機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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第12話 剛毅の鉄盾 -エイジ・レンフォード-

 スターイーグル隊と「黒死霊」の交戦が始まってから、約10分。それは傍目に見れば決して長い時間ではないが、生死を分つ一瞬の攻防を絶え間なく繰り返している猛者達にとっては、永遠のようなひと時であった。

 

 ほんの僅かでも気を抜けば、隙を見せれば、その瞬間に確実な「死」が訪れる。

 スターイーグル隊の精鋭達も「黒死霊」の亡霊達も、互いにその隙を狙い合い、獰猛な獣の如く獲物の命を刈り取らんとしていた。

 

『ぉおおぉおおーッ!』

 

 それは当然、真っ向から激突しようとしている両陣のリーダーにとっても同じことであった。

 両脚を失いながらも、全速力でバーニアを噴かして仇敵に迫るヴァイス機のジム。すでにその両手には、指揮官機仕様ならではの2本のビームサーベルが握られている。

 

『ハッ……威勢は十分だが、近付けば近付くほど命中率も上がっちまうんだぜ? ……直撃じゃあなくたってMSなんざあっさりイッちまう、メガ粒子砲の命中率がなァッ!』

『ぐぅ、ぉおおッ……!?』

 

 対する、レゾルグ専用MAを駆るリュウジも。迫り来るヴァイス機を撃墜するべく、全29門ものメガ粒子砲を全方位に放ち、この宇宙を閃光の色に染め上げんとしていた。

 

 そしてリュウジの言う通り、直撃でなくともジムの装甲など容易く破壊するメガ粒子砲の命中率は、接近するほど高まって行くのだ。

 

 ダメージを受けないためにはより大きく回避せねばならないのだが、29門という規格外の手数がそれすらも困難にしている。

 直撃を避けるために大きく避けた先では、すでに別のメガ粒子砲の閃光が通過しているのだ。幾つもの死線を潜り抜けたエースパイロットであろうと、その閃光を全てかわし切りながら接近するなど不可能に等しい。

 

(スターイーグル隊の仲間達が、俺をここまで連れて来たのだ……! ここでしくじるわけには行かんッ! 辿り着いてみせるぞ、絶対にッ!)

 

 それでも彼は、決して諦めない。どのメガ粒子砲にも、掠りもしない絶妙な隙間を縫うように。ヴァイス機は錐揉み回転しながら、弾丸の如くビグザム級目掛けて突撃して行く。

 肩部や脇腹の装甲がどれほど溶解しても、その愚直なほどに直線的な挙動には一片の躊躇いもない。

 

 今この瞬間も戦い続けている仲間達の想いを、背負っているのだという自負があるからこそ。ヴァイス・ヴァレンタインは、決して止まらないのだ。

 

『いい加減しつこいぜ、旦那ァッ……!』

『ぐッ……!』

 

 だが、「黒死霊」を率いて戦い抜いて来たリュウジ・クガも、このまま接近を許すような生半可なパイロットではない。

 激しい乱射を繰り返す中でも、ヴァイス機の挙動から伝わる僅かな「癖」を見抜いた彼は、どこに逃げても決して避けられない角度を狙い、メガ粒子砲の射角を調整していく。

 

(……どの方向に避ける時も、一瞬だけ勢いが付き過ぎているな? 両脚が無いせいで機体のバランスが微かに不安定になっていると見える。これまでの戦闘なら、そんなものは誤差の範囲だったのだろうが……残念だったな)

 

 味方への誤射が起こらないように、という前提を失念することなく。リュウジはその卓越した空間認識能力を遺憾無く発揮し、ヴァイス機を確実に仕留めるために砲口を微調整していく。

 獰猛かつ冷静、そして冷酷に。鋭く細められた彼の眼がヴァイス機を射抜いた瞬間、狙い済まされたメガ粒子砲がついに火を噴く。

 

(この俺の眼には、その誤差が命取りだ……! 見えるぜ旦那、あんたの「癖」は分かったッ!)

 

 その計算し尽くされた閃光は――ヴァイス機の回避能力と反応速度すらも、織り込み済みで撃ち放たれていた。ヴァイス機が咄嗟に避けた先が、絶対的な「死」へと直行する直撃コースだったのである。

 

『……ッ!』

 

 ビグザム級の真正面にある、大型メガ粒子砲の閃光ではない。あくまでそのボディの外周に備えられている、28門のうちの一つでしかない。重装甲のガンダムタイプならばあるいは、耐えられたかも知れない程度の火力だ。

 

 だが、その程度のメガ粒子砲でも。「直撃」さえすれば、ジムなど容易く消し飛んでしまう。

 そう、ただ当たりさえすればいいのだ。たったそれだけで、ヴァイス機のジムなど呆気なく落ちてしまうのだから。

 

 戦場においては、ごくありふれている無情な死。その瞬間が、覚悟する暇さえなくヴァイス機に襲い掛かる。

 

 ――その時だった。

 

『……ヴァイス隊長ッ!』

『エイジッ!? お前ッ……!』

 

 ヴァイス機の庇うように飛び込んで来た、ガーディアンシールドを持ったジム――エイジ機が、隊長の盾となったのである。下半分しか残っていない、ガードカスタムの大楯を構えながら。

 

『うぐ、ぁあぁぁああッ!』

『エイジィイッ!』

 

 隊長機に代わってメガ粒子砲の直撃を受けたエイジ機の大楯が、その役目を果たして消し飛んでいく。それでも威力を殺し切れてはいなかったのか、灰色のジムは力尽きたように宇宙の向こうへと吹き飛ばされていた。

 

『バ、バカ野郎がッ……!』

『ヴァイス隊長……行ってください! そして終わらせてください、この戦いを……絶対にッ! ここまで来たのは、そのためのはずでしょうッ!?』

『エイジ……!』

 

 そんな部下の挺身と、激励の言葉に拳を震わせながら。ヴァイス機はその覚悟に報いるべく、敢えて振り返ることなく突き進んでいく。

 だが、エイジ機の身を挺した行動も、所詮は無駄な足掻きに過ぎないというのか。リュウジ機は再びメガ粒子砲の射角を再調整し、確実に宿敵を仕留める準備を進めていた。

 

『ビグザム級のメガ粒子砲に、僅かでも耐えるシールドだと……!? チィッ、だがそれも品切れのようだな! 今度こそ消し飛ばして――ッ!?』

 

 そして、次こそはとヴァイス機に狙いを定め、とどめの一閃を撃ち放とうとした――次の瞬間。

 

 眩いメガ粒子砲の閃光が宇宙を駆け抜け。

 

 ビグザム級(・・・・・)の巨体を、背後から(・・・・)貫いて行く。

 

『な、ぁッ……!?』

『……!? どういう……ことだッ!? あの近さで誤射……!? いや、違う……!?』

 

 その光景に瞠目したのは、後方からの「不意打ち」を受けたリュウジだけではない。ビグザム級のメガ粒子砲を受ける寸前で、その瞬間を目の当たりにしたヴァイスも、予期せぬ事態に目を見張っていた。

 

 それもそのはず。

 

 メガ粒子砲でビグザム級の背後を撃ち抜いたのは――味方であるはずのムサイ級巡洋艦「サープリス」だったのである。

 

 「黒死霊」の母艦が突如、自分達の首領であるリュウジ機に砲撃を仕掛けたのだ。

 




 ジーンVSミランダといいティルクVSハナといい、本章はジオン同士の内ゲバが盛んですなぁ……(ノД`)
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