ビグザム級の上部は全くの無防備であり、そこに飛び込まれてはメガ粒子砲の射角を限界まで上げても、迎撃することは出来なくなる。それを知るが故に、ヴァイス機はリュウジ機の頭上を取ろうとしていた。
『来るってのかい、旦那ァ……! 俺を殺ろうってのかいッ! 受けて立とうじゃあねぇかァアァァアッ!』
無論、リュウジもヴァイスの狙いに気付いていないわけではない。機体の下部にあるスラスターを噴かしたビグザム級は、仰け反るように向きを変えようとしていた。
だが、「サープリス」のメガ粒子砲によるダメージは、そのための機体制御にも甚大な被害を及ぼしていたらしい。思ったようにスラスターの勢いが出ないまま、リュウジ機はヴァイス機の接近を許してしまう。
『ぐ、ぉおおッ……!?』
『そのMAを今の今まで所有していたのは、何処だと思っていやがるッ……! 射角の限界なんざ……俺達スターイーグルにはッ! 分かりきってんだよォォオオッ!』
コンペイトウの連邦軍部隊はこの「魔王の遺産」を通じて、ビグザム級MAに対抗するための戦術研究にも着手していた。その部隊の一つであるスターイーグル隊も当然、ビグザム級の弱点は熟知していたのである。
これまでの研究で得た成果を実戦に活かすべく。ビグザム級の上部に取り付いたヴァイス機は、必殺の信念を込めて2本のビームサーベルを突き立てるのだった。
(分かりきってる!? 分かりきってるだと!? 頭で理解してるってだけでこの掃射を避け切れるわけがねぇだろうがッ! こいつには、それをやってのけるだけの技量と度胸と……パイロットとしての「格」があるってのかァッ……!? あってたまるかよッ……! そんなことッ、あっていいわけがねェだろうがァアッ……!)
ビグザム級の
その刃が放つ火花と閃光を間近で目の当たりにしていたリュウジは、「知識」を「技術」で活かして見せたヴァイスの技量に目を剥き、歯軋りする。連邦軍如きにこれほどのパイロットがいるものか、いてたまるかという嘆きにも似た怒りが、その獰猛な貌に顕れていた。
『てめぇらにとって、
『ぬ、ぐぅうぅッ……!』
『やっと戦争が終わったんだと……あの地獄が終わったんだと、故郷に帰れるんだとッ! そう信じていた奴らばかりだったッ! 俺だってそうだ、スターイーグルの皆だってそうだッ! きっと誰もが待ち望んでいた平和が来たんだと、そう信じていたんだッ!』
ようやく勢いが付き始めたスラスターを全開にして、ビグザム級は懸命にヴァイス機を機体上部から振り落とそうとする。
2本のビームサーベルを突き刺しながら、スラスターを噴かして抵抗しているヴァイス機も、必死にその場にしがみつこうとしていた。
『それを乱そうってんなら……俺は、俺達は、お前達が何者であろうと絶対に許さねェェッ!』
ヴァイス機の推進剤が底をつき、ビグザム級から振り落とされるのが先か。ヴァイス機のビームサーベルが、満身創痍のビグザム級にとどめを刺すのが先か。
その苛烈な競り合いの軍配は――リュウジ機の方に上がろうとしていた。
『う、ぐぅ、おおぉおおおッ……!』
『ハッ……ハハハハッ! さっきまでの威勢はどうしたんだァッ!? 可哀想になァッ! どれほど技量が優れていようが、気持ちで勝っていようが、肝心のMSが所詮
ここまで辿り着くために全速力で飛び続けていたヴァイス機の方が、先に限界が来てしまったのである。一足先にスラスターの勢いが弱まったせいで、ヴァイス機はビグザム級の上部から滑り落ちそうになっていたのだ。
このまま機体上部の斜面から滑り落ちてしまえば、その先にはビグザム級のメガ粒子砲が待っている。ずり落ちた先で至近距離からの閃光を浴びれば、ジムなど瞬く間に跡形もなく消し飛んでしまうだろう。
(く、そォッ……! こいつにここまで接近出来るチャンスなんて、これが最初で最後だっていうのにッ! もう、推進剤がッ……!?)
そんな呆気ない結末が、無慈悲に迫ろうとしていた――その時だった。
『ヴァイス隊長、諦めちゃダメだッ! 俺達はまだ、負けてないッ!』
『まだ終わりじゃねぇだろうがッ! 何やってんだよ隊長ッ!』
『エイジ……!? タクミッ……!?』
マグネットコーティングを施された灰色のジム。ホワイトディンゴ隊仕様の暗灰色を基調とするジム。
その機体を駆るエイジ・レンフォードとタクミ・ベルトラインが、ビグザム級の頭上から全速力で突っ込んで来たのである。ヴァイス機の窮地を見越して駆け付けて来た彼らの乗機も、その手にビームサーベルを握り締めていた。
『な、なにッ……!? まだここに突っ込んで来る馬鹿がいやがるのかッ!? しかもあの灰色の奴はッ……!』
『ガーディアンシールドの硬度を甘く見るなよ……! スターイーグル隊の皆が、俺達をここまで連れて来てくれたんだ! あんただけは、絶対に今ここで落とすッ!』
先ほどヴァイス機の盾となり、吹き飛ばされたはずのエイジ機は傷だらけになりながらも、躊躇うことなくビグザム級に取り付いて行く。
ビグザム級の上部から、ずり落ちそうになっていたヴァイス機。その右肩を支える灰色のジムは、共に踏み留まるべくビームサーベルを真下に突き刺していた。
『ヴァイス隊長、しっかりしろよッ! あんた、一体何しにこんなところまで来たんだ! こいつをぶった斬って、皆のところに! 勝って、帰るためだろうがッ!』
『タクミ……あぁ、そうだなッ! 俺は、俺達スターイーグルは、これしきのことで屈しはしないッ!』
そんなエイジ機に続いてビグザム級に取り付いたタクミ機も、隊長機の左肩を支えながらビームサーベルを突き立てている。
ヴァイス機の両脇に立ち、その肩部に手を貸して滑落を食い止めている2機のジムは、力の限りバーニアを燃やしていた。隊長機と共にビームサーベルを刺し続け、ビグザム級を倒し切るために。
『ごちゃごちゃとうるせえなぁッ……雑魚共がよおおぉおッ!』
だが、その時にはすでにビグザム級のスラスターも、本来の推進力を取り戻し始めていた。エイジ機とタクミ機の助力によって持ち堪えているヴァイス機が、再びメガ粒子砲の砲口へと引き摺り落とされていく。
ビームサーベルを突き刺しながら必死にしがみつく3機のジムと、彼らを振り落とそうとするビグザム級。その鬩ぎ合いは、最終局面に突入しようとしていた。
(落ちろ、落ちろ落ちろ落ちろッ! ヴァイス隊長も俺もタクミも、すでに推進剤が尽きる寸前だッ! 今さら離脱したところで、もうメガ粒子砲を回避しながら距離を取れる余力なんて残ってないッ!)
(俺達全員が生き延びる道はただ一つ、こいつを今ここで確実に撃破することだけだッ! ここまで来ちまったら、もう日和る余地なんざ微塵もねぇ……! 俺達全員一連托生、勝利か死かの2択のみだッ! ハッ、シンプルでいいじゃねぇか……!)
(……隊長として俺が完遂せねばならん最大の使命は、部下達全員を生還させることだ。その使命を成し遂げるためにも、今は……エイジ、タクミッ! お前達の命すらも賭して、こいつを倒さねばならんッ! 付き合ってもらうぞ、この地獄の先に待つ「勝利」までなァッ!)
エイジ、タクミ、そしてヴァイス。3人の男達は最後の力を振り絞るように操縦桿を握り締め、顔を中心に全身の血管を浮立たせていた。その表情はやがて、修羅の如き形相に変貌していく。
(しッ、しつこいだけの死に損ない共がァッ! ビグザム級だぞ、こいつはビグザム級なんだぞッ! たった3機の
合計4本ものビームサーベルを長時間に渡って刺され続けているビグザム級の耐久力も、すでに限界を超えていた。60mもの巨体の各部からは火の手が上がり、機能停止を予感させる爆発が何度も発生している。
『ぬぁあ、ぁあぁあッ! このッ、クソザコ共がァァァァアーッ!』
本来ならば今すぐにでも戦闘を諦め、脱出するべきなのだろう。それでもリュウジは「黒死霊」の首魁としての意地だけを頼りに、継戦の道を選ぼうとしていた。
あとほんの数m、3機のジムをずり落とせばメガ粒子砲で消し飛ばせる。その勝機に運命を委ねた彼は、引き際を完全に見失っていたのだ。
『デェエァアァアアァーッ!』
『グァアァアァアーッ!』
『ヴゥォオアァアァアーッ!』
そして。3人の修羅達が顔の血管をさらに浮立たせ、白眼を剥いて絶叫する瞬間。
この最終決戦は――ついに、決着の時を迎えることになるのだった。
ほぼ毎回、作者は店先で出会ったガンプラを元に話を考えており、本章のあらすじも行きつけの中古屋で見つけた旧キットがきっかけでした。ビグザム、サラミス、ムサイの旧キットをそこで見つけることがなかったら、この2周年記念企画の内容も今とは全然違うストーリーだったのかも知れませんなー_(:3 」∠)_
さてさて、次回でいよいよ本章も最終話! ようやくこのお話も完結となりますので、最後までどうぞお楽しみに〜!٩( 'ω' )و