俺達のやるべきことは一つだ! 分かるなッ!?』

『は……はいッ!』

 

 そこへ、ケンジロー機を撃ったリックドムを仕留めながら。ジャック・オコーネルのジム指揮官機仕様が合流し、リュート・カドクラのジムライトアーマーも駆け付けて来た。

 彼らは近付く敵機を迎撃しながらリューコを叱咤し、次の行動を促していく。そこでようやく我に帰った彼女は、1番近くにいる連邦の艦へケンジロー機を連れて行こうと動き出す……の、だが。

 

『と、遠過ぎる……! このままじゃっ……!』

 

 最も近い位置にいるサラミスでさえ、ジムコマンドの推力ではかなりの時間が掛かる距離だったのである。このままでは、そこへ辿り着く前にケンジローが失血死してしまう。

 

『あらあらぁ、諦めるには速すぎますわよ? リューコ少尉』

『……!? シ、シエラ中尉っ!』

 

 もはや、万事休すか。そんな最悪の想像が過ぎる瞬間――目にも留まらぬ速さで、バーニアの閃光がリューコ機の眼前を駆け抜けた。

 コアブースターを狩るシエラ・マクナイトの登場に、リューコが目を剥く中。その弾みでジムコマンドの手から離れたケンジロー機は、唯一機能している右腕だけで、シエラ機のユニットに掴まっていた。

 

『ここからは私が引き受けますわ。……少々Gがきついかも知れませんが、もう少しだけ我慢してくださいまし』

「……リューコ、世話を掛けちまったな。シエラ中尉……お願い、します」

『先輩っ……!』

 

 もはや、手段を選んではいられない。リスクを承知で取り付いたケンジローの気概を買い、シエラは最高速度でコアブースターを発進させていく。

 その流星はソロモンを駆ける閃光となり、戦場の只中を躊躇うことなく突き抜けていた。そんな部下の相変わらずな飛びっぷりに、ジャックはバズーカを連射しながら深々とため息をつく。

 

『……相変わらず、殺人的な加速力だ』

 

 助けるどころか、むしろ彼女の加速に伴うGがとどめになるのではないか。そんな懸念を抱えながらも、戦闘を続行するジャックは――ただ、祈る。

 彼女の疾さが、ケンジローを救ってくれるようにと。

 

 ◇

 

 ――その後。常人離れしたタフネスと回復力で、サラミスに辿り着いたケンジローは、見事に死の淵からの復活を果たしていた。

 シエラの加速力。ケンジローの生命力。どちらか一つでも欠けていれば、間違いなく彼は助からなかった。ケンジローの生還が確認された瞬間、リューコが泣き崩れてしまったことは言うまでもない。

 

 これ以後、彼女は改めてケンジローの支えになると誓い。戦力補充のため、「星一号作戦」にも怪我を押して参加することになった彼の前で、そう宣言していた。

 

「……武芸の名門たるタカスギ家の娘として、軍人として。今度こそ、先輩の剣となり戦い抜く所存です」

「そっか……分かった、頼りにしてるよ。ルーデルにもよろしくな」

「はいっ!」

 

 宇宙世紀0079、12月31日。宇宙要塞「ア・バオア・クー」の攻略に向かうサラミスの艦内にて、リューコは改めてその旨を伝えている。侍を想起させる、毅然とした佇まいで。

 そんな彼女の決意に微笑を浮かべるケンジローは、ノーマルスーツの下に巻かれた包帯を隠しながら。絹のような彼女の黒髪を指先で撫でた後、新たな愛機(ジム)が待つ持ち場へと向かっていく。

 

「……先輩も本っ当に、絶っ対に、無理はなさらないでくださいね? 本来なら、今も病室でお休みになられているはずなんですから」

「あ、あぁ……もちろん」

 

 その直前。訝しむように自分を見据える、リューコのジト目に気圧されながら。

 

「先輩……どうか、どうかご武運を……」

 

 そんな彼の背を愛おしげに、そして物憂げに見送るリューコも。暫し逡巡した後、乗機であるジムコマンドの方へと歩み出して行った。

 兜の緒を締めるかのような凛々しい手つきで、ストレートに下ろしていた黒髪をポニーテールに結びながら。

 

「傷は大丈夫か、ケンジロー」

「全然行けますよ。この状況で痛いだなんて、言ってられませんから」

「……そうか」

 

 一方、新たにジム改を受領したジャックも、彼女に続くようにケンジローに声を掛けている。強気な笑みを浮かべて力瘤を作って見せるケンジローだが、傷の深さを知るジャックの表情に緩みはない。

 

 ――福島にあるケンジローの実家は元々、決して裕福とは言えない農家だった。コロニー落としの余波による不作もあって、その経営はますます苦しいものとなっていたのである。

 次男故に家業を継ぐこともなかった、ケンジローに出来ることといえば。危険手当が厚い任務に積極的に志願して、少しでも多くの額を仕送りすることぐらいなのだ。

 

 傷を押してでも、前に進まざるを得ない。そんな彼の背景を知るジャックは、敢えて深くは追及せず。その気概を尊重して、肩を叩きながら踵を返していく。

 だが、その直後。不器用は男は去りゆく後輩の背に、激励の言葉を送っていた。

 

「お前は……例え周りに仲間がいなくても、たった独りで戦うことになっても、決して逃げ出したりはしないのだろう」

「……」

「だが、どんな時でも独りだとは思うな。お前には俺達がいる。それだけは覚えておけ」

「……えぇ、肝に銘じます」

 

 やがて互いに敬礼しながら、それぞれの愛機に乗り込んでいくケンジローとジャック。そんな2人を見届けながら、シエラとリュートも自分達の乗機に向かおうとしていた。

 

「それと、そろそろ身を固めることも考えておけ。リリアーヌ()が、痺れを切らす前にな」

「リリ先輩達……? 何の話です?」

「……朴念仁め」

 

 ある分野においては勘の鈍いケンジローに対して、ジャックと共にため息をつきながら。

 

「ふふっ……あんなに気を揉んでいらっしゃるジャック大尉も珍しいですわね。あなたはお声を掛けなくてもよろしいのですか? ケンジロー少尉を最も案じていらしたのは、あなたでしょう」

「……言うべきことは、大尉が言ったさ。今の俺に出来るのは、戦うことだけだ」

「全く……本当に、不器用な方ばかりですこと」

 

 口先では素っ気ない振りをしながら、何度もケンジローの様子を一瞥していたリュートは。その胸に、今は亡き家族を写した1枚の写真を忍ばせている。

 コロニー落としの犠牲となった弟に、瓜二つなケンジローという存在は。復讐のためだけに戦ってきたリュートに初めて、それ以外の理由を与えていたのだ。

 

 そんな自分を上目遣いで詮索してくるシエラから顔を背けながら、彼は愛機であるジムライトアーマーに搭乗していく。その背中に妖艶な笑みを浮かべつつ、シエラも桜色の髪をヘルメットに仕舞い込み、コアブースターへと乗り込んでいった。

 器用な気遣いというものがまるでなっていない男達に、苦笑を零しながら。

 

『全機、出撃準備完了! 発進どうぞ!』

 

 そして。この乱世に真の終焉を告げる、決戦の幕が上がる時。

 MSという鎧を得た戦士達が、続々と星の大海を目指し、動き出していく。それは例えるならば、鋼鉄の流星群(フルメタリック・メテオシャワーズ)

 

「ケンジロー・カブト! ジム後期型、行きますッ!」

 

 その急先鋒たる男を乗せた、1機のジムが激戦の宇宙(そら)に翔び立つ時。この物語はようやく、始まりの時を迎えたのである――。

 

 ◇

 

 ――やがて。激戦の果てに、レゾルグ・バルバとの決闘を制したケンジローは、無事に仲間達の元へと生還したのだが。

 

「無理はなさらないって言ったじゃないですかぁあ!」

「あーだだだだ! ご、ごめんなさい! ごめんなさいってば!」

 

 その先には――涙ながらにぽかぽかと胸を叩く、リューコの鉄拳(?)制裁が待ち受けていたのだった。

 




 リューコは応募当時、真宮寺さくらっぽいなーというイメージがあったのですが。実際に書いていくうちに作者の中で、天宮さくらの方に寄って行った感じがしますな。当時は新サクラ大戦がトレンドだったもんで……(´-ω-`)
 今回のお話における登場キャラのチョイスにつきましては、第2部番外編「裁定の魔王 -レゾルグ・バルバ-」と同様、10割作者の趣味が基準となっております。男達の無骨な友情ドラマがなんだかんだ1番筆がノるんですよねー( ˊ̱˂˃ˋ̱ )

 ちなみに今話に登場した「ジム前期型」と「ジム後期型」という単語は、MSVにおける設定に準拠したRGM-79のバリエーションを指しています。
 大変ややこしいことに同じジムでも、ジャブローで最初にちょっとだけ生産された「前期型」と、それ以降に色んな基地でいっぱい生産された「後期型」があるのですよ。ケンジローはオデッサで陸戦型ジムを壊された後、ソロモンまではこの前期型で戦っていたことになります。よく愛機を壊す奴なのですよ、こやつは……(´・ω・`)
 リュータもガリウスも最低1回は乗り換えを経験していることですし、ケンジローにもそういうイベントを用意したいなーと思い、今回この設定を活用させて頂きました。主役機乗り換えはロボットアニメの華ですからね。とは言っても、こやつに関しては最初から最後まで全部ジムなわけですが(ノД`)

 次週は続編「プリンセス・オーケストラ」の方で、何か小話を一つお届けしたいところですね。ではではっ!٩( 'ω' )و




Ps
 ケンジローは給料のほとんどを仕送りに充てているため私服もロクに持っておらず、外出の度に(リリアーヌの趣味で)バリバリのパンク系にコーディネートされている……という裏設定があったりなかったり(´ω`)

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