-アイリス・ベルガモット-
21歳。フィレンツェ出身。レイン・ウォーミングの元同僚に当たる女性パイロットであり、天真爛漫な振る舞いを見せる一方で、核心を突くような発言をすることもある。2丁のビームスプレーガンを携行するジムに搭乗する。階級は軍曹。
※原案は凛九郎先生。
-マーカ・トウェイン-
20歳。サイド3出身。戦時中の頃から数々の汚れ仕事に手を染めて来た元海兵隊員であり、明朗快活な振る舞いの裏には底知れぬ闇が隠されている。青緑の塗装を施したリックドムIIに搭乗する。階級は准尉。
※原案は翻車魚豆腐先生。
ビグザム級のMAや、その後方に控えているムサイ級の援護射撃の勢いに衰えはない。にも拘らず、「黒死霊」のMS隊が展開している防衛線は後退する一方となっていた。
アズラ機、ハナ機に続いてヴォルフガング機まで撃破されたことで、残存戦力に向けられる攻撃の手数も増しているのだ。青緑の塗装を施した1機のリックドムIIは、その光景をさも「他人事」のように観測している。
『……あーあ、なんだかどんどん旗色悪くなってきちゃってる感じ。リードしてくれる味方機も近くに居ないし……上に乗って自分で動くのは面倒なのになぁ』
そのリックドムIIのパイロット――マーカ・トウェイン准尉の気怠げな声色は、この殺伐とした戦場には到底不似合いなものであった。
彼女と対峙している1機のジムは、2丁のビームスプレーガンを激しく連射しているのだが、マーカ機はその全てをするりと回避している。
『そんなに面倒なら、さっさと降伏でもして楽になっちゃったら? うちの部隊、優しい人ばっかりだし……悪いようにはしないよ、きっと』
機体の右肩にアヤメの花の紋様を描いている、そのジムのパイロット――アイリス・ベルガモット軍曹も、この場には似つかわしくない柔らかな物腰で、降伏を呼び掛けている。
先の戦争におけるかつての同僚こと、レイン・ウォーミング伍長。彼を想起させるような、甘過ぎるほどの優しさを秘めたスターイーグル隊の隊員達を知るアイリスは、その一員としてマーカにも手を差し伸べようとしているのだ。
だが――その佇まいに反して、射撃の手を緩める気配は全く見られない。
汚泥のように濁り果てているマーカの眼に隠されている、深く底の見えない「闇」。そこに秘められた彼女の本性を本能的に察しているが故の、猛攻であった。
まずは彼女のリックドムIIを無力化しないと、「その先」には進めない。機体を通して伝わる得体の知れない「オーラ」から、それを察知しているのだ。
そんなアイリス機の連射をかわしながら、軽やかにMMP-80マシンガンで撃ち返しているマーカ機は、その芸当を見せ付けながらもへらへらと嗤っている。
『ふふ、それはなかなか夢のある話ね。今まさに撃ち合ってる最中の敵機が言ってるセリフでさえなけりゃあ、とっくに乗っかってたかも知れないなぁ』
『……私が今も軍に残ってるのはきっと、銃を捨てられない人達を助けるためなんだと思うから。こんな時でも、そういう甘いことだって言っちゃうんだよ』
『へぇ……良い子だねぇ、アナタ。でもその優しさは、もうちょっと話の通じる相手のために取っておいた方がいいと思うよ? 「
お互い、戦闘中とは思えないような穏やかな声色で語らってはいるが。立体的な挙動による激しい撃ち合いは、さながらエース級同士による「本気の殺し合い」のようであった。
アイリス機が2丁のビームスプレーガンを構えると同時に、マーカ機はMMP-80マシンガンの引き金を引きながら、回避行動を取る。その「行き先」を予測したアイリス機は、敢えて1丁のビームスプレーガンをマーカ機の思惑通りの射角で撃ち放つ。
『そこッ……!』
『おッ……とッ!?』
そして予測した「行き先」にマーカ機が向かう瞬間、時間差でもう片方のビームスプレーガンを撃つのだった。複数のビーム兵器を同時に運用する偏差射撃に瞠目するマーカ機は、辛うじて直撃だけは回避する。
(この動き……あのリュウジ・クガの挙動に近い。単独での戦闘を嫌がるようなことを言ってはいたけど……出来ない、ってわけじゃないんだね。エース機の色だけじゃなく、動きまでトレースするなんて……まるで生霊みたい)
確実に仕留めるつもりの攻撃だったのに、紙一重のところでかわしてしまった。そんなマーカ機の挙動に、「黒死霊」のリーダー機を重ねていたアイリスは、鋭く目を細めている。
どうやらマーカは機体の色だけでなく、その動きの特徴まで「近場のエース」に擬態させてしまうらしい。エース機と誤認させることによって発生する隙を突く……という彼女の戦法は、不意打ちだけに活きるわけではないようだ。
(……チッ。リックドムIIに乗っても、やっぱ隊長みたいには行かないか。回避だけならまだしも隊長は攻防どちらもテクい動きしてくんの、あれアタシには無理……腰の動きが上手い奴ってほんと、女泣かせだよねぇ〜)
一方、アイリス機の偏差射撃を目の当たりにしたマーカの方も、「厄介な相手」を前に舌打ちしていた。
隊長であるリュウジの操縦技術を模倣し、その動きを完全にトレースするためにリックドムIIを使っている彼女だったが、その高性能機を駆使してもなお
自機の肩部を掠めて行くビームを見送った彼女は、先程までのへらへらとした薄ら笑いを維持したまま――スゥッと目を細めている。
――マーカ・トウェイン。本名、イミナ・ルーシュ。
サイド3で暮らす花売りだった彼女は徴兵されて間もなく、「汚れ仕事」を請け負う名も無き海兵隊に配属されていた。その日々が、彼女の心を壊したのか。やがてはその汚れ仕事を淡々と、稀に楽しそうにすらこなすようになって行ったのである。
そんな彼女が己の経歴も本名すらも失い、闇の中で己の手を汚し続けるマーカ・トウェインと化すまでに、そう時間は掛からなかった。戦争が終わり、仕えていたジオン公国が事実上滅びた今、「黒死霊」のムサイ級と合流したのは必然だったのかも知れない。
生き残りはしたが、生者とも言い切れない悪霊のような女は――何もかも見透かしたような眼でこちらを見据えているアイリスを前に、深々とため息をついていた。
自分を捨て、自分を隠して生きて来た彼女にとっては。その裏側にあるものを暴かれるのが、最も癪に障るのだ。
『……ってか、アタシに随分こだわるじゃん。こんな面倒な相手に構ってないで、楽に
『楽がしたいならそもそも、こんなところにまで来てるわけないでしょう。……それに私、あなたみたいな人だけは放っておけないの。正直言って、気に入らないから』
『ふぅん……? 気に入らないって、例えばどんなところ?』
マーカこと、「イミナ」がそういう人間であることはすでにアイリスも気付いている。その上で彼女は、素知らぬ振りをしながら敢えて「地雷」を踏みに行った。
『そうやってヘラヘラして、本当の自分を意地でも見せようとしないところだよ。隠し切れてるとでも思ってる?』
『……』
マーカの眼から光が消え、その奥に隠された汚泥のような深い闇が露わになる。へらへらとした笑みも消え、「イミナ」の貌が表出する。
『私にもね……私なりに、戦うことには意味があるんだと信じてここにいる。でも、あなたにはその意味に繋がるような「意志」がまるで感じられない。……
言葉を交わすまでもなく、その変化を察しているアイリスは。臆することなく言葉を連ね、マーカという仮面の奥に隠れたイミナへと語り掛けて行く。
戦時中の同僚だったレイン・ウォーミングがそうであるように。彼女もまた、分かり合うことをどんな時でも諦めない、理想主義の化身なのかも知れない。
そんな彼女への答えとして出て来たのは――シュツルムファウストの弾頭だった。
『……ッ!』
瞬く間に眼前に飛び込んで来る、超高火力の弾頭を目の当たりにしたアイリス機は、咄嗟に身を翻して間一髪回避する。
『あーあー……結構、良い子だなって思ってたのは本心だったんだけどなぁ』
その声の低さは、もはや別人のようであった。
対話する余地などない。眼前の相手を殺す、という確定事項を得た殺し屋の貌で、マーカはアイリス機を見据えていた。
『……別に、意味なんていらないしアナタの理屈に付き合う必要もないし。なんなら、今すぐ抜け出したって別にこっちは構わないんだけど。その前に、アナタだけは殺して行くね。気に入らないから』
『……うん、そのつもりでいいよ。私も、殺される気なんてないし……本当の自分すら分からなくなってるような人に、負ける気もないから』
だが、その反応はアイリスにとっても想定内。この本性を引き出した上で戦わねば、マーカことイミナを無力化して捕えることは出来ない。
だからこそ彼女も――それまでの柔らかな物腰を消し、戦士としての鋭い貌を露わにするのだ。自分は、レインほど優しくはないのだと言わんばかりに。
◇
――そして。研ぎ澄まされた闘志と殺意を秘めた女同士の戦いは、より苛烈なプレッシャーを周囲に放っていたのか。
『ア、アイリス、なのか? 今の凍て付くような気迫は……』
『……どうしたってんだ、マーカの奴はよ』
双方のリーダーであるヴァイスとリュウジまでもが、えもいわれぬ悪寒を覚えていた。
今回登場したアイリス・ベルガモットは、凛九郎先生が連載されている作品「機動戦士ガンダム ghost chaser」にも登場しています。こちらもどうぞよしなに〜(о´∀`о)