-セイコ・ミタライ-
28歳。神奈川出身。元医師の民間人であり、ゲリラ兵として生計を立てる元娼婦達を率いる民兵部隊のリーダー格。仲間達と共に、連邦軍から購入した戦闘ヘリに搭乗する。
※原案は黒子猫先生。
-アリア・ホプキス-
18歳。サイド3出身。オデッサから敗走し、東南アジアの難民キャンプまで逃れてきた元整備兵。現地の民兵達と協力しつつ、マゼラアタックに搭乗する。階級は准尉。
※原案は赤い夢先生。
-ゲルドバ・デムス-
25歳。サイド3出身。ベルドド・デムスの甥であり、叔父の死後もしぶとく地上で抵抗を続けていた。ザクIに搭乗する。階級は少尉。
宇宙世紀0080、1月1日。その日にグラナダ条約が締結されたことで連邦軍とジオン軍の戦争は終結し、世界に平和が戻った。
が、それはひとまずの幕引きに過ぎない。戦いが終わったとしても人々を苛んできた戦火が、その瞬間に跡形もなく消え去るわけではないのだ。
かつては激戦の舞台となっていた東南アジアの密林も、例外ではない。すでに日常となりかけていた戦争が唐突に終わりを迎えてからも、その世界に生きてきた人々の苦闘は続いている。
「ゲルドバのクソ野郎め……! いつまでも往生際が悪いったら!」
「ヘリ部隊の準備はいい!? マゼラアタックも引っ張り出すしかないよ、セイちゃん隊長っ!」
「それがさっきの戦闘で、レオーネが怪我しちまってさぁ……! 今、マリーが診てくれてるところなんだけど……代わりに乗れる奴、誰かいない!?」
終戦から半年以上もの月日が流れた、宇宙世紀0080、7月。密林の奥深くに設けられたキャンプでは、妖艶な美女達が忙しく駆け回っていた。
戦士としては華奢な体付きでありながら「出るところは出ている」彼女達は、本職さながらの手際で迎撃準備に奔走している。
かつて故郷を焼かれ、生きるために娼婦として生計を立てていた彼女達は今、民間人の身でありながら戦うことまで強いられているのだ。
貧困に喘ぐ難民や戦災孤児達を抱えながら、安住の地を目指して世界各地を転戦してきた、「女」であることすらも武器とする民兵達。どんな弱者も分け隔てなく受け入れ、共に生きるためならばと戦ってきた彼女達は、今日も自分達に降り掛かる不条理な「暴力」を迎え撃たんとしている。
その中でも元医師という異色の経歴を持つ、リーダー格のセイコ・ミタライは。色白の肌に焦燥の汗を滲ませながら、豊かな胸を弾ませて仲間達に指示を飛ばしていた。
少女のような背丈に反したプロポーションや、その外見にそぐわない腕っ節と姉御肌な佇まいから、「セイちゃん隊長」と慕われている彼女は――無人のマゼラアタックを仰ぎ、柔らかな桜色の唇を噛み締めていた。
「マゼラアタックなら動かせます! セイちゃん隊長、私にやらせてくださいっ!」
「アリア!? 気持ちはありがたいけど、無茶言ってんじゃないよ! 確かにあんたはジオンにいたんだろうけど、元は整備士だったんだろう!?」
そこへ、この民兵部隊に加わって間もない新人――アリア・ホプキスが駆け付けてくる。
仲間達から「ちんちくりん」呼ばわりされているセイコよりもさらに小柄な彼女は、激戦の中で原隊と逸れたまま終戦を迎えてしまった、元ジオン兵の1人であった。
「整備後の試運転で何度も動かしてましたから、要領は分かります! お願いします、私も皆さんのために何かしたいんですっ!」
「……あぁ、もう。この非常時にそこまで言われたら、もう何も言えなくなっちまうじゃないか。分かったよ、アタシ達もヘリでサポートする! ただし、ヤバくなったらすぐに離脱するんだよっ!」
「はいっ!」
アースノイドの敵であるジオンの敗残兵すらも、同じ困窮者として迎え入れた女傑達に報いるべく。彼女はかつての軍務で培った、元ジオン兵としてのノウハウを活かさんとしていた。
そんな彼女の熱意を汲んだセイコは、ため息混じりに艶やかな黒髪を掻き上げると。連邦軍から
「アリア・ホプキス……マゼラアタック、発進しますっ!」
そしてアリアがパイロットを務める、継ぎ接ぎだらけのジオン軍戦車――PVN.42/4「マゼラアタック」も。彼女を追うように砂利を巻き上げ走り出して行く。
今もなお敬愛してやまない上官から貰った、銀時計を胸に抱いて。
(……ガリウス中尉、アドラス少尉……ディートハルト少尉! そして、オデッサ防衛隊の皆さんっ! どうか、どうかセイちゃん隊長を、この部隊の人達をお守りくださいっ……!)
◇
『ふざけるな……ふざけるな、下衆なアースノイド共がァッ! 貴様らのせいで叔父上は死んだ! 貴様らのせいで、僕はこんな目に遭ってるんだ! その罪は命で償ええぇぇッ!』
叔父が用意した成功のレールに乗り、全てのアースノイドを踏み躙る。全ての富を我がものとする。
それが、ゲルドバ・デムス少尉に約束された方程式であるはずだった。叔父――ベルドド・デムス少佐がジャブローの攻略に失敗し、戦死するまでは。
親族の七光りだけで少尉にまで登り詰めていた人間が、叔父という後ろ盾を突然失えば、どうなるかは自明の理。それでも彼は、かつて確約されていた理想の未来を捨てきれず、足掻き続けていた。終戦を迎えて半年もの時が過ぎた、今となっても。
そんな彼について来るような部下など、もう1人も残っていない。それに地球に取り残された残党軍では、まともに使えるMSを確保することも難しい。今の彼が保有している戦力はもはや、旧式という言葉すら及ばないMS-05B「ザクI」のみである。
当然ながらそんな古びたMS1機では、地上に展開された連邦軍に立ち向かうことなど出来るはずもなく。彼はたった独りで、長きに渡る惨めな逃避行を繰り返していた。
名門出故のプライドが祟り、他の残党軍と合流することも叶わず。連邦軍に決死の攻撃を仕掛ける度胸も持てず。何一つ成し得なかった彼に出来ることといえば、MSさえあれば容易く甚振れる弱者を探すことだけだったのである。
そんな彼がある日、目を付けたのが――戦後の困窮に喘ぐ難民達を連れた、女性ゲリラの民兵部隊と。そのリーダーであるセイコだったのだ。
まだベルドドが健在であり、ジオン地上軍幹部の親族としての威光を振り翳していた頃。娼婦だった彼女の柔肌を好き放題弄んだ挙句、武力をちらつかせて料金を踏み倒したことがあった。
その彼女が今は、見目麗しい元娼婦の民兵達を気丈に率いている。それを知ったゲルドバは、MSの力で彼女を徹底的に屈服させることで、少しでも過去の栄光を思い出そうとしていたのだ。
セイコ率いるゲリラ部隊は戦闘ヘリ等で武装してはいるが、MSに対する有効な攻撃手段までは有していない。
そう判断したゲルドバは、ようやくザクIだけでも蹂躙できる、ちょうど良い玩具を見つけたと嗤い――それから程なくして。彼にとってはあまりに非情な「現実」を、突きつけられてしまったのである。
『アリア、今だよッ!』
「はいッ!」
『ぐぁあぁあぁッ……! マ、マゼラアタック、だとぉおッ……!? 貴様らァ、よくも栄えある我がジオン軍の兵器をぉッ!』
入り組んだ密林の隙間を縫うように飛ぶ、戦闘ヘリ部隊の30mmチェーンガンに撹乱されながら。体勢を乱したところに、マゼラアタックの主砲が炸裂する。
セイコ達とアリアの連携によるその猛攻に、技量が伴わず的になるしかないザクIは、文字通り何も出来ずにいた。
自国の兵器であるマゼラアタックに攻撃されている、というこの状況にさらに激しく心を乱され、ゲルドバ機は感情任せに105mmマシンガンを乱射する。だがその弾はセイコ達のヘリにも、アリアのマゼラアタックにも、掠ってすらいない。
『あの時の
『うるさぁあぁいッ! 僕に嬲られるだけだった、矮小なる娼婦如きがあぁあッ!』
『その娼婦如きにボコボコにされる気分はどうッ!? ヴィーネ、ベラ、シェラ、行くよッ!』
『了解っ! この旅で培った私達の速さ、見せてあげるッ!』
『一気に仕掛けようぜぇ、セイちゃん隊長っ!』
『わ、私も頑張りますぅっ!』
そして怒っているのは、ゲルドバだけではないのだ。
かつて自分達のような、戦争に困窮し娼婦となった女性達を散々に弄び、傷付けてきた下衆な男を前にして。セイコ達もまた、その眼に苛烈な憤怒を宿している。
『……うぅッ!?』
マシンガンの掃射を掻い潜り、被弾する寸前まで接近する戦闘ヘリの群れ。その機影を追うゲルドバ機が、彼女達を叩き落とそうと片腕を振り上げた時――ザクIのセンサーが、マゼラアタックの
「矮小なんかじゃない……! セイちゃん隊長は、ここにいる皆さんは……力を合わせて生きるために戦ってるんです! いじっぱりで独りぼっちなあなたとは、戦う理由の重みが違うッ!」
『何を言うかッ……! この浅ましい、裏切り者の小娘があぁあッ!』
その熱源とアリアの挑発に気を取られたゲルドバ機は、激情のままに280mmバズーカを取り出し、マゼラアタック目掛けて容赦なく砲弾を撃ち込んでいく。だが彼は、ジオン軍人でありながら失念していた。
『しまっ……!』
『その近距離なら、旧ザクなんかじゃ耐えられない! アリア、やっちまいなッ!』
マゼラアタックは「マゼラベース」と呼ばれる車体と、「マゼラトップ」という飛行ユニットによる二段構造であることを。
「それが分からないなら……分からなくてもいいから! もうずっと、黙っててくださいッ!」
そこまで理解が及んだ頃には、すでにマゼラトップの砲口は。ザクIの頭部目掛けて、火を噴いていた――。
◇
頭部を破壊され、転倒したザクIは継戦能力を失い。そこから命からがら這い出てきたゲルドバを待ち受けていたのは、妖しい笑みを浮かべる副隊長――ヴァネッサを筆頭とする、女性ゲリラ達の包囲網であった。
「ひ、ひぃい、ひぃっ……!?」
「……うふふっ、いらっしゃい。ゲ・ル・ド・バ・さん」
彼女達は皆、ゲルドバに「女」としての尊厳を踏み躙られてきた過去を持つ者ばかりだったのである。そこから、然るべき
「……連邦軍に追従してる元ジオン兵が、戦時中に逸れた仲間達を探し回ってるって噂があってさ。ウチの情報筋によると、この近くの連邦軍基地にそれらしい奴がいる……らしいよ」
「そう……ですか」
女性ゲリラ達の制裁に泣き叫ぶ、ゲルドバの悲鳴を背に。役目を終えたとばかりに地に堕ちたマゼラトップを見つめるセイコは、隣に立つアリアの頭を乱暴に撫でながら、とある「噂」に言及していた。
終戦後も路頭に迷い続けているであろう、かつての仲間達を救出するべく。連邦軍の遊撃部隊と共に世界各地を巡り、旅を続けているのだというジオン軍人。
その真相に思うところがあるのか、噂に耳を傾けるアリアの貌は憂いの色を帯びている。
そんな彼女の様子を見遣るセイコは、迷いを断ち切らせるべく――踵を返していた。
自分達と彼女の道は、初めから違っている。それは出会った頃から、わかり切っていたのだから。
「あんたとは、ここでお別れってことになるね。ま、色々とタメになる話も聞けたし……結構楽しかったよ」
「セイちゃん隊長……」
「……連邦の保護下に入れば、安泰だろうって言い分も分かるけどね。アタシらの故郷を戦争で焼いたのはジオンでもあるし、連邦でもあるんだ。アタシらの居場所は、アタシらにしか見つけられない」
「……」
「そんな泣きそうな顔しなさんな。生きていれば必ず会える、そうだろう? だから仲間達を探してるっていう噂のジオン兵も……旅を続けてるんじゃないか」
それでも、どんなに短い間であっても。共に死線を潜り抜けた仲間として、その行く末を想わずにはいられないアリアに、苦笑を浮かべて。
セイコは別れ際に、その頬に口付けを落とす。この温もりを忘れない限り、必ず自分達はどこかで繋がっているのだと、刻み付けるかのように。
「だからあんたも、せめて信じてやってくれ。そいつのことも、アタシらのことも」
「……はいっ……」
溢れる涙を堪え切れず、両手で顔を覆うアリア。
そんな彼女の姿を見ないように背を向けたセイコは、一通りの「お仕置き」を終えた仲間達を連れて、その場を後にしていく。難民達を運ぶ、満身創痍の
「セイちゃん隊長、本当に良かったんですかぁ? アリアちゃんのこと……」
「アリアには、帰れる場所がある。アタシらは、帰れる場所をこれから見つける。……それだけのことさ」
かつてはオデッサの戦地において、ガリウス・ブリゼイドが身を挺して守ろうとしていた、ジオン地上軍の忘形見。敗走に伴う混乱の中で打ち捨てられていたその艦体は今、セイコ達を楽園へと誘う方舟としての、新たな使命を帯びている。
「いつか……見つかるといいですね」
「……見つけてみせるさ、必ず。よぉし、出発だ! フェラーラ、エンジン始動っ!」
「ふふっ……はぁい! 了解しましたぁ、セイちゃん隊長っ!」
その
◇
それから、間もなく。
単独で行動していた敗残兵の捕虜を連れて、とある連邦軍基地に現れた元ジオン兵が、同郷の「説得要員」と抱擁を交わしていたのだという。
そのか細い手首に巻かれた、銀時計を輝かせて――。
今回は黒子猫先生から頂いたアイデアをベースにしつつ、ガリウスとアリアの再会をテーマとするお話を書かせて頂きました。この後もガリウスは仲間達全員との再会を目指してあっちこっち旅することになるのですが、多分アリアもべったりとくっ付いてるんじゃないかなーって気がします(´ω`)
黒子猫先生、この度は美味しいアイデアを色々とご教示頂き誠にありがとうございましたー! ……連邦軍の戦闘ヘリなんて全然知らなかったぁー……(ノД`)
Ps
元娼婦の民兵部隊なんてカルマ辺りが知ったらウッキウキで会いに行きそう。んで、色々と痛い目に遭って泣きながら帰ってくるまでがセット(´Д` )