機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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-第7話からの登場人物-

-キニス・エイグザンド-
 55歳。ブカレスト出身。開戦初期から戦い続けて来たベテランパイロットであり、多くの死を目にして来たからこそ、前途ある若者の未来を守らんとしている。「パーブ」の隊長機としてレゾルグ機に随伴するはずだった、鹵獲機のガルバルディαに搭乗する。階級は少尉。
 ※原案はリオンテイル先生。

-ティルク・ディルク-
 18歳。サイド2出身。ブリティッシュ作戦で家族を失った元ジオンの学徒兵であり、戦争が終わってもなお銃を捨てない「黒死霊」への怒りに燃えている。白を基調とする連邦軍カラーのゲルググに搭乗する。階級は一等兵。
 ※原案は赤犬先生。

-ハナ・モリイズミ-
 21歳。サイド1出身。連邦軍内部での迫害を受けてジオン軍に流れた過去を持つ女性パイロットであり、その内面には苛烈な敵意を秘めている。対艦ライフルを装備した、専用のザクマインレイヤーに搭乗する。階級は准尉。
 ※原案は黒子猫先生。



第7話 機雷の魔星 -ハナ・モリイズミ-

 コアブースターのメガ粒子砲が唸り、大型ビームマシンガンの弾雨が飛ぶ。その激戦が繰り広げられている宙域の近くには、無数の「機雷」が張り巡らされていた。

 

 MS-06F「ザクマインレイヤー」によって広範囲に渡り施設されたその兵器群は、さながら獲物を待つ蜘蛛の巣のように広がっている。その領域に踏み込んできた侵入者に、然るべき報いを受けさせるために。

 

『……あのマインレイヤーの仕業だな。無理に突っ切れば甚大なダメージは避けられんが……この数の機雷を逐一処理しながら進んでいては埒が明かん。厄介な足止めを思い付いたものだな』

 

 その光景を目の当たりにした、スターイーグル隊の古参隊員ことキニス・エイグザンド大尉は、眼前のマインレイヤーによって施設された機雷の海に眉を顰めている。

 

 彼女が搭乗している鹵獲機――MS-17「ガルバルディα」は、レゾルグ機に随伴する予定だった「パーブ」の隊長機として造られた機体であった。リュウジ機が「魔王の遺産」ならば、キニス機のガルバルディαはいわば、ジラハ・イモータル中尉の遺産なのだろう。

 

『……確かにそうかも知れません。だけど、だけど奴らをただ見逃すなんて出来ませんよ! キニスさんッ!』

 

 その僚機として随伴している、白を基調とする連邦軍カラーのゲルググのパイロット――ティルク・ディルク一等兵は、大量の機雷を前にしても臆することなく義憤に燃えていた。

 ブリティッシュ作戦で家族を失った上、サイド3に学籍を置いていたがためにジオン兵として徴用された過去を持つ彼は、時代に翻弄された犠牲者達の1人として、この戦場に立っているのだ。

 

『……熱くなり過ぎるなよ、ティル。亡くなられたご両親にとっては、君の生存と幸福こそが最後の希望なのだ。それでも命を賭けるというのなら止めはせんが、犬死にだけはこの私が許さんぞ』

『はい……! 俺だって、生きてこの戦いを終わらせるためにここに来たんです。何も出来ないまま死ぬつもりなんて毛頭ありませんッ!』

 

 ア・バオア・クーでの戦いに駆り出された学徒兵だった彼は今、連邦軍のスターイーグル隊の一員として、「黒死霊」の征伐に乗り出している。

 かつての仲間や上官に銃を向けることも厭わないという彼の覚悟が、その力強い眼差しに顕れていた。

 

 そんな彼の人となりを知っているからこそ、若者達の未来を憂いているキニスは、不器用なりにも激励の言葉を投げ掛けているのだ。

 自身の乗機(ガルバルディ)の持ち主をはじめとする、時代の犠牲者達がこれ以上増えることがないようにと。

 

『いいなぁ……! いいな、いいな、いいなァアァッ……!』

『……ッ!?』

 

 すると、次の瞬間。大きく身を翻して135mm対艦ライフルを引き抜いたマインレイヤーが、突如キニス機とティルク機を狙い発砲して来た。

 その銃口から放たれた高速弾は銃の名の通り対艦用兵器であり、当然ながらMSに当たればひとたまりもない。キニス機とティルク機は咄嗟に散開し、辛うじて回避に成功する。

 

『なん、だ……!? あのマインレイヤーのパイロット、何かがッ……!?』

 

 対艦ライフルが持つ過剰な破壊力自体も、確かにかなりの脅威であった。

 だがキニスとティルクは銃そのものよりも、その銃を握るマインレイヤーのパイロットから発せられている異様な重圧(プレッシャー)に気を取られている。

 

 単なる「殺意」や「敵意」とも違う、よりどす黒く粘ついた悪感情の発露を感じさせるものだったのだ。

 

 例えるならば「羨望」、あるいは「嫉妬」。

 

『いいなぁ、いいなぁあ……! そのジオン訛り、あなた、元ジオン兵なんでしょう……!? 元ジオン兵なのに、そんなに良くしてくれる人が側にいるなんて、いいなぁあ……!』

『この女、何を言っている……? 彼は確かに元ジオン兵だが、時流に強いられた学徒兵の1人に過ぎなかったのだ。そんな立場の人間にまでジオンへの怒りをぶつけるほど、我々連邦軍も愚かではないぞ』

『そう……! そうなの……! いいなぁ……! 私の部隊には、そんな人なんて1人もいなかった……! 連邦軍に居た頃は皆、私を慰み者の奴隷だとしか見ていなかった……玩具とすら思っていなかった……! 私はただただ、嬲られるだけの存在だった……!』

『……!? まさか君、は……』

 

 キニスもティルクも、このマインレイヤーのパイロット――ハナ・モリイズミ准尉とは初対面であり、彼女が歩んで来た「恥辱の日々」を知っているわけではない。

 

 それでも、彼女が何者であるかという疑問は、ほぼ氷解しかけていた。

 ある程度のことは察してしまえるほどにまで、彼女の声色は――深く傷付いた少女の色を湛えていたのである。そしてそれは、ほぼ「的中」していたのだ。

 

 ――ふわりとした猫っ毛が特徴の、ハニーブラウンのショートヘアー。茶色のくりっとした瞳。肉感的でありながらも、透き通るように艶やかな色白の肌。愛らしい顔立ち。小柄ながら、推定Fカップのたわわな巨乳。

 そんな「男好き」する外見を持つ「スペースノイド」であったがために、連邦軍に籍を置いていた頃のハナは常に、悪意ある連邦兵達の横暴に晒されていた。そして捨て駒にされた挙句、ジオン軍に拾われて今に至るのである。

 

 そして、ノリス・パッカード大佐やブレニフ・オグス中佐といった傑物との出会いを経た彼女は、ジオンこそが自分の居場所なのだと確信を深めていた。

 そんな彼女だからこそ――そのジオンを抜けて連邦軍側に付き、信頼出来る仲間に恵まれているティルクの姿が、許せなかったのである。まるで、連邦軍を見限った自分が間違っているのだと見せ付けられているかのような気持ちにさせられているのだ。

 

『ティル……と言ったね。君は私だよ……誰にも裏切られずに済んだ私だよ! 君はどうせ、大事なものを味方に奪われる理不尽さなんて知らないんでしょう!? なのにどうしてジオンを裏切れるの!? そんなに私を否定したいの!?』

『……それは違うッ! 父さんはサイド3との交易が仕事だった……母さんはズムシティで生まれ育った! 2人ともジオンはおろか、ザビ家の悪口一つ言ったことはなかったんだッ! なのに俺の故郷のサイド2は、父さんと母さんはッ!』

『……!? サイド2、って……!』

 

 そしてハナもまた、ティルクの背景は知らなかったのである。故郷のサイド2に毒ガスを撒かれた挙句、その故郷を大量破壊兵器にされた彼の絶叫に、ハナは思わず顔を上げていた。

 

 ザクマインレイヤーに接近出来ないようにと張り巡らされていた大量の機雷を、ビームライフルの連射で薙ぎ払いながら――白いゲルググは、パイロットの意を汲むように真っ直ぐ突き進んで行く。

 

『理由があれば、戦争ならば何をしてもいいはずがないだろうッ! いつまでもそんな奴らの言いなりになんて、俺はならないッ!』

『君、はッ……!』

『君が俺を羨むのは、妬むのは……君が自分自身を、まだ諦め切れていない証だッ! それでもまだ意地を張る気なら……俺がここで、そのMSから引き摺り下ろすッ!』

『ええいッ、来るな、来ないでよ、私のところに来るなァーッ!』

 

 近しい境遇でありながら、真逆の陣営に渡ってしまった2人の絶叫が共鳴する。マインレイヤーに接近するためには破壊せざるを得ない最低限の機雷だけをビームライフルで撃滅したティルク機が、爆炎を破りハナ機に近付いて行く。

 

 だが、彼女の間合いに飛び込むようなその挙動は悪手そのものであった。

 キニスが言っていたように、大量の機雷を逐一破壊するのは時間が掛かり過ぎる。だからと言って、必要な数だけを壊してハナ機に近付こうとしても、対艦ライフルで迎撃されるのが関の山。

 

 そして最低限の数しか壊していないのなら、左右に身を振ってかわすことも出来ない。

 機雷の隙間を縫って自在に動き回れるハナ機を確実に仕留めるには接近戦しかないのも事実だが、そこに踏み込みに行くのは、蜘蛛の巣に自ら掛かりに行くようなものなのだ。

 

 その術中に嵌ったティルク機に、対艦ライフルの銃口が向けられる。もはや、高速弾で跡形もなく消し飛ばされるのは時間の問題。

 

『屈めぇえーッ! ティルゥウッ!』

『……ッ!』

『なにィッ……!?』

 

 だが、次の瞬間。後方のキニス機から響き渡った叫びに合わせ、ティルク機が頭を下げて体勢を低くした。

 その頭上を掠めるように――キニス機のガルバルディαがゲルググの真後ろから、ビームライフルを撃ち放ったのである。その時のキニスの眼は、次世代の若者に未来という名の希望を視た、ジラハ・イモータルを想起させる色を湛えていた。

 

 機雷にもティルク機にも辛うじて当たらない、紙一重の精密射撃。その閃光はゲルググの頭上を擦り抜け、ハナ機の対艦ライフルに命中したのだ。

 

『が、ァッ……!?』

 

 一瞬のうちに爆ぜる銃身。それを目の当たりにしたハナが瞠目する瞬間を突き、ビームナギナタに切り替えたティルク機が、ついにザクマインレイヤーの眼前に到達する。

 

『は、早くヒートワイヤーをッ……!』

『今だァァッ!』

『おぉおおぉおおーッ!』

 

 懐に飛び込まれたハナ機は、右腕に仕込んでいたワイヤー状のヒートロッドで応戦しようとするが――もはや、手遅れであった。

 

 振り抜かれたティルク機のビームナギナタがザクマインレイヤーの手足とランドセルを斬り刻み、その機体を行動不能に追い込んでしまったのである。

 

『うぁあッ……!』

 

 達磨としたコクピットハッチがゲルググの手で引き裂かれたのは、それから間も無くのことであった。その衝撃によりザクマインレイヤーは完全に沈黙し、本体が機能停止したことにより、周囲の機雷も自動的に無力化されていく。

 

 ――かくして、この戦闘はティルク機とキニス機の勝利に終わった。そして宣言通りにコクピットから追い出される形となったハナ・モリイズミは、ゲルググの掌に身を寄せることを余儀なくされる。

 

『……言っただろ。戦争ならば何をしてもいいはずがない。俺は……君を助けるために戦ったんだ。殺すためじゃない』

「えっ……!?」

 

 だが、テロリストとしての無残な最期を覚悟していた彼女に投げ掛けられたのは、想定外の言葉だった。ティルクはあくまで、彼女を殺さないための戦いを徹底しようというのである。

 

『そうだな……お前なら、そういう戦い方の方が相応しいだろう。ならばその娘を連れて、一旦サラミスに引き返すが良い。お前が救った命だ、最後までお前が責任を持て』

『えぇ、俺は最初からそのつもりですよ。……ありがとうございます、キニスさん』

「……信じ、られない」

 

 そして、彼を見守って来たキニスもまた、その判断を尊重しようとしていた。それはハナにとってはまさしく、晴天の霹靂だったのである。これが本当に、あの連邦軍の兵士達の姿なのかと。

 

 ――だが、そんな彼らをよそに。別の宙域で熾烈な戦闘を繰り広げているスターイーグル隊と「黒死霊」達は、さらに激しくぶつかり合っている。

 戦いはまだ、終わりには遠いのだろう。

 




 ザクマインレイヤーの旧キットに出会えたのが、ちょうど去年の今頃でした。マインレイヤーのみではなく、普通のザクとしても作れる良キットでしたなー(*´꒳`*)
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