機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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 今回はヴィヴィアンヌとリュータの出会い、そして初めての共同作業(?)にスポットを当てたお話になります。2人がジャブローに到着する前のエピソードですぞ(о´∀`о)
 終わる終わると言ってなかなか終わらない本作ですが、もうそろそろいい感じに締めて終われる……はず。たぶん!


番外編 砲火の先達 -コタロウ・ニシズミ-

 宇宙世紀0079、11月18日。

 当時、とある連邦軍基地の偵察部隊に所属していたヴィヴィアンヌ・ル・ベーグ伍長は、死に瀕していた。

 

「お父様、お母様、お姉様っ……! お許しください、ヴィヴィーは先に逝きますっ……!」

 

 哨戒任務の最中。ヴィヴィアンヌが搭乗するFF-X7「コアファイター」は、ドップの大編隊と遭遇してしまったのである。

 例え性能がどれほど優っていようとも、多勢に無勢では勝負にもならない。彼女のコアファイターは機銃掃射を背に浴びて、満身創痍になりながらも懸命に飛び続けていた。

 

(あれが、原因だというの……!? 私は、拒むべきではなかったとでも……!?)

 

 オデッサ作戦を経て、地球の勢力図は大きく変わった。この辺りにはもう、戦力に数えられるようなジオンの兵など残ってはいない。

 事前に聞いていたその話とは、大きく異なる現状に対して――ヴィヴィアンヌには一つ、「心当たり」があった。

 

 つい先日、彼女は上官からの「夜の誘い」をにべもなく断り、純潔(・・)を死守していたのだ。今回の哨戒任務は、その上官が下した命令だったのである。

 

(私はっ、こんなことで、こんな理由でっ……!)

 

 「コロニー落とし」をはじめとする、ジオン軍が起こした惨劇の数々。その全てに対する義憤を胸に、連邦軍へと入隊した彼女を待っていたのは。

 その美貌と肢体に喉を鳴らす(ケダモノ)達の、下卑た洗礼(・・)であった。そんな苦境にも屈することなく、媚びることなく、毅然と己を保ち続けてきた彼女への仕打ちが、これだったのである。

 

 ただジオン軍との戦いに敗れ、命を落とすのではなく。無意味な私欲に翻弄され、墜とされる。

 それは、ただジオン軍から故郷(パリ)や家族を守りたいだけだった少女にとっては、耐え難い屈辱となっていた。

 

 この期に及んで大局よりも目先の欲を優先し、それが叶わないと知れば当て付けのような任務を与え、殺そうとする。そんな上官の良いように弄ばれ、まともに戦うことすら叶わずに死ぬ。

 そんな顛末は、死への恐怖すら薄れるほどの悔しさを生み出し。彼女の白い頬を涙で濡らしていた。

 

「私……生きたいっ! まだ何もしてないし、出来てないっ! 出来て、ないのにぃっ!」

 

 やがて、独りで耐え忍んできたことへの反動が、嗚咽となって溢れ出し。ヴィヴィアンヌを乗せたコアファイターも、墜落寸前に陥っていく。

 

 そんな彼女にとどめを刺さんと、ドップの大編隊はコアファイターに接近しようとしていた。次の掃射で、確実に仕留めるために。

 

 ――だが、その時。

 

「……ッ!?」

 

 彼らよりもさらに遥か上の空から、「何か」が風を切る轟音と共に、落下して来たのである。ドップの大編隊は咄嗟に散開することで、直撃を回避したのだが――それは、悪手であった。

 

 散開した隙を突くように、上空からの「第2波」が襲い掛かって来たのだ。頭上から降り注ぐ砲撃の嵐に次々と各個撃破され、ドップの群れは羽虫のように落とされて行く。

 

「えっ……あ、れは……」

 

 泣き腫らしたヴィヴィアンヌの目に映されたのは、MS――とは言い切れない機体の、上半身。

 

『偵察部隊のヴィヴィアンヌ・ル・ベーグ伍長だな。こちらは第7陸戦小隊のリュータ・バーニング少尉だ! 援護に来たッ!』

 

 RX-75「ガンタンク」の、Aパーツだったのである。

 これがヴィヴィアンヌ・ル・ベーグと、リュータ・バーニングの、出逢いであった――。

 

 ◇

 

 遡ること、数分前。ジャブローを目指し飛行していた1機のガンペリーは、ドップの大群に追われるコアファイターを捕捉していた。

 コクピットからその映像を確認していたリュータ・バーニングとコタロウ・ニシズミは、神妙な面持ちでその光景を見つめている。

 

「この区域はオデッサから退却中のジオン軍がうようよ居るって話なのに、なんだってコアファイター1機で……?」

「……近くの連邦軍基地には、好色で有名な司令官がいてな。恐らく、そいつの私情が絡んでいるんだろう。気に入った女士官(ウェーブ)の男を無理な条件で出撃させて、その隙に……なんて、あそこじゃあよく聞く話だ」

「なっ……!? そんな横暴が、今まで看過されてきたっていうんですか!?」

「今までは、な。だが今回ばかりは、さすがに周りのお上も黙ってはいられまい。コアファイターはV作戦のデータ収集にも携わった貴重な航空機だ。型落ち同然のセイバーフィッシュやトリアーエズとは訳が違う。あの下衆にはそれすらも理解できなかったらしい」

 

 権力に胡座をかき、欲望のままに振る舞うことが許されるのは、それ自体が「目に余るもの」にならない範囲に限られる。それを逸脱した瞬間、その者には然るべき罰が下されるのだ。

 コアファイターをただ性能が良いだけの戦闘機としか思わず、自分の思い通りにならないヴィヴィアンヌを、当て付けのような任務で殺そうとする。そのような所業にまで手を出した以上、もはや上層部も黙ってはいないだろう。

 

 だが、件の司令官に裁きが下される前に、ヴィヴィアンヌが命を落としては意味がない。コタロウとリュータは互いに顔を見合わせ、コンテナに格納されていた「秘密兵器」の方へと振り返る。

 

「……正式な受領はジャブローに着いてからだが、固いことは言いっこなしだ。ぶっつけ本番になるが、行けるか?」

 

 それ(・・)は本来、目的地(ジャブロー)に辿り着くまでは「ただの置物」でしかないはずであった。が、救助対象がコアファイターであるならば、話は別。

 なぜなら件の秘密兵器には、コアファイターを「核」とする機構が組み込まれているのだから。

 

「らしくないですね、ニシズミ教官。やるかやらないか、でしょう?」

「ふん……そんな口が叩けるようなら、心配するだけ損というものだな。……行って来い、バーニング」

 

 その機構の存在を加味した結果、「やる」という一択に踏み切ったリュータは、ほくそ笑むコタロウを背に秘密兵器へと駆け寄り――キャノピーの先にあるコクピットへと乗り込んでいく。

 

『Bパーツ、投下! 続いてAパーツ、行くぞ!』

 

 やがてガンペリーのコンテナが左右に開かれると、滑り落ちるようにキャタピラ状の「下半身」が投下されていった。

 それに続くように、リュータを乗せた「上半身」が――背部のスラスターを噴かして、機内から飛び出していく。

 

「了解ッ! リュータ・バーニング――ガンタンクAパーツ、行きますッ!」

 

 そして、コタロウの叫びに応えるように。勇ましく声を張り上げるリュータを乗せて、「半人前」の戦車もどきはドップ隊の頭上へと急降下するのだった――。

 

 ◇

 

 撹乱と合体を目的として最初に投下されたBパーツは、空振りに終わったが。その隙に乗じて時間差で降下してきたAパーツに搭乗するリュータは、ドップの機影を確実に視認している。

 

 落下しながらも両腕のボップミサイルを撃ち放ち、次々とドップを撃ち落としていくAパーツ。その光景に瞠目するヴィヴィアンヌに通信が入ってきたのは、それから間もなくのことだった。

 

「だ、第7小隊のバーニング少尉……!? どうしてッ……!?」

『上空から偶然君を見つけてな……! 詳しい話は後だ、今はこの場を切り抜けるぞッ!』

「で、でも私の機体はもう、高度の維持も出来ない状態で……! バルカンもミサイルも、とっくに撃ち尽くしてっ……!」

 

 自身を励ますリュータの声に対し、ヴィヴィアンヌは傷付いた自機の惨状を見遣ると、表情を曇らせる。ここまで尽くしてもらっても、墜ちるしかない自分にはもう、どうすることもできないのだと。

 

『大丈夫だ、伍長! コアブロックへの変形機構は生きてるか!?』

「えっ……? あっ、はいっ、その機能なら……って、まさかっ!?」

『そうだ! この場で合体(ドッキング)するぞ、伍長ッ!』

 

 だが、リュータはなおも諦めず、最後の賭けを申し出る。

 空中でガンタンクに合体するという、その荒唐無稽とも言える作戦に、ヴィヴィアンヌは顔面蒼白となっていた。自分が死ぬことではなく、そんなことに初対面の士官を巻き込むことへの恐れが、そうさせている。

 

「そ、そんなの無茶ですっ! 空中でガンタンクに合体するなんて、聞いたことありませんっ! それに私、コアファイターに乗ったのも今日が初めてで……!」

『君はブロックに変形するだけでいい! 座標は俺が合わせる! このまま君をこんなところで死なせるわけにはいかないんだッ!』

「っ……!」

 

 だが、リュータはそれでも食い下がり。まだ何も出来ていない、と己を責めてきたヴィヴィアンヌにとっての、「救い」となる言葉を投げ掛けていた。

 

 つまらない私欲に由来する死の淵から救い出し。連邦軍に入った自分の想いを、あるがままに叶えてくれる。

 そんな夢物語のような奇跡を、本気で実現させようとするその姿も――命すら諦めかけていた少女を照らす、光明となっていたのである。

 

「……分かりました。このヴィヴィアンヌ・ル・ベーグ、少尉とならどこへでも参りますっ! コアチェンジッ! ドッキング・ゴォーッ!」

 

 やがて、その勇姿に突き動かされたように――死を覚悟の上で、ヴィヴィアンヌは合体を決意する。彼女の叫びと共に、軋むコアファイターは最後の力を振り絞るかの如く、箱状の姿へと変形した。

 無論、ドップの大群もその光景を黙って見ているわけではない。合体のことを知らずとも、リュータ達が何かをしようとしていることは察知していたのだ。

 

 彼らは落下しながら合体しようとしているコアブロックとAパーツを狙い、機銃掃射を敢行する。だが、合体を進めるリュータの方が、僅かに早い。

 スラスターの推力を調整し、コアブロックの座標に素早く自機を合わせていた彼は。銃撃がヴィヴィアンヌ機に当たるよりも先に、自機のAパーツを彼女の上に覆い被せることで、弾雨を凌ぐ盾になったのである。

 

「少尉……!」

『言っただろッ! 死なせるわけには、いかないってッ!』

 

 強固な装甲が売りのガンタンクでなければ、耐え切れなかったであろう苛烈な弾幕。その全てを受け切り、傷だらけのコアブロックを守り抜いたリュータは、ヴィヴィアンヌを励ますように強気な笑みを浮かべていた。

 自分を苛んできたもの全てを、一瞬でも忘れさせてしまうその笑顔に、ヴィヴィアンヌが思わず感涙を浮かべる瞬間。一足早く地表に降下していたBパーツを見遣り、リュータはスラスターで位置を再調整していく。

 

『これでッ――ガンタンクの、完成だァッ!』

 

 やがて、ヴィヴィアンヌのコアブロックを上下から挟み込むように――リュータを乗せたAパーツが、Bパーツにのし掛かった時。コアブロックを介しての合体が完了し、ガンタンクが完成を迎えたのだった。

 

『おおおおッ!』

 

 Bパーツという足を手に入れ、不安定な空中戦から解放された今なら、正確に全てのドップを狙い撃てる。

 それを証明するかのように――リュータは低反動キャノン砲とボップミサイルの全てを撃ち放ち、迫る大編隊を1機残らず叩き落としてしまうのだった。

 

 それは敵方に、「退却」の選択肢すら与えないほどの疾さであり。「焦熱の爀弾」と呼ばれるに至るその強さに、さらなる説得力を持たせている。

 

「少尉……! 私、私っ、生きてますっ……! まだ、生きてますっ……!」

『……あぁ、よく頑張った。君が戦って掴んだ勝利だよ、伍長』

「うっ……ぁあ、あぁあぁあっ……!」

 

 そして、それほどの「力」に、自分が関わっていたということへの昂りと歓びが。ヴィヴィアンヌという少女を、長い孤独から救い出していたのだが。

 この時のリュータにはまだ、知る由もないのであった――。

 

 ◇

 

 ――その後。貴重なコアファイターを悪戯に消耗しかねない命令を出したことで、元凶の司令官は「失脚」を余儀なくされた。

 権力を濫用し、私欲の限りを尽くして来た今までの所業も、今回の一件を皮切りに全て掘り起こされてしまったのである。どんなに権威をちらつかせても、自分に媚びなかったヴィヴィアンヌに痺れを切らしたのが、運の尽きであった。

 

 そしてヴィヴィアンヌ自身は、そのままリュータに「お持ち帰り」される形で、偵察部隊から第7陸戦小隊へと転属することになり。やがて彼の相棒(パートナー)として、ガンタンクの操縦手を担当することになる。

 

 その後。「氷魔の蒼弾」ことガリウス・ブリゼイドの駆る、特攻型グフタンクをはじめとする強敵達との激戦を経て。

 宇宙世紀0080、1月1日。ついにヴィヴィアンヌは、終戦まで生き延びたのであった――。

 

 ◇

 

 ――宇宙世紀0080、2月中旬。「パリ防衛隊」の筆頭として故郷に凱旋したヴィヴィアンヌ・ル・ベーグは、煌びやかなドレスに袖を通した年頃の淑女として、実家の豪邸に身を寄せていた。

 バルコニーに佇み、優しげな陽の光を浴びて輝くその美貌は、見る者をたちどころに魅了する魔性の色香を帯びている。幼い頃からル・ベーグ家に仕えてきた侍女(メイド)も、同性すら惑わせる彼女の麗しさに頬を染めていた。

 

「お嬢様、ご覧になってください! ご婚約を望まれる殿方からの縁談が、こんなにっ! 時代の寵児とも呼ばれる青年実業家、連邦政府高官の御子息……どれも大物ばかりですわ!」

「……」

 

 それを取り繕うかのように捲し立てながら、山程の縁談の書類を持ち込んできた彼女は。ヴィヴィアンヌの人気振りを示すかのように、部屋のテーブルにその全てを広げている。

 つい先日に開催された葡萄(ぶどう)踏み祭りにおいて、ヴィヴィアンヌが素足で踏んで完成させたワインに、法外な高値が付いたこともあり。軍関係ではない有力者達も、その美貌と影響力に目を付け始めていたのだ。

 

「お嬢様?」

「……あぁ、ごめんなさい。少し、戦時中のことを思い出していましたの。それで……ええと、縁談のお話でしたか?」

「あ、はいっ! とても高名な殿方ばかりで……!」

 

 だが、ヴィヴィアンヌはまるで興味がないとばかりに一瞥もせず。花の都の青空を仰ぎ、透き通るような声で問い掛けてくる。

 

「その中に、リュータ・バーニング様のお名前は?」

「えっ……? い、いえ、そのような方のお名前は見当たりませんが……」

「そうですか。では、全て処分してください」

「処分……って、えぇっ!?」

 

 そして、意中の男がその中にいないと知れば。にべもなく全て廃棄するよう、言い放ってしまうのだった。

 ただ1人の愛する男(リュータ・バーニング)。それ以外からの求愛など、眼中にはないと言わんばかりに。

 

「……あの日からずっと、誓っておりますもの。このヴィヴィアンヌ、少尉とならどこへでも参ります……と」

 

 書類の山を抱えて、あわあわと走り去っていく侍女の背を見送った後。

 ヴィヴィアンヌは自室に飾られた戦車もどき(ガンタンク)の模型を一瞥すると、再び空を見上げ、うっとりと頬を染める。

 

 どこかで彼も、この空を見ているのだと信じて――。

 




 今やガンタンクといえば「リアルで泥臭いMS」というイメージが付き物ですが、少なくともコアブロックシステムがある以上は「合体!」っていうスーパーロボット系な要素もあるはずだと思うのですよ(о´∀`о)
 なので今回は、スーパー合体ロボが好きな作者の嗜好を押し出した内容でお送りさせて頂きました。曲がりなりにもガンダム小説なのですから、「行きまーす!」って感じの発進シーンも一度は書いておきたかったのでε-(´∀`; )



Ps
 ガンペリーからブチ落とされて全く壊れていないBパーツ。本作屈指のチート兵器である( ˘ω˘ )
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