機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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-第9話からの登場人物-

-アカツキ・トウジョウ-
 27歳。ボルチモア出身。情に厚く非情に徹しきれない好青年であり、通信で投降を呼び掛けることも多い若きエース。ジムインターセプトカスタムに搭乗する。階級は少尉。
 ※原案はカイン大佐先生。

-ヴォルフガング・ミューゼル-
 14歳。サイド3出身。ア・バオア・クーから辛うじて生還していた学徒動員兵の1人であり、両親の分まで生き抜くためだけに「黒死霊」に参加している。ゲルググに搭乗する。階級は伍長。
 ※原案はmikagami先生。



第9話 運命の供物 -ヴォルフガング・ミューゼル-

 数のみならず、「質」でも負け始めている。その事実を実感し始め、焦燥に駆られている「黒死霊」のメンバーはジャスグルだけではない。

 

 スターイーグル隊のエース機に追われている1機のゲルググも、ビームライフルでの牽制射撃に徹しながら、ひたすら距離を取ろうとスラスターを噴かしていた。

 

『くそ、くそっ……! 逃げるな、逃げちゃダメだ、僕だってパイロットなんだ! ちゃんと戦わなくちゃっ……!』

 

 その機体を駆るヴォルフガング・ミューゼル伍長は、恐怖と焦りに囚われ、操縦桿を握る手を震わせている。

 MSパイロットとしての才覚には恵まれているものの、元学徒動員兵に過ぎない今の彼では、スターイーグル隊の「質」を超えるのは困難を極めていた。

 

 6歳の頃に母を失い、先の戦争では「グレートデギン」の副艦長を勤めていた父を亡くし、共にア・バオア・クーの防衛に当たっていた原隊は全滅。帰りを待つ者も、帰る場所もない彼は流れるように「黒死霊」へと身を寄せるしかなかった。

 

 そんな彼が今もなお戦っている理由は、ただ一つ。両親の分まで、この世界を生き抜いて行く。ただそれのみが、彼の生存本能を突き動かしているのである。

 

『……MSに乗って戦場に立った以上は大人も子供もない、と言いたいところだが。君はまだ自分の運命を自分で決めるには、あまりにも幼い。どうしても……投降する気はないのかい?』

 

 そんな彼のゲルググを素早く追撃しているのは――RGM-79KC「ジムインターセプトカスタム」を駆る、アカツキ・トウジョウ少尉だった。

 ヴォルフガング機の挙動から、すでにパイロットが幼い学徒兵であると看破していた彼は、ビームスプレーガンの銃口を向けながらも投降を呼び掛けている。例え偽善と謗られようと、これが彼の戦い方なのだ。

 

『全てを失った僕にとって、「黒死霊」は最後の居場所なんです……! あなたの口車で台無しにされるわけには行かないっ!』

『……今ここで自分が銃を捨てれば、これまでの命懸けの戦いも、死んでいった仲間達の無念も無駄になってしまう。君も、そう思い詰めてしまった子供の1人なんだな』

『えっ……!?』

 

 アカツキの言葉に、ヴォルフガングはふと顔を上げる。胸の内を見透かしたような男の言葉には、先のジオン独立戦争の中で目にして来た、無数の「現実」を知る者としての「重み」が込められていた。

 8人もの戦災孤児を養っている、1人の父親として。アカツキは我が子と同じ境遇にある少年兵を救うべく、厳しくも温かな言葉を投げ掛ける。

 

『根が優しくて真面目な子供から、そうやって望みもしない戦いから離れられなくなっていく。そしていつかは、ただの敵として撃たれてしまう』

『何が……言いたいのですかっ!』

『あの戦争で俺は、そういう学徒兵達を嫌というほど見て来た。まだ遊びたい盛りの子供達が銃を握らされ命まで弄ばれ、そのことに気づく暇すら与えられないまま死んで行く』

 

 今の自分という存在が真っ向から否定されている。そう感じたヴォルフガング機はアカツキ機を黙らせようと、ビームライフルを連射する。その閃光の嵐を難なくかわしながら、インターセプトカスタムは徐々にゲルググとの距離を詰めようとしていた。

 

『……そういう時代だと、割り切って仕舞えば確かに楽だ。だがそれを決める権利は、君のような生き残った子供達にこそあるべきなんだ。大人の都合で運命を歪められた君達が、その是非を問う意思まで大人達に委ねるようなことがあってはならない』

『決められませんよ、そんなこと! 僕の一存だけで……決められるわけないでしょうっ!』

 

 そしてついに、アカツキ機が「接近戦」の間合いに踏み込んで来る。その光景を目の当たりにしたヴォルフガング機は、「現実」から逃れようともがくかのように、ビームナギナタを振るっていた。

 

『いいや、決めるんだ! 今ここで決めるんだ、君が自分自身の意思でッ! シンプルな2択だッ! 生きたいか、死にたいか! 俺が問うているのは、それだけだッ!』

『そんなの、そんなのっ!』

 

 その一閃をビームサーベルで凌ぐインターセプトカスタムの中から、アカツキの怒号が飛ぶ。まるで、父代わりのように。

 生きたいか、死にたいか。一切の誤魔化しを許さないその単純な問いに窮したヴォルフガングは、逡巡の果てに――叫び返していた。

 

『……生きたいに、決まってるっ!』

『よくッ……言ったァッ!』

 

 口に出て来たその願いが、戦おうとする意志を揺るがしたのか。気付けばパワーで優っているはずのゲルググは、ビームナギナタを弾き飛ばされていた。

 そのまま手足を切り落とされ、戦う能力を全て奪われたヴォルフガング機は、完全に無力化された上でアカツキ機の捕虜となってしまう。

 

『あ、うぅ……ううぅっ……!』

 

 少年が零した涙には、無数の感情の色が滲み、混ざり合い、沈み込んでいる。

 犠牲となった父や、ア・バオア・クーの同期達、そして「黒死霊」の仲間達への罪悪感。この痛みを背負ってまで続けて来た「戦い」の無意味さを突きつけられたことへの、喪失感と虚無感。

 

 その苦しみに顔を伏せ、疼くまるヴォルフガングの嗚咽は、アカツキの耳にも届いていた。そんな彼のインターセプトカスタムは、敵機に対する扱いとは思えないほどに優しげな手つきで、達磨と化したゲルググを牽引している。

 

『……今は恥だと思うだろう。生き延びたことを、罪だと思うだろう。ならその償いはいつか、君が大人になった時にしてあげればいい。大人になれるのは……生き残った子供の特権だからな』

 

 地球に残してきた子供達と、今のヴォルフガングを重ねながら。8児の父は、大人として、親としての言葉を連ねる。

 

 この時代に取り残されたばかりに、大人になるまで生き抜くことすら困難になってしまった戦災孤児。

 その未来を一つでも多く救い上げるまで、アカツキ・トウジョウにとっての戦争は終わらないのだろう。

 




 スナイパーカスタムやガードカスタムにも言えることなのですが、あのバイザーの下は意外にもごくありふれた「ジム顔」なんですよね。バイザーの有無だけであれほど印象が変わるものなのですなぁ(*´꒳`*)
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