機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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-第4話からの登場人物-

-クレイ・ハルパニア-
 19歳。シドニー出身。人情家で兄貴肌な同期達のリーダー格であり、リューコ達がジラハと戦っている間に民間人を避難させていた好青年。ハイパーバズーカ装備のジムに搭乗する。階級は少尉。
 ※原案はリオンテイル先生。

-クラム・プレスタン-
 18歳。レックリングハウゼン出身。戦車兵の父を持ち、MSが戦場の主力になってからも戦車乗りを希望していた寡黙な変わり者。マゼラトップ砲装備のジムに搭乗する。階級は少尉。
 ※原案は赤犬先生。

-アーデルトラウト・ブライトクロイツ-
 20歳。ウィスコンシン出身。名門・ブライトクロイツ出身の高潔な美女であり、一見すると高飛車なようだが、決して仲間を見捨てない熱い一面も持ち合わせている。ビームスプレーガン装備のジムに搭乗する。階級は少尉。
 ※原案はダス・ライヒ先生。



第4話 鋼鉄の戦砲 -クラム・プレスタン-

 「戦い」という言葉は、双方の戦力がある程度拮抗していなければ成り立たない。あまりにも一方的な内容の戦闘行為は、「蹂躙」と呼ぶ方が正しい場合もある。

 たった1機のドップに翻弄され、満身創痍となっている4機のジムの惨状が、まさしくそれであった。

 

 リューコ達の対空射撃は掠りもしないのに、サナル機からの攻撃はまるで吸い寄せられるかのように当たるのだ。さらにミサイルに関してはザクを一撃で粉砕するほどの威力であり、リューコ達のジムはすでに左腕をシールドごと破壊されてしまっている。

 ジムの装甲すらも容易く削り取る機関砲に、圧倒的な破壊力のミサイル。そして、最高速度はマッハ5にも及ぶ機動力。それら全てを兼ね備えたサナル専用機のドップは、新兵達に反撃の暇すら与えていないのだ。

 

『そ、そんなッ……! たった1機の戦闘機に、私達のジムがここまで一方的にやられるなんてッ……!』

『……連邦のパイロットにも、戦闘機でザクを落とせる奴らが稀にいるだろう。何も不思議なことではあるまい』

 

 ――サナルの言う通り、連邦軍の戦闘機がザクを撃破したケースも確かに存在する。だが、その多くは様々な要因が重なってようやく実現した「奇跡的な勝利」であり、当然の結末として引き寄せられるようなものではない。

 戦闘機とMSの間にある、歴然とした戦闘力の差。サナルはそのハンデを負ってもなお、容易く優位に立ててしまうほどの技量を持っているのだ。

 

 いかにリューコ達が優れた才能の持ち主であろうと。ジムの性能がザクよりも遥かに勝っていようと。「五指」の3位が相手とあっては、例え乗機が戦闘機(ドップ)だとしても苦戦を強いられてしまうのである。

 どれほど機体の性能差があろうとも、人間が乗り込み操縦する有人機同士の戦いである限り。それだけが、戦力の決定的な差とはなり得ないのだ。

 

『……そもそも、勝負になると思うこと自体が烏滸がましいのだよ。たかが戦闘機とお前達が侮ったこのドップは、「五指」の3位たるこの俺のために調整された特注品なのだからな』

『「五指」、って……まさか……!?』

『オデッサで猛威を振るったっていう、あの……!?』

 

 しかもこのドップは、「五指」のために用意された特別製。その恩恵も得ているサナルは、まともに反撃も出来ず回避に徹するしかないリューコ達を冷たく嘲笑っていた。

 そんな彼の正体を知ったリーサ達は、眼前を飛び回るドップの異常な強さの理由を悟り、思わず背筋を凍らせてしまう。よりによって初めての実戦で、教官達すら畏怖させていた「五指」のパイロットと遭遇してしまったのだという事実を実感した彼らは、操縦桿を握る手を震わせていた。

 

 そんな中でもリューコは己の精神を蝕む恐怖に抗い、震えながらも操縦桿を強く握り締めている。

 どれほど身体が震えようとも、その毅然とした眼差しだけは。連邦軍の名門・タカスギ家の者としての気高さを保ち続けていた。

 

『た……例え、「五指」が相手なのだとしても……! ヤマダ教官の無念を晴らすためにも、私達はここで屈するわけには行かないのッ……!』

『……この期に及んでも力の差が分からんとは、どうやら俺の見込み違いだったようだな。つまらぬ時間に付き合わせた報いは、その命で贖うがいいッ!』

 

 その気高さを単なる無謀と断じたサナルは、とどめを刺すべく愛機(ドップ)をリューコ機目掛けて突撃させる。軽やかにバルカン砲をかわし、とどめのミサイルを放つべく射程圏内に飛び込んだサナル機は、リューコ機のコクピットへと狙いを定めた。

 

(やられるッ……!)

 

 ジラハのように、一瞬で消し飛ばされる。そう直感したリューコが、思わず瞼を閉じかけた――その時。

 

『ぬぅ、あッ……!? 十字砲火だとッ!?』

『……!』

 

 予期せぬ「真横」からの援護射撃が、サナル機の突撃を阻んだのだった。ミサイルの照準を狂わされたドップは咄嗟に回避行動を取り、リューコ機の眼前から退避して行く。

 だが、その援護射撃を行ったのは今ここにいるリーサ達ではない。ジラハ機との戦いですでに消耗していた彼らは、ほとんど動けなくなっている。

 

 リューコ機の射線に真横から合わせてサナル機を退けた、「増援達」の協力による十字砲火。それはまさしく、士官学校の同期達と共に何度も訓練した通りの攻撃であった。

 そう。ジラハ機を打倒したリューコ達の奮戦に焚き付けられた他の同期達も、この危機に立ち上がって来たのである。さらに3機のジムが、京都基地の方向から飛んで来たのはそれから間も無くのことであった。

 

『……あの人達まで……!』

『こ、こいつらァッ……! 大人しく逃げ出しておれば良かったものをッ!』

 

 予期せぬ救援にリューコ達が歓喜の笑みを溢す一方、敵方(ジム)の数が7機に増えたことに焦りを覚え初めていたサナルは、荒々しい怒号を上げていた。

 ジラハ機との戦いで集中力をほとんど使い果たしていたリューコ達とは違い、精神的にも体力的にも充実している状態で参戦して来た彼らは、かなりの脅威となりかねない。そう危惧したサナルは素早く愛機を旋回させ、増援の3機から始末しようとする。

 

 だが、リューコ達を痛め付けられたことへの怒りも士気に変えて駆け付けて来た彼らは、サナル機の攻撃すら見切れるほどの集中力を発揮していた。散開してミサイルをかわした彼らの機体は、サナル機を取り囲むように展開して行く。

 その増援の3機を指揮していたのは、先陣を切っていたハイパーバズーカ装備のジムだった。

 

『……遅くなって済まなかったな、皆! もうお前達だけに、この地獄を背負わせはしない……! コイツを落として、俺達全員で生き延びるぞッ!』

 

 勇ましい声を張り上げ、同期達を鼓舞しているそのパイロット――クレイ・ハルパニア少尉は、リューコ達の兄貴分として同期全員を纏め上げていた青年だ。

 教官であるミツヒサが最期に残していた命令に従い、民間人を避難させつつこの戦域から離脱しようとしていた彼も、他の同期達の熱意に応える道を選んだのである。

 

 命令より大切なものなど、軍人にはない。それを理解した上で彼は、自分の心が最も正しいと信じる選択肢に、運命を委ねたのである。

 

『マッハ5で飛行する戦闘機といえど、あの形状では旋回も容易ではあるまい。……俺の弾道計算なら、当てられるはずだ』

『クラム! お前の計算……信じていいんだな!?』

『俺が目測を見誤ったことが一度でもあるか? ……お前は自分の心に従うことだけを考えろ、クレイ』

 

 そんなクレイに、自分達も応援に行くべきだと促し続けていたのは――鹵獲されたマゼラトップ砲を装備したジムに搭乗している、クラム・プレスタン少尉であった。戦車兵の父を持ち、MSが戦場の主力になってからも戦車乗りを希望していた変わり者である彼は、その性分に最も相応しい装備を持ち出していたのである。

 父から教わった計算術を基にサナル機の挙動を瞬時に予測した彼は、怜悧な眼差しで操縦桿を握り締めている。マゼラトップ砲の砲口はすでに、彼が弾き出した座標へと向けられていた。

 

『ふん、私の同期ともあろう者達が戦闘機(ドップ)如きに手こずるとはなんと情け無いッ! このアーデルトラウト・ブライトクロイツが、戦いの手本というものを見せてくれようッ!』

 

 そして、ジムの基本となるビームスプレーガンを装備している最後の1機――アーデルトラウト・ブライトクロイツ少尉の乗機も、クラム機が予測した位置に銃口を向けていた。

 

 数々の高官を輩出して来たブライトクロイツ家の令嬢である彼女は、そのルーツに見合う気位の高さの持ち主なのだが、情の厚さにおいては他の同期達にも負けていない。

 教官の命令を遵守しようとしていたクレイの心を最も強く突き動かしたのは、「教官殿が望んでいた理想の士官像を思い出せ」と叫び続けていた彼女なのだから。

 

『……その馬鹿でかい金切り声はいい加減どうにかならないのか、アーデ。俺の気が散る』

『なんだとォッ!? 今の発言は聞き捨てならんぞクラム、我がブライトクロイツ家への宣戦布告かッ!』

『おいおいお前ら、こんな時までいちゃついてる場合かよ! 痴話喧嘩ならあいつを叩き落としてからにしてくれッ!』

『……いちゃついてなどいない』

『いちゃついてなどおらんッ!』

『その息の合ったコンビネーションは戦闘に活かしてくれないか!?』

 

 一方で、普段から寡黙なクラムとは犬猿の仲であるらしく。2人は士官学校で切磋琢磨していた頃から全く変わっていない「痴話喧嘩」を、この土壇場でも繰り広げていた。

 Kカップの爆乳を弾ませて怒号を上げるアーデルトラウトの剣幕にも動じず、冷たくあしらっているクラム。そんな2人の仲裁に毎度の如く頭を悩ませるクレイ。士官学校時代から続く彼らの関係は、ここでも平常運転のようであった。

 

 ――だが、その「痴話喧嘩」の最中であっても。クラムは正確な弾道計算を続けており、高速で飛び回るサナル機を撃墜するための射角を完全に把握している。クレイとアーデルトラウトも、彼の計算を信じて「包囲殲滅」の準備を着実に整えていた。

 

(い……いかんッ! 本来ならばこいつら如き俺の敵ではないが、ドップの継戦能力で7機を相手取るには分が悪過ぎるッ! しかもこいつら……特に増援の3機は、狙いの正確さが新兵のそれではないッ! あのマゼラトップ砲を装備した奴の仕業なのか……!? いずれにせよ、このままでは離脱すら危ういッ!)

 

 新兵の技術とは到底思えない、全てを見透かすかのような冷たく正確無比な照準。その殺気を肌で感じていたサナルはすでに、かつての冷静さを失っているようだった。

 

 クラム機の弾道計算から弾き出されたデータを共有しているクレイ機とアーデルトラウト機は、サナル機のドップがどれほど疾く飛び回っていても、その「行き先」に寸分狂わず銃口を向けているのだ。ジラハを倒した4人のパイロットが接近戦の天才ならば、この3人は射撃戦の天才なのだろう。

 例え計算が完璧であっても、それを活かせるだけの技量が伴わなければ所詮は机上の空論。だが彼らは、そのデータを完全に己の物としている。クラムの頭脳を中心とする三位一体のコンビネーション。その完成度はすでにこの時点で、「五指」の3位すら戦慄させる域に到達していたのだ。

 

 MSさえあれば、例えこの状況でも容易く新兵達を蹴散らせていただろう。だが、今の乗機はドップなのだ。7機ものジムを連戦で撃破するのは容易ではないし、その前に燃料が底をついてしまう可能性が高い。

 

 五体満足なのは3機だけだが、他の4機も継戦は可能な状態であり、士気も大幅に高まっている。全方位から7機掛かりで一斉射撃されようものなら、さしもの「五指」の3位もただでは済まない。

 例えどれほど精強なエースであろうと、今の彼はあくまでドップに乗った1人の兵士に過ぎないのだから。

 

『お、おいお前達ッ! サムライを気取っていながら、寄ってたかってMSで戦闘機を総攻撃するなど……よもや、そんな卑劣な手段に出る気ではあるまいなァッ!? それはサムライのやることではないはずだァッ!』

 

 この京都基地から輩出された士官達はその独特な文化的背景から、「サムライ」と呼ばれることが多い。その噂を思い出したサナルは、咄嗟にその文言を持ち出し「対話」を試みる。

 一斉に銃口をドップに向けていた7機のジムが、思わず動きを止めたのはその直後だった。その反応から確かな手応えを感じたサナルはにやりと笑みを浮かべているが――リューコの表情は、冷ややかなものであった。

 

『サムライ……か。確かに、私はそう在りたい。そう呼ばれるような士官になりたい。その気持ちには一片の揺らぎもないわ』

『そうだろうそうだろう!? そのMSの装備で俺のドップを墜とそうものなら、サムライの名が泣くぞッ!?』

 

 この期に及んで「サムライ」という言葉を出汁に攻撃を止めさせようとする卑劣さへの、軽蔑。憤怒すら超越したその感情に気付かぬまま、サナルは思い通りに事が運んでいると思い込み、べらべらと言葉を重ねていた。

 

『でも……私はまだ、あまりに未熟で。教官のような真のサムライには、まだまだ程遠い』

『な、なにィッ……!? 一体何をッ……!?』

 

 そんな彼に冷たい殺意を向けるリューコ機を筆頭に。同じ眼でサナル機を射抜いていた同期達のジムは、続々とそれぞれの得物を構え直していた。今度こそ、確実に堕としてやると言わんばかりに。

 サナルがその挙動に不穏な気配を感じた時には、すでに何もかもが、手遅れとなっていた。

 

『……そんな未熟な私なら。まだ「サムライ」には至っていない私達なら。ここで撃っても泣く名は無いということよッ!』

 

 やがて飛び出した、全方位からの一斉射撃は。回避も反撃も許すことなく、圧倒的な火力と弾幕を以てサナル機に襲い掛かって行く。

 濃緑のドップは咄嗟に全速力で急上昇し、離脱を試みるが――あまりに多い弾を全てかわし切ることは叶わず、とうとう片翼に被弾してしまう。

 

 そして、速度が高まっている状態で急激にバランスを崩されたことで。サナル機は一気に制御を失い、飛行が不安定になってしまうのだった。

 

『こッ……このクソガキ共がァァアーッ!』

 

 もはや、いつ墜落してもおかしくはない。そんな状況に陥った彼は口汚い捨て台詞を残して、リューコ達の前からふらふらと飛び去って行く。それは、「五指」の3位にあるまじき醜態であった。

 

 ――そうして、サナル機がリューコ達の前から姿を消した後。京都を焼き尽くさんとしていた大火災は連邦軍の別働隊によってようやく鎮火され、この地での戦闘も終結を迎えた。

 

『……ふ、ぅっ』

 

 思わぬ形で初陣を飾ることになったリューコ達は、憔悴し切った様子で夜明けの輝きを浴びていた。死線を潜り抜けた6機のジムを、暖かな朝陽が照らしている。

 災禍の炎に染め上げられた夜は終わりを告げ、11月21日の朝が始まろうとしていた。

 

『……やったな、リューコ。俺達の勝ちだ』

『えぇ……でも、これで終わりなんかじゃない。これが、私達の門出なのよ。……ヤマダ教官のためにも、私達は生き残らなくちゃいけないんだわ』

 

 クレイ達は皆、共に生きて日の出を迎えられたことを素直に喜び合っていた。だが、リューコは独り憂いを帯びた表情で、朝陽を仰いでいる。

 

 自分達は辛うじて、無事に生き残ることが出来た。だが教官のミツヒサは戦死し、京都の街は戦火によって瓦礫と灰に塗れてしまった。

 到底、勝利したと言えるような内容ではない。京都基地を爆撃したガウにも、あの2機のドップにも、結局逃げられてしまったのだから。

 

 だが、だからこそ。悲しみに暮れたまま、立ち止まっているわけにはいかないのだ。

 戦局は日を追うごとに激しさを増している。そして時間の流れは、自分達の傷が癒えるまで待ってはくれない。

 タカスギ家のサムライとして。リューコはまだ、立ち止まるわけには行かないのだ。

 

『きっとそれが教官の……あの人(・・・)の……』

 

 自分達の成長と生還を願っていたミツヒサ。彼の思いを悟っていたからこそ、リューコ達に怒りをぶつけていたジラハ。

 そんな2人の想いを感じていたリューコは、深く瞼を閉じると。せめて1日でも早く、この戦争と悲しみの連鎖が終わるようにと、祈るのだった。

 




 やかましいドップ野郎にもわからせてやったことですし、次回で本章も最終話! 短い章でしたが、どうぞ最後までお楽しみに!٩( 'ω' )و

Ps
 ドップのプラモってありそうでなかなか無いんですよねー……。EXモデルを除くと、1/1200旧キットのガウに付属してるものくらいになるでしょうか(´Д` )
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