-チトセ-
21歳。サイド3出身。ブリゼイド家に仕えるメイドであり、幼少の頃から同家に尽くしてきた心優しい美女。ブリゼイド兄妹とは主従の関係を超えた友情を育んでおり、実はFカップという巨乳の持ち主。
そして。猛獣達に鎖が付けられた日から、約1年もの月日が流れた――宇宙世紀0080、2月5日。
サイド3のジオン本国内に連邦軍の進駐軍が常駐するようになってから、すでに1ヶ月が過ぎようとしていた。
表向きは「終戦協定」という形で決着を迎えたこの戦争だが、事実上ジオンの敗北であることは誰の目にも明らかであり。サイド3にある数多の都市は、実質的に連邦軍の占領下に置かれるようになっていた。
名門貴族・ブリゼイド家の現当主である、シリウス・ブリゼイドが治めている町――「ブリゼイドタウン」もその一つ。人口約300人程度という小規模な都市だが、豊かな自然に彩られた景観が人気の観光名所だ。
町民も温和で気さくな人物が多く、ブリゼイド家の貴族達とも家族のように良好な関係を築いている。戦争などという物騒な言葉とは到底結びつかない、牧歌的な町であった。
「はぁっ、はぁっ……! み、皆さん早く、早く屋敷まで逃げてください! ここに居ては危険ですっ!」
――そして。その町は今、天を衝くような激しい炎に飲み込まれている。
昨日まで穏やかに戦後の未来を語らっていた町民達は、阿鼻叫喚の大混乱に陥っていた。そんな彼らを誘導している1人のメイドは、必死に声を張り上げ、丘の上に聳え立つブリゼイド邸を指差している。
「……っ!」
ショートボブの黒髪を振り乱し、逃げ遅れた人々を懸命に探している彼女は――轟音に振り返ると。この平和だった町に、突如「災厄」を齎した悪鬼達へと、恐怖や怒りをないまぜにした視線を向けていた。
何の前触れもなく、唐突にこの町に来襲してきた3機のザクIIへと。
「チトセちゃん、いったい何がどうなってるんだい!? なんで……なんでザクがこの町を襲ってるのさ!」
「わ、私にも全く……! とにかく、荷物よりも命を優先してくださいっ! お願いですから急いでっ!」
共和国軍で運用されているはずのザクが、なぜ自分達を襲っているのか。その理由が解せないことも、町民達の不安や混乱を煽る結果を招いている。
それは当然ながら、チトセと呼ばれるブリゼイド家のメイド長にも分からないことであり。彼女は状況の把握も叶わないまま、避難を促すことしか出来ずにいた。
「わあぁあっ! あ、あいつら、こっちに来るっ!」
「おい何してんだ! チトセの言う通りさっさと逃げねぇと! 踏み潰されちまうぞっ!」
「待ってくれ、お袋がまだ中に……! なぁチトセさんっ! 連邦の人達は……連邦の人達は来てくれないのかよっ!?」
怪我人や腰の悪い老人を背負いながら、町民達は必死に丘を登り屋敷を目指していく。その中の1人が叫んだ言葉に、チトセは口をつぐんでいた。
「……連邦の、方々はっ……」
当然ながら、このブリゼイドタウンにも進駐している連邦軍の部隊がある。彼らなら、あの3機のザクを撃破することも出来るだろう。
だが。チトセは、すぐに彼らにSOSを出すことができずにいた。ある意味ではこの窮地は、彼女自身が招いたことでもあるからだ。
――1ヶ月前、この町に派遣されてきた進駐軍の部隊に対して。チトセは、なるべく町から離れた基地を利用して欲しいと願い出ていたのである。
否。それはむしろ、チトセ本人の本心であった。
メイドである自分にとっても、兄のような存在だったガリウス。妹のように可愛がってきたクーディア。
そんな彼らを奪った連邦軍の兵士に対して、一切の私情を出さずにいられる自信がなかったのである。だから、任務で来ただけの進駐軍の兵士達に、「距離を置いてくれ」などという不躾な申し出をしてしまった。
そして彼らは、怒るどころかチトセの心情を汲み、快くその要求を受け入れてしまったのだ。
過去の惨劇に由来する怒りを共和国民にぶつける進駐軍も多い中で、彼らは嫌な顔一つ見せず、かつての敵であるスペースノイドの願いを受け入れたのである。
そんな彼らの優しさに、心を打たれた今だからこそ。この状況を受けて彼らに頼ることが、ひどく心苦しいのだ。
距離を置いて欲しいなどと最初に言っておきながら、いざ危なくなったら早く助けてくれ……などと容易く言える神経など、持ち合わせてはいないのだから。
「……私が、すぐに呼びます! 屋敷には通信機がありますから、それでっ!」
それでも、行かねばならない。シリウスが、ガリウスが、クーディアが愛したこの故郷を守るために。どれだけ恥知らずな行為であっても、無様な醜態を晒してでも、全ての手を尽くさねばならない。
それが、ブリゼイド家のメイド長としてのチトセに残された、たった一つのプライドであった。
「……っ! 旦那様、ガリウス様……お嬢様っ! どうか……どうかチトセに、御加護をっ!」
彼女は意を決してメイド服の裾を
Fカップの巨乳を上下に揺らして、輝く汗を散らして。何度転んでも、膝を擦りむいても、その度に立ち上がり、走り続ける。
「はぁ、はぁっ、はぁっ……!」
例え転倒した弾みで、額を切っても。後輩達の規範となるように、いつも誰よりも綺麗にしていたメイド服が、泥だらけになり擦り切れても。
彼女は汚れにも、頬を伝う鮮血にも構わず、息を切らして全力で疾走する。そしてついに、屋敷が目と鼻の先にまで見えてきた――その時だった。
『ハッ……さっきからそそるデカケツ、ぷりぷりと揺らしやがってよぉ。……誘いてぇなら、先にシャワー浴びてこいっての』
「……っ!?」
ふと、振り向いた瞬間。
3機のリーダー格らしき、蓬色のザクと視線が重なり。その手に握られたザクマシンガンの銃口が、チトセに向けられた。
「ひっ……!」
クーディアを連れ去られた時、「魔王」ことレゾルグ・バルバ大尉に狙われた瞬間の光景が蘇り――チトセは思わず、尻餅をついてしまう。
「チトセちゃんっ! ザクが、ザクが来てるよっ! 早く逃げるんだよぉっ!」
「逃げろぉっ、チトセぇっ!」
「ひ、ぃっ……!」
屈辱と恐怖に塗れた、忌まわしき過去。その記憶に心を折られてしまった彼女は、先程までの気丈さからは想像もつかないほどに弱々しい声を漏らして、一歩も動けなくなってしまうのだった。
町民達は懸命にチトセに向かって叫び続けているが、その呼びかけに応えることすら叶わなくなっている。
「ご、めんなさいっ……ごめんなさい、ごめんなさいっ! どうか……どうか無力なチトセを、お許しくださいっ……!」
やがて彼女は恥も外聞もなく泣き叫び、悔しさに顔を歪ませ、地を這う。だが、彼女は町を襲ったザクに命乞いをしているわけではない。
何も出来ずに殺される自分の不甲斐なさを、ただ詫びているのだ。シリウスに、ガリウスに、クーディアに、町の人々に。そして、自分の無理難題に応えてくれた、進駐軍の兵士達に。
『てめぇが死ぬって時だってのに、い〜いオンナだねぇ。……じゃあ、その気高さに相応しい最期にしてやるよ』
それを、蓬色のザクのパイロット――ダンテも悟っていたのだろう。
コクピットの中で目を細める彼は、チトセのプロポーションを舐めるように眺めながら、引き金に指をかけていく。
そして、彼のザクマシンガンが火を噴き。チトセの若く瑞々しい肉体が、真っ赤な飛沫となって四散する――はずだったのだが。
『……おいおい、随分とお早い到着じゃねぇか。ちゃあんと俺達の最期を……盛り上げてくれるんだろうな?』
その弾丸は、全て凌がれてしまうのだった。身を挺して彼女の盾となった――進駐軍のMS隊によって。
「……ぁ、あぁあっ……!」
「チトセちゃぁんっ! あぁ、良かったぁ、良かったよおぉ……!」
「連邦だ……連邦が来てくれたぞ! 頼む、チトセを助けてくれぇっ!」
「こうなっちまったら、もうあんたらが頼りなんだよぉっ!」
憎むべきアースノイドの産物であるはずなのに。感極まり、泣き崩れるチトセの眼には、その姿が救世主のように神々しく映っている。
彼女の窮地を颯爽と救ってみせたことに、町民達も歓声を上げていた。
偶然にも近辺をパトロールしていた3機のMSが、即座に事態を察知して駆け付けて来たのだ。チトセのSOSを待たずして、すでに彼らは動き始めていたのである。
闘争本能を満たすためだけに、護るべきものさえ捨てた、三獣鬼の暴走を阻止するために。
そして、チトセをはじめとする町民達の故郷である、このブリゼイドタウンを救うために――。
本章の募集企画に参加された方の応募キャラにつきましては、次回の第3話辺りから登場していく予定となっております。今しばらくお待ちくださいませ(о´∀`о)
募集企画はまだまだ続いておりますし、機会がありましたらぜひ遊びに来てください!٩( 'ω' )و
ちなみに本章のヒロインであるチトセですが、外伝「ドラゴン・ライズ」の最終話にも登場しております。機会がありましたら、こちらのお話もどうぞよしなに〜(*´ω`*)
Ps
「蓬色のザクってそれもうただのザクだろ」という旨のツッコミはご容赦ください……もう誰とも被らないパーソナルカラーが思い付かんのです……_:(´ཀ`」 ∠):